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第三章
223話 犠牲と、勝利と
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それから戦局が大きく動いたのは、戦争が始まって一ヶ月半を迎えようという時だった。
王国の半分を制圧した一方で、帝国ではファリア南方にあるウァルリアという領土が陥落した。これは帝国にとってこの戦争で初めての喪失であった。
そして亜人・獣人の国々でも南方の一部地域を奪われている。
帝国が領土を失うというのは数十年振りの出来事だ。国民の間にも激震が走った。
だが早期決着のために一部の戦線は放棄するという作戦であることをどうか理解して欲しいものだ。
いよいよ守備兵力と保安局、そして情報局の破壊活動では手に負えない程にアキード側からの王国軍が迫っていた。
「レオ、報告が」
「ああ」
孔明が直々に来るというのは大抵の場合、良くも悪くも重大な事件が発生した時だ。
「皇都内で協商連合からのスパイを発見しました」
「ほう?」
「戦争の混乱に乗じて監視が緩くなった国境から密入国が横行しているのですが、その中にスパイが紛れ込んでいたようです」
「まあそれは仕方がないな」
「帝国情報局の調査により破壊活動は防止できましたが、危険が迫っているということをお伝えします。よって例え皇都内であっても気軽に出歩かないように、という念押しです」
「分かったよ。皇城は安全だし、それに退屈しない程度には広いからな。いつかみたいに勝手に出掛けたりはしないさ」
スパイはこちらも大勢送り込んでいるし、それにより戦局を有利に進めているので不平不満を言うつもりはない。
戦争は所詮、痛み分けの結果にしかならない。
「それともうひとつ、最近魔王領でのモンスターや魔物たちの活動が活発化しているようです」
「こんな時にか? 厄介だな」
「はい。北方二貴族によると、今すぐにどうこうという訳ではないようですが、一応ご報告を」
「了解した。……ではさっさとこの戦争を終わらせてくれ。そうすればスパイもいなくなるし、兵力を北に回せる」
「はい。粉骨砕身の思いで尽力させていただきます」
孔明は袖の下で腕を組み、軽く会釈をして執務室を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから更に半月後、私に歯向かう堕天使は片翼を失った。
「──レオ、協商連合から王国との軍事同盟の破棄及び現在の戦闘における全面降伏を宣言されました。如何しますか?」
「確か無差別爆撃で降伏したのはアキードに属する二十ある地域のうち八つだったな。……他の地域においてもかつての指導者たちは始末できたのか?」
「はい。爆撃と暗殺により戦後問題を起こしそうな人物は全て排除しました。その結果の此度の降伏と考えて差し支えありません」
少々マキャベリズムに毒されたやり方だとも思うが、私は博愛主義者ではないので諦めて欲しい。
「では無条件降伏という形でこちらから突きつけ、向こうが受諾すればアキードとは終戦にしよう」
「了解しました」
孔明は袖で口を隠しながらなにやらどこかへ指示を飛ばしている。恐らく袖の下に通信機があるのだろう。
「で? 王国の方はどうなっている?」
「はい。現在は王都攻略戦の途中です。指示のあった通り軍事施設を全て砲撃で破壊しているのでもう暫く時間がかかるでしょう。その間他の地区を占領しています」
気が付けば王国には四分の一しか自国の領土を持っていなかった。
「アキードと終戦会議の時期がズレたら面倒だ。ある程度壊したらさっさと王都を落として降伏勧告を送り付けろ」
「了解致しました。ではもう半月ほど頂きます。吉報をお待ちください」
「ああ。頼んだ」
私は報告書とそこに挟められた王都の惨状を映す写真を眺めながら、チラリと孔明の方を一瞥し手を振って別れた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから半月と言わず、十日ばかりで遂にその時はやってきた。
「──レオ、協商連合の件は聞きましたか?」
「ああ。アキードは今後の全て私たちに委ねるってな。ま、形式上残しておき、中身は廃止が妥当だろう。……それで、本題はそっちなのだろう?」
孔明は大事そうに書類を抱えていた。
「はい、王都陥落です」
孔明は羽扇で隠しもせず、不敵な笑みを見せながらそう言った。
「……これで終わり、か」
「歓喜の時が来た……、と言いたいところですが、こちらの報告書をご覧ください。王都の城から降伏勧告受諾の返事が届いたのですが……、肝心のファルンホスト国王は王都におらず、どこかへ逃亡したとみられます」
「構わん。逃げた王など誰も崇めない。……だが必ず捕まえてその首を私の前に晒せ」
帝国を、そして私を苦しめた男の面とやらを拝まなければ、死ぬに死ねない。あの世で父に合わす顔がない。
「かしこまりました。……国民への報告はいかが致しましょうか」
「帝国民にはまだ伏せておけ。全てが終わったら勝利を宣言しよう。王国民には大々的に報せろ。崩れた王都の写真をばらまいてな。抵抗する気すら刈り取ってしまえ。特に我々の領土の侵略者に対してはな」
「それはよい策かと。では……。ふっふっふ……」
孔明も、もう間もなく達成される大陸の統一という悲願達成を前に、笑いが止まらないようだった。
そしてそれは私も同じだ。
「フハハハ! 最初からこんな簡単に終わるのだったら、こちらから侵略すべきだったな!」
「そうしたら、帝国が恨まれて平和な世の中にはならないわ」
「そうだなエル。だがそうすれば、私の父は死ななかった」
「…………」
「もっと早くこの国を盗りにかかれば、君の父も死なずに済んだかもしれない」
「やめて」
「……!す、すまない……。自分でも何故こんなことを言っているのか分からない……」
「あの時どうすれば良かったかなんて、考えても無駄よ。それより、貴方はこれからすることが沢山ある。くだらない考えはやめなさい。……私を失望させるような、つまらない男にはならないで」
「そうだな……」
私は孔明が置いていった報告書を手に取る。
そこには、今回の戦いでの推定死者数、帝国18万、協商連合31万、そして王国84万人という数字が淡々と記されていた。
王国の半分を制圧した一方で、帝国ではファリア南方にあるウァルリアという領土が陥落した。これは帝国にとってこの戦争で初めての喪失であった。
そして亜人・獣人の国々でも南方の一部地域を奪われている。
帝国が領土を失うというのは数十年振りの出来事だ。国民の間にも激震が走った。
だが早期決着のために一部の戦線は放棄するという作戦であることをどうか理解して欲しいものだ。
いよいよ守備兵力と保安局、そして情報局の破壊活動では手に負えない程にアキード側からの王国軍が迫っていた。
「レオ、報告が」
「ああ」
孔明が直々に来るというのは大抵の場合、良くも悪くも重大な事件が発生した時だ。
「皇都内で協商連合からのスパイを発見しました」
「ほう?」
「戦争の混乱に乗じて監視が緩くなった国境から密入国が横行しているのですが、その中にスパイが紛れ込んでいたようです」
「まあそれは仕方がないな」
「帝国情報局の調査により破壊活動は防止できましたが、危険が迫っているということをお伝えします。よって例え皇都内であっても気軽に出歩かないように、という念押しです」
「分かったよ。皇城は安全だし、それに退屈しない程度には広いからな。いつかみたいに勝手に出掛けたりはしないさ」
スパイはこちらも大勢送り込んでいるし、それにより戦局を有利に進めているので不平不満を言うつもりはない。
戦争は所詮、痛み分けの結果にしかならない。
「それともうひとつ、最近魔王領でのモンスターや魔物たちの活動が活発化しているようです」
「こんな時にか? 厄介だな」
「はい。北方二貴族によると、今すぐにどうこうという訳ではないようですが、一応ご報告を」
「了解した。……ではさっさとこの戦争を終わらせてくれ。そうすればスパイもいなくなるし、兵力を北に回せる」
「はい。粉骨砕身の思いで尽力させていただきます」
孔明は袖の下で腕を組み、軽く会釈をして執務室を後にした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから更に半月後、私に歯向かう堕天使は片翼を失った。
「──レオ、協商連合から王国との軍事同盟の破棄及び現在の戦闘における全面降伏を宣言されました。如何しますか?」
「確か無差別爆撃で降伏したのはアキードに属する二十ある地域のうち八つだったな。……他の地域においてもかつての指導者たちは始末できたのか?」
「はい。爆撃と暗殺により戦後問題を起こしそうな人物は全て排除しました。その結果の此度の降伏と考えて差し支えありません」
少々マキャベリズムに毒されたやり方だとも思うが、私は博愛主義者ではないので諦めて欲しい。
「では無条件降伏という形でこちらから突きつけ、向こうが受諾すればアキードとは終戦にしよう」
「了解しました」
孔明は袖で口を隠しながらなにやらどこかへ指示を飛ばしている。恐らく袖の下に通信機があるのだろう。
「で? 王国の方はどうなっている?」
「はい。現在は王都攻略戦の途中です。指示のあった通り軍事施設を全て砲撃で破壊しているのでもう暫く時間がかかるでしょう。その間他の地区を占領しています」
気が付けば王国には四分の一しか自国の領土を持っていなかった。
「アキードと終戦会議の時期がズレたら面倒だ。ある程度壊したらさっさと王都を落として降伏勧告を送り付けろ」
「了解致しました。ではもう半月ほど頂きます。吉報をお待ちください」
「ああ。頼んだ」
私は報告書とそこに挟められた王都の惨状を映す写真を眺めながら、チラリと孔明の方を一瞥し手を振って別れた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから半月と言わず、十日ばかりで遂にその時はやってきた。
「──レオ、協商連合の件は聞きましたか?」
「ああ。アキードは今後の全て私たちに委ねるってな。ま、形式上残しておき、中身は廃止が妥当だろう。……それで、本題はそっちなのだろう?」
孔明は大事そうに書類を抱えていた。
「はい、王都陥落です」
孔明は羽扇で隠しもせず、不敵な笑みを見せながらそう言った。
「……これで終わり、か」
「歓喜の時が来た……、と言いたいところですが、こちらの報告書をご覧ください。王都の城から降伏勧告受諾の返事が届いたのですが……、肝心のファルンホスト国王は王都におらず、どこかへ逃亡したとみられます」
「構わん。逃げた王など誰も崇めない。……だが必ず捕まえてその首を私の前に晒せ」
帝国を、そして私を苦しめた男の面とやらを拝まなければ、死ぬに死ねない。あの世で父に合わす顔がない。
「かしこまりました。……国民への報告はいかが致しましょうか」
「帝国民にはまだ伏せておけ。全てが終わったら勝利を宣言しよう。王国民には大々的に報せろ。崩れた王都の写真をばらまいてな。抵抗する気すら刈り取ってしまえ。特に我々の領土の侵略者に対してはな」
「それはよい策かと。では……。ふっふっふ……」
孔明も、もう間もなく達成される大陸の統一という悲願達成を前に、笑いが止まらないようだった。
そしてそれは私も同じだ。
「フハハハ! 最初からこんな簡単に終わるのだったら、こちらから侵略すべきだったな!」
「そうしたら、帝国が恨まれて平和な世の中にはならないわ」
「そうだなエル。だがそうすれば、私の父は死ななかった」
「…………」
「もっと早くこの国を盗りにかかれば、君の父も死なずに済んだかもしれない」
「やめて」
「……!す、すまない……。自分でも何故こんなことを言っているのか分からない……」
「あの時どうすれば良かったかなんて、考えても無駄よ。それより、貴方はこれからすることが沢山ある。くだらない考えはやめなさい。……私を失望させるような、つまらない男にはならないで」
「そうだな……」
私は孔明が置いていった報告書を手に取る。
そこには、今回の戦いでの推定死者数、帝国18万、協商連合31万、そして王国84万人という数字が淡々と記されていた。
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