デス13ゲーム ~死神に命を懸けた者たち~

鷹司

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第二部 死闘

第26話  震える病棟

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 ―――――――――――――――― 

 残り時間――6時間58分  

 残りデストラップ――9個

 残り生存者――9名     
  
 死亡者――2名   

 重体によるゲーム参加不能者――2名

 ――――――――――――――――


 愛莉の退場メールを読み終えたスオウがスマホをポケットに仕舞おうとしたとき、聞き慣れない音がスマホから鳴り響いてきた。ホールにいる全員のスマホからも同じ音が鳴り響いている。慌ててスマホの画面に目を戻す。


『緊急地震速報』


「こんなときに……冗談だろう……?」

 スオウはすぐさまイツカの姿を探した。イツカは横たわるミネが心配なのかスマホを見ておらず、ミネの看病に集中していた。

「イツカ! 早く身を守るんだ!」

「えっ? スオウ君、どうしたの? なにかあったの?」

「緊急地震速報だ! すぐに地震が来るぞ!」

「地震? わ、わ、分かった、スオウ君!」

 イツカの返事を最後まで聞く前に、次に薫子の姿を探した。ここにいる人間でミネの次に心配なのが、怯えきってしまっている薫子なのだ。

 薫子はすでにお腹を押さえて、その場で丸まるような体勢をとっていた。その脇に瑛斗が突っ立ている。その目は薫子のお腹の辺りに注がれていた。

「あんたも揺れが始まる前に、身を守る姿勢をとるんだ!」

 瑛斗はぼんやりとした表情でスオウのことを見返してくる。地震のことを気にする素振りも見せない。無言のまま視線を再び薫子のお腹に戻す。

「くそっ、もう勝手にしろっ!」

 スオウは吐き捨てた。

「お、お、おい……。ま、ま、まさか……こ、こ、これも……デストラップなのか――」

 声をあげたのは五十嵐だった。しかし、すでにその声は恐怖のせいか震えている。ホールのあちこちに、あてもなく視線をさ迷わせている。完全に落ち着きをなくしていた。

「五十嵐さん、冷静になって!」

 スオウは怒鳴り声で叫んだ。

「れ、れ、冷静って……。これが……デストラップなら……逃げられないんじゃ……」

「そんなことはいいから!」

「嫌だ……。この、デストラップで……ぼくは、死ぬことに……」

「いいから早く身を守る体勢をとって! ダメだ! もう間に合わない! 地震の揺れに備えないと――」

 そう言いかけたとき、ホール全体が激しく揺れだした。スオウはとっさにその場で腹ばいになると、両手を後頭部にまわして、揺れから身を守る体勢に入った。


 アカネ……。


 そのときスオウの脳裏に浮かんだのは、病院にいるはずの妹の顔だった。


 ――――――――――――――――


 ヒロトは手にしたイスを振り上げて、ヒロユキに殴りかかろうとした。

 まず最初に顔を狙う。それを手でカバーされたら、がら空きになっている腹部に蹴りをぶち込む。ヒロユキが倒れこんだら、すかさずマウントをとって、ヒロユキの顔面に拳の雨を降らす。それで終わりだ。

 頭の中で瞬時に戦い方を思い描いた。最初の一歩踏み込もうとしたとき、スマホが耳障りな音を上げた。

 いつも通りのケンカならば無視しているところだが、今はゲームの途中であることを思い出した。視界にヒロユキを捉えながら、スマホを手に取り、その画面にチラッと視線を向けた。


『緊急地震速報』


 目の前に親友の仇がいることを忘れてしまうぐらい、一瞬呆然となってしまった。


 この状況下でマジかよ――。


 ヒロトはヒロユキの顔に目を戻した。

「どうした? 顔が青褪めてるぜ? 急にブルったのかよ」

 ヒロユキはイスで殴られたことで精神が高ぶっているのか、スマホの音など一切気にしていないようだった。

「今の状況を理解出来ないとは、なんともオメデタイ奴だな」

「なんだとっ!」

 ヒロユキが半歩、ジリっと踏み込んできた。

「へへ、これで傷害罪がまたひとつ増えちまうかもしれねえな」

「勝手に言ってやがれっ!」

 ここまできたら、もう後には引けそうにない。このレストランから逃げ出したかったが、ヒロユキは必ず追ってくるだろう。だったら、この場で決着を付けるまでだ。

 ヒロユキはイスの足を強く握りなおした。

 その時、レストランが激しく揺れだした。いや、病棟自体が激しく揺れだしたのだった。


 ――――――――――――――――


 廊下で愛莉を救助した瓜生は、すぐさま愛莉のケガの状態を調べ始めた。廊下に出来た血の池の大きさからいって、深い傷であることは容易に想像できた。

 愛莉が着ているTシャツの右のわき腹辺りが、真っ赤に染まっている。そこ以外はとくに目立った箇所はない。

 瓜生はTシャツの裾を慎重に捲っていく。元は白かったであろう肌に、赤い血がべったりと付いている。

 すぐに傷口が露わになった。見た目には小さな傷だったが、その出血量を見れば、どれだけ酷いのかは言うまでもない。

「それって銃で撃たれて出来た傷なのか……?」

 円城が瓜生の背後から愛莉の状態を覗き込む。

「ああ、多分、そうだと思う」

「紫人から送られてきたメールでは、死亡ではなく重体とあったが――」

「この出血量からして、血管をやられている可能性がある。即死は免れたが、このままではいずれ……」

「そうか……」

 二人の間に沈痛な時間が数秒流れていく。

「とにかく止血だけでもしておかないと」

 瓜生は背負っていたデイパックを廊下に下ろした。中から包帯とガーゼ、それに包帯をとめるサージカルテープを取り出した。

「随分と用意周到なんだな」

「まあな」

「――なあ、あんた、いったい何者なんだ?」

 円城がなにかを探るような視線で瓜生を見つめた。

「白衣の天使って言えば、お前さんは納得してくれるのか?」

 瓜生は愛莉の傷口にガーゼをあてがい、その上から包帯を何重にも巻いていく。傷口がわき腹にあたるので、ちょうどさらしを巻いたような感じになった。

「それは冗談がキツイな。少なくとも天使には見えないぜ」

「ま、天使じゃなくとも、悪者でないことだけはたしかだから安心してくれよ」

「悪者は自分のことを悪者だなんて言わないけどな」

「ははは、そりゃそうだ――」

 瓜生は軽く笑ってから、一変、真剣な表情を作ると、さらに言葉を続けた。

「オレは他の参加者とは異なる、ある『特別な事情』があって、このゲームに参加してるんだよ。それで準備は万端に整えてきたってわけさ。それ以上の詳しいことは今は勘弁してくれ。まあ、深い話をしていられるような状況でもないしな」

「分かった。今はこの子の治療に集中することにしよう。――それで、私になにか出来ることはあるか?」

「ここの包帯の部分を押さえてくれ。この上からテープで頑丈に止めて止血する。どこまで有効か分からないが、今出来るのはこれぐらいしかないからな」

 瓜生の指示を受けて、円城が包帯を押さえる。瓜生はサージカルテープで包帯をしっかりと固定していく。

 しかし、包帯の表面にすぐにうっすらと血が滲んでくる。止血が追い付かないくらいひどい出血状態なのだ。

「あとはこの子の体力しだいだな。若いからなんとかもって欲しいが――」

 処置を終えた瓜生は愛莉の体を床にそっと寝かせた。

「この近くにベッドがある部屋がないか、私が探してこようか?」

「そうだな。廊下よりはだいぶマシだろうからな」

「それじゃ、近くの――」

 円城が立ち上がり、次の行動を起こそうとした時――。

 二人のスマホが同時に鳴り響いた。

 他の参加者に比べて人生経験が多い二人は、即座にその音が緊急地震速報を知らせる音だと理解した。

「まじかよっ!」

 瓜生はすぐに行動に移った。落下物が直撃しないように、愛莉の上に覆いかぶさったのである。

「まさか、これもデストラップというのか?」

 円城は壁に背を預けて、何が起きても良いような体勢を整える。

 次の瞬間――廊下が激しく揺れだした。直線で出来ているはずの廊下が、左右に大きくうねる。

 凄まじい揺れが二人を襲う。

 瓜生と円城は成す術もなく、ただただ揺れに身を任せるしかなかった。
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