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第二部 死闘
第46話 落下の法則 第十の犠牲者
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――――――――――――――――
残り時間――3時間36分
残りデストラップ――4個
残り生存者――4名
死亡者――6名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――0名
――――――――――――――――
二階からなにかが破裂する音が聞こえてきた。
「銃声か? いや、さっき瑛斗に撃たれたときの音と少し違うかな?」
「スオウ君、今のはなんの音だったの……?」
スオウとイツカが顔を見合わせていると、ボドゥンという何かを押し潰したような音が、今度は外から聞こえてきた。二階からなにかが落下したらしい。
「これは外に出て直接確かめた方が良さそうだな」
スオウは窓枠を掴み、右手一本の力で体を引き上げた。一瞬の躊躇のあと、そのまま外に飛び降りた。
「外は大丈夫だ。イツカも早く!」
一階の廊下に残るイツカに声をかける。
「うん、分かった」
イツカも窓を越えて、外に飛び降りてきた。
「あれがさっきの音の正体みたいだ」
スオウは病院の前庭に停めてある車を指差した。ここからは少し離れているが、車のルーフ部分が内側にめり込んでいるのが見て取れた。二階から落下したなにかがルーフを直撃したらしい。
「ねえ、大丈夫なの?」
車に近付こうとしたスオウにイツカが心配げに訊いてきた。
「そうだな。近寄るのはやめておこう。今は病院から離れるのが先だからな」
スオウは地面に落ちていた鉄パイプを一本拾い上げた。おそらく、一番最初のデストラップのときに落ちてきた足場用の鉄パイプだろう。近くには足場を覆っていたシートも落ちている。強風のせいで、ばたばたと大きな音をたててはためいている。
鉄パイプの一方の先を地面に付けて、杖代わりにする。いつまでもイツカの肩を借りるわけにはいかない。
「とりあえず駐車場まで行こう。そこまで歩いていけば、もしも病棟が崩落したとしても、巻き込まれることはないだろうから」
スオウはイツカとともに歩き始めた。
――――――――――――――――
しばらくの間、瓜生は目の前で起きた奇跡のような瞬間を理解できずにいた。
拳銃を構えた瑛斗に対して、瓜生は成す術もなく絶体絶命の状況であった。にもかかわらず、今廊下に残っているのは瓜生の方である。床の上には、変形したシリンダー部分が飛び出した拳銃が転がっている。
いったい、なにが起こったのか?
瑛斗は確かに拳銃の引き金を引いた。しかし、銃弾は発射されなかった。拳銃が暴発したのだった。
その結果、瑛斗は拳銃を握っていた右手を負傷して、苦しげに壁に寄りかかった。瓜生は持てる力を振り絞って瑛斗に体当たりを敢行した。瑛斗は驚いた表情を浮かべたまま、窓から地上へと落下していった。
瓜生の奇跡の逆転劇である。
一連の事の成り行きを頭で整理して理解したとき、さっきの缶ジュースの一件を思い出した。炭酸が吹き出したのは、酸素ボンベではなく、拳銃が暴発するデストラップの前兆だったのだ。瓜生はそれを読み間違えたのである。
まっ、でも結果オーライっていうことにしておくか。
心の中でそう結論付ける。どんな形であれ、勝ったのは自分なのだ。
さあ、俺もこの病院から早く逃げ出すとするか。
瓜生は愛莉の待つ部屋へと急いで戻ることにした。
廊下を歩いていると、ミシミシやら、ギシギシやらという、不吉な音がしきりに聞こえてくる。明らかに病棟崩壊の時間が迫っていた。
部屋に戻ると、ベッド上の愛莉の状態を確認する。浅いが息はしっかりしている。
車イスをベッドに横付ける。愛莉の体を持ち上げる。左足の傷が悲鳴をあげるが、意思の力で痛みをぐっとこらえる。
愛莉を車イスに乗せたら、あとは逃げるだけだ。
廊下に出る。階段は車イスでは無理なので、エレベーターホールに向かった。
地震とガス爆発の影響がないことを祈りつつ、エレベーターの降下ボタンを押した。すぐに階数表示が点滅し始める。何事もなく四階からエレベーターが降りてきた。
車イスを最初に載せて、自分も乗り込もうとした。そこで右足に履いていた靴が急に脱げそうになった。足元に目をやると、靴紐が切れていた。どこかでガレキにでも引っ掛けたのかもしれない。しかし、今は結び直している暇はないので、そのままエレベーターに乗り込んだ。
「頼むぞ。ちゃんと動いてくれよな」
拝むようにして、一階のボタンを押した。お馴染みの浮遊感とともに、なぜかエレベーターが上昇を始める。
「くそっ、なんで上昇するんだよ! 俺が押したのは一階だよ、一階!」
やはり地震の影響で故障していたのだろう。瓜生が怒鳴っている間に、エレベーターは一階ではなく、最上階の8階に着いていた。
「最上階まで来たんだから、今度は一番下までちゃんと降りてくれよな」
もう一度、一階のボタンを押した。開いていた扉が閉まり、今度こそ下降し始めた。
「よし、大丈夫だな」
瓜生がほっとしかけたそのとき、降下するスピードが急にグンと速くなった。それは降下というよりは、むしろ落下であった。
「――――!」
不意に瓜生の脳裏に、切れた靴紐の映像が思い浮かんだ。
一般的なエレベーターはワイヤーロープで吊り下げられている。
切れた靴紐と、エレベーターのワイヤーロープ。
そのふたつから導き出される答えは──。
「じょ、じょ、冗談だろ……。まさか、さっきのあれが……デストラップの……前兆だったのか……?」
エレベーターはさらに落下速度をあげて、一階に向かって落ちていく。エレベーターを吊り下げていたワイヤーが切れたのは、もはや疑いようもない。
くそっ、ふざけんなよっ! この子だけは絶対に助けてみせるからな!
瓜生は愛莉の体に覆いかぶさった。少しでも落下のダメージから愛莉を守るためである。
数瞬後――エレベーターは凄まじい大音響をあげて一階に落下した。いや、エレベーターシャフトの底に衝突したというべきだろうか。
瓜生と愛莉の二人が乗っていたエレベーターの箱は、見えざる巨人の手により、上下に押しつぶされてしまっていた――。
残り時間――3時間36分
残りデストラップ――4個
残り生存者――4名
死亡者――6名
重体によるゲーム参加不能者――3名
重体によるゲーム参加不能からの復活者――0名
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二階からなにかが破裂する音が聞こえてきた。
「銃声か? いや、さっき瑛斗に撃たれたときの音と少し違うかな?」
「スオウ君、今のはなんの音だったの……?」
スオウとイツカが顔を見合わせていると、ボドゥンという何かを押し潰したような音が、今度は外から聞こえてきた。二階からなにかが落下したらしい。
「これは外に出て直接確かめた方が良さそうだな」
スオウは窓枠を掴み、右手一本の力で体を引き上げた。一瞬の躊躇のあと、そのまま外に飛び降りた。
「外は大丈夫だ。イツカも早く!」
一階の廊下に残るイツカに声をかける。
「うん、分かった」
イツカも窓を越えて、外に飛び降りてきた。
「あれがさっきの音の正体みたいだ」
スオウは病院の前庭に停めてある車を指差した。ここからは少し離れているが、車のルーフ部分が内側にめり込んでいるのが見て取れた。二階から落下したなにかがルーフを直撃したらしい。
「ねえ、大丈夫なの?」
車に近付こうとしたスオウにイツカが心配げに訊いてきた。
「そうだな。近寄るのはやめておこう。今は病院から離れるのが先だからな」
スオウは地面に落ちていた鉄パイプを一本拾い上げた。おそらく、一番最初のデストラップのときに落ちてきた足場用の鉄パイプだろう。近くには足場を覆っていたシートも落ちている。強風のせいで、ばたばたと大きな音をたててはためいている。
鉄パイプの一方の先を地面に付けて、杖代わりにする。いつまでもイツカの肩を借りるわけにはいかない。
「とりあえず駐車場まで行こう。そこまで歩いていけば、もしも病棟が崩落したとしても、巻き込まれることはないだろうから」
スオウはイツカとともに歩き始めた。
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しばらくの間、瓜生は目の前で起きた奇跡のような瞬間を理解できずにいた。
拳銃を構えた瑛斗に対して、瓜生は成す術もなく絶体絶命の状況であった。にもかかわらず、今廊下に残っているのは瓜生の方である。床の上には、変形したシリンダー部分が飛び出した拳銃が転がっている。
いったい、なにが起こったのか?
瑛斗は確かに拳銃の引き金を引いた。しかし、銃弾は発射されなかった。拳銃が暴発したのだった。
その結果、瑛斗は拳銃を握っていた右手を負傷して、苦しげに壁に寄りかかった。瓜生は持てる力を振り絞って瑛斗に体当たりを敢行した。瑛斗は驚いた表情を浮かべたまま、窓から地上へと落下していった。
瓜生の奇跡の逆転劇である。
一連の事の成り行きを頭で整理して理解したとき、さっきの缶ジュースの一件を思い出した。炭酸が吹き出したのは、酸素ボンベではなく、拳銃が暴発するデストラップの前兆だったのだ。瓜生はそれを読み間違えたのである。
まっ、でも結果オーライっていうことにしておくか。
心の中でそう結論付ける。どんな形であれ、勝ったのは自分なのだ。
さあ、俺もこの病院から早く逃げ出すとするか。
瓜生は愛莉の待つ部屋へと急いで戻ることにした。
廊下を歩いていると、ミシミシやら、ギシギシやらという、不吉な音がしきりに聞こえてくる。明らかに病棟崩壊の時間が迫っていた。
部屋に戻ると、ベッド上の愛莉の状態を確認する。浅いが息はしっかりしている。
車イスをベッドに横付ける。愛莉の体を持ち上げる。左足の傷が悲鳴をあげるが、意思の力で痛みをぐっとこらえる。
愛莉を車イスに乗せたら、あとは逃げるだけだ。
廊下に出る。階段は車イスでは無理なので、エレベーターホールに向かった。
地震とガス爆発の影響がないことを祈りつつ、エレベーターの降下ボタンを押した。すぐに階数表示が点滅し始める。何事もなく四階からエレベーターが降りてきた。
車イスを最初に載せて、自分も乗り込もうとした。そこで右足に履いていた靴が急に脱げそうになった。足元に目をやると、靴紐が切れていた。どこかでガレキにでも引っ掛けたのかもしれない。しかし、今は結び直している暇はないので、そのままエレベーターに乗り込んだ。
「頼むぞ。ちゃんと動いてくれよな」
拝むようにして、一階のボタンを押した。お馴染みの浮遊感とともに、なぜかエレベーターが上昇を始める。
「くそっ、なんで上昇するんだよ! 俺が押したのは一階だよ、一階!」
やはり地震の影響で故障していたのだろう。瓜生が怒鳴っている間に、エレベーターは一階ではなく、最上階の8階に着いていた。
「最上階まで来たんだから、今度は一番下までちゃんと降りてくれよな」
もう一度、一階のボタンを押した。開いていた扉が閉まり、今度こそ下降し始めた。
「よし、大丈夫だな」
瓜生がほっとしかけたそのとき、降下するスピードが急にグンと速くなった。それは降下というよりは、むしろ落下であった。
「――――!」
不意に瓜生の脳裏に、切れた靴紐の映像が思い浮かんだ。
一般的なエレベーターはワイヤーロープで吊り下げられている。
切れた靴紐と、エレベーターのワイヤーロープ。
そのふたつから導き出される答えは──。
「じょ、じょ、冗談だろ……。まさか、さっきのあれが……デストラップの……前兆だったのか……?」
エレベーターはさらに落下速度をあげて、一階に向かって落ちていく。エレベーターを吊り下げていたワイヤーが切れたのは、もはや疑いようもない。
くそっ、ふざけんなよっ! この子だけは絶対に助けてみせるからな!
瓜生は愛莉の体に覆いかぶさった。少しでも落下のダメージから愛莉を守るためである。
数瞬後――エレベーターは凄まじい大音響をあげて一階に落下した。いや、エレベーターシャフトの底に衝突したというべきだろうか。
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