父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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家出編

005 ジェフリー

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 【身体強化】のスキルを手に入れたカナタは、リハビリで屋敷の中を歩くようになった。
今まで自分の個室のベッドで寝るだけだった生活が一変し、カナタは新たな発見の日々を送っていた。
カナタが歩けるようになってことを、継母のナタリアが我が子の事のように喜んでくれたのは、カナタにとって意外だった。
血のつながらない子に対してそういった態度をとれるということが異例であると、なぜか自分の知らないはずの知識・・・・・・・・・が囁くのだ。
そんなことを頭に浮かべながら、カナタは今日もリハビリで廊下を歩いていた。


ドン!

 カナタの背中に強い衝撃が走る。
絶えようとする意識とは逆にカナタの足はもつれ、カナタはそのまま前のめりに倒れてしまう。

(ああ、これこれ。これがテンプレだよね)

 思わずカナタの脳裏に知らないはずの知識・・・・・・・・・による感想が浮かぶ。
衝撃は次兄のジェフリーによるものだ。
カナタはジェフリーに後ろから背中を蹴られたのだ。

「ちんたら歩いてんじゃねーよ! カナタ!」

 ジェフリーの台詞は、10年間も寝たきりだった弟に言うものではない。
しかも、周囲に誰も居ないことを確認したうえで行動に出ているのだ。
カナタはかろうじて手で庇ったため、顔面を床に打ち付けることはなかった。
しかし、大怪我をしかねない危険な行為だったのは間違いない。
カナタは思わずジェフリーを睨みつける。

「なんだよ。俺が庶子だからって侮辱するのか?」

 ジェフリーは庶子――所謂身分の低い母親の子――だった。
ファーランド家に居を構えているが、家督相続権はなく、兄ではあるが貴族子女を母に持つカナタとは身分差――カナタは兄ナユタに次ぐ継承権2位――があった。
その鬱憤によってこのような行動に出ているのだろう。

「だいたい、お前のせいでうちは貧乏貴族なんだぞ!」

 そうなのだ。
父アラタはカナタのために高価なスキルオーブを買い集め散財していたのだ。
それは父アラタにとって自らの呪いで不幸を背負いこんでしまったカナタへの贖罪だったのだが、ジェフリーにはそんなことは理解出来なかった。
さらにジェフリーの母ジュリアによってカナタの悪口が吹き込まれていたため、ジェフリーはカナタを憎むように育っていた。

「別に小兄様ちいにいさまを侮辱なんてしてないよ。
でも、急に人を蹴るなんて、貴族としてやってはいけないことだよ?」

 カナタの正論にジェフリーの頭に血が上る。
そこには自分は貴族じゃないという悔しい思いがあった。
ジェフリーが庶子のために同じ父の子でありながら差を付けられているのは、この王国の法によるものなのだ。
所謂貴族の血統主義というやつだ。
ジェフリーの母であるジュリアはファーランド伯爵家に臨時雇いされた庶民の女給メイドだった。
父アラタの入浴の介助を命じられたジュリアが、そこでお手付きになりジェフリーを産んだ。
実はその時父アラタは、浴場で酒を飲み、量の割には何故か・・・泥酔し意識を失い、気が付いたらジュリアと関係を結んでいたらしい。
その後、ジュリアの妊娠が発覚、生まれた子はアラタの子だということになったそうだ。

「黙れ! 能無しが! 俺の方がスキルも上なのになぜ……」

 ジェフリーはカナタを殴ろうと右の拳を振り上げる。
ナユタ、ジェフリー、カナタの三兄弟の中で、ジェフリーが一番優秀なスキルを手にしている。
それは事実だった。
ナユタは父アラタが呪いを受ける前までは、優秀なスキルを手に入れていた。
しかし、呪われた後は呪いの影響か伸び悩み苦労していた。
カナタは言わずもがな。
しかし、ジェフリーだけは呪いの影響を全く・・受けず、伸び伸びと成長していた。
なので、自分が兄弟で一番であり、伯爵家を継ぐのは自分こそ相応しいとジェフリーは思っていた。
なのに身分差により冷遇されている。
その悔しさが、カナタに暴力を振るうという行動に直結していた。

「そこで何をしているのですか!?」

 丁度その時、カナタが戻らないことを案じた女給メイドのクミンが廊下の向こうからやって来る。
クミンからはジェフリーがカナタに殴りかかろうとしていることはジェフリーの背中越しで見えなかった。
しかし、カナタが倒れていることだけは見えていた。
ジェフリーは振り上げた拳の起動をそらし、急遽カナタを助け起こそうとするかのように装った。

「何でもない。倒れたカナタを助け起こそうとしていただけだ。
そうだよな・・・・・? カナタ」

「……」

 脅すような口調にカナタは黙り肯定も否定もしなかった。
その様子に違和感を覚えたクミンは何があったのかを察し、この後に当主のアラタへ報告を上げるのだった。

 カナタはこのテンプレをどう回避すればいいのか頭を悩ませるのだった。
身分格差というものに知らないはずの知識・・・・・・・・・が異を唱える。
王国の法が間違っていると囁くのだ。
その法の犠牲者であるジェフリーをどう扱えばいいのかカナタには悩みの種だった。

(でも、暴力は勘弁して欲しいな。
リハビリも誰か女給メイドさんに付いていてもらうか……)

 この甘い判断が、後に大事件に発展するとは、この時まだカナタは気付いていなかった。
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