父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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家出編

030 カナタ、奴隷に戸惑う

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 カナタたちが盗賊のアジトからグラスヒルに向かおうとしたところ、助けた奴隷女性2人が監禁生活で足腰が衰えて歩ける状態ではなかった。

「2人を背負うしかないな」

 レグザスがカナタをちらりと見て、自分とニクので2人を背負って行こうと提案した。
カナタが除かれたのは、カナタが7歳児なみの体格しかないので、物理的に無理だったからだ。

「それなら、これだけは……。【クリーン】!」

 カナタは申し訳ない気持ちになって、自分に出来ることをしようと、全員に【クリーン】をかけた。
自分たちも洞窟内の探索で汚れていたが、奴隷の2人はもっとひどい状態だった。
だが、奴隷2人だけに【クリーン】をかけては、彼女たちを傷つけると思ったのだ。

「君たち、負ぶさってくれるか」

「すみません」「……せん」

 彼女たちは申し訳なさそうにレグザスとニクに背負われた。
カナタは、あえて彼女たちに名前を訊ねなかった。
情が移らないようにした方が良いとレグザスが言ったからだ。
この世界では奴隷は物扱いだった。
カナタが保護して養えないならば、物として手放さなければならないのだ。
そこに情が入ると判断を誤る。レグザスは悲しそうにそう言った。
どうやら過去に苦い思い出があるらしい。
そのせいで自分は奴隷より金にしてくれと言ったのだ。

 カナタたちがアジトにやって来た道とは別に、アジトには隠された抜け道があった。
そこは馬車が1台通れるような幅があり、馬車が頻繁に通ったとわかる轍の跡がついていた。

「もしかすると、盗賊が使っていた馬車があるかもしれないぞ」

 アジトの広場から出て直ぐの場所に、轍の跡が分岐しているのをみつけたレグザスが、奴隷を背中から降ろすと走り出した。
その分岐した道の先からレグザスの声が響いた。

「馬車があるぞ! 厩に馬もいる!」

 盗賊も荷運びや移動に馬車を使っていたのだ。
襲った後の戦利品をアジトに運んでいたのだから、レグザスには当然このような予想はついていた。
世間知らずのカナタが気付いていないのは、自らは【ロッカー】というプチ便利スキルがあって荷物を運ぶ苦労を知らなかったせいでもある。

 レグザスが馬車に馬をつなぐと御者席に座って馬車を操って来た。

「いい馬だ。この馬も盗まれたものだろうな。
カナタ様、乗ってくれ」

 その馬車はカナタが乗ったことのある豪華な箱馬車ではなく、幌が張られた荷馬車だった。
カナタが乗り方に戸惑っていると、ニクがカナタの脇に両手を入れて持ち上げ乗せてくれた。

「ありがとうニク」

 奴隷女性2人もニクが持ち上げて荷馬車に乗せ、ニクはその場でジャンプして飛び乗った。

「よし出発するぞ」

 レグザスが手綱を操ると、荷馬車が動き出した。
奴隷をグラスヒルまで背負っていかなくて良くなりレグザスも安堵していた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 荷馬車の酷い乗り心地にカナタが耐えきれなくなりニクに介抱されるなか、荷馬車はグラスヒルの門前に到着した。

「カナタ様、貴族の証明書はお持ちで?」

「うん? 持ってるけど?」

 カナタの返事を聞いてレグザスは長い列の出来てる一般出入口から貴族専用の出入口に荷馬車を向けた。
貴族なら貴族専用の出入口で並ばずに街へと入れるのだ。
カナタはなるほどと納得して御者席へと出て行き証明書をレグザスに手渡した。

 貴族専用口に向かって来る荷馬車に門番は訝し気な表情で停止を求めた。

「ここは貴族専用口です。何処の貴族様ですか?
もしや間違ってませんか?」

 みすぼらしい荷馬車に加え、乗っているレグザスを冒険者だと認識したせいで、門番は口調は穏やかだが疑うような目で誰何して来た。

「ファーランド伯爵家のカナタ様だ。
これが貴族の証明書だ」

 レグザスがファーランド家の紋章が描かれた証明書を門番に見えるように掲げた。

「! どうぞお通りください。ご無礼失礼いたしました」

 それを見た門番は姿勢を正し謝罪し、すんなり通行許可を出した。
カナタは証明書の効果が抜群なことに苦笑いしつつ、ついにグラスヒルに到着したのだった。

「カナタ様、ここからなら奴隷商が近いです。
先に奴隷商で手続きをしましょう」

 レグザスが貴族の証明書をカナタに返しつつ奴隷商行きを提案した。
面倒事はさっさと片付けた方が良いという認識だ。

「そうしてください」

 奴隷を手放すにしろ雇用するにしろ、一度所有権をカナタに移す必要があった。
今現在、2人の奴隷は盗賊により奪われて所有者なしという状況だった。
所有者のいない奴隷は誰の保護も受けられず不安定な立場なのだ。
奴隷は物扱いなので、そのような状態だと誘拐されてもカナタたちには取り戻す根拠もないのだ。

「(僕がこのまま奴隷を所有するわけにはいかないよな。かと言って売るというのも……)
そうだ。このまま解放すればいいんじゃないか?」

「いやーーーーーー!」「捨てないで……」

 カナタが思っていたことをついつい口走ってしまったところ、奴隷女性の2人が騒ぎ出し恐慌に陥ってしまった。
その様子に驚くカナタにレグザスが説明してくれた。

「カナタ様、一度奴隷に落とされた者が解放されても生きる術がないんだよ。
良いご主人に買われて幾ばくかの給料をもらって独り立ちが出来る状態であればわからねーんだが、奴隷になったばかりの何も持たない者が解放されても、そこから生きていくことは不可能なんだよ。
野垂れ死ぬか、悪い連中に捕まってまた奴隷として売られるかが良くある末路だな。
もし親に売られていて親元に帰ったとしても、また売られるだけだからな」

 レグザスが奴隷の悲しい現実を詳しく教えてくれた。
悲しい顔で話すレグザスは、やはり奴隷絡みで過去に何かあったのだろう。

「困ったな。僕のところで働いてもらうとしても今は冒険者をするしかないよ?
あ、将来店を持てばガチャ屋の店員という選択肢もあるか!」

 カナタは将来的にガチャ屋を店舗化したいと思っていた。
それなら雇用が発生する。
しかし、お店一軒手に入れるのは、まだまだ先の話だと思っていた。
カナタにはそこまでのお金が無いのだから。

「(ああ、封印された1億DGが使えればなぁ……)」
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