父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

142 カナタ、エリクサーを使う

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 カナタとライジン辺境伯がファーランド経由で王都に向かうことは、魔導通信機で打ち合わせ済みだった。
ライジン辺境伯が王家に献上した音声通信機は、未だ陸路で輸送中であり、まだ使用されていなかったためだ。

 カナタの父アラタは、執務の都合上現在王都に滞在中であり、ファーランドまでの【転移】は呪いの影響は問題ないと思われていた。
なぜファーランドを経由する必要があるのかというと、カナタが王都に行ったことがなかったからだ。
カナタが【転移】で行ける場所は、行ったことがある場所か直接視認出来る場所に限られていた。
そのため王都方面で一番王都に近い場所というと、カナタが育ったファーランド領の屋敷以外になかったのだ。
例の赤い点も探したのだが、さすがに王都付近には存在していなかった。

 ファーランド領から王都までは通常なら5日の行程を馬車を急がせて4日というところだ。
速度特化の特別な獣車を急がせればギリギリ3日といったところだろう。
そのためカナタ一行には獣車の帯同が必要だった。
いま、ガーディアに滞在しているカナタとライジン辺境伯の元にある最速の獣車というと、ライジン辺境伯のもつ竜車だった。
カナタの【転移】携行人数はいま4人なので、ライジン辺境伯、戦闘竜、護衛のニク、臣下のラキス、傭兵のリュゼットが同行することとなった。
一見4人と1匹だが、ニクは物扱いなためこの人数で問題なかった。
だが、カナタはニクを物扱いするのが嫌だったため、携行人数が5人に増えたと偽り、必ずニクを加えるようにしていた。

 カナタが【転移】魔法を唱えると、目の前に獣車が通れるほどの転移門が開いた。
その先はファーランド領の領主屋敷――つまりカナタの実家――の庭だった。
カナタとライジン辺境伯、そしてカナタの従者たちは、戦闘竜の引く獣車に乗ると、そのまま転移門を潜ってファーランドへと転移した。

「うっ!」

 転移が成功すると同時にカナタがうめき声を上げた。
父アラタに近づくことで呪いが強くなり、カナタのステータスが急落したのだ。
漠然と理解していた父アラタとの距離による呪いの法則が、事実としてカナタに襲い掛かっていた。

「やはりそうなのだな?」

 呪いの影響がカナタに現れたのを見て、ライジン辺境伯もその事実を把握した。
この呪いは当時勇者だったヒカル王が魔王討伐の最終局面で魔王により放たれたものだった。
ライジン辺境伯もその場にいて、アラタがヒカル王の代わりに呪いを受けたと知っている。
その呪いがその戦いの後に産まれたカナタに強く影響していることをライジン辺境伯も耳にしていたのだ。
それが、これほどのものとはライジン辺境伯も予想していなかった。

「無理をして起きるな。寝ていろ」

 ライジン辺境伯は、カナタを抱き上げるとそっと横たえるのだった。
カナタはファーランドに戻ることで、また寝たきりリハビリ状態となってしまっていた。
カナタが家出を続けていた理由はまさにこの症状にあったのだ。

「ここに【常設転移門】を設置したら、はやく王都へ。
父様にあれ・・を届ければ、この呪いも……」

 既にカナタが【転移】を使うことは出来なくなっていた。
呪いの影響を回避するためには、このまま【転移】でガーディアまで戻れば良いのだが、それも出来なくなっていた。
その呪いは【ロッカー】の機能にまで影響を与えていた。
もし、【常設転移門】を【ロッカー】に入れていたならば、取り出すこともままならなかったかもしれない。
幸い、【常設転移門】と【魔力充填機】はカナタによりガチャオーブ化されていたため、設置場所にそのまま出す事が出来た。

 だが、この【常設転移門】を使って、苦しむカナタをガーディアに戻すことは不可能だった。
なぜならこの【常設転移門】と対になる【常設転移門】は王都に設置される予定だからだ。
王都にはライジニアに転移できる【常設転移門】も設置される。
つまりファーランド→王都→ライジニア→ガーディアと転移しなければならなかったのだ。

 そして父アラタのいる王都に向かうということは、カナタは増々強い呪いの影響を受けることを意味していた。
だが、エリクサーはカナタが父アラタに渡すべきものだった。
エリクサーの存在は父アラタとカナタの間だけの秘密なのだ。
エリクサーとは、その存在を知られるだけで国家間の戦争になるほどの危険物なのだ。
例え信用のおけるライジン辺境伯であっても、渡してはいけないと言われてしまうほどのものなのだ。


3日後

 戦闘竜の引く獣車で最高速記録をたたき出し、ライジン辺境伯以下カナタたちは王都へとやって来た。

「お待ちしておりました。
どうぞこちらへ」

「カナタは動けん! 担架を!」

 カナタは王都に近づくにつれ呪いが増々強くなり、完全に寝たきりとなってしまっていた。
ライジン辺境伯は、【常設転移門】の設置よりも、カナタの容態が心配だった。

「カナタ!」

 そこへ王都に詰めていたカナタの父アラタがやって来た。
自分が近づくことでカナタの呪いの影響が強くなることは理解していた。
しかし、この状況を覆す可能性のある一手はカナタの手にあった。

「と、父様、これを」

 カナタは力なくガチャオーブをポケットから出した。
それこそエリクサーが封じ込められている金色のガチャオーブだった。

「すまんな」

 アラタはカナタの好意の塊である金色のオーブを手にするとガチャオーブを開いた。
中からは、カナタからの報告通り、エリクサーが出て来た。

「「エリクサー!」」

 担架を持って近づいて来ていた騎士たちが驚きの声をあげる。
ライジン辺境伯は本人も驚きながら、その騎士たちをけん制するように剣に手をかける。
ライジン辺境伯は「奪おうとすれば斬る」という強い威嚇を身に纏い騎士たちを睨んでいた。

「父様、はやく」

 カナタに促され、アラタがエリクサーを飲んだ。
アラタが眩い光に包まれると、エリクサーの効果で呪いの状態異常が解けていく。
カナタ自身も自らにかかっていた呪いの影響が消えていくのを感じとっていた。

「うっ!」

 その時、アラタがエリクサーの瓶を取り落とし、苦しそうに呻いた。
思わず跪くほど苦しむアラタ。

「まさか、効かないのか?」

 ライジン辺境伯が疑問の声を上げる。
カナタ自身は呪いが消えていく実感があった。
しかし、どう見てもアラタの様子はエリクサー服用前より悪かった。

「父様、呪いは?」

 アラタは自らのステータスを確認し、驚きの声を上げた。

「安心しろ。呪いは解けた。
だが、魔王の執念か、加護の項目に『魔王の恨み』というものが増えてしまった。
そのデバフ効果が一気に襲い掛かって来ただけだ。
なに、呪いの影響よりは軟なものだ」

 アラタはやせ我慢なのか、カナタに笑って見せた。

「恨むなら俺を恨めば良いのにな……」

 ライジン辺境伯が消せない加護だと察し、悔し紛れに呟く。
だが、アラタは満足そうな顔で立ち上がった。

「なに、慣れれば呪いがあった時より快適さ。
それより、カナタに呪いの影響が無くなったようなのが俺は嬉しい」

「父様」

 親子はひしと抱き合い呪いが解けたこと、そして再開を喜ぶのだった。
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