父親が呪われているので家出してガチャ屋をすることにしました

北京犬(英)

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南部辺境遠征編

136 辺境伯、無理押しする

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 カナタが安心して【転移】出来るのはガーディアの街では工房の宿舎だけだった。
カナタは城塞の執務室にいるだろうライジン辺境伯にお墨付きをもらいに、一度工房の宿舎へと【転移】することにした。

「じゃあ、行ってくる」

「あ、ご当主!」

 ラキスは「護衛はどうするのか?」と言おうとしたのだが、カナタはさっさと【転移】で開いた門を潜って行ってしまった。
続けてニク、リュゼットが護衛のために門を潜って行った。
どうやらカナタは1人で辺境伯に会いにいくつもりだったようだが、さすがにそれは安全面から許されなかった。
ラキスは、このままでは門が閉じてしまうと思ったが、ミネルバの現代官屋敷に騎獣のクヮァと獣車だけが残されるのは問題だと思い、自ら残ることにした。

「ご当主様、私はこちらで獣車の番をいたします!」

 ラキスが門の向こう側に見えているカナタに留守番を申し出た。

「(案外、ご当主様も抜けておられる)」

 ラキスが嘆息する間に、門は時間切れで消えて行った。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 門の向こう側でラキスが獣車の番を申し出ていた。
カナタは、自らのしくじりに気付き、ラキスの機転に感謝した。

「うっかりしていた。ラキスに感謝だ」

 うっかりしていたのは【転移】出来ることを隠すのを忘れていることもなのだが、そのうっかりは継続中だった。

「ライジン辺境伯は執務室だろうから、さっさと向かおうか」

「カナタ様、おるのですかな?
工房の前に獣車がお待ちですが……」

 カナタが城塞のライジン辺境伯に会いに行こうとしたところ、ゴンゾが宿舎に駆けこんで来ると、カナタの存在を半信半疑の様子で訊ねてきた。

「ああ、今戻った。よくわかったな?」

 カナタもなぜゴンゾが自分たちの帰還を知っているのかと訝しんだが、外から聞こえて来た声で納得するしかなくなった。

「おい、カナタ、お墨付きの討伐許可書を持って来てやったぞ」

 あれからほとんど時間が経っていないというのに、ライジン辺境伯がもう書類を用意して工房までやって来ていたのだ。
そこでカナタが帰っているはずだと言われたため、半信半疑ながらゴンゾが調べに来たのだ。

「いや、絶対無理な時間だよね?」

 つい先ほどまでライジン辺境伯とは音声通信機で話をしていた。
さすがにカムロ代官に【転移】を使うところを見せられないので、部屋を用意してもらう時間はかかった。
そこからはカナタの【転移】で一瞬のうちにガーディアの工房宿舎までやって来たのだ。
その時間とライジン辺境伯が書類を用意して工房まで獣車を走らせる時間、どう考えてもライジン辺境伯が工房まで到着しているはずがなかった。

「おう、ここに居たか」

 ライジン辺境伯が工房宿舎にズカズカと乗り込んで来た。
カナタはそのライジン辺境伯の圧に押されて、到着時間の不思議の疑問をぶつけることは出来なかった。

「俺も今は暇だから一緒に行ってやる」

 御付きで来ていたライジン辺境伯家の家令が首を横にブンブンと振っている。
どうやら暇ではないらしい。
それでもライジン辺境伯の行動を止めることは家令には無理な事だった。
家令はカナタに断れと目力で迫っているようだ。

「ほら、さっさと【転移】を使え」

「なんで知って……はっ!」

 この時カナタは自らが【転移】を使えることをライジン辺境伯にバレていることに気付いた。
よくよく思い出せば、ミネルバにて音声通信機で話していた内容自体がおかしかった。
迂闊にも誘導尋問的な会話にカナタ自らが乗っかって【転移】できることをバラしてしまっていた。

「他には黙っていてやるから、さあ、俺を連れて行け」

 カナタは断る術を持っていなかった。
カナタの秘密をバラすような人ではないだろうが、秘密の厳守と同行許可をバーターするつもりだった。
家令もそれを察すると落胆の表情となった。

「まあ、元々は辺境伯家の寄子アフオ男爵の問題なんだから本人が解決して当然か」

 カナタは一応王家が認めた独立した男爵家だ。
一方アフオ男爵はライジン辺境伯の寄子として辺境伯家に叙爵された男爵家だ。
ここには大きな違いがあり、権限も地位もカナタの方が上だった。
寄子の貴族家の事は寄り親であるライジン辺境伯が解決すべきだというのは当然だった。

「ミネルバからムンゾまでなら獣車を使えば4日程度だ。
俺の獣車も持っていけるな?」

 ライジン辺境伯が獣車と共にミネルバに行くことを要求する。
ミネルバの後はムンゾまで行くつもりらしい。

「4人までなら行けます」

 カナタの【転移】の携行人数は本人以外に【転移】のレベル人数分となる。
そこには騎獣も1とカウントされる。
つまり【転移】Lv.4なのでカナタ以外に4人が同行できた。

「ミク嬢と傭兵、そして騎獣と俺で4人か。
まあ、こっちは俺1人で大丈夫だろう」

 ライジン辺境伯が臣下の騎士の同行を諦めたことに、家令が顔を青くする。
しかし、そんなことを気にするライジン辺境伯ではなかった。
実はニクはカウントされないことと、カナタが何度も行き来すればいいだけなことを、カナタは知らないふりをして隠した。
どうやらライジン辺境伯は1人になって羽を伸ばしたいようだったからだ。
加えて【転移門】を常駐させれば燃料石に魔力を充填するだけで自由に行き来が可能となる。
まあ、【転移門】の事はまだバレていないようなので、カナタは黙っておくことにした。

「それでは、辺境伯の獣車を工房の裏まで持って来てください。
そこからミネルバまで一緒に【転移】します。
あ、僕が【転移】を使えることは家令の方も黙っていてくださいね?」

「おい、他言無用だ」

「心得てございます」

 いくらライジン辺境伯が我儘を通そうとしていても、そこら編の機微はしっかりしている家令だった。

「獣車用の門を開くからそのまま潜ってください」

 カナタが【転移】魔法を使うと獣車が通れるほどの門が開いた。
向こう側はさすがに部屋の中では拙いので、クヮァの獣車が停めてある停車場にした。
幸いカムロ代官や馬番などの目撃者は向こう側にいない。

 カナタはライジン辺境伯と討伐許可書と共にミネルバへと帰還した。
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