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見るからに怪しい少年②

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 少年Aは、傍らに置いた学生鞄から青ジャージの上着を取り出した。

「さーて、これでも着ておくか」

 聞こえよがしに言うと、少年Aは青ジャージの上着を羽織った。ジャージには『堂本どうもと』と書かれた名札が貼られている。

(な、なるほど……。早い内に名前を開示して円滑に進めようという魂胆か……)

 暗黒あんこく魔術まじゅつはさておき、なかなか協力的だ、あの堂本という少年は。悪い子ではないようだ。

「そういや今日あたりにバイトの面接の結果が入った通知来るんだよなー。まあ採用なのは間違い無いから、練習しておくか」

 急に話がグルッと変わったな。暗黒魔術は? 覇王はおうは?

「おはようございまーす!」

 突然、堂本は本棚に向かって叫びだした。

「お疲れ様です! ありがとうございました! またお越し下さい! 失礼します! ハイオク満タン入りまーす!」

 いやうるせえよ。ここ本屋なんだけど。

「はいよろこんで! 生ビール入りま~す! 枝豆1つ追加ですね!」

 うるさいんだけど。つーか何で急にバイトの練習すんの? 
 しかも静寂な本屋で。スゲー響き渡ってますけど。

「ふう。とりあえずこれぐらい練習しとけば大丈夫かな。郵便物の仕分けのバイト」

 郵便物の仕分けか。じゃあさっき練習したのほとんど使う機会ないぞ多分。

「あっ、居た居た。堂本さーん」

 可愛らしい女子の声が、場の不意を打った。堂本の彼女だろうか、と声がした方を見てみると、その先からスーッとスライド移動してくる物体Xが1つ。
 目を凝らして見ると、何と、雛人形の女雛めびなが、堂本の方にスライド移動してきていた。
 一般的に市販されている女雛と同じ顔、髪型だ。赤い豪華な着物を着ていて、手に何も持っていない。
 雛人形は両手を膝に置いて、お行儀良く座った状態でスライド移動して、堂本の足下まで辿り着いた。

(え、えええええええええええええ?)

 何だアレは? 夢でも見てんのかオレは?

「おいマコ」堂本は周りをキョロキョロ気にして、「おまえ何してんだ。普通に出てくるんじゃねーよ」

 焦った様子の堂本に対し、マコと呼ばれた雛人形は、縦に振動しながらギョホギョホ笑う。

「ちょっと堂本さーん。照れなくてもいいじゃないですかー。私が彼女だって周知に勘違いされても良いじゃないですかー」

 いや多分おまえのような存在を見たらパニックになる人が居る、の意を込めたんだろ。オレも現にパニックだし。
 不思議なことに結構まあまあマトモな精神状態でツッコメてるけども。

「照れてるワケじゃねーよ。マジで嫌なの、そう勘違いされると」

 そこなんだホントに。
 つーかあの雛人形アレじゃね? 
 特級過とっきゅうか呪怨霊じゅおんりょうじゃね?

「まあいいや。なるべく人に見つからないようにしろよ?」堂本はため息を吐いて、本棚から本を抜き取った。「で? 何か用か?」

 スゲーナチュラルに雛人形と接してるな堂本。何気に凄くね?
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