昨今の萌え漫画よりも

すごろく

文字の大きさ
1 / 1

昨今の萌え漫画よりも

しおりを挟む
 私は趣味で漫画を描き、それをとあるサイトに投稿している。
 なんだか人気が出てきたようで、徐々に閲覧数が増え、コメントも増えた。それは大変嬉しい限りなのだが、その中にどうにも気になるものがある。それは批判コメントや作品の何かを巡って口論するようなコメントではなく、「昨今の萌え漫画よりも面白いです!」という私の漫画を褒めてくれているとわかるコメントだった。「面白い」という文言はこれ以上にないほどの褒め言葉なのだが、それに付属されている「昨今の萌え漫画よりも」という言葉が気になって仕方ない。それは歯に何かはざかっているような微妙なもやもやだった。
 私はなぜこのコメントに対してこんな複雑な感情を抱くのかを考えた。
 まず自分の漫画の作風について考えてみる。私の漫画の作風は、自分でもいうのもなんだが、かなり硬派であることは自負している。この作者は手塚治虫や藤子不二雄が描くような昔ながらの漫画を愛しており、その影響を漏れなく受けていると、少しでも漫画という媒体が好きな人間なら気づくような作風だった。確かにそういう漫画は、今の萌え漫画と呼ばれるジャンルの類とは相容れないものだろう。しかし、ジャンルが違うのなら、余計に比べるのはおかしいのではないか? 私のもやもやの根底はここにある。
 そうだ、同じ土俵ではないのだ。それは私の方が硬派だから上だとかそういうことではなくて、ようは私の漫画の作風が相撲だとすると、萌え漫画はプロレスなのである。とどのつまり同じ格闘技でも、競技自体が違うのだ。相撲とプロレスを比べて、どっちが素晴らしいかなんて議論をしても、不毛な水掛け論にしかならない。
 そもそもよく萌え漫画を批判する連中は、萌え漫画に対して「中身がない」と主張するが、では漫画において中身とは何か。それは読者が求めているものによって変わってくるのではないか。例えば読者が重厚なストーリーを望めば、その重厚なストーリーが中身になるわけだし、読者がただ可愛いキャラクターだけを望めば、その可愛いキャラクターだけが中身になるのである。つまり需要と供給だ。これを逆に考えてみれば、重厚なストーリーを望む読者からすれば可愛いキャラクターなんてただのゴミであり、また可愛いキャラクターだけを望む読者からすれば重厚なストーリーなど不要なおまけなのである。だから萌え漫画に対して「中身がない」と批判するのは、こういう需要の多様性を度外視してしまっている行為なのだ。
 そもそも可愛いキャラクターに萌えたい、尊いと思いたいという願望を持つ読者が一定数いなければ、世の中にこれだけの萌え漫画は出回っていないし、また萌え漫画を嫌って批判してくる人もいないのだ。
 そこを考えると、「昨今の萌え漫画よりも面白い」という褒め言葉に私が疑問を感じるのは、漫画が必ずしも「面白い」ものでなければならないという錯覚が見られるからだ、という答えに至る。創作は「面白い」ことがすべてではない。胸が熱くなるような物語が正しいわけではないし、人の涙を誘うような物語が絶対的な正義というわけでもない。可愛いキャラクターたちが中身のない会話をしているだけの世界を創りあげることも、創作の境地の一つなのだ。
 だから私はこうやって萌え漫画と比べられて「面白い」と褒められることには釈然としない、という遠回しな結論に達した。そんな公園のベンチの上だった。
 気づけばもう日はかなり西へと傾いている。
 次のエピソードを投稿しなければ、と私はベンチから立ち上がって公園を飛び出し、自宅へと帰ると、すぐさま準備していた漫画を投稿した。
 しばらくしてからコメント欄を覗くと、今回も評判はなかなか上々のようだった。しかし、その中に珍しく批判コメントがあった。
『手塚や藤子の作風をなぞってるだけ。ただ硬派ぶってるだけで中身からっぽ』
 なんだか少しほっとした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話【短編集】

本田 壱好
ホラー
意味が分かると怖い話。 つまり、意味がわからなければ怖くない。 解釈は読者に委ねられる。 あなたはこの短編集をどのように読みますか?

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...