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インコは歌う
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インコは歌う。眠たい明け方に。部屋の隅の止まり木の上で。ごろんと寝転がり、スマホを片手に、ぼんやり漫画アプリを眺める俺に向かって。
「お前さん、お前さん。お前さんはまだ踏み切れないのかい?」
俺はインコを無視して、スマホの中に映るつまらない漫画にコメントを打つ。他の誰かさんたちと同じように、作品の些細なことに揚げ足を取り、著者を嘲笑する。コメントを送信した瞬間、胸がすっと透くような気持ちが芽生える。しかしそれは一瞬のことで、すぐに忘れられない空虚感が迫ってきて、それから逃げるためにまた口汚いコメントを打つ。
インコは俺の返事がないのも構わずに歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんはとんだ大馬鹿だ。今まで自分が何もできなかったことを、自分以外の誰かのせいにしてる。あまつさえ顔も本名も知らない漫画家を貶すことだけが生き甲斐だなんて、恥晒しだとは思わないかい? 誰が見てるわけでもないけれどね。少なくとも、お前さんは見ているじゃないか、お前さんのことを」
インコは楽しそうに笑う。楽しそうに、とても楽しそうに俺を嘲笑する。
俺はコメントを打つ指を速める。この指を止めてしまったら、俺はきっとこのインコを殺してしまうだろう。そうはしたくない。したくないから、どうにか衝動を抑え込もうとする。
インコは俺のそんな心情を知ってか知らずか、引き続き歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんは本当にヘタレだね。もう何度死ぬのを失敗したんだい? 昨日は首吊りを止められたことを愚痴ってたね? また誰かのせいかい? お前さんがクズなのはお前さん自身のせいさ。わかってるんだろ、私がこう歌うんだから。それでも諦め切れないなら、お前さんは人殺しになればいいのさ。巷で流行りの通り魔ってやつだよ。刃物で通行人を襲っても良し。建物にガソリンをばら撒いて放火しても良しさ。そういう連中のことを最近じゃ無敵の人なんて言うらしいよ。世間様から見捨てられて、何も失うものがなくなった人間のことなんだってさ。お前さんにぴったりじゃないか。一線を飛び越えてしまえよ。ちょっとは楽になるんじゃないかい? それとも飛び越えるのが怖いかい? このままその狭い空間に閉じこもっていたいかい? それはそれでいいねえ。でも私は歌わせてもらうよ。お前さんがただただ生きている限り、私はずっと歌うよ。お前さんは馬鹿だから、きっと私のこの歌の意味も何も理解できないだろうけどさ」
インコの歌声は、次々と俺の感情の奥深くに突き刺さって、かき乱して、叩き潰して――。もう指は間に合わない。俺はスマホを放り出して、止まり木に飛び掛かり、そしてインコを掴み取る。インコは抵抗しない。暴れない。代わりに歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんはここで朽ち果てて死ぬのさ。お前さんは無敵なんかじゃない。ただ単に、お前さんは敵すら作れないのさ。悲しいねえ。悲しいねえ。かなし――」
俺は腕を大きく振りかぶって、インコを床に叩きつけた。床に衝突したインコは、数度羽を痙攣させた後、動かなくなった。もう、インコは歌わなかった。
「お前さん、お前さん。お前さんはまだ踏み切れないのかい?」
俺はインコを無視して、スマホの中に映るつまらない漫画にコメントを打つ。他の誰かさんたちと同じように、作品の些細なことに揚げ足を取り、著者を嘲笑する。コメントを送信した瞬間、胸がすっと透くような気持ちが芽生える。しかしそれは一瞬のことで、すぐに忘れられない空虚感が迫ってきて、それから逃げるためにまた口汚いコメントを打つ。
インコは俺の返事がないのも構わずに歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんはとんだ大馬鹿だ。今まで自分が何もできなかったことを、自分以外の誰かのせいにしてる。あまつさえ顔も本名も知らない漫画家を貶すことだけが生き甲斐だなんて、恥晒しだとは思わないかい? 誰が見てるわけでもないけれどね。少なくとも、お前さんは見ているじゃないか、お前さんのことを」
インコは楽しそうに笑う。楽しそうに、とても楽しそうに俺を嘲笑する。
俺はコメントを打つ指を速める。この指を止めてしまったら、俺はきっとこのインコを殺してしまうだろう。そうはしたくない。したくないから、どうにか衝動を抑え込もうとする。
インコは俺のそんな心情を知ってか知らずか、引き続き歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんは本当にヘタレだね。もう何度死ぬのを失敗したんだい? 昨日は首吊りを止められたことを愚痴ってたね? また誰かのせいかい? お前さんがクズなのはお前さん自身のせいさ。わかってるんだろ、私がこう歌うんだから。それでも諦め切れないなら、お前さんは人殺しになればいいのさ。巷で流行りの通り魔ってやつだよ。刃物で通行人を襲っても良し。建物にガソリンをばら撒いて放火しても良しさ。そういう連中のことを最近じゃ無敵の人なんて言うらしいよ。世間様から見捨てられて、何も失うものがなくなった人間のことなんだってさ。お前さんにぴったりじゃないか。一線を飛び越えてしまえよ。ちょっとは楽になるんじゃないかい? それとも飛び越えるのが怖いかい? このままその狭い空間に閉じこもっていたいかい? それはそれでいいねえ。でも私は歌わせてもらうよ。お前さんがただただ生きている限り、私はずっと歌うよ。お前さんは馬鹿だから、きっと私のこの歌の意味も何も理解できないだろうけどさ」
インコの歌声は、次々と俺の感情の奥深くに突き刺さって、かき乱して、叩き潰して――。もう指は間に合わない。俺はスマホを放り出して、止まり木に飛び掛かり、そしてインコを掴み取る。インコは抵抗しない。暴れない。代わりに歌う。
「お前さん、お前さん。お前さんはここで朽ち果てて死ぬのさ。お前さんは無敵なんかじゃない。ただ単に、お前さんは敵すら作れないのさ。悲しいねえ。悲しいねえ。かなし――」
俺は腕を大きく振りかぶって、インコを床に叩きつけた。床に衝突したインコは、数度羽を痙攣させた後、動かなくなった。もう、インコは歌わなかった。
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