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ハシザワイサオ
ハシザワイサオ その6
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終業時間、今日もカンバラが近寄ってくる。
「課長、今日こそ一発やりに行きません? 気持ち良いですよ?」
そう言ってにやにや。いつも下品に笑って、俺を誘惑する。
俺はいつものように断ろうとしたけれど、口から出たのは別の言葉だった。
「――いいよ」
「え?」
「今日はその――付き合うよ」
口に出してしまってから驚き、撤回しようとしたけれど、断りの言葉に限って出てきてくれなかった。喉がやけに乾いていて、妙な痛みがあった。
「おおっ、そうこなくっちゃ。じゃあ行きましょう! 電話は俺がしますから!」
カンバラは嬉しそうに何度も頷き、意気揚々と社外へと歩き始めた。俺は少し躊躇したのち、おずおずとカンバラの後についていった。もう言い訳のしようもなかった。俺はセックスしたいと思っていた。見知らぬ若い女の子の中に、自分の貧相な一物を突っ込みたいと、そう思ってしまっていた。いくら本心は嫌だと思っているなどと嘘をついても仕方ない。カンバラが誘惑するから悪いなどと責任転嫁したとしても、俺が自分の意志で、自分の足でこうやって追従していることには変わりない。ヘドロのような感情に押し上げられながらも、血液を加速させる情欲に急き立てられ、俺の足は止まらずにカンバラの背中を追い続けた。
カンバラは近場の人気のない公園に到着すると、おもむろに自身の携帯電話を取り出し、通話を始めた。俺はカンバラのすぐ後ろに立っていたから、抑揚のない着信音がカンバラの耳のそばから漏れ聞こえていた。
じきに着信音が途切れて、覇気のない中年女性の声が微かに聞こえてくる。
「あー、どうも! 会員ナンバー五三九五四二のカンバラです!」
カンバラがはきはきと明るく応答する。これから少女を犯しに行くような後ろめたさはまるで感じられない。かくいう私はどうなのだろう? こうやって部下に責任を押し付けるみたいに後ろで突っ立っているだけの情けない私は――。
「課長、オーケー出ましたよ! もちろん課長同行で! さっそく行きましょう」
そこでカンバラははたと一瞬だけ不安そうな顔をする。
「あれ? そういや課長って今会員カード持ってるんでしたっけ?」
その問いかけに、俺は躊躇うように曖昧に頷いた。今朝、俺はあのカードを自分の財布の中に入れた。本当は――本当はあんなものはさっさとゴミ箱に捨ててしまわなければならなかった。それができないというのなら、半永久的に戸棚の奥に封印しておくべきだった。それなのに、私はあのカードを、迷いながらも財布の中に入れた。まるで迷っていることが免罪符になると思っているように。
「ああ、そりゃ良かった。会員カードがなけりゃ話になりませんからね」
カンバラはほっと息をつき、ポケットからおもむろに自身のカードを取り出した。
「さあ、課長も」
カンバラに促され、俺も財布から自分の会員カードを取り出した。
「行き方は――わかりますよね?」
俺は頷きもせずに、カードを握りしめ、ゆっくりと目を閉じた。次に目を開けたときには、あのクロマキーシートに覆われたスタジオの中に、以前と同じく半裸で立っていた。
「ハシザワさん、お久しぶりですね。そして、ようこそ」
――歓迎するように手を広げたイチノセが、そう言って笑っていた。
「課長、今日こそ一発やりに行きません? 気持ち良いですよ?」
そう言ってにやにや。いつも下品に笑って、俺を誘惑する。
俺はいつものように断ろうとしたけれど、口から出たのは別の言葉だった。
「――いいよ」
「え?」
「今日はその――付き合うよ」
口に出してしまってから驚き、撤回しようとしたけれど、断りの言葉に限って出てきてくれなかった。喉がやけに乾いていて、妙な痛みがあった。
「おおっ、そうこなくっちゃ。じゃあ行きましょう! 電話は俺がしますから!」
カンバラは嬉しそうに何度も頷き、意気揚々と社外へと歩き始めた。俺は少し躊躇したのち、おずおずとカンバラの後についていった。もう言い訳のしようもなかった。俺はセックスしたいと思っていた。見知らぬ若い女の子の中に、自分の貧相な一物を突っ込みたいと、そう思ってしまっていた。いくら本心は嫌だと思っているなどと嘘をついても仕方ない。カンバラが誘惑するから悪いなどと責任転嫁したとしても、俺が自分の意志で、自分の足でこうやって追従していることには変わりない。ヘドロのような感情に押し上げられながらも、血液を加速させる情欲に急き立てられ、俺の足は止まらずにカンバラの背中を追い続けた。
カンバラは近場の人気のない公園に到着すると、おもむろに自身の携帯電話を取り出し、通話を始めた。俺はカンバラのすぐ後ろに立っていたから、抑揚のない着信音がカンバラの耳のそばから漏れ聞こえていた。
じきに着信音が途切れて、覇気のない中年女性の声が微かに聞こえてくる。
「あー、どうも! 会員ナンバー五三九五四二のカンバラです!」
カンバラがはきはきと明るく応答する。これから少女を犯しに行くような後ろめたさはまるで感じられない。かくいう私はどうなのだろう? こうやって部下に責任を押し付けるみたいに後ろで突っ立っているだけの情けない私は――。
「課長、オーケー出ましたよ! もちろん課長同行で! さっそく行きましょう」
そこでカンバラははたと一瞬だけ不安そうな顔をする。
「あれ? そういや課長って今会員カード持ってるんでしたっけ?」
その問いかけに、俺は躊躇うように曖昧に頷いた。今朝、俺はあのカードを自分の財布の中に入れた。本当は――本当はあんなものはさっさとゴミ箱に捨ててしまわなければならなかった。それができないというのなら、半永久的に戸棚の奥に封印しておくべきだった。それなのに、私はあのカードを、迷いながらも財布の中に入れた。まるで迷っていることが免罪符になると思っているように。
「ああ、そりゃ良かった。会員カードがなけりゃ話になりませんからね」
カンバラはほっと息をつき、ポケットからおもむろに自身のカードを取り出した。
「さあ、課長も」
カンバラに促され、俺も財布から自分の会員カードを取り出した。
「行き方は――わかりますよね?」
俺は頷きもせずに、カードを握りしめ、ゆっくりと目を閉じた。次に目を開けたときには、あのクロマキーシートに覆われたスタジオの中に、以前と同じく半裸で立っていた。
「ハシザワさん、お久しぶりですね。そして、ようこそ」
――歓迎するように手を広げたイチノセが、そう言って笑っていた。
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