22 / 280
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。
ex その頃のギルドにて
しおりを挟む
(さてさて今頃出発した頃っすかねー)
ギルドの新人受付嬢のシズクは、仕事が一息付いてたっぷり加糖なコーヒーを飲みながら一息吐いていた。
そして一息吐きながら考える。
(それにしても……あの三人、一体何者なんすかね……ボクと同じような力を感じたっすよ)
と、そこまで考えて一つの仮説に辿りつく。
(もしかしてボクと同じく追放された聖女だったり)
そう、彼女は少し前に聖女をクビになり国外追放されて此処にいる。
真面目に仕事をしてきたつもりだが、訳の分からない身に覚えのないミスを立て続けに突き付けられ、なし崩しに追放された。
そして紆余曲折あり冒険者ギルドの受付嬢として雇ってもらった訳だが……。
(……いや、ボクと同じって事は無いか。流石にそれは無い)
自分の事例もあり得ない程に稀なケースだと思うし、それが同時期に二人もなんて事は絶対に無いと思う。
そしてそれがあと二人だ。
流石に無い。
流石に他の国のトップもあんな馬鹿ばかりだとは思いたくない。
(ま、三人が戻ってきたら軽く聞いてみる事にするっすよ。あの三人ならまず間違いなく無事に戻ってくるだろうし)
と、なんの心配もせずにコーヒーを飲みほしたシズクだったが。
「おい新入り」
背後からドスの効いた声が耳に届いて、何やら嫌な予感が全身から湧き上がり背筋が凍った。
「ひゃ、ひゃい……なんすか……じゃない。なんですか、部長」
彼女の背後に現れたのは黒スーツ黒サングラスの巨体の男。
冒険者ギルド、施設運営部部長である。
その表情からはサングラス越しでも怒りが伝わってくる。
「お前の回した書類に目ぇ通したんだけどよ……なんだこれ。なんでFランクの冒険者三人をSランクの依頼に向かわせてんだお前」
「そ、それは……」
怒られるかもしれないと思っていたが、本当に怒られた。
……だけど此処で引き下がる訳には行かない。
何も自分は適当な判断で向かわせた訳ではない。
自分は自分の判断で大丈夫だと判断したから向かわせた。
ちゃんとした力のある人間は、それ相応の評価を受けたっていい筈だ。
「あ、あの三人は確かに駆け出しのFランク冒険者っす。でも分かるんすよ。あの三人、冒険者としては駆け出しなだけで、実力自体は間違いなくトップクラスの実力があるんすよ。それこそ今回の依頼も余裕で達成できる程の実力が」
「分かるって、見ただけでか」
「はい……分かるんすよそういうの」
「……」
(……信用されてないっすね)
サングラス越しでも疑念の視線が丸わかりだ。
見ただけで相手の実力がおおよそ判断できる人間は少ないだろうし、判断できる人間が居る事を知っている、理解できる人間もきっと少ない。
故に理解されてない。
そして部長は言う。
「まあ見ただけで分かるってのは信用できねえが……そうだな。それまでの人生で何をやっていたかに関わらず始めは皆Fランクだ。だから実質的に実力上位な奴が駆け出しって事は普通にある話だ。実際お前の言う通り、Sランクの依頼を熟せる連中という可能性も十分あるさ」
「だったら……」
「それでも規則は規則だろ。あんまり硬い事は言いたかねーんだが、基本就くだけなら誰にでも就けるガバガバな職業なんだ。理由がどうであれそういう所で簡単に特例通しちまったら、その一件だけは良くても全体を通して無茶苦茶な事になる。融通は利かねえかもしれねえが、融通が利かねえって事が全体のバランスって奴を保ってんだよ。特例って奴は色々な奴で協議してやっとの思いで初めて通せるもんだ」
「……す、すみません」
普通に至極真っ当な説教をされて返す言葉が無かった。
(……倫理観の欠片の無いようなマフィアみたいな恰好してるのに……)
だからそんな失礼な言葉は口にしなかった。
失礼だし怖かったし。
「とりあえずこの件は、Sランクの冒険者に頭下げて様子見てきてもらう事にするわ」
「お、お手数かけるっす……マジすんません」
「反省してんならいいんだよ反省してんなら。少なくとも俺達の中ではな」
「……へ?」
何やら不穏な言葉が聞こえてきて、思わずそんな声が漏れ出した。
「俺達の中ではってのは……」
「いや、こんな依頼通した時点で話は上にも回ってるだろうしな……この大問題が」
「……ッ!」
「ま、でもお前は履歴書に元聖女とか訳分からねえ事書いて来るアホだったりするう奴ではあるが、無能じゃねえ事は皆分かってるし俺も分かってる。お前の見ただけで分かるってのも信用できねえが、それでも考え無しに通した訳じゃねえんだろうなって事も分かってるんだ。だから……やれる事はやってやる。済むといいな、精々謹慎位で」
「……そ、そうっすね」
悪くてクビ。
良くて謹慎。
そのどう転んでも悪いか最悪な状況が重く圧し掛かってくる。
(せ、折角ちゃんとした仕事に就職できたのに! ちょっと前のそれっぽいっ事言ってた自分をぶん殴りたいっすよおおおおおおおおおおおおッ!)
「っと、話してるうちに来たなSランク冒険者のパーティーが。俺ちょっと頭下げて来るわ」
「ぼ、ボクも行くっすよ!」
分かってる。
あの三人が無事帰ってくる事は分かってるので、何の心配もしていない。
だから心配するのは自分の立場と、そして。
自分の所為で部長の首も飛んだりしないか。
その心配だけである。
ギルドの新人受付嬢のシズクは、仕事が一息付いてたっぷり加糖なコーヒーを飲みながら一息吐いていた。
そして一息吐きながら考える。
(それにしても……あの三人、一体何者なんすかね……ボクと同じような力を感じたっすよ)
と、そこまで考えて一つの仮説に辿りつく。
(もしかしてボクと同じく追放された聖女だったり)
そう、彼女は少し前に聖女をクビになり国外追放されて此処にいる。
真面目に仕事をしてきたつもりだが、訳の分からない身に覚えのないミスを立て続けに突き付けられ、なし崩しに追放された。
そして紆余曲折あり冒険者ギルドの受付嬢として雇ってもらった訳だが……。
(……いや、ボクと同じって事は無いか。流石にそれは無い)
自分の事例もあり得ない程に稀なケースだと思うし、それが同時期に二人もなんて事は絶対に無いと思う。
そしてそれがあと二人だ。
流石に無い。
流石に他の国のトップもあんな馬鹿ばかりだとは思いたくない。
(ま、三人が戻ってきたら軽く聞いてみる事にするっすよ。あの三人ならまず間違いなく無事に戻ってくるだろうし)
と、なんの心配もせずにコーヒーを飲みほしたシズクだったが。
「おい新入り」
背後からドスの効いた声が耳に届いて、何やら嫌な予感が全身から湧き上がり背筋が凍った。
「ひゃ、ひゃい……なんすか……じゃない。なんですか、部長」
彼女の背後に現れたのは黒スーツ黒サングラスの巨体の男。
冒険者ギルド、施設運営部部長である。
その表情からはサングラス越しでも怒りが伝わってくる。
「お前の回した書類に目ぇ通したんだけどよ……なんだこれ。なんでFランクの冒険者三人をSランクの依頼に向かわせてんだお前」
「そ、それは……」
怒られるかもしれないと思っていたが、本当に怒られた。
……だけど此処で引き下がる訳には行かない。
何も自分は適当な判断で向かわせた訳ではない。
自分は自分の判断で大丈夫だと判断したから向かわせた。
ちゃんとした力のある人間は、それ相応の評価を受けたっていい筈だ。
「あ、あの三人は確かに駆け出しのFランク冒険者っす。でも分かるんすよ。あの三人、冒険者としては駆け出しなだけで、実力自体は間違いなくトップクラスの実力があるんすよ。それこそ今回の依頼も余裕で達成できる程の実力が」
「分かるって、見ただけでか」
「はい……分かるんすよそういうの」
「……」
(……信用されてないっすね)
サングラス越しでも疑念の視線が丸わかりだ。
見ただけで相手の実力がおおよそ判断できる人間は少ないだろうし、判断できる人間が居る事を知っている、理解できる人間もきっと少ない。
故に理解されてない。
そして部長は言う。
「まあ見ただけで分かるってのは信用できねえが……そうだな。それまでの人生で何をやっていたかに関わらず始めは皆Fランクだ。だから実質的に実力上位な奴が駆け出しって事は普通にある話だ。実際お前の言う通り、Sランクの依頼を熟せる連中という可能性も十分あるさ」
「だったら……」
「それでも規則は規則だろ。あんまり硬い事は言いたかねーんだが、基本就くだけなら誰にでも就けるガバガバな職業なんだ。理由がどうであれそういう所で簡単に特例通しちまったら、その一件だけは良くても全体を通して無茶苦茶な事になる。融通は利かねえかもしれねえが、融通が利かねえって事が全体のバランスって奴を保ってんだよ。特例って奴は色々な奴で協議してやっとの思いで初めて通せるもんだ」
「……す、すみません」
普通に至極真っ当な説教をされて返す言葉が無かった。
(……倫理観の欠片の無いようなマフィアみたいな恰好してるのに……)
だからそんな失礼な言葉は口にしなかった。
失礼だし怖かったし。
「とりあえずこの件は、Sランクの冒険者に頭下げて様子見てきてもらう事にするわ」
「お、お手数かけるっす……マジすんません」
「反省してんならいいんだよ反省してんなら。少なくとも俺達の中ではな」
「……へ?」
何やら不穏な言葉が聞こえてきて、思わずそんな声が漏れ出した。
「俺達の中ではってのは……」
「いや、こんな依頼通した時点で話は上にも回ってるだろうしな……この大問題が」
「……ッ!」
「ま、でもお前は履歴書に元聖女とか訳分からねえ事書いて来るアホだったりするう奴ではあるが、無能じゃねえ事は皆分かってるし俺も分かってる。お前の見ただけで分かるってのも信用できねえが、それでも考え無しに通した訳じゃねえんだろうなって事も分かってるんだ。だから……やれる事はやってやる。済むといいな、精々謹慎位で」
「……そ、そうっすね」
悪くてクビ。
良くて謹慎。
そのどう転んでも悪いか最悪な状況が重く圧し掛かってくる。
(せ、折角ちゃんとした仕事に就職できたのに! ちょっと前のそれっぽいっ事言ってた自分をぶん殴りたいっすよおおおおおおおおおおおおッ!)
「っと、話してるうちに来たなSランク冒険者のパーティーが。俺ちょっと頭下げて来るわ」
「ぼ、ボクも行くっすよ!」
分かってる。
あの三人が無事帰ってくる事は分かってるので、何の心配もしていない。
だから心配するのは自分の立場と、そして。
自分の所為で部長の首も飛んだりしないか。
その心配だけである。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる