44 / 280
一章 聖女さん、追放されたので冒険者を始めます。
42 聖女さん、VS黒装束の男Ⅲ
しおりを挟む
魔術を構築しながら低い体勢のまま男に足払いを仕掛ける。
だけどそれはギリギリの所で男に後方に飛ばれて躱された。
それでも攻撃の手は緩めない。
こちらが何かをしている事を悟られないように。
「いい加減倒れろ!」
再び接近して拳を振るう。
何度も。何度も。
「……」
だけどその全てを男は躱し、往なしてそこに立つ。
気が付けば防御ではなく、そういう捌き方をされるようになっていた。
私が拳を放てば放つ程。戦闘が長引けば長引く程その動きが洗練されていく。
こちらの動きに適応していく。
出力ではこちらが勝っていても、それを埋められるだけの戦闘技能とセンスが目の前の男には備わっているんだ。
確信する。
このまま正攻法で相手を殺さないように倒す戦い方をしていたら、十中八九私が負ける。
今はまだ互いに攻撃を防いで躱してという状況が平行線を辿っているけど、その均衡は崩れる。
そして実際に崩れた。
「……ッ!?」
攻撃を弾いた男が流れるように、こちらに向けて黒い何かを纏った拳を振るってくる。
あまりに隙が無く、攻撃の初動に対し反応が遅れた。
結界は間に合わないし、躱す事もままならない。
一発受けるしかない。そういう攻撃。
だけどそもそも今の接近戦で放った拳に、ただの一つも私の本命はいない。
此処から先が本命。
次の瞬間、ようやく構築が完了した魔術が発動する。
「……間に合った」
一瞬の内に明らかに動きが鈍くなった男の拳を躱し、そのままカウンターを合わせる。
腹部へのボディーブロー。
「が……ッ!」
その一撃を受けた男は再び勢いよく弾き飛ばされる。
そしてそれを殴る直前に男の後方に張った結界に直撃させて止めた。
「私の勝ちだね」
「……」
男はそのまま地面に倒れ伏せる。
今度は起き上がる素振りも見せない。
見せてきても対応できる。
私の読みが当たった。
今のこの男には、聖女の加護とやらが付与されていない。
「……何をした」
それでもそもそも男は十分な強者だったのだろう。
低下した強化魔術の出力で私の拳を受け切っても、意識は消えずにそこにある。
「正直、アンタが余計な事を喋らなきゃ危なかったかもしれない」
「余計な……事?」
「聖女の加護云々言ってたよね。それと私の直感を合わせて気付いた」
そして男に問いかける。
「アンタには別の誰かから力の供給を受けるようなパスが繋がっていた。そうだよね?」
「……ああそうか」
男が起きた現象に納得するように言う。
「……空間を遮断する結界を張ったのか」
「ご明察」
男の言っている事は正解だった。
私が使った魔術は空間を結界の外から遮断。断絶させる聖属性の結界術。
手間は掛かるし硬度も無いから簡単に破壊できる。運用が難しいし使える場面も限られてくるピーキーな術式。
それでも……今のように外部からの繋がりを遮断できる。
聖女の加護とやらも、顔も知らない聖女と言われている誰かから断絶できる。
そうなれば私の勝ちだ。
足りない出力を技量とセンスで補っているのならば、それでも補いぎれなくなる程に出力を落とす。
そんな正攻法から外れた戦い方ができれば、殺す戦い方じゃなくても倒す戦い方で勝利できる。
「だがそんな高等な魔術をこれだけの短期間で扱えるとなると、お前は一体……」
「はい私への質問は後」
倒れ伏せてる男の前にしゃがみ込んで問いかける。
「じゃ、やってた事と目的を全部話して貰おうかな」
此処から色々と話を聞く権利があるのは私の方だ。
別に私の事も教えてあげても良いけど、それは私が聞きたいことを聞いた後だ。
「……さて、何から聞こうかな」
私がそう呟いた次の瞬間だった。
シルヴィでもステラでもない。
第三者がこの場に介入してきたのは。
だけどそれはギリギリの所で男に後方に飛ばれて躱された。
それでも攻撃の手は緩めない。
こちらが何かをしている事を悟られないように。
「いい加減倒れろ!」
再び接近して拳を振るう。
何度も。何度も。
「……」
だけどその全てを男は躱し、往なしてそこに立つ。
気が付けば防御ではなく、そういう捌き方をされるようになっていた。
私が拳を放てば放つ程。戦闘が長引けば長引く程その動きが洗練されていく。
こちらの動きに適応していく。
出力ではこちらが勝っていても、それを埋められるだけの戦闘技能とセンスが目の前の男には備わっているんだ。
確信する。
このまま正攻法で相手を殺さないように倒す戦い方をしていたら、十中八九私が負ける。
今はまだ互いに攻撃を防いで躱してという状況が平行線を辿っているけど、その均衡は崩れる。
そして実際に崩れた。
「……ッ!?」
攻撃を弾いた男が流れるように、こちらに向けて黒い何かを纏った拳を振るってくる。
あまりに隙が無く、攻撃の初動に対し反応が遅れた。
結界は間に合わないし、躱す事もままならない。
一発受けるしかない。そういう攻撃。
だけどそもそも今の接近戦で放った拳に、ただの一つも私の本命はいない。
此処から先が本命。
次の瞬間、ようやく構築が完了した魔術が発動する。
「……間に合った」
一瞬の内に明らかに動きが鈍くなった男の拳を躱し、そのままカウンターを合わせる。
腹部へのボディーブロー。
「が……ッ!」
その一撃を受けた男は再び勢いよく弾き飛ばされる。
そしてそれを殴る直前に男の後方に張った結界に直撃させて止めた。
「私の勝ちだね」
「……」
男はそのまま地面に倒れ伏せる。
今度は起き上がる素振りも見せない。
見せてきても対応できる。
私の読みが当たった。
今のこの男には、聖女の加護とやらが付与されていない。
「……何をした」
それでもそもそも男は十分な強者だったのだろう。
低下した強化魔術の出力で私の拳を受け切っても、意識は消えずにそこにある。
「正直、アンタが余計な事を喋らなきゃ危なかったかもしれない」
「余計な……事?」
「聖女の加護云々言ってたよね。それと私の直感を合わせて気付いた」
そして男に問いかける。
「アンタには別の誰かから力の供給を受けるようなパスが繋がっていた。そうだよね?」
「……ああそうか」
男が起きた現象に納得するように言う。
「……空間を遮断する結界を張ったのか」
「ご明察」
男の言っている事は正解だった。
私が使った魔術は空間を結界の外から遮断。断絶させる聖属性の結界術。
手間は掛かるし硬度も無いから簡単に破壊できる。運用が難しいし使える場面も限られてくるピーキーな術式。
それでも……今のように外部からの繋がりを遮断できる。
聖女の加護とやらも、顔も知らない聖女と言われている誰かから断絶できる。
そうなれば私の勝ちだ。
足りない出力を技量とセンスで補っているのならば、それでも補いぎれなくなる程に出力を落とす。
そんな正攻法から外れた戦い方ができれば、殺す戦い方じゃなくても倒す戦い方で勝利できる。
「だがそんな高等な魔術をこれだけの短期間で扱えるとなると、お前は一体……」
「はい私への質問は後」
倒れ伏せてる男の前にしゃがみ込んで問いかける。
「じゃ、やってた事と目的を全部話して貰おうかな」
此処から色々と話を聞く権利があるのは私の方だ。
別に私の事も教えてあげても良いけど、それは私が聞きたいことを聞いた後だ。
「……さて、何から聞こうかな」
私がそう呟いた次の瞬間だった。
シルヴィでもステラでもない。
第三者がこの場に介入してきたのは。
10
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる