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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 影の男、自白
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拘束はした。
指輪もこちらで抑えた。
それでも安全である保障はまだない。
「「……ッ」」
二人して声にならない声を上げた後、僅かに男から距離を取って身構える。
(……動く様子は……無さそうっすかね)
……拘束魔術がうまく効いているという事もあるのだろう。
だけどそれ以上に……そもそも闘争心が見えない。
あれだけイカれた言動をしていた男がだ。
……そもそも。
(というか、なんすかね……うまく言えねえっすけど……全然違う)
少し前。
戦いが始まる前。
シエルが止めるまでは、男は平静を装い違和感なく周囲に溶け込んでいた筈だ。
だけどそれでも強い力と、関わってはいけない人間だと告げる何かを纏っていた。
だけど今はどうだ。
(……特に何も感じねえっすよ)
常時纏っていたそういう空気は消えて無くなっている。
それこそ全くの別人と対峙しているかのように。
そして……視線だけをこちらに向けて男が口を開いた。
「……時間が無い。治療を続けながらで構わないから聞いてくれ。頼む……」
「「……は?」」
シズクもシエルも、今までの荒々しいサイコな口調とは打って変わった落ち着いた声音に困惑の表情を浮かべ、そんな間の抜けた声を出す。
意味が分からない。
「アンタ何を……」
「意味が分かんねえよな。分かるよ」
そして男は言う。
「俺もお前らの立場だったら意味わかんねえよ。だけど……頼む。話なんて聞いてもらえる立場じゃねえのは重々承知だけど聞いてくれ……ッ! さっきの俺を倒せたアンタ達位にしか託せる相手がいないんだ……頼む……ッ」
違和感。
違和感。
違和感。
理屈は分からないが、どう頑張っても先程まで戦っていたサイコパスと同一人物だと脳が認識しない。
認識しないから。
「シエルさん」
「分かってる……とりあえず聞くから話してみてよ。ただ拘束は解かないから」
そう言って、互いに男を警戒しながらも、その話を聞いてみる事にした。
「それでいい……助かる。そんな怪我を負わせた張本人なのに……ありがとう。本当に……ありがとう……ッ」
そう言って、男は言う。
「手短に言う……今、俺みたいに体を乗っ取られている奴がこの国に何人もいる。やってるのは全員もれなく人攫いだ」
「……ッ」
体を乗っ取られる。
つまり男は今の今までやっていた事が、他人に体を乗っ取られてやった事だと主張しているのだ。
それは一件、自分が罪から逃れようとしている発言に聞こえなくもない。
だけど……だとすれば、違和感の正体に辿り着く。
さっきまで対峙していた相手と別人なら全部腑に落ちる。
「……なるほど、これそういうパターンの奴か」
そしてシエルはシエルで何かしらの考えに辿り着いたらしい。
「……シエルさんは信じるんすか?」
「可能性は十分にあるし、そもそも最初から別人と対峙してる感覚があったし。シズクちゃんは?」
「同意見っす」
「……良かった。絶対信じて貰えないかと思った」
男は安堵するようにそう言う。
「実際人を操れるような魔術だって使える人は使えるんだし、頭ごなしに否定はできないでしょ」
それで、とシエルは問いかける。
「時間が無いって言ったよね。教えてよ……今何が起きてるの? 人身売買?」
「そんな生易しいことじゃねえよ……いや、それでも生易しくなんて絶対無いんだけどさ……とにかく、さっきの俺は言ってたよな? どうせその内全員殺すみたいな事を」
「……言ってたっすね」
聞いていなかった筈のシエルの代わりにシズクが頷き、その時の事を思い返す。
『まあこうなったら認識阻害もクソもねえな。よし。どの道その内やるんだ。ここら一体の目撃者全員殺っとくか』
それはその内全員殺すというニュアンスで間違い無いだろう。
「それで……それが人攫いとなんの関係が……」
「特定の条件の人間を大勢集め生贄にして発動させる大魔術……国一つ位簡単に滅ぼせるような計画が水面下で進んでいる」
「……ッ!?」
突然話のスケールが大きくなって、思わず声にならない声が出る。
そしてシエルも少々動揺した様子で男に問う。
「それ、本当?」
「意識だけはずっとあったから見て聞いたんだ……それが全部虚言だったら嘘だろうな。だけど実際何十人も子供攫ってるのは本当なんだ。だったらきっと本当なんだと思うよ。そして後数人集めれば魔術を発動させる準備が整う筈だった」
「時間が無いってそういう事っすか……」
「ああ。今この瞬間にも別の奴が動いている筈だ。俺が駄目になった補填も必ずやられる。それが済んだら国が滅ぶ。大勢死ぬ。いや、それどころじゃねえ」
そして男は一拍空けてから言う。
「最悪世界が滅ぶぞ」
そんな更にスケールが大きい話を。
指輪もこちらで抑えた。
それでも安全である保障はまだない。
「「……ッ」」
二人して声にならない声を上げた後、僅かに男から距離を取って身構える。
(……動く様子は……無さそうっすかね)
……拘束魔術がうまく効いているという事もあるのだろう。
だけどそれ以上に……そもそも闘争心が見えない。
あれだけイカれた言動をしていた男がだ。
……そもそも。
(というか、なんすかね……うまく言えねえっすけど……全然違う)
少し前。
戦いが始まる前。
シエルが止めるまでは、男は平静を装い違和感なく周囲に溶け込んでいた筈だ。
だけどそれでも強い力と、関わってはいけない人間だと告げる何かを纏っていた。
だけど今はどうだ。
(……特に何も感じねえっすよ)
常時纏っていたそういう空気は消えて無くなっている。
それこそ全くの別人と対峙しているかのように。
そして……視線だけをこちらに向けて男が口を開いた。
「……時間が無い。治療を続けながらで構わないから聞いてくれ。頼む……」
「「……は?」」
シズクもシエルも、今までの荒々しいサイコな口調とは打って変わった落ち着いた声音に困惑の表情を浮かべ、そんな間の抜けた声を出す。
意味が分からない。
「アンタ何を……」
「意味が分かんねえよな。分かるよ」
そして男は言う。
「俺もお前らの立場だったら意味わかんねえよ。だけど……頼む。話なんて聞いてもらえる立場じゃねえのは重々承知だけど聞いてくれ……ッ! さっきの俺を倒せたアンタ達位にしか託せる相手がいないんだ……頼む……ッ」
違和感。
違和感。
違和感。
理屈は分からないが、どう頑張っても先程まで戦っていたサイコパスと同一人物だと脳が認識しない。
認識しないから。
「シエルさん」
「分かってる……とりあえず聞くから話してみてよ。ただ拘束は解かないから」
そう言って、互いに男を警戒しながらも、その話を聞いてみる事にした。
「それでいい……助かる。そんな怪我を負わせた張本人なのに……ありがとう。本当に……ありがとう……ッ」
そう言って、男は言う。
「手短に言う……今、俺みたいに体を乗っ取られている奴がこの国に何人もいる。やってるのは全員もれなく人攫いだ」
「……ッ」
体を乗っ取られる。
つまり男は今の今までやっていた事が、他人に体を乗っ取られてやった事だと主張しているのだ。
それは一件、自分が罪から逃れようとしている発言に聞こえなくもない。
だけど……だとすれば、違和感の正体に辿り着く。
さっきまで対峙していた相手と別人なら全部腑に落ちる。
「……なるほど、これそういうパターンの奴か」
そしてシエルはシエルで何かしらの考えに辿り着いたらしい。
「……シエルさんは信じるんすか?」
「可能性は十分にあるし、そもそも最初から別人と対峙してる感覚があったし。シズクちゃんは?」
「同意見っす」
「……良かった。絶対信じて貰えないかと思った」
男は安堵するようにそう言う。
「実際人を操れるような魔術だって使える人は使えるんだし、頭ごなしに否定はできないでしょ」
それで、とシエルは問いかける。
「時間が無いって言ったよね。教えてよ……今何が起きてるの? 人身売買?」
「そんな生易しいことじゃねえよ……いや、それでも生易しくなんて絶対無いんだけどさ……とにかく、さっきの俺は言ってたよな? どうせその内全員殺すみたいな事を」
「……言ってたっすね」
聞いていなかった筈のシエルの代わりにシズクが頷き、その時の事を思い返す。
『まあこうなったら認識阻害もクソもねえな。よし。どの道その内やるんだ。ここら一体の目撃者全員殺っとくか』
それはその内全員殺すというニュアンスで間違い無いだろう。
「それで……それが人攫いとなんの関係が……」
「特定の条件の人間を大勢集め生贄にして発動させる大魔術……国一つ位簡単に滅ぼせるような計画が水面下で進んでいる」
「……ッ!?」
突然話のスケールが大きくなって、思わず声にならない声が出る。
そしてシエルも少々動揺した様子で男に問う。
「それ、本当?」
「意識だけはずっとあったから見て聞いたんだ……それが全部虚言だったら嘘だろうな。だけど実際何十人も子供攫ってるのは本当なんだ。だったらきっと本当なんだと思うよ。そして後数人集めれば魔術を発動させる準備が整う筈だった」
「時間が無いってそういう事っすか……」
「ああ。今この瞬間にも別の奴が動いている筈だ。俺が駄目になった補填も必ずやられる。それが済んだら国が滅ぶ。大勢死ぬ。いや、それどころじゃねえ」
そして男は一拍空けてから言う。
「最悪世界が滅ぶぞ」
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