最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。

ex 聖女ちゃん、雷撃を打ち込む

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 打ち込んだのは脇腹に向けた左フック。
 理想通りの綺麗な形で、吸い込まれるように拳は叩き込まれる。
 そしてそれに合わせるように男の横に結界を生やし、男の体を叩きつけた。
 叩きつけられた男の体は軽くバウンドするように、ステラにとって絶好の位置に戻ってくる。
 ……想定通りの良い展開。

(一発強いのを打ち込む!)

 細々とした攻撃を連打で打ち続けても、いずれ空間転移で切り抜けられる。
 だとすれば打ち込むべきはこれで終わらせられるような一撃。

 渾身の右ストレート。

「っらあああああああああああああッ!」

 ステラは勢いよく拳を放つ。
 だが男も何もしてこなかった訳ではない。
 拳の軌道にドンピシャに合わせるように小型の結界を張り、更にその裏で刀を捨て瞬時にクロスアームブロックを構える。

(反応早いな……だけど)

 だけどそれでも、それらは威力を軽減するだけだ。
 ステラの拳はその程度では止められない。

 結界を貫き、そして拳とぶつかった左腕の骨を圧し折る感覚がした。

 そしてそのまま男は弾き飛ばされ、ワンバウンドして壁に叩きつけられる。

「……よし」

 攻撃は防がれた。
 恐らく意識を奪う事は出来なかっただろう。
 それでもこれで片腕一本を封じた。
 大幅に戦力ダウンするはずだ。

 それでもおそらくまだ立ち上がっては来るだろう。

(此処は油断せず慢心せず追い打ち……いや)

 ステラが何もしなくとも、そこに追い打ちは放たれる。

 男の頭上。天井に魔法陣が展開。
 次の瞬間、落雷が降り注ぐ。

「あ、当たった! 良かった!」

 後方からシルヴィの声が聞こえて来る。

「よくやったシルヴィ……えーっと、殺すような威力で撃ってないよな?」

「あ、はい勿論です。前にステラさんも巻き込んで打った奴より少し強い位ですかね。まあメインは痺れさせる感じなので殺傷能力は無いですよ。気を失う位痛いとは思いますけど」

「そ、そうか……なら良いけどよ」

 言われて思い出して少し背筋が凍る。
 あの山で自分と黒装束の少女の周囲に向けて放たれた、結界内に付与した魔術を無差別に当て続ける術式とやらが物凄く強力だったというのは身をもって覚えている。
 あれが決まれば、痛みと痺れでまともに動けなくなるだろう。
 シルヴィの魔術はそれだけ強力だ。
 そして今回は瞬間的な威力はその時よりも上。
 その後残る痺れも何もかも。
 ……絶対に喰らいたくない。

「今の一撃で動かなくなったな……いや、動いたらビビるんだけどさ」

「無事気を失ってくれたんですかね」

「十分あり得るだろうな」

 男はシルヴィの落雷を受け、倒れ伏せて動かなくなっている。
 殺すような威力で撃っていないとはいえ、高威力の一撃である事は間違いないと思うので、その一撃で意識を奪えていてもおかしくない。
 そうでなくとも、まともに動けなくなっている可能性は高い。
 というか自分なら気を失う自信があるし、意識があってもまともに動ける気はしない。

「……とはいえ後で起きてこられて襲われても面倒だし。コイツはしっかり拘束しとかねえと」

 先程戦った連中は少々危ない目にもあったが、後で何人か起き上がって向かってこられても大丈夫だと思うが、この男は違う。
 ステラから見てこの男は、優秀な魔術師云々の前に武の道を究めているような相手だと認識した。
 今回はこちらが勝てたが、次も勝てる保証はない。
 だから対策はうっておく必要がある。

「あ、じゃあ私がやっちゃいますね」

「そういやお前、便利な魔術使えたよな」

 黒装束の少女にも使った雷属性の拘束魔術。
 あの時の自分達や今目の前の男が喰らった物のように、強い電流で一時的に体が痺れて動かなくなるのではなく、端から拘束を目的とした術式。
 動こうとすればする程体が痺れ、特に魔術に強く反応する。
 魔術師相手に使用して成功すれば、ほぼその時点で勝利が確定するような強力な魔術。
 あれを使えば流石に今回の一件中に拳を交える事は無いだろう。

「じゃあちょっとやってきますね」

 シルヴィは左手をバチバチと発光させながら、倒れた男に駆け寄っていく。
 
「あ、おい一応警戒しとけよ!」

「大丈夫です! その為に鈍器持ってますから」

 と、シルヴィがそう言った次の瞬間だった。

「……ッ!?」

 男の姿が消え、シルヴィの背後に刀を持って現れたのは。
 電撃で付与されている筈の痺れをものともせず、確実に圧し折った筈の左腕で新たな刀を構える男が現れたのは。
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