167 / 280
二章 聖女さん、新しい日常を謳歌します。
ex 聖女ちゃん、雷撃を打ち込む
しおりを挟む
打ち込んだのは脇腹に向けた左フック。
理想通りの綺麗な形で、吸い込まれるように拳は叩き込まれる。
そしてそれに合わせるように男の横に結界を生やし、男の体を叩きつけた。
叩きつけられた男の体は軽くバウンドするように、ステラにとって絶好の位置に戻ってくる。
……想定通りの良い展開。
(一発強いのを打ち込む!)
細々とした攻撃を連打で打ち続けても、いずれ空間転移で切り抜けられる。
だとすれば打ち込むべきはこれで終わらせられるような一撃。
渾身の右ストレート。
「っらあああああああああああああッ!」
ステラは勢いよく拳を放つ。
だが男も何もしてこなかった訳ではない。
拳の軌道にドンピシャに合わせるように小型の結界を張り、更にその裏で刀を捨て瞬時にクロスアームブロックを構える。
(反応早いな……だけど)
だけどそれでも、それらは威力を軽減するだけだ。
ステラの拳はその程度では止められない。
結界を貫き、そして拳とぶつかった左腕の骨を圧し折る感覚がした。
そしてそのまま男は弾き飛ばされ、ワンバウンドして壁に叩きつけられる。
「……よし」
攻撃は防がれた。
恐らく意識を奪う事は出来なかっただろう。
それでもこれで片腕一本を封じた。
大幅に戦力ダウンするはずだ。
それでもおそらくまだ立ち上がっては来るだろう。
(此処は油断せず慢心せず追い打ち……いや)
ステラが何もしなくとも、そこに追い打ちは放たれる。
男の頭上。天井に魔法陣が展開。
次の瞬間、落雷が降り注ぐ。
「あ、当たった! 良かった!」
後方からシルヴィの声が聞こえて来る。
「よくやったシルヴィ……えーっと、殺すような威力で撃ってないよな?」
「あ、はい勿論です。前にステラさんも巻き込んで打った奴より少し強い位ですかね。まあメインは痺れさせる感じなので殺傷能力は無いですよ。気を失う位痛いとは思いますけど」
「そ、そうか……なら良いけどよ」
言われて思い出して少し背筋が凍る。
あの山で自分と黒装束の少女の周囲に向けて放たれた、結界内に付与した魔術を無差別に当て続ける術式とやらが物凄く強力だったというのは身をもって覚えている。
あれが決まれば、痛みと痺れでまともに動けなくなるだろう。
シルヴィの魔術はそれだけ強力だ。
そして今回は瞬間的な威力はその時よりも上。
その後残る痺れも何もかも。
……絶対に喰らいたくない。
「今の一撃で動かなくなったな……いや、動いたらビビるんだけどさ」
「無事気を失ってくれたんですかね」
「十分あり得るだろうな」
男はシルヴィの落雷を受け、倒れ伏せて動かなくなっている。
殺すような威力で撃っていないとはいえ、高威力の一撃である事は間違いないと思うので、その一撃で意識を奪えていてもおかしくない。
そうでなくとも、まともに動けなくなっている可能性は高い。
というか自分なら気を失う自信があるし、意識があってもまともに動ける気はしない。
「……とはいえ後で起きてこられて襲われても面倒だし。コイツはしっかり拘束しとかねえと」
先程戦った連中は少々危ない目にもあったが、後で何人か起き上がって向かってこられても大丈夫だと思うが、この男は違う。
ステラから見てこの男は、優秀な魔術師云々の前に武の道を究めているような相手だと認識した。
今回はこちらが勝てたが、次も勝てる保証はない。
だから対策はうっておく必要がある。
「あ、じゃあ私がやっちゃいますね」
「そういやお前、便利な魔術使えたよな」
黒装束の少女にも使った雷属性の拘束魔術。
あの時の自分達や今目の前の男が喰らった物のように、強い電流で一時的に体が痺れて動かなくなるのではなく、端から拘束を目的とした術式。
動こうとすればする程体が痺れ、特に魔術に強く反応する。
魔術師相手に使用して成功すれば、ほぼその時点で勝利が確定するような強力な魔術。
あれを使えば流石に今回の一件中に拳を交える事は無いだろう。
「じゃあちょっとやってきますね」
シルヴィは左手をバチバチと発光させながら、倒れた男に駆け寄っていく。
「あ、おい一応警戒しとけよ!」
「大丈夫です! その為に鈍器持ってますから」
と、シルヴィがそう言った次の瞬間だった。
「……ッ!?」
男の姿が消え、シルヴィの背後に刀を持って現れたのは。
電撃で付与されている筈の痺れをものともせず、確実に圧し折った筈の左腕で新たな刀を構える男が現れたのは。
理想通りの綺麗な形で、吸い込まれるように拳は叩き込まれる。
そしてそれに合わせるように男の横に結界を生やし、男の体を叩きつけた。
叩きつけられた男の体は軽くバウンドするように、ステラにとって絶好の位置に戻ってくる。
……想定通りの良い展開。
(一発強いのを打ち込む!)
細々とした攻撃を連打で打ち続けても、いずれ空間転移で切り抜けられる。
だとすれば打ち込むべきはこれで終わらせられるような一撃。
渾身の右ストレート。
「っらあああああああああああああッ!」
ステラは勢いよく拳を放つ。
だが男も何もしてこなかった訳ではない。
拳の軌道にドンピシャに合わせるように小型の結界を張り、更にその裏で刀を捨て瞬時にクロスアームブロックを構える。
(反応早いな……だけど)
だけどそれでも、それらは威力を軽減するだけだ。
ステラの拳はその程度では止められない。
結界を貫き、そして拳とぶつかった左腕の骨を圧し折る感覚がした。
そしてそのまま男は弾き飛ばされ、ワンバウンドして壁に叩きつけられる。
「……よし」
攻撃は防がれた。
恐らく意識を奪う事は出来なかっただろう。
それでもこれで片腕一本を封じた。
大幅に戦力ダウンするはずだ。
それでもおそらくまだ立ち上がっては来るだろう。
(此処は油断せず慢心せず追い打ち……いや)
ステラが何もしなくとも、そこに追い打ちは放たれる。
男の頭上。天井に魔法陣が展開。
次の瞬間、落雷が降り注ぐ。
「あ、当たった! 良かった!」
後方からシルヴィの声が聞こえて来る。
「よくやったシルヴィ……えーっと、殺すような威力で撃ってないよな?」
「あ、はい勿論です。前にステラさんも巻き込んで打った奴より少し強い位ですかね。まあメインは痺れさせる感じなので殺傷能力は無いですよ。気を失う位痛いとは思いますけど」
「そ、そうか……なら良いけどよ」
言われて思い出して少し背筋が凍る。
あの山で自分と黒装束の少女の周囲に向けて放たれた、結界内に付与した魔術を無差別に当て続ける術式とやらが物凄く強力だったというのは身をもって覚えている。
あれが決まれば、痛みと痺れでまともに動けなくなるだろう。
シルヴィの魔術はそれだけ強力だ。
そして今回は瞬間的な威力はその時よりも上。
その後残る痺れも何もかも。
……絶対に喰らいたくない。
「今の一撃で動かなくなったな……いや、動いたらビビるんだけどさ」
「無事気を失ってくれたんですかね」
「十分あり得るだろうな」
男はシルヴィの落雷を受け、倒れ伏せて動かなくなっている。
殺すような威力で撃っていないとはいえ、高威力の一撃である事は間違いないと思うので、その一撃で意識を奪えていてもおかしくない。
そうでなくとも、まともに動けなくなっている可能性は高い。
というか自分なら気を失う自信があるし、意識があってもまともに動ける気はしない。
「……とはいえ後で起きてこられて襲われても面倒だし。コイツはしっかり拘束しとかねえと」
先程戦った連中は少々危ない目にもあったが、後で何人か起き上がって向かってこられても大丈夫だと思うが、この男は違う。
ステラから見てこの男は、優秀な魔術師云々の前に武の道を究めているような相手だと認識した。
今回はこちらが勝てたが、次も勝てる保証はない。
だから対策はうっておく必要がある。
「あ、じゃあ私がやっちゃいますね」
「そういやお前、便利な魔術使えたよな」
黒装束の少女にも使った雷属性の拘束魔術。
あの時の自分達や今目の前の男が喰らった物のように、強い電流で一時的に体が痺れて動かなくなるのではなく、端から拘束を目的とした術式。
動こうとすればする程体が痺れ、特に魔術に強く反応する。
魔術師相手に使用して成功すれば、ほぼその時点で勝利が確定するような強力な魔術。
あれを使えば流石に今回の一件中に拳を交える事は無いだろう。
「じゃあちょっとやってきますね」
シルヴィは左手をバチバチと発光させながら、倒れた男に駆け寄っていく。
「あ、おい一応警戒しとけよ!」
「大丈夫です! その為に鈍器持ってますから」
と、シルヴィがそう言った次の瞬間だった。
「……ッ!?」
男の姿が消え、シルヴィの背後に刀を持って現れたのは。
電撃で付与されている筈の痺れをものともせず、確実に圧し折った筈の左腕で新たな刀を構える男が現れたのは。
0
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる