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三章 聖女さん、冒険者やります

25 聖女さん達、未知との遭遇

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 それから私達は屋敷の中を進んでいく。

「そこの窓を飛び越えるんじゃ」

「はい!」

「次はそこの天井じゃ。一ヶ所色が違う所あるじゃろ。板を外せば通れる」

「は、はい」

「次はそこの壁じゃな。そこに体重を掛けてみぃ。くるっとして違う部屋じゃ」

「……は、はい」

「これレリアさんの案内無きゃ一生キッチンに辿り着かなかったかもしれないっすね……」

「流石に隠し扉探して通らねえと行けねえのはキッツいな……緊急時の何かの為に付けたんだろうからこういうのに文句は言えねえけどよ」

「ああ、色々回って分かったが、この隠し扉の本来の行き先は、すぐそこの扉の先みたいじゃぞ。別に隠し部屋とかそういう類いの部屋ではない」

「じゃ、じゃあなんでそんな隠し扉なんて……」

「さあ、なんでかの」

「匠の遊び心って奴じゃないですか?」

「余計な事しやがって、ふざけんじゃねえぞ……」

「文句言わないんじゃないの?」

「いや前提条件変わりまくってるだろ。言わせてくれ文句ぐらい」

 その場に要る全員が頷く。
 レリアさんが一番頷いている。多分一番苦労したのこの人だろうからね。よく出口まで到達できたね。やっぱり凄い人だ……。

 さて、そんな訳で隠し扉をぐるぐるして。それからも不定期に幽霊をシバき倒しながら、私達は屋敷を進んでいく。
 そして。

「キッチンっぽい所に着きましたね」

 出口があるらしいキッチンへと辿り着いた。

「確か戸棚が外に繋がってるんだったな」

「ほらアレじゃアレ。あの端にある棚の右下。辛うじて人一人位なら通れそうな感じの」

「改めて見てもこんなの分かるかーって感じっすね」

「ほんとだよ。分かんないよこれは」

 出口探すぞーってなってあんな所開けないもんね。
 ……よく開けたなレリアさん。

「まあアレが出口ならさっさと出ようか」

「そうだな」

 そんなやり取りを交わして、ようやく外に出ようとした訳だけど。

「……何そんな所で立ち尽くしているんですか?」

 シルヴィがそう言ったので振り返ると、何故かレリアさんがその場で立ち尽くしている。

「まさかとは思いますけど、狭い所通り抜けようとしたら後ろから攻撃……なんて事は無いですよね」

「いや、そんな事はせんよ……」

 一応シルヴィの言葉にそう返す物の、何か考え事をしているみたいに心此処にあらずという風に見えた。

「あの……大丈夫ですか?」

 思わず私がそう尋ねた……その時だった。

「……ッ! いかん!」

 突然目を見開いてそう叫んだかと思うと、勢いよくシルヴィに飛び掛かる。

「え、ちょ、え!?」

 まともな手段で幽霊には触れられなくても、幽霊の側からは生きている人間に触れられる。
 そうしてシルヴィの体を掴んだレリアさんは、シルヴィを滅茶苦茶な勢いで押し倒した。

 その直後だった。
 良く分からない何かが私達の目の前で起きたのは。

「ってて……ちょ、ほんといきなり何するんですか! やっぱりあなた──」

 怪我してもおかしくない勢いで突然押し倒された事に対して、当然の如く血が上ってキレるシルヴィ。
 そんなシルヴィに、私は言う。

「ちょっと待ってシルヴィ」

 とりあえず、その一言だけ。
 その一言だけ、なんとか絞り出した。

 まず目の前で起きた何かに脳が追い付いていない。

「なんだ……これ」

「いや、分かんないっす。なんすかねこれ」

 二人も困惑した声を上げる。

 私達の目の前に現れたのは、文字通り良く分からない物。
 直径1メートル程の球体の大きさの何かが、シルヴィの立っていた位置に出現した。

 本当に、本当に何も分からない。
 結果的に球体のように見えているだけで、その空間の色すら脳が認識しない。

「……危なかったの。あのままじゃと多分お主死んでおったぞ」

「え……え?」

 私達以上に困惑するシルヴィ。
 ……とりあえず分かんない事だらけだけど一つ分かる事として、この中でレリアさんだけが、この何かを察してシルヴィを遠ざけて守ってくれた。

「ありがとう、レリアさん」

 とりあえずそこまで思考が追い付いた私が代わりに礼を言っておくとして……この中で答えを一番知っている可能性が高いレリアさんに問いかける。

「それで……これは一体何なんですかね」

「……分からん」

「……え?」

「じゃが……これとか、何とか、そこに何かがあるという表現が恐らく誤りである事は何となく分かったかの」

 そう言ったレリアさんは、一拍空けてから自身無さげに応える。

「そこには何も無い。文字通り空間がエグり取られておる」

「……は?」

 そんな訳の分からない事を。
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