270 / 280
四章《表》聖女さん、自分を追放した国に里帰りします
10 聖女さんと馬鹿、ビジネスライクな関係
しおりを挟む
ここ最近を振り返ると戦闘で人をぶん殴ったりなんて記憶は沢山浮かんで来る訳だけど、別に私は暴力的な事が好きな訳じゃない。
あくまで過程。
手段だ。
だから誰かをぶん殴りたいとかどうとか、それこそチンピラみたいな理由だけで拳を振るった事は無かったと思う。
だから、そういう意味ではこれが初めてだったのかもしれない。
別に必ずやらなくても良い。
他の穏便な選択だってあった筈だ。
そういうのを全部ぶん投げて、シンプルに溜まったヘイトをぶつける為だけに人に拳を振るったのは。
そして次の瞬間、確かな衝撃が拳に走った。
魔術無し。
純粋な私の全力の拳が、馬鹿の顔面に叩き込まれる。
そして。
「がはッ!?」
馬鹿の体はそれなりの勢いで床を転がる。
そして右拳に残る感覚を実感しながら、何とも言えない感覚が湧き上がってくる。
いや、何とも言えないなんて事は無いか。
徐々に徐々に理解が追い付く。
「……ふぅ」
とにかく、スッキリした。
ただそれだけの感覚だ。
「ちょ、ちょちょちょ、大丈夫ですかグラン様!?」
「お見事ですわアンナさん」
「お見事ですわではなく! ああ、鼻血出ちゃってますよ」
ロイがそう言いながらグランに駆け寄ると同時に、シルヴィとシズクが私に声を掛けてくる。
「が、顔面行くんですね……」
「ふ、普通こういうのってボディーじゃないんすかボディー」
「え、そうかな? え、ミーシャどう思う?」
「別に顔面でも良いと思いますが……私がこの前手を上げた時はビンタでしたわね」
「なら……大差ないかな」
「いや大有りっすよ大有り」
まあまず立場関係なく、殴って良いって言ってる相手殴るシチュエーションなんてそうそう無さそうだから、その辺の答えは分からないや。
「いや、良い……顔面グーパンでも別に良いけどよぉ……」
馬鹿がゆっくりと体を起こして、顔を抑えながら言う。
「お前華奢な癖にそれなりに破壊力強いの何なんだよ……!」
「まあ色々有り過ぎて人殴り慣れてるから」
「カタギの発言じゃねえぞそれ……完全にチンピラじゃねえか」
「誰がチンピラだ。もう一発いっとく?」
「行く訳ねえだろ! 次もう一発殴ってみろ? 流石に憲兵呼んで半日位留置所にぶち込むぞ!」
半日留置所に入るだけでコイツぶん殴れるんだ。
……まあもうやらないけど。
割と普通にスッキリしたというか……うん、これはアレだ。
シンプルにコイツの事は現在進行形で嫌いだけど、それでも溜まっていたヘイトなんてのはこの程度の事だったんだろうなって、解消した今なら言える。
多分私が一番嫌いな相手には、こんな事をした程度じゃ全く足りないだろうから。
「と、とりあえずどうしますかね。一応これで手打ちって事なら、私達の方で治癒魔術掛けますか?」
「そうっすね」
「あ、すみませんがお願いできますか? 自分でやれと言ったとはいえグラン様はこれでも一国の王なんで、このままという訳には……」
「いや、良い。その気持ちだけ受け取っとくぜ、このチンピラよりよっぽ聖女っぽく見えるお二方」
私よりって部分はともかく、地味に二人の素性を言い当ててる馬鹿は顔を抑えたまま言う。
「ロイが言う通り俺がやれって言ったんだ。その傷さっさと治すなんてダセエ真似はしねえよ……あ、でもわりい、ロイかミーシャ、どっちかティッシュ持ってねえ? ほら服に血ぃ付くと落ちにくいだろ 洗ってくれる奴に悪い」
「アンタそんな事気にするんだ」
「気にするだろ。今俺の周りに居る連中はお前と違って好きか普通かの二択なんだからよぉ。あ、ミーシャ、ティッシュサンキュー」
そう言って血を拭い、鼻に詰め物をしながら馬鹿は言う。
「さて、改めてだけどお前の事はやっぱ嫌いだわ。前程じゃねえがシンプルに合わねえ。殴って良いとは言ったけど、人殴っといてそんなウキウキした表情浮かべるかよ普通」
「アンタ相手じゃなきゃ浮かべないよこんなの」
「だな。俺もお前じゃ無きゃこんな文句言わねえわ」
だから、と馬鹿は少し真剣な表情を浮かべて言う。
「俺とお前はこれからも仲良くせずビジネスライクな関係で行こう」
「ビジネスライク? いや急にどうしたの」
突然そんな事を言われて聞き返すと馬鹿は言う。
「お前がこの国に戻ってきた理由、まさか俺をぶん殴る為なんて事じゃあねえよな。一発殴ってウキウキしてるような奴にとっちゃ、こんな事は割とどうでも良い事だろ。つまりお前は……俺やこの国を利用しに来たんだ。違うか?」
「違わないけど」
「だろうな。そんな訳で此処からはビジネスな訳だ」
そう言って馬鹿は笑う。
「お前の話が俺達にもメリットがあるなら、協力してやるよ。シンプルに嫌いなだけの奴相手なら、互いに利用し合う関係位築いたって良い」
あくまで過程。
手段だ。
だから誰かをぶん殴りたいとかどうとか、それこそチンピラみたいな理由だけで拳を振るった事は無かったと思う。
だから、そういう意味ではこれが初めてだったのかもしれない。
別に必ずやらなくても良い。
他の穏便な選択だってあった筈だ。
そういうのを全部ぶん投げて、シンプルに溜まったヘイトをぶつける為だけに人に拳を振るったのは。
そして次の瞬間、確かな衝撃が拳に走った。
魔術無し。
純粋な私の全力の拳が、馬鹿の顔面に叩き込まれる。
そして。
「がはッ!?」
馬鹿の体はそれなりの勢いで床を転がる。
そして右拳に残る感覚を実感しながら、何とも言えない感覚が湧き上がってくる。
いや、何とも言えないなんて事は無いか。
徐々に徐々に理解が追い付く。
「……ふぅ」
とにかく、スッキリした。
ただそれだけの感覚だ。
「ちょ、ちょちょちょ、大丈夫ですかグラン様!?」
「お見事ですわアンナさん」
「お見事ですわではなく! ああ、鼻血出ちゃってますよ」
ロイがそう言いながらグランに駆け寄ると同時に、シルヴィとシズクが私に声を掛けてくる。
「が、顔面行くんですね……」
「ふ、普通こういうのってボディーじゃないんすかボディー」
「え、そうかな? え、ミーシャどう思う?」
「別に顔面でも良いと思いますが……私がこの前手を上げた時はビンタでしたわね」
「なら……大差ないかな」
「いや大有りっすよ大有り」
まあまず立場関係なく、殴って良いって言ってる相手殴るシチュエーションなんてそうそう無さそうだから、その辺の答えは分からないや。
「いや、良い……顔面グーパンでも別に良いけどよぉ……」
馬鹿がゆっくりと体を起こして、顔を抑えながら言う。
「お前華奢な癖にそれなりに破壊力強いの何なんだよ……!」
「まあ色々有り過ぎて人殴り慣れてるから」
「カタギの発言じゃねえぞそれ……完全にチンピラじゃねえか」
「誰がチンピラだ。もう一発いっとく?」
「行く訳ねえだろ! 次もう一発殴ってみろ? 流石に憲兵呼んで半日位留置所にぶち込むぞ!」
半日留置所に入るだけでコイツぶん殴れるんだ。
……まあもうやらないけど。
割と普通にスッキリしたというか……うん、これはアレだ。
シンプルにコイツの事は現在進行形で嫌いだけど、それでも溜まっていたヘイトなんてのはこの程度の事だったんだろうなって、解消した今なら言える。
多分私が一番嫌いな相手には、こんな事をした程度じゃ全く足りないだろうから。
「と、とりあえずどうしますかね。一応これで手打ちって事なら、私達の方で治癒魔術掛けますか?」
「そうっすね」
「あ、すみませんがお願いできますか? 自分でやれと言ったとはいえグラン様はこれでも一国の王なんで、このままという訳には……」
「いや、良い。その気持ちだけ受け取っとくぜ、このチンピラよりよっぽ聖女っぽく見えるお二方」
私よりって部分はともかく、地味に二人の素性を言い当ててる馬鹿は顔を抑えたまま言う。
「ロイが言う通り俺がやれって言ったんだ。その傷さっさと治すなんてダセエ真似はしねえよ……あ、でもわりい、ロイかミーシャ、どっちかティッシュ持ってねえ? ほら服に血ぃ付くと落ちにくいだろ 洗ってくれる奴に悪い」
「アンタそんな事気にするんだ」
「気にするだろ。今俺の周りに居る連中はお前と違って好きか普通かの二択なんだからよぉ。あ、ミーシャ、ティッシュサンキュー」
そう言って血を拭い、鼻に詰め物をしながら馬鹿は言う。
「さて、改めてだけどお前の事はやっぱ嫌いだわ。前程じゃねえがシンプルに合わねえ。殴って良いとは言ったけど、人殴っといてそんなウキウキした表情浮かべるかよ普通」
「アンタ相手じゃなきゃ浮かべないよこんなの」
「だな。俺もお前じゃ無きゃこんな文句言わねえわ」
だから、と馬鹿は少し真剣な表情を浮かべて言う。
「俺とお前はこれからも仲良くせずビジネスライクな関係で行こう」
「ビジネスライク? いや急にどうしたの」
突然そんな事を言われて聞き返すと馬鹿は言う。
「お前がこの国に戻ってきた理由、まさか俺をぶん殴る為なんて事じゃあねえよな。一発殴ってウキウキしてるような奴にとっちゃ、こんな事は割とどうでも良い事だろ。つまりお前は……俺やこの国を利用しに来たんだ。違うか?」
「違わないけど」
「だろうな。そんな訳で此処からはビジネスな訳だ」
そう言って馬鹿は笑う。
「お前の話が俺達にもメリットがあるなら、協力してやるよ。シンプルに嫌いなだけの奴相手なら、互いに利用し合う関係位築いたって良い」
2
あなたにおすすめの小説
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
召喚失敗!?いや、私聖女みたいなんですけど・・・まぁいっか。
SaToo
ファンタジー
聖女を召喚しておいてお前は聖女じゃないって、それはなくない?
その魔道具、私の力量りきれてないよ?まぁ聖女じゃないっていうならそれでもいいけど。
ってなんで地下牢に閉じ込められてるんだろ…。
せっかく異世界に来たんだから、世界中を旅したいよ。
こんなところさっさと抜け出して、旅に出ますか。
金貨増殖バグが止まらないので、そのまま快適なスローライフを送ります
桜井正宗
ファンタジー
無能の落ちこぼれと認定された『ギルド職員』兼『ぷちドラゴン』使いの『ぷちテイマー』のヘンリーは、職員をクビとなり、国さえも追放されてしまう。
突然、空から女の子が降ってくると、キャッチしきれず女の子を地面へ激突させてしまう。それが聖女との出会いだった。
銀髪の自称聖女から『ギフト』を貰い、ヘンリーは、両手に持てない程の金貨を大量に手に入れた。これで一生遊んで暮らせると思いきや、金貨はどんどん増えていく。増殖が止まらない金貨。どんどん増えていってしまった。
聖女によれば“金貨増殖バグ”だという。幸い、元ギルド職員の権限でアイテムボックス量は無駄に多く持っていたので、そこへ保管しまくった。
大金持ちになったヘンリーは、とりあえず念願だった屋敷を買い……スローライフを始めていく!?
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
聖女が降臨した日が、運命の分かれ目でした
猫乃真鶴
ファンタジー
女神に供物と祈りを捧げ、豊穣を願う祭事の最中、聖女が降臨した。
聖女とは女神の力が顕現した存在。居るだけで豊穣が約束されるのだとそう言われている。
思ってもみない奇跡に一同が驚愕する中、第一王子のロイドだけはただ一人、皆とは違った視線を聖女に向けていた。
彼の婚約者であるレイアだけがそれに気付いた。
それが良いことなのかどうなのか、レイアには分からない。
けれども、なにかが胸の内に燻っている。
聖女が降臨したその日、それが大きくなったのだった。
※このお話は、小説家になろう様にも掲載しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる