最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河

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四章《裏》黒装束の男達、諸悪の根源との決戦に臨みます

4 聖女の親友達、黒幕に辿り着く 下

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 それを聞いて、真っ先に確認しておきたい事があった。

「……その話、あっちゃんにはした? そうじゃなくても匂わせるような事は……」

「しておらん。最初に指輪を見た時点でもしやとは思ったがの、なにせあの時点で指輪を所持していたのはアンナじゃ。そして指輪を持ったままワシと魔術を使って戦っていた事が影響を及ぼしている可能性も否定できんかった」

 それに、とレリアは言う。

「そもそも面と向かって言える話では無いじゃろう。お前が戦っていた相手はお前の身内かもしれんなんて」

「……配慮してくれてありがとう」

 その点は本当に感謝だ。

「多分あっちゃんがそれを知ったら、変に抱え込むのが目に見えてる」

 アンナ・ベルナールがそういう女の子だという事は分かっているから。
 彼女はその事実を知ってはいけない。

(……あっちゃんがこの場にいなくて良かった)

 心からそう思うシエルにレリアは問いかける。

「お主はアンナの身内と聞いて心当たりがあるのか?」

 それを聞かれてシエルは小さく溜息を吐いてから答えた。

「あるよ。あっちゃんの父親が有名というかなんというか、まあ世界最高峰って言える位の魔術の研究者でさ……九割九分その人だ。普通に考えてやれてもおかしくないよ」

「ちなみにアンナとその父親の今の仲は?」

「最悪。絶縁状態って言って良いと思う。勿論悪いのは父親の方。今回の事がすっと納得できる位には良くない人だからね」

「それは……この場合良かったと言って良いのかの」

「この場合は良いんじゃないかな。仲の良い身内が洒落にならない事をやってるよりはきっと良いでしょ」

 とはいえ。

「とはいえ比較的だと思うけどね。そういう関係性だからこそ……嫌いな身内が洒落にならない事をやってる事への嫌悪感や重圧って凄いでしょ。それこそきっぱり他人だと割り切れるような人以外は」

「……アンナはどうじゃろうか?」

「言ったでしょ。抱え込むって」

 ……だからこそ。

「……これあっちゃん達が帰って来る前にケリ付けないとまずい気がする」

 正確にはアンナが帰ってくる前に。

「ワシもその方が良いんじゃないかと思ってお主に相談しておる」

 そしてレリアは一拍空けてから言う。

「さあ、此処からワシらはどう動く」

「……」

「当の本人が知らない方が良い情報は同時に、不特定多数の他人に知られたくない情報でもある。じゃから可能ならワシとお主だけで速攻で全部終わらせるのがベストな形な訳じゃが……」

「その口振りをみるに難しそうって事かな」

「じゃな。事を進めれば十中八九戦いになるじゃろうが、その場合相手はこの空間を作った男となる。少なくとも確実にとはいかんじゃろ。いくらワシとお主の相性が良いと言ってもの」

 レリア曰く、こちらに乗り移った場合は先日アンナ達と戦った際にシルヴィに乗り移った際よりも基本的な出力はかなり落ちるらしい。
 当然といえば当然だ。聖女を務められるだけの逸材と自分がそういった分野で同列に語れる筈が無い。
 だがそれでも肉体の相性は相当に悪かったらしく、こちらに乗り移った場合は結果的にあの時よりも同等かそれ以上の実力を発揮できるらしい。

 ……自分のような普通の人間の出力でもトップクラスの出力のシルヴィに乗り移った時に並べてしまう位に、人を操る乗り移るという行為はそれだけ相性がシビアに要求されるのだろう。

 そして相手はやり方は違うとはいえ操った人間でアンナとルカを一方的に追い詰めた相手だ。

 当の本人が自分の肉体で戦えば、その力は計り知れない。

 だからこそ。

「……つまりある程度情報を伝えてでも皆の協力が有った方が良いって事だね」

「ああ。あの街を守る良い反社みたいな連中もボチボチ粒ぞろいじゃし、あのファンボーイも中々じゃ。だがそれ以上にファンボーイの隣におる聖女。そして一人だけアルバイトに勤しんでおる聖女。この二人がおればどうとでもなる」

「……確かにあの二人にレリアさんの力も加わったら大体の相手はどうにでもなりそうだね」

 とはいえあまり前向きな気持にはならない。

「でもその協力を得るには情報を伝えなければならない……か」

「今この場でその判断の是非を下すのに最も適切な人物はお主じゃろ。親友じゃし」

「……当の本人以外に適切な人なんていないと思うんだけどね」

 そう行った上で、軽くため息を吐いてからシエルは言う。

「あっちゃんのお父さんって情報を隠したまま、犯人だけ分かったっていう風にはできないかな」

「難しいじゃろ。最終的にアンナにバレないようにするという配慮を行うなら、今からこの件に関わる連中の協力は必須じゃ」

 それに、とレリアは言う。

「一部界隈では有名人なんじゃろ、その父親というのは。ワシらが此処で黙っていても時間の問題という奴じゃな」

「そっか……まあ確かに」

 だとしたらこれはもう仕方がない事かもしれない。
 レリアの言う通り自分達二人で解決に導けるならその方が良いのだろうが、アンナへの配慮は全体で考えれば本来二の次に考えるべきで……それだけこれは世界的にみて解決しなければならない問題で。

 故に此処で戦力不足での戦いを挑むべきでは絶対にないのだ。
 少なくとも当事者の中では比較的中心から離れている人間の選択としては尚更。
 そんな事は分かっているから……可能な限り配慮しつつ、解決できる可能性も最大限確保する。
 取るべきなのはきっと、そういう選択だ。

 ……つまり。

「……だったらちゃんと、話せる範囲で皆に話そう」

 それが今取れる最善の手だ。

 ……当然、あまり良い選択肢では無いのだろう。

 アンナは基本的に自分の父親の事を語りたがらない。
 言わば表に出したがらない汚点のような認識をしている。

 それをこれから勝手に第三者に最悪な新情報と共に開示するのだ。
 正直後で絶交されても文句は言えない。

 それでも全部をうまく着地させるにはこうするしかない。

 幸いこの一件に関わっているマルコを始めとしたマフィアの面々は、こういう情報を知った事でその娘にヘイトを向けるような人達ではない。
 それは今まで散々迷惑を掛けてきた中で良く知っている。

 そしてそれはきっと、ルカやミカ。そしてステラもそうだろう。

 ……だから過程は良くなくても、悪い結果にはならない。


 だとすれば……取るべき選択が決まった。


「皆の協力を得て最短最速であっちゃんのお父さんをシバキ倒す」

 皆に告げるつもりもはない、親友に対して行っていたネグレクトなどに対する憤りを拳に込めながら。

 この世界で起きている問題を一気に解決する為に、いつもの様に事件を大きく動かす一歩を踏み出した。
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