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三章 人間という生き物の本質

11 依頼人

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 俺達は受付嬢のお姉さんに案内されながら、グレンの待つ応接室へと足取りを向けた。
 そして向かいながら受付嬢さんに訪ねる。

「ところでグレンには俺が依頼を受けたって事は……」

「言ってませんよ」

 そして受付嬢さんは言う。

「親友なんですよね。だったらこう……サプライズ感、演出したくなりませんか」

「そ、そうっすか」

 よくわかんねえけどそれ仕事としてどうなんだ? 依頼人がいるならどういう奴が受けたかとか言っとかなきゃいけないんじゃねえの?

 まあ別にいいけどさ。

 と、そんなやり取りをしていた所で応接室の前に辿り着く。
 受付嬢さんはドアをノック。
 すると部屋の中から声が聞こえてくる。

「どうぞ」

 グレンの声だ。
 そして返答を確認した受付嬢さんは、扉を開く。

「失礼します。今回依頼を受けてくれた冒険者さんをお連れしました」

「あ、すみません早く来ちゃったのに態々ありが……」

 と、そこで俺の姿が視界に入ってか、グレンが黙り混み、何が起きたか分からない様な呆然とした表情を浮かべる。
 だがやがて、改めて驚いた様に言う。

「え……クルージ……クルージじゃねえか!? なんでお前が……」

「そりゃ俺も冒険者なんだから可能性はあるだろ」

 俺はグレンに歩み寄りながら言う。

「いやまあそりゃそうだろうがよ……」

 だとしても、グレンの表情は納得がいかなそうな表情だった。
 その理由はなんとなく分かってる。俺の事で不機嫌になってくれた親友が、どうしてそんな表情を浮かべているのか位は判っているつもりだ。

 だけどまあ、久しぶりの再会だ。
 仕事云々。村の事云々の前にもっと言っておく事があるだろう。

「まあとにかく久しぶり、グレン」

「ああ。こんな形だが会えて嬉しいぜ、ダチ公」

 ひとまず再会だ。
 とりあえず再会を喜ぼう。
 何事もまずはそれからである。
 そして俺はグレンに言う。

「元気だったか?」

「まあボチボチな。それよりお前の方は……まあ、大丈夫か」

 グレンは少しだけ笑みを浮かべて俺に言う。

「面構えが村出た時と全然違う。まあ今は今でなんか抱えてそうな感じはするけど、大体うまくやれてそうだ」

「……まあ、そうだな。色々あったけどな」

 ……本当に色々とな。
 ……と、そうだ。俺達二人だけで話ている訳にもいかねえんだ。

「あ、そうだグレン。紹介するよ。左からアリサとリーナ。俺のパーティーメンバーだ」

 と、気を使ってか後ろに控えていた二人の方に手を向けて言う。

「あ、アリサです」

「リーナっす」

「あーなるほど。なるほどね」

 グレンは二人の姿を改めて見た後、一拍空けてから俺に言う。

「なんかこう……心配して損した気がする」

「なんでだよ!」

 いや、言いたい事はもう流石に察するけど。そういうパターンだとは思うけど!
 そしてグレンは俺の肩に両手を置き、俺にしか聞こえない様な声で言う。

「で、どっち狙いだ」

 ほらやっぱりそういうパターンの話じゃねえかよ。

「えー、いやー」

 普通に考えて、そういう話この場でできる訳ねえじゃん。この場じゃなくてもできねえよ。

「あーこの手の話弱いのもなんも変わってねえな。こりゃ先が思いやられるわ」

 と、軽くため息を付いて手を離した所で、ここでグレンがようやく気付く。

「……ってかちょっと待てよ……あ、思いだした。お前、少し前にウチの村滞在してたよな」

「いやいや、その節はどうも」

 どうやらグレンの記憶にもリーナは残っていたらしい。

「ならえーっと、リーナでいいか。お前はある程度こっちの事情分かってんだろ」

「いや、グレン。俺が一応話してあるからそっちの事情……というか俺達の事情はアリサの方も知ってるよ」

「……なるほど。だったら話はええな」

 そう言ったグレンは、改めて真面目な表情を作ってから俺達に対して言う。

「態々受けてもらっててわりぃんだけどな……お前ら、この依頼降りろ」

 そんな、予想もしなかった言葉を。
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