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三章 人間という生き物の本質

91 合流と邂逅

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「……その話、どこまで信用できるんすか?」

「……分かんねえけど、俺とグレンが殺されずに生きてるって事はそれなりに信憑性があると思うんだ」

 リーナに肩を貸して貰いながら歩く俺は、リーナの問いにそう答えた。
 俺達はリーナにこれまでの事を話ながら、アリサが居るらしい場所へと向かっていた。

「しっかし……誰なんだろうな、俺達の肩……っていうか、アリサの肩を持ってくれたって奴は」

 グレンは周囲を警戒してハンマーを構えながら、そんな疑問を口にする。

 ……まあ、確かに誰なんだろうな。
 言い方は悪いけどアリサにはまともな交遊関係なんてなさそうだから……本当によめてこない。

「まあこればかりはアリサに聞いてみるしかねえだろ。もしかしたら顔合わせてるかもしれねえ」

「そうっすね。私らでどうこう言ってても答え出てこないっすから」

 だけど、とリーナは言う。

「一応言っとくっすけど、慎重にっすよ。アリサちゃんの場合多分、デリケートな話だと思うっすから」

「……分かってるよ」

 アリサの境遇は分かっているから、そこで慎重にならなければならないのは分かってる。

「……」

 リーナはジト目で俺の方を見てくる。

「……なんだよ」

「……いや、なんとなく先輩、慎重そうにみえて勢い任せに突っ込みそうだよなぁって」

「それに関しちゃ同意だな」

 グレンもリーナに同意するように頷く。
 ……まあリーナの抱えている事に関してこっちからは踏み込まない的な話をしておきながら、昨日の今日でさっきの状況になったという前科があるわけで。
 そういえばアリサとの約束破ってリーナにアリサの事情話したりもしたな。
 うん、これはアレだ。納得の反応だ。

 そう納得しているとリーナは言う。

「まあ……なんだかんだ言ってそれでも先輩ならうまく行きそうな気はするっすけど」

「それに関しても同意だな」

「えーっと、その、ありがとう」

 いまいち自分では納得できないけど。
 今なんとなく纏まってるの、結構偶然だと思うぞ?

 と、そんなやり取りを交しながら、俺達が分断された地点を目指す。
 リーナの逃避スキルでしばらく敵から逃げ回っていた事もあってかなりの距離を歩く事にはなったが、それでもなんとか歩ききる。
 そして、それなりに時間を掛けてその場所に俺達は辿り着いた。

「……いた」

 視界に映った光景にそう呟く。
 視界の先には二人の人間がいた。

 一人はアリサだ。意識を失っているのか地面に倒れている……というよりは、寝かされているというような、そんな印象を感じる。
 そして、もう一人。

 ……どこかアリサに似た顔付きをしている、顔と腕に傷のある金髪の女性がそこに居た。

「……」

 思わず押し黙ってしまう程に俺は……そしてもしかしたらリーナとグレンも同じ事を考えたのかもしれない。

 ……本当に似ているんだ。
 親子と言われれば納得できる程に。

 そしてもし、もしもだ。そんな考えが正解だったとすれば、色々と腑に落ちるんだ。
 壊滅的な筈のアリサの人間関係の中で。既に亡くなっている父親を除けば、現実的にアリサの事を気に掛けてくれている可能性がある人物。それが母親だ。
 今まで一度たりともアリサの口から話される事が無かった、母親だ。

「……」

 そして思わず固まってしまった俺達に対し、何を勘違いしたのかその女性は言う。

「大丈夫。魔術で眠っているだけだから」

 そんな事を。優しい声音で。
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