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三章 人間という生き物の本質
102 新しい相棒 下
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「昨日見せた奴だ。いるだろ……代わりの刀が」
グレンが持ってきたのは、昨日工房で見せてくれた現時点の最高傑作。
名前は閃風。
「分かってると思うが衝牙はもう駄目だ。これからはコイツを使ってやってくれ」
「……」
思わず、あんな雑なやり方で壊してしまった事に対して、もう一度謝りそうになった。
だけどそれは、口に出す前に踏み止まる。
……グレンはもう、この事に対して自分の中で折り合いを付けているように思えて。俺からの謝罪も、それに対する返答も終わっていて。
ここでまた蒸し返すのは、俺にとっても……何よりあの刀の価値を一番知っていて、それでも感情を表に出さずに此処まで来たグレンにとっても、あまり良いことには思えなくて。
……だから、この話は此処で終わりだ。
グレンが今折り合いを付けているのなら、多分きっとそれでいい。
それがいい。
だから今、謝罪よりも言うべき事がある筈だ。
「ありがとな、グレン……助かる」
俺に刀を提供してくれる親友に、感謝の気持ちを伝える事だろう。
そう言って刀を受けとる俺に対し、グレンは笑みを浮かべて言う。
「おう。もしそいつが駄目になっても、もっと良い刀を用意してやるからよ。雑にでも何でも良い。使いたいように使ってくれ」
「ああ……大事に使うよ」
……まあ元より名刀なのに投擲して使ったりしてた馬鹿野郎だ。大事に使うなんて言ってもろくな使い方ができないかもしれないけど。
俺なりに……大事に使わせてもらうよ。
そして受けとる物を受け取ったら、代わりに渡す物がある筈だ。
「で、グレン。これいくらだ?」
「いくらって……いやいや、お前から金は取らねえよ」
「……まあ、そう言ってくれるのはありがたいけどさ」
……それでもだ。
「お前はこれから倶利伽羅シリーズを超えるような刀を打つ名匠になる訳だろ? だったらさ……俺はその名匠の最初の客でありたい」
「……なるほど」
グレンはどこか納得するようにそう言った後、小さく笑って言う。
「なるほど……そういう事なら金を取らねえ訳にはいかねえな」
「で、いくらだ?」
「譲るつもりで持ってきたんだ。値段なんて考えて無かった訳だし……そうだな」
グレンは紙とペンとそろばんを用意して、見積りを作り出す。
「材料費、工賃に……そこにメンテナンスのアフターサービス代が入って来るから……あ、メンテは任意だけどどうする?」
「えらく本格的だな……まあ頼む」
俺そういうの出来ねえし。
「了解。で、此処にアレが入るから……ざっとこんなもんだな」
そう言ってグレンは見積りの紙を見せてくる。
「どれどれ……ってやっす!? 何お前。どうなってんの価格設定!?」
正直、グレンの打った刀はそこら辺に売ってるような市販品と比べてもかなり上質な業物に思える。
それなのにかなり安い。いや、一応利益は出てるんだろうけど……でもお前これは現況すぎやしないか?
「今の俺の刀で受け取れるのはこれが限度だと思うからよ……ああ、ここから親友割引をするから二割引で……」
「いやグレン定価! せめて定価で買わせてくれ!」
ここから更に下げてもらうとか……それはできねえしたくねえ!
「いや、でもよ……」
「いいから。定価でいいから……後お前、一回王都出たら、市販品の質と相場見てこい。刀とわず色々武器見てこい……!」
安すぎるから……謙虚すぎるからお前……!
「お、おう、分かった……」
グレンは一応頷いてくれる。
なんか心配だ……これで商売やっていけるのか?
なんで名刀の価値はちゃんと理解してるのに、自分の価値なにも理解してねえんだコイツ……謙虚なのはいいけどさ。
なんとなくグレンには有能な経営コンサルでも付けたほうが良い気がするぞ?
……リーナとか、その辺もかじってねえのかな?
税理士やれるとか無茶苦茶な所まで手をのばしてた訳だし……どうだろうか。
……まあとにかく、急に不安になってきたぞ……グレンの刀鍛冶としての行く末が。
……まあ何はともあれ新しい相棒、閃風を入手したのだった。
グレンが持ってきたのは、昨日工房で見せてくれた現時点の最高傑作。
名前は閃風。
「分かってると思うが衝牙はもう駄目だ。これからはコイツを使ってやってくれ」
「……」
思わず、あんな雑なやり方で壊してしまった事に対して、もう一度謝りそうになった。
だけどそれは、口に出す前に踏み止まる。
……グレンはもう、この事に対して自分の中で折り合いを付けているように思えて。俺からの謝罪も、それに対する返答も終わっていて。
ここでまた蒸し返すのは、俺にとっても……何よりあの刀の価値を一番知っていて、それでも感情を表に出さずに此処まで来たグレンにとっても、あまり良いことには思えなくて。
……だから、この話は此処で終わりだ。
グレンが今折り合いを付けているのなら、多分きっとそれでいい。
それがいい。
だから今、謝罪よりも言うべき事がある筈だ。
「ありがとな、グレン……助かる」
俺に刀を提供してくれる親友に、感謝の気持ちを伝える事だろう。
そう言って刀を受けとる俺に対し、グレンは笑みを浮かべて言う。
「おう。もしそいつが駄目になっても、もっと良い刀を用意してやるからよ。雑にでも何でも良い。使いたいように使ってくれ」
「ああ……大事に使うよ」
……まあ元より名刀なのに投擲して使ったりしてた馬鹿野郎だ。大事に使うなんて言ってもろくな使い方ができないかもしれないけど。
俺なりに……大事に使わせてもらうよ。
そして受けとる物を受け取ったら、代わりに渡す物がある筈だ。
「で、グレン。これいくらだ?」
「いくらって……いやいや、お前から金は取らねえよ」
「……まあ、そう言ってくれるのはありがたいけどさ」
……それでもだ。
「お前はこれから倶利伽羅シリーズを超えるような刀を打つ名匠になる訳だろ? だったらさ……俺はその名匠の最初の客でありたい」
「……なるほど」
グレンはどこか納得するようにそう言った後、小さく笑って言う。
「なるほど……そういう事なら金を取らねえ訳にはいかねえな」
「で、いくらだ?」
「譲るつもりで持ってきたんだ。値段なんて考えて無かった訳だし……そうだな」
グレンは紙とペンとそろばんを用意して、見積りを作り出す。
「材料費、工賃に……そこにメンテナンスのアフターサービス代が入って来るから……あ、メンテは任意だけどどうする?」
「えらく本格的だな……まあ頼む」
俺そういうの出来ねえし。
「了解。で、此処にアレが入るから……ざっとこんなもんだな」
そう言ってグレンは見積りの紙を見せてくる。
「どれどれ……ってやっす!? 何お前。どうなってんの価格設定!?」
正直、グレンの打った刀はそこら辺に売ってるような市販品と比べてもかなり上質な業物に思える。
それなのにかなり安い。いや、一応利益は出てるんだろうけど……でもお前これは現況すぎやしないか?
「今の俺の刀で受け取れるのはこれが限度だと思うからよ……ああ、ここから親友割引をするから二割引で……」
「いやグレン定価! せめて定価で買わせてくれ!」
ここから更に下げてもらうとか……それはできねえしたくねえ!
「いや、でもよ……」
「いいから。定価でいいから……後お前、一回王都出たら、市販品の質と相場見てこい。刀とわず色々武器見てこい……!」
安すぎるから……謙虚すぎるからお前……!
「お、おう、分かった……」
グレンは一応頷いてくれる。
なんか心配だ……これで商売やっていけるのか?
なんで名刀の価値はちゃんと理解してるのに、自分の価値なにも理解してねえんだコイツ……謙虚なのはいいけどさ。
なんとなくグレンには有能な経営コンサルでも付けたほうが良い気がするぞ?
……リーナとか、その辺もかじってねえのかな?
税理士やれるとか無茶苦茶な所まで手をのばしてた訳だし……どうだろうか。
……まあとにかく、急に不安になってきたぞ……グレンの刀鍛冶としての行く末が。
……まあ何はともあれ新しい相棒、閃風を入手したのだった。
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