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2-1 招かれざる客
ex 遅効性の毒
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「篠原さん。キミは確か以前サシで飲んだ時に言っていたな。杉浦君の行動はユイ君に汚染された結果なのではないかと。本来されるべき意思決定とはまるで違う行動を取り続けているのではないかと」
「ああ。したな、専門家であるお前にそういう相談を」
「……あの時もそう答えたが、それに関しては今でも分からないが答えだ。ユイ君の事を人と同等と定義した上でをまともに調べようと思えば、非人道的なやり方に片足を突っ込まなければならなくなる。だがそれはしないしさせない。故に北陸第二の福田さんが指摘したように汚染により意思決定が捻じ曲がっている可能性もあれば、ただ単純にユイ君との出会いがきっかけとなって眠っていたヒロイズムが目覚めたか。現状その可能性はどちらもあり得るよ。ただもし前者なのだとすれば……杉浦鉄平という一個人の自我は徐々にユイ君からの汚染が影響で生まれる誰かに塗り潰されていく事になるだろうね」
そして乾いた笑みを浮かべて松戸は言う。
「そうなれば結果的に立派な人間が出来上がるな……私はとてもそれを肯定的には受け止められないがね。元ある人格を殺していくある種の殺人じゃないか」
「……それは同感だ」
立派な人間である事。
それはきっとそうである事に越したことはなくて、篠原自身もそうあるべきだと心掛けて日々を生きている。
だがそれはあくまで一個人の正常な自我から滲み出た意思決定の上に成り立って初めて尊い物である筈だ。
極端な話、洗脳されて奉仕活動を行っている者がいたとして、それが立派であるかと言われれば頷けないだろう。
決して正常ではなく異常であり、そこに居るのは一個人の人権を踏みにじられた上で成り立っている道化に過ぎない。
故に真っ当な行動を取っているのであればそれでいいだろうと考える人間もいるかもしれないが……少なくとも篠原や松戸はそれを良しとはしない。
……してたまるかと、そう思う。
「何か対策は?」
「ないね、今のところは。最も真っ当な手段から外れればその限りではないが……そこを外れるような選択をするのであれば、そもそもこの状況は成り立っていない」
……非人道的なやり方。そういう事だろう。
「まあ私なりに探ってはみるさ。やれる限りね……何せ私は杉浦君の方とは親交がないが、ユイ君の方は可愛くて優秀な助手だからね」
そして俯き、今日一番の重い声音で松戸は言う。
「仮に今現在の杉浦君が汚染の影響を受けているとして、その自覚は杉浦君だけでなくユイ君の方にもない。あの子は何も知らないんだ……善性の塊のようなあの子が自分の所為で杉浦君の人格を歪めていると知ったらどう思うかな?」
「……」
「……篠原さんもしっかりあの二人を見ておいてくれ。そして何か分かったら報告を……お互いやれる事はやっていくんだ」
「ああ、勿論だ」
そこから目を背けるつもりはない。
四月上旬のあの日、今の未来を選択したのは他ならぬ自分なのだから。
背ける訳にはいかない。
「ああ。したな、専門家であるお前にそういう相談を」
「……あの時もそう答えたが、それに関しては今でも分からないが答えだ。ユイ君の事を人と同等と定義した上でをまともに調べようと思えば、非人道的なやり方に片足を突っ込まなければならなくなる。だがそれはしないしさせない。故に北陸第二の福田さんが指摘したように汚染により意思決定が捻じ曲がっている可能性もあれば、ただ単純にユイ君との出会いがきっかけとなって眠っていたヒロイズムが目覚めたか。現状その可能性はどちらもあり得るよ。ただもし前者なのだとすれば……杉浦鉄平という一個人の自我は徐々にユイ君からの汚染が影響で生まれる誰かに塗り潰されていく事になるだろうね」
そして乾いた笑みを浮かべて松戸は言う。
「そうなれば結果的に立派な人間が出来上がるな……私はとてもそれを肯定的には受け止められないがね。元ある人格を殺していくある種の殺人じゃないか」
「……それは同感だ」
立派な人間である事。
それはきっとそうである事に越したことはなくて、篠原自身もそうあるべきだと心掛けて日々を生きている。
だがそれはあくまで一個人の正常な自我から滲み出た意思決定の上に成り立って初めて尊い物である筈だ。
極端な話、洗脳されて奉仕活動を行っている者がいたとして、それが立派であるかと言われれば頷けないだろう。
決して正常ではなく異常であり、そこに居るのは一個人の人権を踏みにじられた上で成り立っている道化に過ぎない。
故に真っ当な行動を取っているのであればそれでいいだろうと考える人間もいるかもしれないが……少なくとも篠原や松戸はそれを良しとはしない。
……してたまるかと、そう思う。
「何か対策は?」
「ないね、今のところは。最も真っ当な手段から外れればその限りではないが……そこを外れるような選択をするのであれば、そもそもこの状況は成り立っていない」
……非人道的なやり方。そういう事だろう。
「まあ私なりに探ってはみるさ。やれる限りね……何せ私は杉浦君の方とは親交がないが、ユイ君の方は可愛くて優秀な助手だからね」
そして俯き、今日一番の重い声音で松戸は言う。
「仮に今現在の杉浦君が汚染の影響を受けているとして、その自覚は杉浦君だけでなくユイ君の方にもない。あの子は何も知らないんだ……善性の塊のようなあの子が自分の所為で杉浦君の人格を歪めていると知ったらどう思うかな?」
「……」
「……篠原さんもしっかりあの二人を見ておいてくれ。そして何か分かったら報告を……お互いやれる事はやっていくんだ」
「ああ、勿論だ」
そこから目を背けるつもりはない。
四月上旬のあの日、今の未来を選択したのは他ならぬ自分なのだから。
背ける訳にはいかない。
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