医魔のアスクレピオス ~不遇職【薬剤師】はS級パーティを追放されても薬の力で成り上がります~

山外大河

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1-1 賢者と薬剤師

1 薬は治癒魔術の下位互換らしいので

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「単刀直入に言うぞ、薬剤師レイン・クロウリー。お前はもうウチのパーティに必要ねンだわ」

「必要ないって……ちょっと待て、それってつまりクビって事か?」

「ああそうだ。例え無能でも意思疎通程度はちゃんとできて助かるぜ」

 冒険者ギルドにて一年近く共に仕事をしてきた冒険者パーティのリーダー、ジーン・ドレイクは悪意の籠った笑みを浮かべながらそう言う。
 昨日受けた依頼の準備を各々済ませ、いざ当日というこのタイミングでだ。
 いや、タイミングなど関係無い。いつ何時であれ、そういう事を言われている事が問題だ。

「そんな訳で俺達は忙しいんだ。さっさとどっかに行ってくれ」

「いやいやいや、ちょっと待ってくれジーン」

「あ?」

「言っている言葉の意味は分かる。だけどなんでそんな事を言われなくちゃならないのかが全く分からない。俺がお前達に何かしたか?」

「何か大層な事をやってりゃ俺だって寛大な心で受け入れていたさ。だけどそうだな……今までお前は大した事をやっていなかっただろ」

「大したことをしてないって……俺はいつだって……」

「そう、いつだってしょうもない薬を調合し、俺達に手渡すだけだった。その程度の事しかやってない」

「その程度の事って……それが俺みたいな薬剤師の仕事だろ」

 冒険者パーティにおける薬剤師の役割は、薬の調合と処方だ。
 市場や冒険者ギルドでもポーションや薬の類いは調達できるが、それらは然程大きな効果を期待できない。

 良質な薬は保存が効かないのだ。

 だから薬剤師は薬草を始めとした多種多様な素材を持ち歩き、状況に応じて瞬時にそれらを調合し冒険者に処方する。

 一時的に身体能力を引き上げる薬。
 肉体の再生速度を飛躍的に向上させ傷を癒す薬。
 ケースバイケースで対処法が異なる毒をそれぞれ解毒する為の薬。

 それらを最低限自分の身を守りながら用意し処方するのが薬剤師の仕事。
 そしてレイン個人を……否、薬剤師という職業を酷く見下すようにジーンは言った。
「そうだな。賢者の圧倒的下位互換の薬剤師の仕事がそれだ。つまりまあアレだな。薬剤師自体が無能で不要なンだわ。特別な賢者とは天と地程の差がある」

「……ッ」

 ……十数年前に確立された魔術という技能を実用レベルで使えるのは、特別な才能を持った人間だけだ。
 特に治癒魔術や身体能力を引き上げるといった、傷付ける以外を目的として他者に干渉できる魔術を駆使できるのは特別の中の更に一区切り。

 それらの支援を行う魔術師は一般的に賢者と……そして薬剤師の上位互換と呼ばれる。
 必要な素材も無く調合の手間も無く支援を行え、尚且つそもそもが優秀な魔術師なので自身も前衛に負けず劣らず戦える。

 ……それを聞くと、確かに上位互換のように思えてしまう。だが。

「いない賢者の話してどうするんだよ」

 今までレインが薬剤師として同行していたのだから、ジーンのパーティに賢者はいない。
 全てのパーティに一人ずつ所属できる程、その総数は現状多くはない。
 故に薬剤師の上位互換が存在していたとしても、自分の存在は彼らにとって必要な筈なのだ。
 だが、ジーンは言う。

「いない賢者……ね。なぁ、レイン。俺のパーティは先日晴れてSランクに昇格したのは分かっているな」

「ああ……って事はまさか」

「そのまさかだ。ウチに入りたいっていう賢者がついに現れたんだ。となりゃ薬剤師なんて役立たずはもういらねえだろ。役割被って邪魔な存在なんだからよぉ!」

「……」

 反論できなかった。
 実際共に行動した事は無いが、賢者がどれだけ凄い存在なのかはよく耳にしていて。
 奇跡のような力を振るう彼ら彼女らと比較すれば、自分が積み上げた知識や経験では太刀打ちできないのだろうと察してしまう。

 ……それにあまり反論する気も起きなかった。

 始まりはFランクだったこのパーティがトントン拍子にSランクへと上がっていくのを一緒に経験してきただけあり、そこに愛着が全くない訳ではない。

 元より扱いは雑だったが。
 当たりは強かったが。
 それでもある程度の愛着は有ったのだ。

 だけどそうした愛着や信頼は、築き上げるのは時間が掛かっても剥がれ落ちるのは一瞬で。
 こんな形で掌を返してくる奴と、今後一緒にやっていける気がしなかった。

「……分かったよ。俺はこのパーティを抜ける」

 レインがそう告げると、ジーンの口角が上がったのが分かった。
 余程その言葉が聞きたかったのだろう。
 それだけ本気でレインの事を無能だと判断して、優れた賢者を入れたかったのだろう。

「だけど最後に一つ、確認しても良いか」

 それでもジーンとの最悪な縁を断ち切る前に、確認しておきたい事があった。

「なんだよ無能。言っとくが挽回の機会なんてねえぞ。俺達は二度とお前とは組まない」

「それは良い。分かった……そういう事を聞きたいんじゃないんだ」

 ジーンの言動で殆ど剥がれ落ちた愛着の中で、まだ残っている物も確かにあったから。

「……この決定は、皆で決めた物なのか?」

 レイン達は二人でパーティを組んでいた訳ではない。
 魔術師の男のロイドと、弓使いの女の子のアヤ。
 四人で一つのパーティだったのだ。
 この決定に、その二人の意思が関わっているどうか。せめてその位は知りたかった。

 そしてジーンは答える。

「昨日ロイドと居る時に新しい賢者と知り合ったんだ。アイツも了承済みだ……アヤの奴もきっとお前みたいな無能よりも新しい有能な賢者を迎え入れるだろうさ!」

「……そうか」

 それを聞いて、少し安堵した。
 ロイドはジーンと同じくこちらへの扱いが雑だし横暴な所もあった。

 だけどアヤとはそれなりに仲良くやれてはいたつもりだったのだ。
 自惚れでなければ、その筈なのだ。
 だからこの決定に、彼女が加わっていないのであればもうそれで良いと思った。

 寧ろ自分がいるよりもアヤが安全に冒険者をやれるのならば。
 より飛躍できるならそれで良いと、そう思えたから。
 そしてレインは踵を返す。

「じゃあなジーン」

 今までありがとうの社交辞令すら喉に突っかかって出てこなかった。
 多分それを向けられるのはアヤにだけだろう。

「おう、さっさとどっか行け。俺達は更に上を目指すからよ。お前はどこかの底辺パーティにでも拾って貰えや。靴でも舐めてさぁ!」

 その言葉に特に何も返す事無く、ジーンの元を後にした。
 どこか逃げるように。
 怖かったのだ。
 もしこの場にアヤも現れたら、同じように拒絶されるのではないかと。

「……ッ」

 こうして18歳の誕生日、レイン・クロウリーはパーティを追放されたのだった。
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