9 / 51
1-1 賢者と薬剤師
8 薬と人体のスペック
しおりを挟む
それからどれだけの時間が経過したのかは正確に把握していない。
薬の副作用で意識が飛んでしまわないように耐えながら、目の前の化物と対峙し続ける為に一秒一秒を全力で駆け抜け続けたが故に、そんな事に意識を割く余裕など一切無かった。
ただ肉体が限界に近付いている事を実感できるという事は、ある程度の時間は経過しているという事だろう。
「……ッ」
動悸が激しい。
頭痛と吐き気に寒気が酷く、脂汗が滲み出る。
早急に薬の効力をある程度中和させる為の薬を服用しなければならないと、今やるべき事を脳が訴えてくる。
だけどまだだ。
「まだなんだ……ッ!」
此処で引けば匂いを覚えたこの化物がアヤの方に向かう恐れがある。
それは駄目だ。
アヤが目的のベニセイリュウタケを持って戻って来るまでは……続行だ。
だけどそうやって自分を奮い立たせよと必死になっていても、結局のところどうしようもない程に限界だったのだろう。
「……ッ!?」
生い茂る木々の中から射出された矢がグレートベアーの腕に突き刺さったのを見て、自分でも驚く程の安心感が湧き上がってきたのだから。
そしてその木々の方に意識が一瞬向いた隙を突くように、おそらく打った瞬間から動き出していたであろうアヤがレインの近くの木々の間から飛び出してきて、辛うじて立っていたレインを一瞬で担ぎ上げて走り出す。
「アヤ……」
「大丈夫っすかレインさん! レインさん!? 意識ぶっ飛びかけてる顔してるっすよ!?」
言いながら道中捨てられていたレインのリュックも掴み、全力疾走でその場を離れていく。
その速度は……レインの想定よりも遥かに速い。
この速度で逃げる事に集中すれば、ある程度削りを入れたグレートベアー相手なら逃げきれる筈だ。
その事実を確認して思わず問いかける。
「お前……は……何錠、飲んだ……?」
この速度、間違いなくアヤもレインと同じ事をしている。
「ベニセイリュウタケ見付けてからすぐに一錠っす! 約束破ってごめんっすけど! 絶対ヤバい事になってるレインさんに一刻も早く助太刀しなきゃって思って!」
と、そこでアヤはふと気付いたように声にならない声を上げてから言う。
「って事はレインさんもやってんすか二錠目飲むの!?」
(……二錠目、か)
この速度を叩き出して一体何錠飲んだのかと心配になったが、最悪な回答では無かった。
考えてみれば当然だ。
この手の薬の効力は元となった人間の力を増幅させるものであり、一定量の力を付与する物ではない。
故に服用した際の上昇値は飲んだ人間のスペックにかなりの割合で依存する。
元々の素早さがこちらよりもずっと速いアヤなら……ベースとなる肉体のスペックが高いアヤなら、仮に自分が一錠追加で飲む場合よりも高い効力を得られる。
それ故にこの速度だ。
「俺は最初の入れて……四錠。だから心配するな。二錠飲んで、今の時点でその調子なら……逃げ切ってすぐ対処すりゃ、俺みたいにはならねえ。軽く済む。良かったよ……心配だった」
「いやいやそんな、私の心配なんてどうでも……四錠!? レインさん四錠!? はぁ!? ぜ、絶対ヤバい奴じゃないっすか! ど、どうすれば……」
「自分の処置は……自分でやるよ」
言いながら抱えられた体勢のまま、ポーチから青色の丸薬を取り出し呑み込む。
これが処置。
身体能力を強化する薬をある程度中和し強制終了を促す為の薬だ。
もっとも完全ではない。
これ以上酷くはならないが、此処から先暫くは副作用と戦わなければならないだろう。
「アヤも落ち着いたら一錠、飲んでくれ」
「わ、分かったっす……それでレインさんは大丈夫なんすか!?」
「……辛うじて大丈夫だ。ベニセイリュウタケも見つかったし……全てにおいて、大丈夫」
「いや全然大丈夫そうじゃ……」
「大丈夫だよ」
そう答えるが、窮地を脱した事により張りつめていた気持ちが緩み始めた。
先の丸薬の事も伝えた訳で、もう此処で一旦止まっても良いだろうと全身が訴えている。
今回はそれに従う事にした。
というより抗う事が出来ない。
「……でも悪い、ちょっと寝る。王都に着いたら叩き起こしてくれ」
「ちょ、レインさん!?」
「わりぃ、頼むわ……ほんとわりぃ……」
そう告げた所で完全に限界を超えて、意識がブラックアウトした。
薬の副作用で意識が飛んでしまわないように耐えながら、目の前の化物と対峙し続ける為に一秒一秒を全力で駆け抜け続けたが故に、そんな事に意識を割く余裕など一切無かった。
ただ肉体が限界に近付いている事を実感できるという事は、ある程度の時間は経過しているという事だろう。
「……ッ」
動悸が激しい。
頭痛と吐き気に寒気が酷く、脂汗が滲み出る。
早急に薬の効力をある程度中和させる為の薬を服用しなければならないと、今やるべき事を脳が訴えてくる。
だけどまだだ。
「まだなんだ……ッ!」
此処で引けば匂いを覚えたこの化物がアヤの方に向かう恐れがある。
それは駄目だ。
アヤが目的のベニセイリュウタケを持って戻って来るまでは……続行だ。
だけどそうやって自分を奮い立たせよと必死になっていても、結局のところどうしようもない程に限界だったのだろう。
「……ッ!?」
生い茂る木々の中から射出された矢がグレートベアーの腕に突き刺さったのを見て、自分でも驚く程の安心感が湧き上がってきたのだから。
そしてその木々の方に意識が一瞬向いた隙を突くように、おそらく打った瞬間から動き出していたであろうアヤがレインの近くの木々の間から飛び出してきて、辛うじて立っていたレインを一瞬で担ぎ上げて走り出す。
「アヤ……」
「大丈夫っすかレインさん! レインさん!? 意識ぶっ飛びかけてる顔してるっすよ!?」
言いながら道中捨てられていたレインのリュックも掴み、全力疾走でその場を離れていく。
その速度は……レインの想定よりも遥かに速い。
この速度で逃げる事に集中すれば、ある程度削りを入れたグレートベアー相手なら逃げきれる筈だ。
その事実を確認して思わず問いかける。
「お前……は……何錠、飲んだ……?」
この速度、間違いなくアヤもレインと同じ事をしている。
「ベニセイリュウタケ見付けてからすぐに一錠っす! 約束破ってごめんっすけど! 絶対ヤバい事になってるレインさんに一刻も早く助太刀しなきゃって思って!」
と、そこでアヤはふと気付いたように声にならない声を上げてから言う。
「って事はレインさんもやってんすか二錠目飲むの!?」
(……二錠目、か)
この速度を叩き出して一体何錠飲んだのかと心配になったが、最悪な回答では無かった。
考えてみれば当然だ。
この手の薬の効力は元となった人間の力を増幅させるものであり、一定量の力を付与する物ではない。
故に服用した際の上昇値は飲んだ人間のスペックにかなりの割合で依存する。
元々の素早さがこちらよりもずっと速いアヤなら……ベースとなる肉体のスペックが高いアヤなら、仮に自分が一錠追加で飲む場合よりも高い効力を得られる。
それ故にこの速度だ。
「俺は最初の入れて……四錠。だから心配するな。二錠飲んで、今の時点でその調子なら……逃げ切ってすぐ対処すりゃ、俺みたいにはならねえ。軽く済む。良かったよ……心配だった」
「いやいやそんな、私の心配なんてどうでも……四錠!? レインさん四錠!? はぁ!? ぜ、絶対ヤバい奴じゃないっすか! ど、どうすれば……」
「自分の処置は……自分でやるよ」
言いながら抱えられた体勢のまま、ポーチから青色の丸薬を取り出し呑み込む。
これが処置。
身体能力を強化する薬をある程度中和し強制終了を促す為の薬だ。
もっとも完全ではない。
これ以上酷くはならないが、此処から先暫くは副作用と戦わなければならないだろう。
「アヤも落ち着いたら一錠、飲んでくれ」
「わ、分かったっす……それでレインさんは大丈夫なんすか!?」
「……辛うじて大丈夫だ。ベニセイリュウタケも見つかったし……全てにおいて、大丈夫」
「いや全然大丈夫そうじゃ……」
「大丈夫だよ」
そう答えるが、窮地を脱した事により張りつめていた気持ちが緩み始めた。
先の丸薬の事も伝えた訳で、もう此処で一旦止まっても良いだろうと全身が訴えている。
今回はそれに従う事にした。
というより抗う事が出来ない。
「……でも悪い、ちょっと寝る。王都に着いたら叩き起こしてくれ」
「ちょ、レインさん!?」
「わりぃ、頼むわ……ほんとわりぃ……」
そう告げた所で完全に限界を超えて、意識がブラックアウトした。
88
あなたにおすすめの小説
帝国の王子は無能だからと追放されたので僕はチートスキル【建築】で勝手に最強の国を作る!
雪奈 水無月
ファンタジー
帝国の第二王子として生まれたノルは15才を迎えた時、この世界では必ず『ギフト授与式』を教会で受けなくてはいけない。
ギフトは神からの祝福で様々な能力を与えてくれる。
観衆や皇帝の父、母、兄が見守る中…
ノルは祝福を受けるのだが…手にしたのはハズレと言われているギフト…【建築】だった。
それを見た皇帝は激怒してノルを国外追放処分してしまう。
帝国から南西の最果ての森林地帯をノルは仲間と共に開拓していく…
さぁ〜て今日も一日、街作りの始まりだ!!
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
神眼の鑑定師~女勇者に追放されてからの成り上がり~大地の精霊に気に入られてアイテム作りで無双します
すもも太郎
ファンタジー
伝説級勇者パーティーを首になったニースは、ギルドからも放逐されて傷心の旅に出る。
その途中で大地の精霊と運命の邂逅を果たし、精霊に認められて加護を得る。
出会った友人たちと共に成り上がり、いつの日にか国家の運命を変えるほどの傑物となって行く。
そんなニースの大活躍を知った元のパーティーが追いかけてくるが、彼らはみじめに落ちぶれて行きあっという間に立場が逆転してしまう。
大精霊の力を得た鑑定師の神眼で、透視してモンスター軍団や敵国を翻弄したり、創り出した究極のアイテムで一般兵が超人化したりします。
今にも踏み潰されそうな弱小国が超大国に打ち勝っていくサクセスストーリーです。
※ハッピーエンドです
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。
(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。
無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした
夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。
死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった!
呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。
「もう手遅れだ」
これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!
外れスキル【アイテム錬成】でSランクパーティを追放された俺、実は神の素材で最強装備を創り放題だったので、辺境で気ままな工房を開きます
夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティで「外れスキル」と蔑まれ、雑用係としてこき使われていた錬金術師のアルト。ある日、リーダーの身勝手な失敗の責任を全て押し付けられ、無一文でパーティから追放されてしまう。
絶望の中、流れ着いた辺境の町で、彼は偶然にも伝説の素材【神の涙】を発見。これまで役立たずと言われたスキル【アイテム錬成】が、実は神の素材を扱える唯一無二のチート能力だと知る。
辺境で小さな工房を開いたアルトの元には、彼の作る規格外のアイテムを求めて、なぜか聖女や竜王(美少女の姿)まで訪れるようになり、賑やかで幸せな日々が始まる。
一方、アルトを失った元パーティは没落の一途を辿り、今更になって彼に復帰を懇願してくるが――。「もう、遅いんです」
これは、不遇だった青年が本当の居場所を見つける、ほのぼの工房ライフ&ときどき追放ざまぁファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる