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1-1 賢者と薬剤師
12 旧医学の在り方について
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あの賢者に対する不快感を纏った言葉。
あの時点で意識は朦朧としていたと思うが、それでもあの一件は彼女にとって酷く強烈に印象に残っているらしい。
「別に治せなかった事に文句は言わないです……でも、あんまりですよ、あんなの」
実際あの一連の出来事はあまりにも酷い。
フォローしようが無いし、フォローする気にもなれない。
だけど。
「なにが賢者って感じです。あんな人達にお兄さん達の……いや、レインさん達の立場が脅かされてるのはおかしいです」
「……それはちょっと違うな。あんな人達じゃない。アイツだ。アイツ個人の話だ」
「……え?」
そこのフォローはしなくてはならない。
「確かに旧医療従事者に対して横柄な態度を取る賢者は珍しくねえ。だけど基本それは俺達に対してだ。患者にああいう態度を取る奴を指標にするのは流石に違うぞ」
あの一個人以外の賢者のフォローは当事者としてやっておかなければならない、
それにあそこまで人格が破綻しているレベルの男は、横柄な連中の中でもそういないから。
故にそこのグループと一括りに纏めるのも申し訳なくなる。
(ああそうだ。纏めちゃ駄目だ)
纏めたくなる気持ちが全くないと言えばきっと嘘になるが、それでも良くない。
「賢者も立派な……医療従事者だからな」
彼らを商売敵として恨むような事はあったとしても、その存在を否定するような事は絶対にしてはならない。
それは……賢者の台頭で職を失った人の前では流石に言えないけれど、患者相手には言っておきたい。
「立派な医療従事者って…………よく肯定できますね。邪魔じゃないんですか?」
不思議そうに、そして納得できないようにアスカは言う。
「皆賢者の事を持て囃していて……レインさん達みたいな人達を時代遅れだって言ってます。旧医療従事者だって……それって全部……賢者のせいじゃ無いですか」
「いや、もしも誰かが悪いんだとしたら俺達が悪いよ」
「……」
「簡単に席を奪われちまう程度の事しか。追いつけない程度の事しかできない俺達が悪いんだ」
アスカの言葉にはっきりとそう答えた。その返答に嘘偽りはない。
「事実基本的に力不足で時代遅れだからな、俺達のやり方は」
「そんな事……」
「ある。それは否定できねえ現実だ」
自分達の親の世代がIPS細胞云々の話をしていたそのすぐ後に、賢者の治癒魔術は失われかけた臓器を再生させた事もあれば、より良い義手義足の制作やそれに伴う医療に真剣なっている傍らで、失われた四肢を元に戻した例だってある。
他にも下位互換と思われても否定できないような事は沢山ある。
流石に総合的にみて、旧医学はその名の通り古い医学な訳だ。
旧医療従事者と分別されても仕方がない。だけど。
「だけどそれは俺達のやり方までを否定している訳じゃねえよ」
此処までの発言は決して自虐などではない。
自らの首を絞める言葉だとも思わない。
そして自分達が救えず取り零してしまう人達の多くを掬い上げる賢者の奇跡が届かなかったアスカの目を見てレインは言う。
「俺はどちらも否定するつもりはねえんだ」
賢者の治癒魔術も旧来の医学も、そのどちらも否定して欲しくなかったから。
「まず大前提として賢者の治癒魔術ってのはすげえよ。本当に奇跡を起こす力だ。俺達に出来ない事を数多く熟すし、俺達に出来る事の多くも俺達よりうまくやる。なにより患者に負担が掛からねえ。俺達の医学がどこまで行っても現実と地繋ぎな事に対して、賢者は本当に奇跡を起こすんだ。患者の事を思えば……否定なんてできる訳が無い」
故に正当に淘汰され奪われてしまった席は、こちらが賢者の奇跡の向こう側へ到達できる技量がなければ奪い返そうとしてはいけない。
今のままでは結局、先進医療の否定でしかないのだから。
ただ自分達の利権の為に我を通したいエゴでしかないのだから。
「だけどその奇跡は万能じゃないって事はアスカも知っての通りだ。俺達は力不足で遅れていると自覚した上で、それでも全ての優位性が失われたわけじゃない」
それ故に自分達が現在やれている事の否定もしない。
「だからどっちかを否定する事無く共存していくのがこれからの理想だと俺は思ってるんだ。上位互換下位互換なんて言葉が全てに適応されない以上、どちらも無くしちゃいけねえんだ」
当然その理想に到達した時、自分の立場はより厳しいものになっているのだろうけど。
なにせきっとその時に必要な絶対数は、今しがみ付いている人数よりも圧倒的に少ない。
今自分達の多くは、賢者の絶対数が少ないが故に消去法で受診先に選ばれている現実がある。
だが医大が無くなった今、国が税金を投入しているのは賢者の教育機関だ。
だからその理想の形を目指した場合、近い将来自分達はその優位性以外での活躍の形を完全に失う事になる。
だけどそれは正当な淘汰だ。なるべくしてそうなっている。
自分達の界隈ですら使われない旧式の医療知識が淘汰されているように、古いやり方を無理矢理残そうとして、そのしわ寄せを関係の無い患者に押し付けるのはもはや悪だ。
……だが淘汰を正当と思えるのはそこが限界。
最低限までの規模の縮小。
そこが限界。
「……でも今のままだったら」
「そう、共存も何もねえ。完全に潰される」
世論が自分の考える旧医療従事者の優位性を認識しているとは到底思えない。
やはり下されている評価は賢者の下位互換というものだけ。
今日自分が現場に居合わせなければ、賢者に出来なければ無理だという事になり、薬剤師がセカンドオピニオンとして選択される事も無かっただろう。
今ですらこれなのだ。
賢者の治癒魔術は全ての医療の上位互換だという認識があまりにも根強く広がっている。
年々拡大し続けている。
それこそ現実的にどうしようもない事を奇跡のように成し遂げてきたのを皆目の当たりにして、国の方向性まで転換する程に。
それだけ衝撃的で、万能感に溢れた優れた存在が賢者の治癒魔術だ。
世論がそういう風に動くのは、寧ろ必然だと言っても良い。
こちらが優位性を訴えても耳を傾けて貰えないのは……必然だと言っても良い。
自分達が関わっていれば、なんて言葉は負け惜しみとしてしかとらえられない。
だからこのままなら潰される。
賢者では救えない患者を救うための存在が消滅し、されるべき技術継承もされなくなる……そうならない為に。
「そうさせない為に俺は冒険者をやっているんだ。こんな会話にでもならねえと支離滅裂にしか聞こえねえからリカ以外には言えてねえんだけどよ」
そうさせない為に、自分でも支離滅裂に思えるような行動原理で冒険者をやっているのだ。
あの時点で意識は朦朧としていたと思うが、それでもあの一件は彼女にとって酷く強烈に印象に残っているらしい。
「別に治せなかった事に文句は言わないです……でも、あんまりですよ、あんなの」
実際あの一連の出来事はあまりにも酷い。
フォローしようが無いし、フォローする気にもなれない。
だけど。
「なにが賢者って感じです。あんな人達にお兄さん達の……いや、レインさん達の立場が脅かされてるのはおかしいです」
「……それはちょっと違うな。あんな人達じゃない。アイツだ。アイツ個人の話だ」
「……え?」
そこのフォローはしなくてはならない。
「確かに旧医療従事者に対して横柄な態度を取る賢者は珍しくねえ。だけど基本それは俺達に対してだ。患者にああいう態度を取る奴を指標にするのは流石に違うぞ」
あの一個人以外の賢者のフォローは当事者としてやっておかなければならない、
それにあそこまで人格が破綻しているレベルの男は、横柄な連中の中でもそういないから。
故にそこのグループと一括りに纏めるのも申し訳なくなる。
(ああそうだ。纏めちゃ駄目だ)
纏めたくなる気持ちが全くないと言えばきっと嘘になるが、それでも良くない。
「賢者も立派な……医療従事者だからな」
彼らを商売敵として恨むような事はあったとしても、その存在を否定するような事は絶対にしてはならない。
それは……賢者の台頭で職を失った人の前では流石に言えないけれど、患者相手には言っておきたい。
「立派な医療従事者って…………よく肯定できますね。邪魔じゃないんですか?」
不思議そうに、そして納得できないようにアスカは言う。
「皆賢者の事を持て囃していて……レインさん達みたいな人達を時代遅れだって言ってます。旧医療従事者だって……それって全部……賢者のせいじゃ無いですか」
「いや、もしも誰かが悪いんだとしたら俺達が悪いよ」
「……」
「簡単に席を奪われちまう程度の事しか。追いつけない程度の事しかできない俺達が悪いんだ」
アスカの言葉にはっきりとそう答えた。その返答に嘘偽りはない。
「事実基本的に力不足で時代遅れだからな、俺達のやり方は」
「そんな事……」
「ある。それは否定できねえ現実だ」
自分達の親の世代がIPS細胞云々の話をしていたそのすぐ後に、賢者の治癒魔術は失われかけた臓器を再生させた事もあれば、より良い義手義足の制作やそれに伴う医療に真剣なっている傍らで、失われた四肢を元に戻した例だってある。
他にも下位互換と思われても否定できないような事は沢山ある。
流石に総合的にみて、旧医学はその名の通り古い医学な訳だ。
旧医療従事者と分別されても仕方がない。だけど。
「だけどそれは俺達のやり方までを否定している訳じゃねえよ」
此処までの発言は決して自虐などではない。
自らの首を絞める言葉だとも思わない。
そして自分達が救えず取り零してしまう人達の多くを掬い上げる賢者の奇跡が届かなかったアスカの目を見てレインは言う。
「俺はどちらも否定するつもりはねえんだ」
賢者の治癒魔術も旧来の医学も、そのどちらも否定して欲しくなかったから。
「まず大前提として賢者の治癒魔術ってのはすげえよ。本当に奇跡を起こす力だ。俺達に出来ない事を数多く熟すし、俺達に出来る事の多くも俺達よりうまくやる。なにより患者に負担が掛からねえ。俺達の医学がどこまで行っても現実と地繋ぎな事に対して、賢者は本当に奇跡を起こすんだ。患者の事を思えば……否定なんてできる訳が無い」
故に正当に淘汰され奪われてしまった席は、こちらが賢者の奇跡の向こう側へ到達できる技量がなければ奪い返そうとしてはいけない。
今のままでは結局、先進医療の否定でしかないのだから。
ただ自分達の利権の為に我を通したいエゴでしかないのだから。
「だけどその奇跡は万能じゃないって事はアスカも知っての通りだ。俺達は力不足で遅れていると自覚した上で、それでも全ての優位性が失われたわけじゃない」
それ故に自分達が現在やれている事の否定もしない。
「だからどっちかを否定する事無く共存していくのがこれからの理想だと俺は思ってるんだ。上位互換下位互換なんて言葉が全てに適応されない以上、どちらも無くしちゃいけねえんだ」
当然その理想に到達した時、自分の立場はより厳しいものになっているのだろうけど。
なにせきっとその時に必要な絶対数は、今しがみ付いている人数よりも圧倒的に少ない。
今自分達の多くは、賢者の絶対数が少ないが故に消去法で受診先に選ばれている現実がある。
だが医大が無くなった今、国が税金を投入しているのは賢者の教育機関だ。
だからその理想の形を目指した場合、近い将来自分達はその優位性以外での活躍の形を完全に失う事になる。
だけどそれは正当な淘汰だ。なるべくしてそうなっている。
自分達の界隈ですら使われない旧式の医療知識が淘汰されているように、古いやり方を無理矢理残そうとして、そのしわ寄せを関係の無い患者に押し付けるのはもはや悪だ。
……だが淘汰を正当と思えるのはそこが限界。
最低限までの規模の縮小。
そこが限界。
「……でも今のままだったら」
「そう、共存も何もねえ。完全に潰される」
世論が自分の考える旧医療従事者の優位性を認識しているとは到底思えない。
やはり下されている評価は賢者の下位互換というものだけ。
今日自分が現場に居合わせなければ、賢者に出来なければ無理だという事になり、薬剤師がセカンドオピニオンとして選択される事も無かっただろう。
今ですらこれなのだ。
賢者の治癒魔術は全ての医療の上位互換だという認識があまりにも根強く広がっている。
年々拡大し続けている。
それこそ現実的にどうしようもない事を奇跡のように成し遂げてきたのを皆目の当たりにして、国の方向性まで転換する程に。
それだけ衝撃的で、万能感に溢れた優れた存在が賢者の治癒魔術だ。
世論がそういう風に動くのは、寧ろ必然だと言っても良い。
こちらが優位性を訴えても耳を傾けて貰えないのは……必然だと言っても良い。
自分達が関わっていれば、なんて言葉は負け惜しみとしてしかとらえられない。
だからこのままなら潰される。
賢者では救えない患者を救うための存在が消滅し、されるべき技術継承もされなくなる……そうならない為に。
「そうさせない為に俺は冒険者をやっているんだ。こんな会話にでもならねえと支離滅裂にしか聞こえねえからリカ以外には言えてねえんだけどよ」
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