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二章 隻腕の精霊使い
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逃走ルートはそもそも考えてはいなかった。
ただとにかく上の階層に上がって、そこから敵をなぎ倒しつつ四か所ある出入り口を探す。そういう予定だった。
だけどそれはエルを剣にした時に得られる圧倒的な力がある事を前提とした策だ。ただでさえ酷い策なのにその大前提が無ければ愚策でしか無い。
でもその愚策しか取れる手段が無い。ダクトからの脱出は最悪見つかった時に抵抗すらできないし、多分あそこの蓋を外したままにしてあるから、当然脱出経路としてマークされていてもおかしくない。
故に結局正面突破。それしかない。
シオンがどれ位戦力を削ってくれたのか分からないが減ってはいる筈だ。だから何もしていないよりはずっと脱出できる可能性が高いはず。
高い……筈なんだ。
だけど現実はそう甘くない。
「ち……ッ!」
角を曲がった先に一人降りて来ていた。
そしてこちらに気付いてやがる!
俺達を発見した低身長の男は此方に視界を曇らせる霧を放つ、白い塊を放ちながら接近してくる。
打開策はある。だけど少なくとも、両手が使えない状態で戦うのはマズい!
「エル、一回下ろすぞ!」
「はい!」
俺はエルを下ろし、左手を正面に突きだし風を噴出させる。
張れる霧。すぐ正面にまで接近していた男。
「……ッ」
男が振り上げたナイフを、寸前の所で首を逸らして躱し、そのまま腰に回し蹴りを叩きこむ。
全力で放った蹴りで男は通路側面の壁に叩きつけられ、確実に昏倒させる為に、すぐさま踏みこんで鳩尾に拳を叩きこむ。
そして男が気を失った様に倒れた。
「……よし」
そう呟くが、状況は全く芳しくは無い。
コイツが降りて来ていた。だったら他にも降りてくる可能性が高い。
その時毎回毎回戦うのか? 二人以上で来られた場合どうにか出来るのか?
思いながら、俺はとにかく移動する為ににエルを持ち上げる。
「わ、え、エイジさん?」
エルが少々驚いた様な声を上げる。
背負ったのでは無く、所謂お姫様抱っこの様な状態だ。若干恥ずかしいのかもしれない。
だけどこれでいい。
最悪実行しなければならない策を実行に移すには、背負っていてはどうにもならない。こうしていないとどうにも出来ない。
「とにかく、行くぞ」
再び俺は走り出す。
目指すは階段。だけど敵が降りてくるのもまた階段だ。
曲がり角を曲がった先。廊下と廊下を分断する様に広いスペースが存在する。そのスペースを抜け、角を曲がればそこが二階への階段となるわけだが……既にそこには敵が居た。
広いスペースに人間と精霊含め、計十名。
はっきり言ってまともに戦って勝てる人数では無い。
戦えば多分即効で殺される。それだけの戦力差が正面に展開されている。
「エル」
俺は策を実行に移す為に、エルに声を掛ける。
「舌、噛むなよ」
そして俺は最大出力の風を圧縮して固め、ソレを踏み抜いた。
狙うは強行突破。
出力だけなら負けない。相手がまだこちらを発見した程度の段階の内に、こちらが出せる最高速で突き抜ける。
もはや俺でも止められないスピードで。
「……ッ」
途中しっかりとエルを抱えながらも左手から勢いよく風を噴出し、俺の方向を調整。
俺の背が壁にぶつかる様に、調整する。
「グハッ!」
壁に激突した瞬間、全身の空気が一気に口から漏れ出し、激痛と共に全身の力が抜けた様に感じた。はっきり言って今ので多分何本か骨をやった。
だけど……突破した。
まだ体は動く! まだ行ける!
壁から体が離れ倒れそうになるのを膝を突いて阻止し、そのまま階段目掛けて走りだそうとする。
だけど、その足が激痛と共に止まった。
「グァ……ッ!」
左足にまるで何かが刺さった様な痛みが走ったのだ。
視線を向ける。
文字通り剣の様な何かが俺の脹脛に刺さっていた。そして剣の柄からは鎖が伸び、その先に居る精霊の手の平に繋がっている。
思わずエルから手が離れ、階段前にエルは転がり、俺の体も地に伏せる。
次の瞬間、一組の人間と精霊が飛びかかってきた。
俺は風で鎖を断ち切り、なんとかエルの方に向かって飛んで攻撃を回避するが、再び激痛が体の正面に走る。
壁にぶつかった。
そこに無かった筈の壁にぶつかった。
なかった筈の壁が、俺とエルの間に出来ていた。
……間違いない。此処にいる誰かの精霊術だ!
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
俺は右手に風を圧縮させ、その壁にゼロ距離で打ち込む。
衝撃音と共に肩に強い痛み。そして……壁は壊れない。
だけど大きなヒビ。後一発全力で殴れば壊せる様な亀裂が入っていた。
立て続けに拳を振るおうとする。
だけどその直前、首に激痛が走った。
後方から首に蹴りを貰った。そう気付いたのは壁から遠ざけられた後の事。
「エイジさん!」
エルの叫び声が聞こえる。
「先に行け! エル!」
少なくとも俺がその壁の先に進む事は出来やしない。
階段手前を封鎖された。多分同じ真似は二度出来ない。なんとか逃げて他の道を探して上の階層でエルと合流するしかない。
今はそれ以外の選択肢が用意されていない。
そしてそれ以外の選択肢が容易されていないからと言って、残っている選択肢を完遂する事が出来るかといえばそれはきっと否だ。
なんとか逃げる?
十人に囲まれている状況で。片足を負傷した状態で。一体どうやって逃げれば良いんだ?
分からないまま、それでも無我夢中に動き出す。
合流できるかどうかは分からない。
だけど俺が此処で一秒でも時間を稼げば、例え逃げられなくてもエルが逃げられる可能性は増すだろうから。
だから俺は止まらない。止まってたまるかと心中で叫んで地を蹴った。
ただとにかく上の階層に上がって、そこから敵をなぎ倒しつつ四か所ある出入り口を探す。そういう予定だった。
だけどそれはエルを剣にした時に得られる圧倒的な力がある事を前提とした策だ。ただでさえ酷い策なのにその大前提が無ければ愚策でしか無い。
でもその愚策しか取れる手段が無い。ダクトからの脱出は最悪見つかった時に抵抗すらできないし、多分あそこの蓋を外したままにしてあるから、当然脱出経路としてマークされていてもおかしくない。
故に結局正面突破。それしかない。
シオンがどれ位戦力を削ってくれたのか分からないが減ってはいる筈だ。だから何もしていないよりはずっと脱出できる可能性が高いはず。
高い……筈なんだ。
だけど現実はそう甘くない。
「ち……ッ!」
角を曲がった先に一人降りて来ていた。
そしてこちらに気付いてやがる!
俺達を発見した低身長の男は此方に視界を曇らせる霧を放つ、白い塊を放ちながら接近してくる。
打開策はある。だけど少なくとも、両手が使えない状態で戦うのはマズい!
「エル、一回下ろすぞ!」
「はい!」
俺はエルを下ろし、左手を正面に突きだし風を噴出させる。
張れる霧。すぐ正面にまで接近していた男。
「……ッ」
男が振り上げたナイフを、寸前の所で首を逸らして躱し、そのまま腰に回し蹴りを叩きこむ。
全力で放った蹴りで男は通路側面の壁に叩きつけられ、確実に昏倒させる為に、すぐさま踏みこんで鳩尾に拳を叩きこむ。
そして男が気を失った様に倒れた。
「……よし」
そう呟くが、状況は全く芳しくは無い。
コイツが降りて来ていた。だったら他にも降りてくる可能性が高い。
その時毎回毎回戦うのか? 二人以上で来られた場合どうにか出来るのか?
思いながら、俺はとにかく移動する為ににエルを持ち上げる。
「わ、え、エイジさん?」
エルが少々驚いた様な声を上げる。
背負ったのでは無く、所謂お姫様抱っこの様な状態だ。若干恥ずかしいのかもしれない。
だけどこれでいい。
最悪実行しなければならない策を実行に移すには、背負っていてはどうにもならない。こうしていないとどうにも出来ない。
「とにかく、行くぞ」
再び俺は走り出す。
目指すは階段。だけど敵が降りてくるのもまた階段だ。
曲がり角を曲がった先。廊下と廊下を分断する様に広いスペースが存在する。そのスペースを抜け、角を曲がればそこが二階への階段となるわけだが……既にそこには敵が居た。
広いスペースに人間と精霊含め、計十名。
はっきり言ってまともに戦って勝てる人数では無い。
戦えば多分即効で殺される。それだけの戦力差が正面に展開されている。
「エル」
俺は策を実行に移す為に、エルに声を掛ける。
「舌、噛むなよ」
そして俺は最大出力の風を圧縮して固め、ソレを踏み抜いた。
狙うは強行突破。
出力だけなら負けない。相手がまだこちらを発見した程度の段階の内に、こちらが出せる最高速で突き抜ける。
もはや俺でも止められないスピードで。
「……ッ」
途中しっかりとエルを抱えながらも左手から勢いよく風を噴出し、俺の方向を調整。
俺の背が壁にぶつかる様に、調整する。
「グハッ!」
壁に激突した瞬間、全身の空気が一気に口から漏れ出し、激痛と共に全身の力が抜けた様に感じた。はっきり言って今ので多分何本か骨をやった。
だけど……突破した。
まだ体は動く! まだ行ける!
壁から体が離れ倒れそうになるのを膝を突いて阻止し、そのまま階段目掛けて走りだそうとする。
だけど、その足が激痛と共に止まった。
「グァ……ッ!」
左足にまるで何かが刺さった様な痛みが走ったのだ。
視線を向ける。
文字通り剣の様な何かが俺の脹脛に刺さっていた。そして剣の柄からは鎖が伸び、その先に居る精霊の手の平に繋がっている。
思わずエルから手が離れ、階段前にエルは転がり、俺の体も地に伏せる。
次の瞬間、一組の人間と精霊が飛びかかってきた。
俺は風で鎖を断ち切り、なんとかエルの方に向かって飛んで攻撃を回避するが、再び激痛が体の正面に走る。
壁にぶつかった。
そこに無かった筈の壁にぶつかった。
なかった筈の壁が、俺とエルの間に出来ていた。
……間違いない。此処にいる誰かの精霊術だ!
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
俺は右手に風を圧縮させ、その壁にゼロ距離で打ち込む。
衝撃音と共に肩に強い痛み。そして……壁は壊れない。
だけど大きなヒビ。後一発全力で殴れば壊せる様な亀裂が入っていた。
立て続けに拳を振るおうとする。
だけどその直前、首に激痛が走った。
後方から首に蹴りを貰った。そう気付いたのは壁から遠ざけられた後の事。
「エイジさん!」
エルの叫び声が聞こえる。
「先に行け! エル!」
少なくとも俺がその壁の先に進む事は出来やしない。
階段手前を封鎖された。多分同じ真似は二度出来ない。なんとか逃げて他の道を探して上の階層でエルと合流するしかない。
今はそれ以外の選択肢が用意されていない。
そしてそれ以外の選択肢が容易されていないからと言って、残っている選択肢を完遂する事が出来るかといえばそれはきっと否だ。
なんとか逃げる?
十人に囲まれている状況で。片足を負傷した状態で。一体どうやって逃げれば良いんだ?
分からないまま、それでも無我夢中に動き出す。
合流できるかどうかは分からない。
だけど俺が此処で一秒でも時間を稼げば、例え逃げられなくてもエルが逃げられる可能性は増すだろうから。
だから俺は止まらない。止まってたまるかと心中で叫んで地を蹴った。
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