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三章 誇りに塗れた英雄譚
11 究極の選択 下
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「……どうすりゃいい」
シャワーを首に当てながら、俺は再びそんな事を呟いた。
しばらく悩んでいたが、一向に答えは導き出せない。
どちらの選択肢もきっと正しくて。それでいて片方しか取ることができない。
エルとの行動を取れば、捕まっている精霊達はドール化される事がほぼ確実で……精霊を助けに行けば、エルとの約束を破って一人にする事になる。
……今思えば、こんな経験は初めてかもしれない。
今までは、何が正しいのか自分なりの答えはしっかりと出せていた。それぞれの状況が、そうできる位にシンプルだったからかもしれない。自分以外の誰かを天秤に掛ける様な状況に陥った事が無かったからかもしれない。
でも今は掛っている。そしてどちらか片方にしか傾けやしないんだ。
とにかく視点を変えよう。同じ事を考え続けてもらちがあかない。
考え方を変えれば、答えが導き出されるかもしれない。
だから視点を変えた。
そもそも俺がどうしたいかで言えば、答えはどちらに傾くのだろうか。
それは考えなくても浮かんでくる。俺はエルと一緒にいたい。エルを絶界の楽園まで連れて行ってやりたい。連れていかないと行けないんだ。
連れていかないと……連れていかないと?
……ちょっと待て。
どうしてエル一人では、どうにもならないみたいな考え方になってんだ?
偶然なのか必然なのかは分からない。だけどそんな考えに行きあたった。
行きあたってしまえば、嫌な位に鮮明に答えは導き出されて行く。
……エルは一人でもある程度人間と接する事が出来るようになった。
エルを襲ってくる様な輩はもう居ない。例えば誰かが守ってやらなくても、その安全が脅かされる事は無い。あっても本当に一般人が巻き込まれる可能性と何も変わらない。
旅を始めたころは一人じゃどうにもならなかったかもしれないけれど……だけど今は最悪俺がいなくてもどころか、そもそも俺が居なくたって旅は成立する。成立してしまう。
つまりエルの隣に居なくちゃならなくて、それでいて俺もエルといたいだなんて考えは間違いで……きっとそれは俺がエルの隣に居たいだけという事なのだろう。
そうしなくちゃならなかったという側面は見事に消滅して。残っているのは俺の願望だけなんだ。
……だとすれば、何をどうするのが正しい事なのだろうか。
可愛くて。一緒に居て楽しくて。俺の事を頼りにしてくれていて。そんな女の子と一緒に旅を続けるために、自我の無い人形にされかかっている女の子を見捨てるのと、そうした女の子を助けて自分の願望を抑え込む事。
それのどちらが正しいのだろうか。
それはあまりにも簡単に答えが出て来て。そうした事によって霧散した優越感と入れ変わる様に、なんだかよく分からない重苦しい感情がこみあげてくる。
だけどそれだけだ。重たい気分になる程度で。自分から失われて行く優越感を必死につなぎ止めようと必死になる様な悪あがきはしなかった。自然とする気になれなかった。
しない自分をほんの少しだけ誇らしいと思った。
そう考えると、やっぱり俺のこういう側面は誇りなんだと再認識する。
シャワーを浴び、普段着に着替えた。
部屋にはエルが居る。買いこんだお菓子を頬張るエルは、こちらのに視線を向けた後、その手を止めて尋ねてくる。
「……やっぱり何かあったんじゃないですか?」
それはもうエルの中で確信に変わっている様だった。
一カ月も一緒に居れば、きっともう誤魔化しなんて通用しない。内側に何かを隠していることなんて、容易に知られてしまう。
それでも……それを曝け出す事はしなかった。
俺が工場に捕えられた精霊を助けだそうと思う事を。その所為で俺とエルの二人旅が終わるという事実を、こんなに唐突に言える訳が無くて。
そうやって突然そんな事をぶつけることが、正しい事だとも思え無くて。
「何でもねえんだ」
そんな見え見えの嘘を吐く。
そんな心苦しい嘘に、エルは頷いた。
「……そうですか。ならいいんです」
まるでこちらが自分から話してくれる事を待ってくれている様に。エルはそんな事を言ってくれる。
その思いに答えられるかなんてのは今の俺には分からない。
答えなくちゃいけないと思いつつも、それが俺にとって、エルにとって、良い様に進むかどうかなんてのは分からないし、なにより俺が怖かった。
正しいかどうかも良く分からなくて、それでいて怖いのならば、きっと俺は答えられないのだろう。
答えられずに、タイムリミットを迎える。
俺があの精霊達を助けに向かう。その時間に。
「なあ、エル」
未練がましいのかもしれないのかもしれない。
それでも無性にエルと話がしたくなった。
なんでもいい。なんだっていい。
ただ話ができればそれでいい。とにかくそれでよかった。
「なんですか? エイジさん」
何だろう。何を話せばいいのだろう。
それでも結局言葉は自然に出てきた。
本当にただの日常会話。俺がこの一カ月楽しんで来たそんな会話。
きっと今日が最後になるであろうそんな会話。
そう、今日が最後。
願わくば俺が行動した末に、それでもエルとこうして話ができる様な状況が訪れてほしいと思う。だけどきっとそんな事は無くてそれでおしまいだ。
でももし、その先にそんな状況があったとするならば、それは一体どんな光景なのだろうか?
それは霧に掛った様に見えないし、これ以上そんな未来の事を考えている様な余裕は無い。
この時間を楽しもう。
エルとの会話を脳に刻み込むんだ。
そんな思いで俺はエルとの会話を楽しんだ。
シャワーを首に当てながら、俺は再びそんな事を呟いた。
しばらく悩んでいたが、一向に答えは導き出せない。
どちらの選択肢もきっと正しくて。それでいて片方しか取ることができない。
エルとの行動を取れば、捕まっている精霊達はドール化される事がほぼ確実で……精霊を助けに行けば、エルとの約束を破って一人にする事になる。
……今思えば、こんな経験は初めてかもしれない。
今までは、何が正しいのか自分なりの答えはしっかりと出せていた。それぞれの状況が、そうできる位にシンプルだったからかもしれない。自分以外の誰かを天秤に掛ける様な状況に陥った事が無かったからかもしれない。
でも今は掛っている。そしてどちらか片方にしか傾けやしないんだ。
とにかく視点を変えよう。同じ事を考え続けてもらちがあかない。
考え方を変えれば、答えが導き出されるかもしれない。
だから視点を変えた。
そもそも俺がどうしたいかで言えば、答えはどちらに傾くのだろうか。
それは考えなくても浮かんでくる。俺はエルと一緒にいたい。エルを絶界の楽園まで連れて行ってやりたい。連れていかないと行けないんだ。
連れていかないと……連れていかないと?
……ちょっと待て。
どうしてエル一人では、どうにもならないみたいな考え方になってんだ?
偶然なのか必然なのかは分からない。だけどそんな考えに行きあたった。
行きあたってしまえば、嫌な位に鮮明に答えは導き出されて行く。
……エルは一人でもある程度人間と接する事が出来るようになった。
エルを襲ってくる様な輩はもう居ない。例えば誰かが守ってやらなくても、その安全が脅かされる事は無い。あっても本当に一般人が巻き込まれる可能性と何も変わらない。
旅を始めたころは一人じゃどうにもならなかったかもしれないけれど……だけど今は最悪俺がいなくてもどころか、そもそも俺が居なくたって旅は成立する。成立してしまう。
つまりエルの隣に居なくちゃならなくて、それでいて俺もエルといたいだなんて考えは間違いで……きっとそれは俺がエルの隣に居たいだけという事なのだろう。
そうしなくちゃならなかったという側面は見事に消滅して。残っているのは俺の願望だけなんだ。
……だとすれば、何をどうするのが正しい事なのだろうか。
可愛くて。一緒に居て楽しくて。俺の事を頼りにしてくれていて。そんな女の子と一緒に旅を続けるために、自我の無い人形にされかかっている女の子を見捨てるのと、そうした女の子を助けて自分の願望を抑え込む事。
それのどちらが正しいのだろうか。
それはあまりにも簡単に答えが出て来て。そうした事によって霧散した優越感と入れ変わる様に、なんだかよく分からない重苦しい感情がこみあげてくる。
だけどそれだけだ。重たい気分になる程度で。自分から失われて行く優越感を必死につなぎ止めようと必死になる様な悪あがきはしなかった。自然とする気になれなかった。
しない自分をほんの少しだけ誇らしいと思った。
そう考えると、やっぱり俺のこういう側面は誇りなんだと再認識する。
シャワーを浴び、普段着に着替えた。
部屋にはエルが居る。買いこんだお菓子を頬張るエルは、こちらのに視線を向けた後、その手を止めて尋ねてくる。
「……やっぱり何かあったんじゃないですか?」
それはもうエルの中で確信に変わっている様だった。
一カ月も一緒に居れば、きっともう誤魔化しなんて通用しない。内側に何かを隠していることなんて、容易に知られてしまう。
それでも……それを曝け出す事はしなかった。
俺が工場に捕えられた精霊を助けだそうと思う事を。その所為で俺とエルの二人旅が終わるという事実を、こんなに唐突に言える訳が無くて。
そうやって突然そんな事をぶつけることが、正しい事だとも思え無くて。
「何でもねえんだ」
そんな見え見えの嘘を吐く。
そんな心苦しい嘘に、エルは頷いた。
「……そうですか。ならいいんです」
まるでこちらが自分から話してくれる事を待ってくれている様に。エルはそんな事を言ってくれる。
その思いに答えられるかなんてのは今の俺には分からない。
答えなくちゃいけないと思いつつも、それが俺にとって、エルにとって、良い様に進むかどうかなんてのは分からないし、なにより俺が怖かった。
正しいかどうかも良く分からなくて、それでいて怖いのならば、きっと俺は答えられないのだろう。
答えられずに、タイムリミットを迎える。
俺があの精霊達を助けに向かう。その時間に。
「なあ、エル」
未練がましいのかもしれないのかもしれない。
それでも無性にエルと話がしたくなった。
なんでもいい。なんだっていい。
ただ話ができればそれでいい。とにかくそれでよかった。
「なんですか? エイジさん」
何だろう。何を話せばいいのだろう。
それでも結局言葉は自然に出てきた。
本当にただの日常会話。俺がこの一カ月楽しんで来たそんな会話。
きっと今日が最後になるであろうそんな会話。
そう、今日が最後。
願わくば俺が行動した末に、それでもエルとこうして話ができる様な状況が訪れてほしいと思う。だけどきっとそんな事は無くてそれでおしまいだ。
でももし、その先にそんな状況があったとするならば、それは一体どんな光景なのだろうか?
それは霧に掛った様に見えないし、これ以上そんな未来の事を考えている様な余裕は無い。
この時間を楽しもう。
エルとの会話を脳に刻み込むんだ。
そんな思いで俺はエルとの会話を楽しんだ。
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