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五章 絶界の楽園
3 彼女達を助ける手段
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「助ける……助けるってどういう……」
「んなもん決まってんだろ! アイツら全員元に戻すんだよ! どうする? どうすればいい!? 教えてくれ誠一!」
俺が投げかけたそんな言葉。それに返す誠一の言葉は、少なくとも誠一の中では真実とされるものである筈だ。
土御門誠一という人間は基本的にはどこか適当な一面がある。普通に嘘だって付くし、こちらが求めている情報を知っていても面白がって教えてくれなかったりだとか、そういう事はよくあった。
だけどそれはあくまで日常生活のでの話。本当に大切な局面。あまり冗談なんかを言える様な場合でない時は意味もなく黙っていたりはしない。意味もなく嘘をつくことはしない。
そして例え意味があったとしても……そんな表情は浮かべない。
「元に戻す? ちょっと待て、元に戻すってどういう事だよ!?」
本当にこちらが何を言っているのか分からない。呑み込めない。そういう表情だ。
そういう表情を浮かべながら、誠一は言葉を続ける。
「いや、ちょっと待て……まさかこういう状態が普通なのか? お前の隣りにいる青髪の精霊みたいに明確な自我を持っている状態がアイツらにとっての普通の状態なのか!? それをお前はその目で見たのか!?」
「そうだよ! アイツらはエルと……俺達と変わらない! 普通に自我だって持ってるし意志疎通だってできる! あんな状態が普通な訳がねえだろうが!」
「……ッ」
その言葉を受け誠一達三人が浮かべた表情は非常に苦しいものだ。自分たちが武器を向けている相手がもし元々が普通の女の子だったら。それは決して笑えるような事ではない筈だ。
そして三人の内の一人が言葉を漏らす。
「やはり……そういう事になるのか」
まるでそうである可能性を明確に認識していたような、そんな言葉。
その言葉に誠一達は特に反応を示さない。今更示す必要がないという風に。今更驚くべきことではないという風に。
「……予想はしてたのか?」
俺の問いに答えたのは誠一だった。
「ああ……確信なんて何も持てなかったし、予想程度だったからその精霊にも武器を向けていた。何しろ前例もなければ証拠も碌にない。あの暴れている状態の精霊しか俺達は知らなかったんだよ……だけどな、栄治。少なくとも視界に移ってんの普通の女だ。人間の女なんだよ。だとすればそうかもしれねえって憶測は付く……誰だって一度はその可能性にたどり着く。そして今日、憶測が確信に変わった。外で暴れている連中もこの青髪の精霊と同じで元は普通の奴なんだろ? 理解した……マジで笑えねえよ」
そして一泊開けた後、重苦しい表情と声で誠一は言う。
「それが確信に変わったのに、現状は何も変えられねえ。変えてやれねえ。化け物を殺してるんだって必死に考えていたのに、それを人殺しだって再認識しちまうだけだ。本当に笑えねえよ」
……ちょっと待て。なんでそうなる?
「なんでそうなるんだよ! 相手がどういう奴らか分かったなら! 人殺しだって思うなら――」
「何とかできる方法が見つかるまでそのまま放置しろって言いたいのか?」
誠一がばっさりと俺の言葉を遮る。
「これまでだって精霊に自我がある前提でなんとかする方法を探してきたけど見つからなかった。例外が一人見つかったとはいえ、そこから対処法を割出してやるのにどれだけ時間がかかるか分からねえ。だったら少なくとも今回は……今池袋近辺に出現している精霊を殺さなくちゃいけない。放置すれば池袋だけでなく東京も最終的には北海道や九州の二の舞になるぞ」
その言葉で、明確に誠一達が現段階で精霊を救う方法を把握していないことが理解できた。
だけど最後に出てきた北海道と九州の二の舞。どうしてここで多発天災の被災地が出てくるのか? そんな事はすぐに理解できなかったが、すぐに考えることを放棄した。放棄せざるを得なかった。
浮かんだ。鮮明に浮かんでしまった。
……どうにもならずに皆が死んでしまう光景が、自然と浮かんできてしまった。
全身に寒気が走る。この状況下で最も精霊達の事を知っているであろう誠一達が精霊達を殺すこと以外で止める方法を把握していない。そして俺もまた把握していない。だとすればもう詰んでいる。どうしようもなく事が終わりに向っている。
だけどそんな中で、一つ誠一の言葉が引っかかった。
『例外が一人見つかったとはいえ、そこから対処法を割出してやるのにどれだけ時間がかかるか分からねえ』
例外……唯一自我を保っている精霊。
そして俺は再び視線を向ける。
今の話の流れに入れずに、だけど会話の中で外の状況をある程度把握したように、顔を俯かせて立ち尽くすエルに視線を向けた。
そうだよ……どうしてエルは自我を保っていられる? 他の精霊との違いはどこにある?
それを考えれば……一つだけ、とても大きな違いが見えてくる。
……一つだけ。皆を助ける方法が見えてくる。
「言いたいことは山程あると思うし俺だってある。だけどそれもこれも全部後だ。今はとにかく移動するぞ。お前もお前の隣りに居る精霊も、死なせる訳には――」
「死なねえよ」
誠一の言葉を遮る。
「死なねえし、アイツらも殺させない」
俺がその言葉を口にした瞬間、誠一の隣りに居る二人が武器を構えた。俺の言葉を聞いて、精霊を殺そうとしている自分達に戦意を向けていると思ったのかもしれない。
だけどそれは違う。そうじゃない。
「別にお前らと争う気はねえ」
それだけを誠一達に告げてから、俺はエルに言う。
「アイツらを助ける方法を思いついた。頼むエル。協力してくれ」
そしてエルに手を伸ばす。
自分が思いついた策が相当無茶苦茶な事は理解していた。だけどそれしか方法がなくて……例えそれが藁なんかよりも酷く脆いものだったとしても、それに縋らなくてはもう立っていられない。
何が何でも助け出さなければならない。何が何でもだ。皆死んで終りだなんて酷い結末にしてたまるか。
そして俺の言葉にエルは一瞬困惑した表情を見せた。一体エルが何に困惑したのかは分からない。だけどそれでも困惑した表情のままエルは俺の手を取り、俺はエルを剣へと変える。
「……剣?」
そしてそんな困惑の声を出す誠一を背に一気に走り出した。
「おいちょっと待て栄治!」
後方から誠一の声が聞こえた。
誠一達がどの程度戦えるのかは分からない。だけどきっと事の詳細を言えば誠一は協力してくれるだろう。
『それが確信に変わったのに、現状は何も変えられねえ。変えてやれねえ』
誠一の中にはきっとアイツらを何とかしてやりたいという気持ちはある筈だ。変えてやれねえってのはそういう事の筈だ。そうであってほしいと思う。そしてアイツの協力を得られればきっと成功率は増すだろう。
だけどアイツらに詳細を言う事は出来ない。別に俺の話を聞いた誠一や周りの二人が妨害してくる可能性を危惧したとかそういう事ではない。
『え、エイジさん! 具体的にどうするつもりなんですか!?』
エルに事の詳細を聞かれるわけにはいかなかった。
『エイジさん! ちょっと聞いてますか!? エイジさん!』
エルが事の詳細を知れば止めるだろうと思った。止められるような事だとは自覚していた。
だから誠一達の前で話せない。そしてエルを一人にする訳にもいかず、最速でアイツらを探す為の速度もいる。だから今は黙って協力してもらうしかなかった。もうそそれ以外の事が考えられなくなっていた。
だけど強制的に止められる。
地下一階へと上がり、既にどこかに移動したのかロングコートを着た二人の男がいなくなっていたその場所を走り、地上へ上る坂が見えた瞬間、手から剣の感覚が消えて手の感覚へと変わっていた。
そして無理やり、力尽くで止められた。
「何を……するつもりなんですか、エイジさん!」
「……」
結局の所、言わないと駄目か。
だったら言わないといけない。言ってエルを説得しなければならない。
覚悟は決めた。躊躇っている時間はない。俺はエルに言った。
「考えたんだ。他の皆をエルと同じ状態にすればなんとかなるんじゃないかって」
「な、何を言ってるんですか! 契約は一人としかできない! そんな事はエイジさんも分かっている筈じゃないですか!」
「……知ってるよ」
止められる事は分かっていた。
精霊と契約できるのは一人まで。具体的な理由は俺もエルも知らない。
だけどエルが使える精霊術をそのまま俺が使えるという事は、契約の術も使うことができる。実際使おうと思えば他の精霊術同様使える事は感覚的に理解しているんだ。
つまりは出来ない筈なのに使える状態。だとすれば賭ける価値はある。使えるのであれば可能性はゼロではない。ゼロじゃない。ゼロじゃないんだ。ゼロであってたまるか。
「それでもやるんだ、成功させるんだ。アイツらをこんな酷い状況に追いやったのは俺なんだから……助けないと」
……成功、させるんだ。させないと駄目なんだ。
「どうなるか分からないんですよ! 例え精霊術が使えたとしても、一人にしか使えないって事には絶対に理由がある筈なんです! それが何なのかは分からないですけど……でも、何が起きるか分かんないのにそんな――」
「頼むよ……エル」
もう自分がどんな表情を浮かべていて、どんな声音で話しているのかも分からない。
だけどそれが酷いものである事位は理解できていた。
「んなもん決まってんだろ! アイツら全員元に戻すんだよ! どうする? どうすればいい!? 教えてくれ誠一!」
俺が投げかけたそんな言葉。それに返す誠一の言葉は、少なくとも誠一の中では真実とされるものである筈だ。
土御門誠一という人間は基本的にはどこか適当な一面がある。普通に嘘だって付くし、こちらが求めている情報を知っていても面白がって教えてくれなかったりだとか、そういう事はよくあった。
だけどそれはあくまで日常生活のでの話。本当に大切な局面。あまり冗談なんかを言える様な場合でない時は意味もなく黙っていたりはしない。意味もなく嘘をつくことはしない。
そして例え意味があったとしても……そんな表情は浮かべない。
「元に戻す? ちょっと待て、元に戻すってどういう事だよ!?」
本当にこちらが何を言っているのか分からない。呑み込めない。そういう表情だ。
そういう表情を浮かべながら、誠一は言葉を続ける。
「いや、ちょっと待て……まさかこういう状態が普通なのか? お前の隣りにいる青髪の精霊みたいに明確な自我を持っている状態がアイツらにとっての普通の状態なのか!? それをお前はその目で見たのか!?」
「そうだよ! アイツらはエルと……俺達と変わらない! 普通に自我だって持ってるし意志疎通だってできる! あんな状態が普通な訳がねえだろうが!」
「……ッ」
その言葉を受け誠一達三人が浮かべた表情は非常に苦しいものだ。自分たちが武器を向けている相手がもし元々が普通の女の子だったら。それは決して笑えるような事ではない筈だ。
そして三人の内の一人が言葉を漏らす。
「やはり……そういう事になるのか」
まるでそうである可能性を明確に認識していたような、そんな言葉。
その言葉に誠一達は特に反応を示さない。今更示す必要がないという風に。今更驚くべきことではないという風に。
「……予想はしてたのか?」
俺の問いに答えたのは誠一だった。
「ああ……確信なんて何も持てなかったし、予想程度だったからその精霊にも武器を向けていた。何しろ前例もなければ証拠も碌にない。あの暴れている状態の精霊しか俺達は知らなかったんだよ……だけどな、栄治。少なくとも視界に移ってんの普通の女だ。人間の女なんだよ。だとすればそうかもしれねえって憶測は付く……誰だって一度はその可能性にたどり着く。そして今日、憶測が確信に変わった。外で暴れている連中もこの青髪の精霊と同じで元は普通の奴なんだろ? 理解した……マジで笑えねえよ」
そして一泊開けた後、重苦しい表情と声で誠一は言う。
「それが確信に変わったのに、現状は何も変えられねえ。変えてやれねえ。化け物を殺してるんだって必死に考えていたのに、それを人殺しだって再認識しちまうだけだ。本当に笑えねえよ」
……ちょっと待て。なんでそうなる?
「なんでそうなるんだよ! 相手がどういう奴らか分かったなら! 人殺しだって思うなら――」
「何とかできる方法が見つかるまでそのまま放置しろって言いたいのか?」
誠一がばっさりと俺の言葉を遮る。
「これまでだって精霊に自我がある前提でなんとかする方法を探してきたけど見つからなかった。例外が一人見つかったとはいえ、そこから対処法を割出してやるのにどれだけ時間がかかるか分からねえ。だったら少なくとも今回は……今池袋近辺に出現している精霊を殺さなくちゃいけない。放置すれば池袋だけでなく東京も最終的には北海道や九州の二の舞になるぞ」
その言葉で、明確に誠一達が現段階で精霊を救う方法を把握していないことが理解できた。
だけど最後に出てきた北海道と九州の二の舞。どうしてここで多発天災の被災地が出てくるのか? そんな事はすぐに理解できなかったが、すぐに考えることを放棄した。放棄せざるを得なかった。
浮かんだ。鮮明に浮かんでしまった。
……どうにもならずに皆が死んでしまう光景が、自然と浮かんできてしまった。
全身に寒気が走る。この状況下で最も精霊達の事を知っているであろう誠一達が精霊達を殺すこと以外で止める方法を把握していない。そして俺もまた把握していない。だとすればもう詰んでいる。どうしようもなく事が終わりに向っている。
だけどそんな中で、一つ誠一の言葉が引っかかった。
『例外が一人見つかったとはいえ、そこから対処法を割出してやるのにどれだけ時間がかかるか分からねえ』
例外……唯一自我を保っている精霊。
そして俺は再び視線を向ける。
今の話の流れに入れずに、だけど会話の中で外の状況をある程度把握したように、顔を俯かせて立ち尽くすエルに視線を向けた。
そうだよ……どうしてエルは自我を保っていられる? 他の精霊との違いはどこにある?
それを考えれば……一つだけ、とても大きな違いが見えてくる。
……一つだけ。皆を助ける方法が見えてくる。
「言いたいことは山程あると思うし俺だってある。だけどそれもこれも全部後だ。今はとにかく移動するぞ。お前もお前の隣りに居る精霊も、死なせる訳には――」
「死なねえよ」
誠一の言葉を遮る。
「死なねえし、アイツらも殺させない」
俺がその言葉を口にした瞬間、誠一の隣りに居る二人が武器を構えた。俺の言葉を聞いて、精霊を殺そうとしている自分達に戦意を向けていると思ったのかもしれない。
だけどそれは違う。そうじゃない。
「別にお前らと争う気はねえ」
それだけを誠一達に告げてから、俺はエルに言う。
「アイツらを助ける方法を思いついた。頼むエル。協力してくれ」
そしてエルに手を伸ばす。
自分が思いついた策が相当無茶苦茶な事は理解していた。だけどそれしか方法がなくて……例えそれが藁なんかよりも酷く脆いものだったとしても、それに縋らなくてはもう立っていられない。
何が何でも助け出さなければならない。何が何でもだ。皆死んで終りだなんて酷い結末にしてたまるか。
そして俺の言葉にエルは一瞬困惑した表情を見せた。一体エルが何に困惑したのかは分からない。だけどそれでも困惑した表情のままエルは俺の手を取り、俺はエルを剣へと変える。
「……剣?」
そしてそんな困惑の声を出す誠一を背に一気に走り出した。
「おいちょっと待て栄治!」
後方から誠一の声が聞こえた。
誠一達がどの程度戦えるのかは分からない。だけどきっと事の詳細を言えば誠一は協力してくれるだろう。
『それが確信に変わったのに、現状は何も変えられねえ。変えてやれねえ』
誠一の中にはきっとアイツらを何とかしてやりたいという気持ちはある筈だ。変えてやれねえってのはそういう事の筈だ。そうであってほしいと思う。そしてアイツの協力を得られればきっと成功率は増すだろう。
だけどアイツらに詳細を言う事は出来ない。別に俺の話を聞いた誠一や周りの二人が妨害してくる可能性を危惧したとかそういう事ではない。
『え、エイジさん! 具体的にどうするつもりなんですか!?』
エルに事の詳細を聞かれるわけにはいかなかった。
『エイジさん! ちょっと聞いてますか!? エイジさん!』
エルが事の詳細を知れば止めるだろうと思った。止められるような事だとは自覚していた。
だから誠一達の前で話せない。そしてエルを一人にする訳にもいかず、最速でアイツらを探す為の速度もいる。だから今は黙って協力してもらうしかなかった。もうそそれ以外の事が考えられなくなっていた。
だけど強制的に止められる。
地下一階へと上がり、既にどこかに移動したのかロングコートを着た二人の男がいなくなっていたその場所を走り、地上へ上る坂が見えた瞬間、手から剣の感覚が消えて手の感覚へと変わっていた。
そして無理やり、力尽くで止められた。
「何を……するつもりなんですか、エイジさん!」
「……」
結局の所、言わないと駄目か。
だったら言わないといけない。言ってエルを説得しなければならない。
覚悟は決めた。躊躇っている時間はない。俺はエルに言った。
「考えたんだ。他の皆をエルと同じ状態にすればなんとかなるんじゃないかって」
「な、何を言ってるんですか! 契約は一人としかできない! そんな事はエイジさんも分かっている筈じゃないですか!」
「……知ってるよ」
止められる事は分かっていた。
精霊と契約できるのは一人まで。具体的な理由は俺もエルも知らない。
だけどエルが使える精霊術をそのまま俺が使えるという事は、契約の術も使うことができる。実際使おうと思えば他の精霊術同様使える事は感覚的に理解しているんだ。
つまりは出来ない筈なのに使える状態。だとすれば賭ける価値はある。使えるのであれば可能性はゼロではない。ゼロじゃない。ゼロじゃないんだ。ゼロであってたまるか。
「それでもやるんだ、成功させるんだ。アイツらをこんな酷い状況に追いやったのは俺なんだから……助けないと」
……成功、させるんだ。させないと駄目なんだ。
「どうなるか分からないんですよ! 例え精霊術が使えたとしても、一人にしか使えないって事には絶対に理由がある筈なんです! それが何なのかは分からないですけど……でも、何が起きるか分かんないのにそんな――」
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もう自分がどんな表情を浮かべていて、どんな声音で話しているのかも分からない。
だけどそれが酷いものである事位は理解できていた。
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