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六章 君ガ為のカタストロフィ
53 いずれ彼らを救う為に 下
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愚作。本当にそうだ。
誠一を剣で薙ぎ払う……なんだそれ。
「マジな愚作じゃねえかよ……ふざけんなよお前」
「ふざけてなんかねえよ。無茶苦茶だとは思うがこれが多分一番の有効策だ。そこまでして初めて俺への警戒は解ける」
「だからってお前、エルを剣にしてる時の出力知ってんだろ。あんな力で凪ぎ払われたら普通に大怪我すんぞ」
「大怪我程度だろ」
誠一はそうあっけらかんとそう言うが、程度じゃない。
「……それ程度で片付けちゃいけねえだろ」
「いいんだよ別に」
誠一は一拍空けてから言う。
「寧ろお前はそうじゃないと駄目なんだよ」
「駄目って何がだよ何が良いってんだ! ダチ半殺しにする様な真似のどこがいい!?」
俺の問いに誠一は一拍空けてから言う。
「お前、今から異世界行くんだろ。話聞いただけで虫酸が走るようなひでえ世界に。そこでお前はどんな事をしてでもエルを守らなきゃいけない。なのにこの程度で躊躇ってたら守れるもんも守れなくなるぞ」
確かにもうあの世界に足を踏み入れれば、俺はどんな事をしてでもエルを守るつもりだ。
「だけど……だからと言って超えちゃいけない一線ってのはあるだろ」
「まあそうだな。そんでお前がこの作戦を超えちゃいけない一線だって思ってるんなら……心配しろ、超えない」
「超えるだろ」
「超えねえよ。超えさせねえ」
そして誠一は俺に自信ありげに言う。
「少なくとも天野さんの攻撃を数発捌ける位には、身の守りだけは自信あんだよ。ちゃんと攻撃に無事耐えて、最終的に行動に移せる位には守りきれる事を見越してこの作戦を立てた。だからお前の半殺しって表現は流石に俺の事舐め過ぎだ。たかが大怪我程度で済ませてやる」
「……」
「大丈夫だ信用してくれ、俺の事。ダチだろ」
「……分かった」
誠一の策を肯定してよかったのかと聞かれれば、多分それはしては行けない事だったのかもしれない。
やっぱり冷静に考えなくても、親友にそういう攻撃を浴びせる事は正気の沙汰とは思えない。絶対に振るってはいけない力だ。
だけどそれでもエルを救う為には何かしらの策が必要で、現状策はそれしかなくて。
そしてエルを除けば俺が一番信頼できる相手が大丈夫だと言った。
自分が犠牲になる作戦でそこまで強く説得して大丈夫だと、信頼してくれと言ってくれた。
だったらこれ以上否定することは、エルを見捨てる様な行動であると同時に、親友に対する侮辱にも思えてくる。
だから、肯定した。
それは間違いなのかもしれないけれど。
「よし、成立だ。絶対手ぇ抜くなよ」
「ああ」
そういう風に俺達の作戦は決まった。
そこからは素人二人組による三文芝居の打ち合わせを行い、それが終われば後は心の準備をするだけとなる。
そしてそんな中で俺は誠一に絶対に言っておかなければならない事を言っておくことにした。
「誠一」
「どした?」
「その……なんつーか、今までありがとな」
誠一には出会ってから世話になりっぱなしだった。
「俺が異世界に飛ばされる前から、戻ってから今日に至るまで。お前には本当に世話になりっぱなしだったからな。それには感謝しかねえんだ。だから今まで本当にありがとう」
「……」
誠一は俺の感謝の言葉を聞いて暫く黙り込んだ後、俺に問いかけてきた。
「お前、何で今生の分かれみたいな言い方してんだ。つーかラーメン奢る約束はどうなってんだ。まさか忘れたとは言わせねえぞ」
「それに関しちゃ悪いとは思うけど……でも実際に今生の分かれみたいなもんだろ」
俺はこの先の事を考えながら誠一に言う。
「エルはこの世界でまともに生きられない。だから異世界に行けばもう俺達が戻ってくる事は無い。それにもし今回の作戦が失敗してエルがいなくなる様な事になれば……情けねえ話だけど、俺はもう生きてける気がしねえんだ」
今俺が生きていられるのは誰のおかげだろうか。
今俺の命を繋ぎ止めてくれているのは誰だろうか。
それは間違いなくエルのおかげだ。
もしそのエルがいなくなれば、多分俺ももうそこにはいないのだと思う。
自分が地に足を付けて建てている光景がどうしても浮かんでこない。
誠一もどこかそれには感づいていたのか、俺の言葉に何か反論をぶつけてくる様な事は無かった。
だけどその代わりに少し間を空けてから誠一は語りだす。
「なあ、栄治。俺と茜はな、お前とエルを異世界に送るっていう結末にどうしても納得がいかねえんだ」
誠一が口にしたのは今から俺達がやろうとしている事を否定する言葉。
「納得いかねえって今更……仕方ねえだろ、それしかねえんだから」
「ああ、そうだ。今はそれしかない。俺達はそれ以外の選択肢を取る事ができない。だけどそれが分かっていてもやっぱりお前とエルは異世界に居るべきじゃないって思うんだ。お前たちの居るべき世界は紛れもなくこの世界なんだよ。誰が何と言おうとそれは否定させねえ」
そんな事は分かっている。
あんな世界が俺達の居るべき世界であってたまるか。少なくともエルは絶対にあの世界に居てはいけない。
ただ消去法的に、生きられる世界があの世界だけだった。ただそれだけなんだ。
態々言われなくても、そんな事は理解している。
だけど結果的に考えれば、俺の思考はそこで止まってしまっていたのだろう。
エルを救う。その為に異世界へと連れていく。そして何が何でもエルを守り抜く。
俺はもう多分その事しか考えていなかった。考えられなかったんだ。
だから誠一が何を言いたかったのかは良く分からなくて、その答えを口にするまではその片鱗すらも理解できない。
そしてそれが理解できない俺に誠一は答えを告げる。
「だからいずれこっちの世界の問題全部解決してお前ら二人迎えに行く」
「……ッ!」
「理不尽に弾かれたお前らを元の居場所に引きずり戻すんだ」
俺の考えは自分の目の届く範囲だけで完結していた。
異世界へと渡ればもうそこで生きる事しか考えないと。そこで目に映る光景の事しか考えないと、そう思ってた。
だけど俺が異世界へと渡ろうと、この世界でも平等に時間は進む。
その時間の中に俺の親友はいる。
俺の目の届かない所で必死に戦ってくれる親友が居る。
俺がそこで終わりだと思っていた一つの大きな流れは、まだ何も終わりはしないんだ。
「悪いが俺と茜で勝手に決めさせてもらった。どうだ? うまくやれりゃ完璧なハッピーエンドだろ」
そしてきっと誠一は笑って俺に言ってくれた。
「だから今生の別れなんか言うな。全部終わったらラーメンだ。絶対にお前の奢りで食いに行く。エルと茜も連れていって、その後も楽しくやろう。マジで完璧すぎる大作戦だろこれ」
それはきっと誠一の理想で、そして俺の思い描く理想だった。
誠一のやろうとしている事。それはきっと途方もない程困難な事は分かる。
それを達成する為の策が何かあるのかは分からない。だけどきっと今の現状でそれが見えていないであろう事は流石に分かった。
だけど……少し心は晴れた。
「どうよ?」
「いいな、それ。だったらラーメン屋とかその他色々、大作戦ついでに開拓しといてくれ。楽しみにしとく」
「ああその辺は任せろ。その辺含めての作戦だ。最後まで完遂するさ」
例え今何も見えていなくても目の前の親友ならば、きっとどうにかなると、根拠なんてどこにもないけどそう思う事ができた。
だから、もう……大丈夫だ。
「まあ何するにしてもまずは目の前の事だ。とにかくエルを連れだすぞ」
「ああ。誠一も頼むぜ、俺の攻撃で気ぃ失ったりすんじゃねえぞ」
「馬鹿野郎。さっきも言ったが大丈夫だって。俺を誰だと思ってやがる」
「実質一人でカツアゲヤンキー五人ぶっ飛ばした化物。つーか、あの時お前魔術使ってたのか?」
「使う訳ねえだろ相手は一般人だ。あの程度なら魔術無しでも楽勝だっつーの」
「やべえ、俺の親友マジで最強すぎんだろ」
そんな会話をして、俺も自然と笑みを浮かばせた。
ああ、大丈夫だ。
何の根拠もないけれど、俺達は近い将来笑っていられる。
夢物語かもしれないけれど、それを現実にしていこう。
「じゃあその最強の親友が全力でサポートするんだ。勝つぞ!」
「おう!」
きっと今日俺の親友は、世界で最も大きな歯車を動かし始めた。
誠一を剣で薙ぎ払う……なんだそれ。
「マジな愚作じゃねえかよ……ふざけんなよお前」
「ふざけてなんかねえよ。無茶苦茶だとは思うがこれが多分一番の有効策だ。そこまでして初めて俺への警戒は解ける」
「だからってお前、エルを剣にしてる時の出力知ってんだろ。あんな力で凪ぎ払われたら普通に大怪我すんぞ」
「大怪我程度だろ」
誠一はそうあっけらかんとそう言うが、程度じゃない。
「……それ程度で片付けちゃいけねえだろ」
「いいんだよ別に」
誠一は一拍空けてから言う。
「寧ろお前はそうじゃないと駄目なんだよ」
「駄目って何がだよ何が良いってんだ! ダチ半殺しにする様な真似のどこがいい!?」
俺の問いに誠一は一拍空けてから言う。
「お前、今から異世界行くんだろ。話聞いただけで虫酸が走るようなひでえ世界に。そこでお前はどんな事をしてでもエルを守らなきゃいけない。なのにこの程度で躊躇ってたら守れるもんも守れなくなるぞ」
確かにもうあの世界に足を踏み入れれば、俺はどんな事をしてでもエルを守るつもりだ。
「だけど……だからと言って超えちゃいけない一線ってのはあるだろ」
「まあそうだな。そんでお前がこの作戦を超えちゃいけない一線だって思ってるんなら……心配しろ、超えない」
「超えるだろ」
「超えねえよ。超えさせねえ」
そして誠一は俺に自信ありげに言う。
「少なくとも天野さんの攻撃を数発捌ける位には、身の守りだけは自信あんだよ。ちゃんと攻撃に無事耐えて、最終的に行動に移せる位には守りきれる事を見越してこの作戦を立てた。だからお前の半殺しって表現は流石に俺の事舐め過ぎだ。たかが大怪我程度で済ませてやる」
「……」
「大丈夫だ信用してくれ、俺の事。ダチだろ」
「……分かった」
誠一の策を肯定してよかったのかと聞かれれば、多分それはしては行けない事だったのかもしれない。
やっぱり冷静に考えなくても、親友にそういう攻撃を浴びせる事は正気の沙汰とは思えない。絶対に振るってはいけない力だ。
だけどそれでもエルを救う為には何かしらの策が必要で、現状策はそれしかなくて。
そしてエルを除けば俺が一番信頼できる相手が大丈夫だと言った。
自分が犠牲になる作戦でそこまで強く説得して大丈夫だと、信頼してくれと言ってくれた。
だったらこれ以上否定することは、エルを見捨てる様な行動であると同時に、親友に対する侮辱にも思えてくる。
だから、肯定した。
それは間違いなのかもしれないけれど。
「よし、成立だ。絶対手ぇ抜くなよ」
「ああ」
そういう風に俺達の作戦は決まった。
そこからは素人二人組による三文芝居の打ち合わせを行い、それが終われば後は心の準備をするだけとなる。
そしてそんな中で俺は誠一に絶対に言っておかなければならない事を言っておくことにした。
「誠一」
「どした?」
「その……なんつーか、今までありがとな」
誠一には出会ってから世話になりっぱなしだった。
「俺が異世界に飛ばされる前から、戻ってから今日に至るまで。お前には本当に世話になりっぱなしだったからな。それには感謝しかねえんだ。だから今まで本当にありがとう」
「……」
誠一は俺の感謝の言葉を聞いて暫く黙り込んだ後、俺に問いかけてきた。
「お前、何で今生の分かれみたいな言い方してんだ。つーかラーメン奢る約束はどうなってんだ。まさか忘れたとは言わせねえぞ」
「それに関しちゃ悪いとは思うけど……でも実際に今生の分かれみたいなもんだろ」
俺はこの先の事を考えながら誠一に言う。
「エルはこの世界でまともに生きられない。だから異世界に行けばもう俺達が戻ってくる事は無い。それにもし今回の作戦が失敗してエルがいなくなる様な事になれば……情けねえ話だけど、俺はもう生きてける気がしねえんだ」
今俺が生きていられるのは誰のおかげだろうか。
今俺の命を繋ぎ止めてくれているのは誰だろうか。
それは間違いなくエルのおかげだ。
もしそのエルがいなくなれば、多分俺ももうそこにはいないのだと思う。
自分が地に足を付けて建てている光景がどうしても浮かんでこない。
誠一もどこかそれには感づいていたのか、俺の言葉に何か反論をぶつけてくる様な事は無かった。
だけどその代わりに少し間を空けてから誠一は語りだす。
「なあ、栄治。俺と茜はな、お前とエルを異世界に送るっていう結末にどうしても納得がいかねえんだ」
誠一が口にしたのは今から俺達がやろうとしている事を否定する言葉。
「納得いかねえって今更……仕方ねえだろ、それしかねえんだから」
「ああ、そうだ。今はそれしかない。俺達はそれ以外の選択肢を取る事ができない。だけどそれが分かっていてもやっぱりお前とエルは異世界に居るべきじゃないって思うんだ。お前たちの居るべき世界は紛れもなくこの世界なんだよ。誰が何と言おうとそれは否定させねえ」
そんな事は分かっている。
あんな世界が俺達の居るべき世界であってたまるか。少なくともエルは絶対にあの世界に居てはいけない。
ただ消去法的に、生きられる世界があの世界だけだった。ただそれだけなんだ。
態々言われなくても、そんな事は理解している。
だけど結果的に考えれば、俺の思考はそこで止まってしまっていたのだろう。
エルを救う。その為に異世界へと連れていく。そして何が何でもエルを守り抜く。
俺はもう多分その事しか考えていなかった。考えられなかったんだ。
だから誠一が何を言いたかったのかは良く分からなくて、その答えを口にするまではその片鱗すらも理解できない。
そしてそれが理解できない俺に誠一は答えを告げる。
「だからいずれこっちの世界の問題全部解決してお前ら二人迎えに行く」
「……ッ!」
「理不尽に弾かれたお前らを元の居場所に引きずり戻すんだ」
俺の考えは自分の目の届く範囲だけで完結していた。
異世界へと渡ればもうそこで生きる事しか考えないと。そこで目に映る光景の事しか考えないと、そう思ってた。
だけど俺が異世界へと渡ろうと、この世界でも平等に時間は進む。
その時間の中に俺の親友はいる。
俺の目の届かない所で必死に戦ってくれる親友が居る。
俺がそこで終わりだと思っていた一つの大きな流れは、まだ何も終わりはしないんだ。
「悪いが俺と茜で勝手に決めさせてもらった。どうだ? うまくやれりゃ完璧なハッピーエンドだろ」
そしてきっと誠一は笑って俺に言ってくれた。
「だから今生の別れなんか言うな。全部終わったらラーメンだ。絶対にお前の奢りで食いに行く。エルと茜も連れていって、その後も楽しくやろう。マジで完璧すぎる大作戦だろこれ」
それはきっと誠一の理想で、そして俺の思い描く理想だった。
誠一のやろうとしている事。それはきっと途方もない程困難な事は分かる。
それを達成する為の策が何かあるのかは分からない。だけどきっと今の現状でそれが見えていないであろう事は流石に分かった。
だけど……少し心は晴れた。
「どうよ?」
「いいな、それ。だったらラーメン屋とかその他色々、大作戦ついでに開拓しといてくれ。楽しみにしとく」
「ああその辺は任せろ。その辺含めての作戦だ。最後まで完遂するさ」
例え今何も見えていなくても目の前の親友ならば、きっとどうにかなると、根拠なんてどこにもないけどそう思う事ができた。
だから、もう……大丈夫だ。
「まあ何するにしてもまずは目の前の事だ。とにかくエルを連れだすぞ」
「ああ。誠一も頼むぜ、俺の攻撃で気ぃ失ったりすんじゃねえぞ」
「馬鹿野郎。さっきも言ったが大丈夫だって。俺を誰だと思ってやがる」
「実質一人でカツアゲヤンキー五人ぶっ飛ばした化物。つーか、あの時お前魔術使ってたのか?」
「使う訳ねえだろ相手は一般人だ。あの程度なら魔術無しでも楽勝だっつーの」
「やべえ、俺の親友マジで最強すぎんだろ」
そんな会話をして、俺も自然と笑みを浮かばせた。
ああ、大丈夫だ。
何の根拠もないけれど、俺達は近い将来笑っていられる。
夢物語かもしれないけれど、それを現実にしていこう。
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