人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

13 精霊術とスキンシップ

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「とりあえず此処使っていいから」

「了解……広いな」

「基本私達のグループが使ってる所だからね。それ相応の広さは確保しているよ」

 案内されたそこそこ広い木造建築の小屋はそれこそ雑魚寝で30人くらい寝れるんじゃないかってくらいの広さを確保していた。

「……つーか森の中にこんな規模の建設物が乱立してるのにすげえ違和感感じるの俺だけ?」

 正直、こんなのその手の業者に頼りでもしなければ作れないんじゃないかなって思うんだけども。

「まあ私達も驚いたよ」

 そう言った上でハスカは言う。

「でもまあ別に精霊術ってのはみんなが皆戦いに長けている訳じゃないから。これだけの頭数が揃えば何かを作るための精霊術を使える子だっているよ」

「……ちょっと待て。何かを作るための精霊術? なんだよそれ」

「例えば限られた資材で必要な何かを作るためのプロセスを導きだしたりとか……物の構造を調べたりとか」

「……」

 それはあまりに都合がよくて便利で……きっと人間にとって非常に利用価値がある精霊術だと思った。
 ……イルミナティの連中の話で、精霊が本当に人間の資源として生まれてくる事を聞いて……それは否定したい事なのだけれど。
 ……その力はあまりにも人間の道具にされる。下手したらそれに特化した力に思えて……酷くやるせない。

「……エイジさん?」

「……いや、なんでもない」

 なんでもなくはない。なんでもなくはないさ。
 だけどやっぱり何も言えなくて。精霊の存在理由が本当だろうが嘘だろうが、それに繋がる話なんて精霊の前で言える筈がない。
 エルの前で言える筈がない。
 やっぱりこれは俺達まともな人間の中に閉まっておくべきだ。
 ……いや、俺がまともなんて言ったら一緒にされた誠一や宮村に悪いか。

「で、なんかこう……すげーのな。ほんと、精霊術って言えば戦う力のイメージしかなかったからさ」

 嫌な思考から逃れるために話の起動を戻す。

「お前らの中でもなんかそう言う力使える奴っていたりすんのか?」

 俺がそう問いかけると、集団の中ですっと手が上げられる。

「お前か……」

 俺が助けた精霊の中でまともに会話できたハスカと同等かそれ以上に印象に残っている精霊。
 むっちゃくちゃ馬車の運転が荒い、走り屋みたいな低身長の精霊。

「一体どんな精霊術が使えるんだ?」

「……」

「……」

 返事がない。

「おーい。聞いてる?」

 俺の言葉に頷いてくるが、やはり返事がない。
 しかしながら動きはあった。

「……」

 無口で無表情で、それでも機敏な動きでシュバババってジェスチャーをしてくるが何一つ伝わってこない。

「……」

 なんか微妙にドヤ顔している気がするけど、さっぱり伝わってないからな? 何にドヤってるのか全然わかんねえからな?

「……エル、お前分かるか?」

「なんで私が分かると思ったんですか。分かるわけないですよ」

「いや、なんかこう……精霊にしか伝わらない何かかなって。ほら、人間でいう手話みたいな」

「あんな機敏で激しい手話実用性無さすぎるでしょ。絶対こちらの意図ねじまがって伝わりますよ」

「……確かに」

 確かに奇抜な動きでされてる時点で、変な印象しか持たないよね。絶対もっとこじんまりした感じの方がいいよね。せめてこう、野球のサインくらい落ち着かせないと。もう半分ダンスじゃねえか。

「この子無口な上にジェスチャー下手くそだから、正直私達もなに考えてんのかよく分かんないんだけどさ」

「待ってください。ナチュラルに酷いこと言ってませんか?」

「……」

「あ、でも気にしてなさそうじゃね?」

「それすら判断つかないんですけど……」

「……気にする。みんな失礼」

「しゃ、しゃべった!?」

「声聞いたの二週間ぶりなんだけど!?」

 周囲の精霊がざわめきだす。
 驚きようがすげえんだけど、どんだけ無口キャラ貫いてんだこの子。

「ぼ、僕初めて声聞きました!」

「あ、アタシも聞いたこと無かったかも」

「これはアレね。雨が降る! 雪が降る! 星が降る! すっごい流れ星じゃん!」

「……しゃべるよわたしも。とってもしゃべるよ。みんな失礼」

「とっても喋るようならコイツらこんな反応しねえと思うんだけど……」

 だってみんなガチで驚いてんだけど。
 ……まあいいや。

「で、お前はどんな精霊術を使えるんだ?」

「……調べる。物の構造とか。そこからいろいろ割りだす」

 ぼそっと呟く様にそう言う。
 どうやらまさしくハスカが例に出したような精霊術らしい。
 まあなんというか、会話が成立してよかった。
 ……アイラも無口っぽく感じたけど、なんかこの子そのレベルじゃなさそうだからな……なかなかどう接して良いかも分からないし。
 とりあえず、せっかく話してくれたんだからなんか言っておこう。

「それってつまり、見たことねえ物とかもどういうものか分かったりするんだろ? すげえじゃん」

「……」

 俺がそう言うと若干ドヤ顔になる。なんか本当にこう……不思議な感じの子だ。

「じゃあアレだな。お前俺の世界の物とか見ても使い方一発で分かっちまう感じか。持ってこれるならなんか持って来ればよかったな」

「……エリス」

「え?」

 突然脈略ない事を言いだして思わず聞き返すと、再びボソリと精霊は呟く。

「……私の名前。お前ってなんかやだ」

「お、おう。そうか。エリスね、エリス。覚えた覚えた」

 どうやら彼女なりの自己紹介だったらしい。
 ……うん、中々コミュニケーションが難しいなこの子。というかそれなりに喋るなこの子。
 と、そう思っていた時だった。

「……そう言えばちゃんと言ってなかった」

 そう言ってきたエリスが……なんか抱き付いてきた。

「……え、ちょ……え?」

「……助けてくれてありがとう」

 そう言えばハスカを除けば此処に居る精霊からそういう言葉を掛けられていなかったな。
 まあそれは別にいいのだけれど、言われたら言われたで嬉しい。

「……どういたしまして」

 だからまあ色々とツッコみたい所もあったけど別にいいかなって、そう思った……そのはどうやら俺だけだったらしい。

「ちょ、ちょっと何してるんですか!」

 俺以上になんか驚いていたのはエルだった。

「……すきんしーっぷ」

「スキンシップって……というかなんでエイジさんもまんざらでもなさそうな顔してるんですか!」

「え? いや、なんか普通に嬉しいなーって」

 感謝されるためにやったんじゃないし、エルを巻き込んだ戦いにしてしまった以上誇れる事では無く寧ろ咎められる様な案件だったのかもしれないけれど。それでも感謝されるのは悪い気分じゃ無くて、純粋に嬉しいんだ。
 だけど俺の素直な回答に対し、エルはジト目で言ってくる。

「……エイジさんのばーか」

「え? なんで!?」

 何故そんな不機嫌に……というか今まででそんな事言われたの初めてなんだけど!? どういう状況これ!?

「あの子があんなに喋ってるの初めてみた」

「どういう状況これ?」

 他の精霊達も俺とは違う事に疑問を感じてるみたいで、なんかこう……色々と訳の分からない空間が出来上がってる気がする。どういう状況これ!?
 そんな中でやっぱり不機嫌そうなエルがハスカに問いかける。

「ちなみにさっきの話を纏めると、此処は皆さんが使ってる寝床という事でよかったですかね?」

「そうなるね」

「分かりました」

 そう言うとエルは俺の腕を掴む。

「エイジさん、そろそろ休んだらどうですか? というか休みましょう。ほら、エリスさんも離れてください」

「……」

「なんでそんな不服そうな顔するんですか。以外に表情豊かですね」

 ……確かに。
 まあそれでも俺からエリスが離れた後、エルになんか強めに引っ張られる。

「ほら、エイジさん。隅っこの方に行きましょう。隅っこの方に」

「お、おう」

 そうして俺はエルに連れていかれる形で、エリスやハスカ達から離れていく。
 離れていく中、視界の先で色々と納得がいったようにハスカがポンと手のひらに拳を置く。
 ……なに納得いったのか知らないけど、ちょっと教えてくれないかな。ジェスチャーでいいから。

 ……とにかく色々と、どういう状況だコレ。 
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