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七章 白と黒の追跡者
17 戦ってもいい理由を
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あれからしばらくして日も上がると、殆どの精霊が目を覚まして外に出てきた。
となれば当然色々と複雑な視線が多く向けられる訳で、正直小屋の中に引き籠っていたほうが精神衛生上よろしい気がしなくもない。
……特に露骨に嫌悪感に溢れた視線を向けてくる精霊もいるわけだし。遠くに居たポニーテールの精霊なんかが特にそうだ。
そしてそうした精霊の視線を少しでも改善する方法が何かと聞かれたら、そりゃ分かれば苦労しないのだけれど、それでも一つ少しでもマシになるのではないかという案がある。
もっともそうした意図もあれど、そういう打算無しでもやらないといけない事だ。
「とりあえずその警備って奴、俺も手伝うよ」
「お世話になりっぱなしってわけにもいきませんからね」
俺達はハスカ達にそう志願する。
どうやら今日の午後からハスカ達が警備担当となるらしい。
だとすれば色々な打算がなかったとしても、既に此処に来て色々世話になってしまっているのだから、手伝う位はしないといけない。
……まあそんな当然の事すら考えなかったとしても、ついていかないと俺達此処で孤立するからやらざるを得ないんだけど。
「アンタ達がその気ならそうしてくれると助かるよ。アンタ達がいれば文字通り百人力だから。もし何かあったって多分どうにかできるだろうし」
……ハスカがそう言うが、正直それは期待しすぎだとは思う。
文字通り百人力って……流石にそんな力はねえよ。俺達の力を合わせたって、できる事には限度がある。
だけどそれでも、その期待に少しでも答えたいとは思うけど。
……しかし、もしそれを全力で振るわざるをえない状況になったとすれば。今まで辛うじて潜り抜けてこれた様な死線が広がっている事が分かってしまえば。果たして俺は本当に戦うべきなのだろうか?
戦う。それは即ちエルを戦いに巻き込む事になるのだから。
だとすれば……そうなってしまえば、果たして自分達が一体どうしてこの場所に身を寄せているのかが分からなくなる。
……本当に、もしそうなった時。俺は一体どうすればいい。
他の精霊はともかく、もう決して他人ではないハスカ達の前で、俺は一体どう振舞えばいい。
「まあ百人力とまではいかねえだろうけど、やれるだけはやってみるよ」
そんな自分の中の考えを悟られないように、顔に出てしまわないようにしながら、俺はそんな事を口にする。
そのやれるだけの先の事が自分でも不明確なまま。
「ありがと。でもまあまだ時間はあるから。それまでゆっくりしてなよ。コーヒーでも飲む? ブラックで」
「お前どんだけ仲間がいて嬉しいんだよ……」
できればその答えが出てしまうような状況にならないように祈りながら。
だけど果たして俺の祈りなんてのは、一度でもまともな形で叶えられた事があっただろうか。
次の瞬間、場の空気が一気に変わってしまった。
「みんな、大変だ!」
突然辺りにそんな声が響いた。
何事かと全員が声の主の方に視線を向ける。
「……確か午前中の担当の子っすよあの子」
近くに座っていたちょっと口調に謎の後輩っぽさを感じる精霊、アリスがその精霊を見てそう呟く。
……嫌な予感がした。
警備担当の精霊が時間前この場に戻ってくるという事は、その精霊が言った通り大変な事が起きたからに違いない。
そしてこの場所において大変な事と言えば、大体想像がついた。
「人間の集団が森の入口付近にまで来てる!」
「……ッ!」
その言葉を口にした瞬間、この場の精霊たちが騒めきだす。
ちょっと待て。態々こんな風に慌てて報告入れに来るって、どんな規模で来てんだ!?
「数は!?」
別のグループと談笑……というか少しでも俺が受け入れられるように他のグループに話をしていたらしいレベッカが声を上げてその精霊の元へと駆け寄る。
「集団って一体どんな規模で来てんの!?」
「え、えっと、ドール化した精霊含めてざっくり100人以上です!」
その言葉に周囲の精霊の騒めきが強くなる。
100人以上ってそんなの……。
「……完全に偶然辿りついたって感じじゃなさそうですね」
「ああ。間違いなくこの場所に何かしらの目的を見出して来てんだろ」
向こうにおそらく協力的な精霊がいないであろう事を考えるとそういう事になる。
その理由までは断言できないけれど、精霊の狩場として目を付けたのか、それとも違う理由か。
ともあれそれがこの場所にとっての大きな危機である事に違いは無い。
そしてその場に居る精霊全員もこの状況が緊急事態であると認識したらしい。
そうなった時にどうするのか事前に打ち合わせをしてあるのか、誰かが指示するまでもなくそれぞれが動きだそうとしているのが分かった。
そしてそれはハスカ達も例外では無い。
動きだそうとしているハスカ達に問う。
「これからどうするんだ!?」
「精霊総出で迎撃態勢を取る。流石にそれだけの規模だと警備担当の精霊だけじゃ話にならないからね……とりあえずは打ち合わせ通りに陣形を展開する。アンタ達は……」
ハスカはそこで言いにくそうに言葉を貯めた後、俺達に告げる。
「……もし、もう一度私達を助けてくれるなら、一緒に着いてきてほしい」
多分先程の警備の話をしている時と違い、ここで行動を共にするというのはほぼ確実に戦闘に参加するという事になる。
だからこそハスカの言葉は重く、そして俺の精神も揺らぐ。
その人数相手に本当に戦ったとして。前衛として正面に躍り出たとして。
その時エルは俺と一緒に戦う事になるだろう。きっと俺一人で戦うと言ってもエルはついてくるから。ついてきてくれるから。
……そしてそれはつまり、そんな場所にエルを連れていく事になるという最悪なケースで。
そういった戦いから身を遠ざける為に此処にいる筈で。
もしエルの事を最優先で考えれば、俺はエルを連れてこの場から逃亡を図るべきなのかもしれない。
それが正解なのかもしれない。
「……分かった。俺も戦う」
それでも俺は一拍空けてからその言葉に頷いた。
結局、この場所を失ってしまえば俺達に行く当てなんてない。大きなリスクはあれどこの場所は死守するべきなんだ。
俺達がこの先、生き残るためにも。
だけど。
分かってる。分かってしまった。
そのもっともらしい理由は、なんとか絞り出した答えだという事を。
信頼を向けてくれて受け入れてくれたレベッカやハスカ達の為に、戦ってもいい理由を探していた事を。
結局、エルの為に無関係な人間を切り捨てるような明らかに間違った選択を取る事ができても、無関係ではない人間や精霊は切り捨てる事はしようとしない。
そんなどうしようもなく弱い自分が根を強く張っていた事を。
そしてそんな俺の言葉にエルは俺に視線を向けた後、当たり前の様に頷いた後ハスカに向けて言う。
「私もエイジさんと同じです。ハスカさん達にだけ戦わせるわけにはいきませんから」
まるで俺の意思を代弁するように。
結果的に他の精霊を助ける為にエルを危険に晒そうとしている俺の言葉を肯定するように。
「……助かるよ、本当に」
そして俺達の言葉を聞いたハスカは申し訳なさそうにそう言った後、踵を返す。
「じゃあ私達についてきて」
そしてハスカを先頭に周囲の皆がその場から移動を始める。
「私達もいきましょう、エイジさん」
「あ、ああ」
そして俺達もそれに続くように動きだす。
自分でも整理できない様な、複雑な感情を抱いたまま。
そして動きだしてすぐに、視界の先に違和感を感じた。
精霊が三人程。こちらに向かって歩いてくるのだ。
俺達の進路を塞ぐように、ポニーテイルの精霊とその取り巻きが。
「……ルナリア」
エルがその声音にほんの少しの嫌悪感を混ぜて、おそらくその精霊の名前であろう言葉を呟く。
そして次の瞬間だった。
ルナリアの手に氷の刃が現れたかと思うと、それは勢いよく射出される。
明確に俺を狙って。
「……ッ!?」
そして放たれた氷の刃を俺はサイドステップで回避する。
そしてエルが俺を守るように俺の前に現れて構えを取り、ハスカ達もその場に立ち止る。
そしてハスカが声を上げる。
「ちょ、こんな時に何やって――」
「お前だろ!」
ハスカの声を掻き消す様にルナリアは叫んで、自身の周囲に無数の氷の刃を出現させながら、酷く冷たい声でルナリアは言う。
「お前がスパイで外の人間を呼び寄せたんだろ!?」
そんな根も葉もない。
だけど人間が精霊を利用しようとして訪れた理由としては充分すぎる程の言葉を。
敵意と殺意を言葉に乗せて、そして再び俺に向けて氷の刃は放たれた。
となれば当然色々と複雑な視線が多く向けられる訳で、正直小屋の中に引き籠っていたほうが精神衛生上よろしい気がしなくもない。
……特に露骨に嫌悪感に溢れた視線を向けてくる精霊もいるわけだし。遠くに居たポニーテールの精霊なんかが特にそうだ。
そしてそうした精霊の視線を少しでも改善する方法が何かと聞かれたら、そりゃ分かれば苦労しないのだけれど、それでも一つ少しでもマシになるのではないかという案がある。
もっともそうした意図もあれど、そういう打算無しでもやらないといけない事だ。
「とりあえずその警備って奴、俺も手伝うよ」
「お世話になりっぱなしってわけにもいきませんからね」
俺達はハスカ達にそう志願する。
どうやら今日の午後からハスカ達が警備担当となるらしい。
だとすれば色々な打算がなかったとしても、既に此処に来て色々世話になってしまっているのだから、手伝う位はしないといけない。
……まあそんな当然の事すら考えなかったとしても、ついていかないと俺達此処で孤立するからやらざるを得ないんだけど。
「アンタ達がその気ならそうしてくれると助かるよ。アンタ達がいれば文字通り百人力だから。もし何かあったって多分どうにかできるだろうし」
……ハスカがそう言うが、正直それは期待しすぎだとは思う。
文字通り百人力って……流石にそんな力はねえよ。俺達の力を合わせたって、できる事には限度がある。
だけどそれでも、その期待に少しでも答えたいとは思うけど。
……しかし、もしそれを全力で振るわざるをえない状況になったとすれば。今まで辛うじて潜り抜けてこれた様な死線が広がっている事が分かってしまえば。果たして俺は本当に戦うべきなのだろうか?
戦う。それは即ちエルを戦いに巻き込む事になるのだから。
だとすれば……そうなってしまえば、果たして自分達が一体どうしてこの場所に身を寄せているのかが分からなくなる。
……本当に、もしそうなった時。俺は一体どうすればいい。
他の精霊はともかく、もう決して他人ではないハスカ達の前で、俺は一体どう振舞えばいい。
「まあ百人力とまではいかねえだろうけど、やれるだけはやってみるよ」
そんな自分の中の考えを悟られないように、顔に出てしまわないようにしながら、俺はそんな事を口にする。
そのやれるだけの先の事が自分でも不明確なまま。
「ありがと。でもまあまだ時間はあるから。それまでゆっくりしてなよ。コーヒーでも飲む? ブラックで」
「お前どんだけ仲間がいて嬉しいんだよ……」
できればその答えが出てしまうような状況にならないように祈りながら。
だけど果たして俺の祈りなんてのは、一度でもまともな形で叶えられた事があっただろうか。
次の瞬間、場の空気が一気に変わってしまった。
「みんな、大変だ!」
突然辺りにそんな声が響いた。
何事かと全員が声の主の方に視線を向ける。
「……確か午前中の担当の子っすよあの子」
近くに座っていたちょっと口調に謎の後輩っぽさを感じる精霊、アリスがその精霊を見てそう呟く。
……嫌な予感がした。
警備担当の精霊が時間前この場に戻ってくるという事は、その精霊が言った通り大変な事が起きたからに違いない。
そしてこの場所において大変な事と言えば、大体想像がついた。
「人間の集団が森の入口付近にまで来てる!」
「……ッ!」
その言葉を口にした瞬間、この場の精霊たちが騒めきだす。
ちょっと待て。態々こんな風に慌てて報告入れに来るって、どんな規模で来てんだ!?
「数は!?」
別のグループと談笑……というか少しでも俺が受け入れられるように他のグループに話をしていたらしいレベッカが声を上げてその精霊の元へと駆け寄る。
「集団って一体どんな規模で来てんの!?」
「え、えっと、ドール化した精霊含めてざっくり100人以上です!」
その言葉に周囲の精霊の騒めきが強くなる。
100人以上ってそんなの……。
「……完全に偶然辿りついたって感じじゃなさそうですね」
「ああ。間違いなくこの場所に何かしらの目的を見出して来てんだろ」
向こうにおそらく協力的な精霊がいないであろう事を考えるとそういう事になる。
その理由までは断言できないけれど、精霊の狩場として目を付けたのか、それとも違う理由か。
ともあれそれがこの場所にとっての大きな危機である事に違いは無い。
そしてその場に居る精霊全員もこの状況が緊急事態であると認識したらしい。
そうなった時にどうするのか事前に打ち合わせをしてあるのか、誰かが指示するまでもなくそれぞれが動きだそうとしているのが分かった。
そしてそれはハスカ達も例外では無い。
動きだそうとしているハスカ達に問う。
「これからどうするんだ!?」
「精霊総出で迎撃態勢を取る。流石にそれだけの規模だと警備担当の精霊だけじゃ話にならないからね……とりあえずは打ち合わせ通りに陣形を展開する。アンタ達は……」
ハスカはそこで言いにくそうに言葉を貯めた後、俺達に告げる。
「……もし、もう一度私達を助けてくれるなら、一緒に着いてきてほしい」
多分先程の警備の話をしている時と違い、ここで行動を共にするというのはほぼ確実に戦闘に参加するという事になる。
だからこそハスカの言葉は重く、そして俺の精神も揺らぐ。
その人数相手に本当に戦ったとして。前衛として正面に躍り出たとして。
その時エルは俺と一緒に戦う事になるだろう。きっと俺一人で戦うと言ってもエルはついてくるから。ついてきてくれるから。
……そしてそれはつまり、そんな場所にエルを連れていく事になるという最悪なケースで。
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もしエルの事を最優先で考えれば、俺はエルを連れてこの場から逃亡を図るべきなのかもしれない。
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信頼を向けてくれて受け入れてくれたレベッカやハスカ達の為に、戦ってもいい理由を探していた事を。
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そんなどうしようもなく弱い自分が根を強く張っていた事を。
そしてそんな俺の言葉にエルは俺に視線を向けた後、当たり前の様に頷いた後ハスカに向けて言う。
「私もエイジさんと同じです。ハスカさん達にだけ戦わせるわけにはいきませんから」
まるで俺の意思を代弁するように。
結果的に他の精霊を助ける為にエルを危険に晒そうとしている俺の言葉を肯定するように。
「……助かるよ、本当に」
そして俺達の言葉を聞いたハスカは申し訳なさそうにそう言った後、踵を返す。
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そしてハスカを先頭に周囲の皆がその場から移動を始める。
「私達もいきましょう、エイジさん」
「あ、ああ」
そして俺達もそれに続くように動きだす。
自分でも整理できない様な、複雑な感情を抱いたまま。
そして動きだしてすぐに、視界の先に違和感を感じた。
精霊が三人程。こちらに向かって歩いてくるのだ。
俺達の進路を塞ぐように、ポニーテイルの精霊とその取り巻きが。
「……ルナリア」
エルがその声音にほんの少しの嫌悪感を混ぜて、おそらくその精霊の名前であろう言葉を呟く。
そして次の瞬間だった。
ルナリアの手に氷の刃が現れたかと思うと、それは勢いよく射出される。
明確に俺を狙って。
「……ッ!?」
そして放たれた氷の刃を俺はサイドステップで回避する。
そしてエルが俺を守るように俺の前に現れて構えを取り、ハスカ達もその場に立ち止る。
そしてハスカが声を上げる。
「ちょ、こんな時に何やって――」
「お前だろ!」
ハスカの声を掻き消す様にルナリアは叫んで、自身の周囲に無数の氷の刃を出現させながら、酷く冷たい声でルナリアは言う。
「お前がスパイで外の人間を呼び寄せたんだろ!?」
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