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七章 白と黒の追跡者
20 歪の銃
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エルの言葉を受け入れたからか。それとも手を握ってもらえて落ち着いたのか。その両方か。
気が付けば手の震えがなくなって、少しだけ精神的に落ち着きを取り戻した気もした。
……本当にそうやって落着けて良かったと思う。
ただでさえ今から危険な戦いに臨まないといけないんだ。落ち着かず手が震えたままよりは、少しでも落着けていた方が良い。
多分それだけ生存率が上がる。より安全に状況を切り抜けられる可能性が上がるんだ。
「……そろそろですね」
「……ああ」
人間達が森の中を進んでいく。
おそらく後一分もせずに攻撃開始地点へと辿り着くだろう。
……そこへたどり着いたら遠距離からの先制攻撃の後、タイミングを見計らって切りこむ。
当然の事かどうかはともかく、自然な流れで俺は前衛となっている。
まあ遠距離攻撃の手段が風の塊を撃つか、斬撃を撃つかの二択に限られて、後衛からのサポートという慣れない仕事はやり方も良く分からないし、戦闘スタイルや肉体強化の出力を考えるとそれは至極真っ当な選択だ。
「……とりあえずもう準備しておこう」
「そうですね」
「じゃあ頼むぞ、エル」
「はい、エイジさん」
そんなやり取りを交わしてエルを剣の姿へと変えて……そして、今から戦う相手に改めて意識を向けた。
そして。そこまでして。
ようやく俺は目の前の人間の中に感じる違和感に気付いた。
「……なんだアレ」
思わず俺はそう呟いてしまった。
呟いて、そして嫌な予感がして全身に寒気が走る。
「どうかした?」
レベッカが俺の言葉に反応してそう問いかけてくる。
そして俺は目の前の人間達に指を向けて答える。
「あの武器……なんかおかしくないか?」
「武器?」
レベッカは一瞬首を傾げるが、それでも意識する様に視線を向けて、そして言う。
「……歪、だね」
「……ああ」
全員ではない。明確に確認できたのは一人。白衣の男だけ。
その白衣の男が持っていた武器が、あまりに歪だった。
形状はマスケット銃。
それはいい。ベースが何であるかなんてどうだっていい。
その銃のデザインが、どこか歪だった。
それは精霊術で作り出したとも思えない。
はたまた人間の技術で作られた商品の様にも思えない。
そんな荒々しく、無理やりそういう形状を作ったと言わんばかりの歪な形状。
「でもデザインだけじゃない? ただ趣味の悪い武器」
「……だといいんだけど」
そう言って。だけどまだそうじゃない場合の事が何かなんて事には気付かなくて。
走った悪寒の正体に気付かなくて。
その時だった。
白衣の男が銃口をとある方向へと向けた。
その先にあるのは精霊達の部隊の一角。人間を扇状に囲む作戦の左方を担当する精霊達の定位置だった。
そして、なにかその銃口に光の粒子が集まっているような、そんな様子が見えて。
それが今まで漫画やアニメで見た光景に結びつくように、その先に何が起きるのかを直感的に理解させて……そして同時に、先程からの寒気の原因が分かった。
分かってしまえば、もう黙ってなんていられない。
「む、向こうの連中を早く定位置から移動させろ!」
気が付けばレベッカに向けて叫び散らしていた。
「え、ちょ、いきなりなに!?」
「いいから早くしろ!」
「え、早くしろって、そもそもそんなのどうやって――」
俺が急に無茶を言って、その無茶にレベッカが対応できずに慌てた、そんな僅かな時間。
猶予期間はそれだけだった。
そんな、何もさせてもらえないような。何もできるわけがないような、そんな時間しかなかった。
次の瞬間、銃口から貯められたエネルギーを放出するように、エネルギー弾とでもいうべき何かが射出された。
そして……轟音と共に木々を薙ぎ払って、そして。
「……ッ!?」
地響きが鳴った。
そうさせるだけのエネルギーが、左方部隊の展開位置に着弾した。
「……え? うそ……」
レベッカが口にしたそんな言葉は、自然と漏れ出したという風で、驚愕を抑えられないという感じだった。
俺もその地点に視線を向けたまま、しばらく動けなかった。
分かっていた。レベッカに向けて声を上げた時点で何が行われるかは分かっていた筈だ。
それでも、立ち尽くした。
あの男の銃は市販の物でも軍用の物でもなく、そして精霊術によるものでもない。
アレは……きっと精霊だ。
あの力は……俺がエルを刀にしているのと、同じ力。
黒い刻印を刻むあの白衣の男が使える筈がない力。
「……」
本当に、それだけでも訳が分からなくて。
正直手一杯で。
なのに突きつけられた事実は山程あって。
まずはどのタイミングかは分からないが、攻撃を放った時点でこちらの精霊の位置情報を把握していたという事実。
そうでなければあんな方向を突然狙ったりしない。
そしてそれを知っているという事は、こちらの人数も把握されたという事になる。
そして……それにも関わらず。この人数差にも関わらず撃ってきた。
戦いを挑んできた。
そして……そして。その撃たれた攻撃が精霊を捕らえるためじゃない。完膚なきまでに叩き潰すなんて甘いものじゃない。確実に殺せるだけの威力を。俺がエルを大剣にして放てた全力の斬撃をも上回る破壊力を持っていたんだ。
それは即ち……今の一撃は精霊を殺す為の一撃で、その一撃で精霊に死人が出た可能性が非常に高いという事で。
そして。
敵の行動理由も。味方の安否も。本当に大切な情報だけは何もはいってこないまま。
他の人間達もその銃声を合図とばかりに動きだし、開戦する。
先制攻撃をする所か逆にされ、異常な出力に対し混乱に陥っているという酷い状況で。
『来ますよ! エイジさん!』
「クソ、何がどうなってやがんだ!」
人間と精霊の戦争が。
気が付けば手の震えがなくなって、少しだけ精神的に落ち着きを取り戻した気もした。
……本当にそうやって落着けて良かったと思う。
ただでさえ今から危険な戦いに臨まないといけないんだ。落ち着かず手が震えたままよりは、少しでも落着けていた方が良い。
多分それだけ生存率が上がる。より安全に状況を切り抜けられる可能性が上がるんだ。
「……そろそろですね」
「……ああ」
人間達が森の中を進んでいく。
おそらく後一分もせずに攻撃開始地点へと辿り着くだろう。
……そこへたどり着いたら遠距離からの先制攻撃の後、タイミングを見計らって切りこむ。
当然の事かどうかはともかく、自然な流れで俺は前衛となっている。
まあ遠距離攻撃の手段が風の塊を撃つか、斬撃を撃つかの二択に限られて、後衛からのサポートという慣れない仕事はやり方も良く分からないし、戦闘スタイルや肉体強化の出力を考えるとそれは至極真っ当な選択だ。
「……とりあえずもう準備しておこう」
「そうですね」
「じゃあ頼むぞ、エル」
「はい、エイジさん」
そんなやり取りを交わしてエルを剣の姿へと変えて……そして、今から戦う相手に改めて意識を向けた。
そして。そこまでして。
ようやく俺は目の前の人間の中に感じる違和感に気付いた。
「……なんだアレ」
思わず俺はそう呟いてしまった。
呟いて、そして嫌な予感がして全身に寒気が走る。
「どうかした?」
レベッカが俺の言葉に反応してそう問いかけてくる。
そして俺は目の前の人間達に指を向けて答える。
「あの武器……なんかおかしくないか?」
「武器?」
レベッカは一瞬首を傾げるが、それでも意識する様に視線を向けて、そして言う。
「……歪、だね」
「……ああ」
全員ではない。明確に確認できたのは一人。白衣の男だけ。
その白衣の男が持っていた武器が、あまりに歪だった。
形状はマスケット銃。
それはいい。ベースが何であるかなんてどうだっていい。
その銃のデザインが、どこか歪だった。
それは精霊術で作り出したとも思えない。
はたまた人間の技術で作られた商品の様にも思えない。
そんな荒々しく、無理やりそういう形状を作ったと言わんばかりの歪な形状。
「でもデザインだけじゃない? ただ趣味の悪い武器」
「……だといいんだけど」
そう言って。だけどまだそうじゃない場合の事が何かなんて事には気付かなくて。
走った悪寒の正体に気付かなくて。
その時だった。
白衣の男が銃口をとある方向へと向けた。
その先にあるのは精霊達の部隊の一角。人間を扇状に囲む作戦の左方を担当する精霊達の定位置だった。
そして、なにかその銃口に光の粒子が集まっているような、そんな様子が見えて。
それが今まで漫画やアニメで見た光景に結びつくように、その先に何が起きるのかを直感的に理解させて……そして同時に、先程からの寒気の原因が分かった。
分かってしまえば、もう黙ってなんていられない。
「む、向こうの連中を早く定位置から移動させろ!」
気が付けばレベッカに向けて叫び散らしていた。
「え、ちょ、いきなりなに!?」
「いいから早くしろ!」
「え、早くしろって、そもそもそんなのどうやって――」
俺が急に無茶を言って、その無茶にレベッカが対応できずに慌てた、そんな僅かな時間。
猶予期間はそれだけだった。
そんな、何もさせてもらえないような。何もできるわけがないような、そんな時間しかなかった。
次の瞬間、銃口から貯められたエネルギーを放出するように、エネルギー弾とでもいうべき何かが射出された。
そして……轟音と共に木々を薙ぎ払って、そして。
「……ッ!?」
地響きが鳴った。
そうさせるだけのエネルギーが、左方部隊の展開位置に着弾した。
「……え? うそ……」
レベッカが口にしたそんな言葉は、自然と漏れ出したという風で、驚愕を抑えられないという感じだった。
俺もその地点に視線を向けたまま、しばらく動けなかった。
分かっていた。レベッカに向けて声を上げた時点で何が行われるかは分かっていた筈だ。
それでも、立ち尽くした。
あの男の銃は市販の物でも軍用の物でもなく、そして精霊術によるものでもない。
アレは……きっと精霊だ。
あの力は……俺がエルを刀にしているのと、同じ力。
黒い刻印を刻むあの白衣の男が使える筈がない力。
「……」
本当に、それだけでも訳が分からなくて。
正直手一杯で。
なのに突きつけられた事実は山程あって。
まずはどのタイミングかは分からないが、攻撃を放った時点でこちらの精霊の位置情報を把握していたという事実。
そうでなければあんな方向を突然狙ったりしない。
そしてそれを知っているという事は、こちらの人数も把握されたという事になる。
そして……それにも関わらず。この人数差にも関わらず撃ってきた。
戦いを挑んできた。
そして……そして。その撃たれた攻撃が精霊を捕らえるためじゃない。完膚なきまでに叩き潰すなんて甘いものじゃない。確実に殺せるだけの威力を。俺がエルを大剣にして放てた全力の斬撃をも上回る破壊力を持っていたんだ。
それは即ち……今の一撃は精霊を殺す為の一撃で、その一撃で精霊に死人が出た可能性が非常に高いという事で。
そして。
敵の行動理由も。味方の安否も。本当に大切な情報だけは何もはいってこないまま。
他の人間達もその銃声を合図とばかりに動きだし、開戦する。
先制攻撃をする所か逆にされ、異常な出力に対し混乱に陥っているという酷い状況で。
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「クソ、何がどうなってやがんだ!」
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