人の身にして精霊王

山外大河

文字の大きさ
316 / 431
七章 白と黒の追跡者

20 歪の銃

しおりを挟む
 エルの言葉を受け入れたからか。それとも手を握ってもらえて落ち着いたのか。その両方か。
 気が付けば手の震えがなくなって、少しだけ精神的に落ち着きを取り戻した気もした。
 ……本当にそうやって落着けて良かったと思う。
 ただでさえ今から危険な戦いに臨まないといけないんだ。落ち着かず手が震えたままよりは、少しでも落着けていた方が良い。
 多分それだけ生存率が上がる。より安全に状況を切り抜けられる可能性が上がるんだ。

「……そろそろですね」

「……ああ」

 人間達が森の中を進んでいく。
 おそらく後一分もせずに攻撃開始地点へと辿り着くだろう。
 ……そこへたどり着いたら遠距離からの先制攻撃の後、タイミングを見計らって切りこむ。
 当然の事かどうかはともかく、自然な流れで俺は前衛となっている。
 まあ遠距離攻撃の手段が風の塊を撃つか、斬撃を撃つかの二択に限られて、後衛からのサポートという慣れない仕事はやり方も良く分からないし、戦闘スタイルや肉体強化の出力を考えるとそれは至極真っ当な選択だ。

「……とりあえずもう準備しておこう」

「そうですね」

「じゃあ頼むぞ、エル」

「はい、エイジさん」

 そんなやり取りを交わしてエルを剣の姿へと変えて……そして、今から戦う相手に改めて意識を向けた。
 そして。そこまでして。
 ようやく俺は目の前の人間の中に感じる違和感に気付いた。

「……なんだアレ」

 思わず俺はそう呟いてしまった。
 呟いて、そして嫌な予感がして全身に寒気が走る。

「どうかした?」

 レベッカが俺の言葉に反応してそう問いかけてくる。
 そして俺は目の前の人間達に指を向けて答える。

「あの武器……なんかおかしくないか?」

「武器?」

 レベッカは一瞬首を傾げるが、それでも意識する様に視線を向けて、そして言う。

「……歪、だね」

「……ああ」

 全員ではない。明確に確認できたのは一人。白衣の男だけ。
 その白衣の男が持っていた武器が、あまりに歪だった。
 形状はマスケット銃。
 それはいい。ベースが何であるかなんてどうだっていい。
 その銃のデザインが、どこか歪だった。
 それは精霊術で作り出したとも思えない。
 はたまた人間の技術で作られた商品の様にも思えない。
 そんな荒々しく、無理やりそういう形状を作ったと言わんばかりの歪な形状。

「でもデザインだけじゃない? ただ趣味の悪い武器」

「……だといいんだけど」

 そう言って。だけどまだそうじゃない場合の事が何かなんて事には気付かなくて。
 走った悪寒の正体に気付かなくて。

 その時だった。

 白衣の男が銃口をとある方向へと向けた。
 その先にあるのは精霊達の部隊の一角。人間を扇状に囲む作戦の左方を担当する精霊達の定位置だった。
 そして、なにかその銃口に光の粒子が集まっているような、そんな様子が見えて。

 それが今まで漫画やアニメで見た光景に結びつくように、その先に何が起きるのかを直感的に理解させて……そして同時に、先程からの寒気の原因が分かった。
 分かってしまえば、もう黙ってなんていられない。

「む、向こうの連中を早く定位置から移動させろ!」

 気が付けばレベッカに向けて叫び散らしていた。

「え、ちょ、いきなりなに!?」

「いいから早くしろ!」

「え、早くしろって、そもそもそんなのどうやって――」

 俺が急に無茶を言って、その無茶にレベッカが対応できずに慌てた、そんな僅かな時間。
 猶予期間はそれだけだった。
 そんな、何もさせてもらえないような。何もできるわけがないような、そんな時間しかなかった。

 次の瞬間、銃口から貯められたエネルギーを放出するように、エネルギー弾とでもいうべき何かが射出された。
 そして……轟音と共に木々を薙ぎ払って、そして。

「……ッ!?」

 地響きが鳴った。
 そうさせるだけのエネルギーが、左方部隊の展開位置に着弾した。

「……え? うそ……」

 レベッカが口にしたそんな言葉は、自然と漏れ出したという風で、驚愕を抑えられないという感じだった。
 俺もその地点に視線を向けたまま、しばらく動けなかった。
 分かっていた。レベッカに向けて声を上げた時点で何が行われるかは分かっていた筈だ。
 それでも、立ち尽くした。

 あの男の銃は市販の物でも軍用の物でもなく、そして精霊術によるものでもない。
 アレは……きっと精霊だ。
 あの力は……俺がエルを刀にしているのと、同じ力。
 黒い刻印を刻むあの白衣の男が使える筈がない力。

「……」

 本当に、それだけでも訳が分からなくて。
 正直手一杯で。

 なのに突きつけられた事実は山程あって。

 まずはどのタイミングかは分からないが、攻撃を放った時点でこちらの精霊の位置情報を把握していたという事実。
 そうでなければあんな方向を突然狙ったりしない。
 そしてそれを知っているという事は、こちらの人数も把握されたという事になる。
 そして……それにも関わらず。この人数差にも関わらず撃ってきた。
 戦いを挑んできた。

 そして……そして。その撃たれた攻撃が精霊を捕らえるためじゃない。完膚なきまでに叩き潰すなんて甘いものじゃない。確実に殺せるだけの威力を。俺がエルを大剣にして放てた全力の斬撃をも上回る破壊力を持っていたんだ。

 それは即ち……今の一撃は精霊を殺す為の一撃で、その一撃で精霊に死人が出た可能性が非常に高いという事で。

 そして。

 敵の行動理由も。味方の安否も。本当に大切な情報だけは何もはいってこないまま。
 他の人間達もその銃声を合図とばかりに動きだし、開戦する。
 先制攻撃をする所か逆にされ、異常な出力に対し混乱に陥っているという酷い状況で。

『来ますよ! エイジさん!』

「クソ、何がどうなってやがんだ!」

 人間と精霊の戦争が。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる

家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。 召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。 多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。 しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。 何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...