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七章 白と黒の追跡者
37 白髪を赤く染めて
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「なんだ今の光……ッ」
突然何の前触れもなく発せられた光に俺達は思わず身構えて振り返る。
ただ視界にその光の発生源は移らない。
俺達がひとまず辿りついたこの場所は、バイクで軽く走れる程度の獣道を通った先にあり、直線的な視界はお世辞にも良いとは言えない。だからその少なくとも自然現象で起きた物とは思えない光の正体を知るには近づいてみるしかない。
「……どうする? 何か調べとく?」
「……その方がいいだろ。こっちの状況が状況だ。俺達の敵になる様な奴が相手かもしれねえわけだし」
精霊か、人間か。おそらくそのどちらかがその光の発生源だ。
もしそれが人間なのだとすれば、迅速に対策を打たなければならないだろう。
一般人でも、指名手配犯が此処に来ている事がばれ、相手が憲兵とかだとすれば最悪だ。
まあいずれにせよ、何かが居る事は確定しているのだから、何もしない訳にはいかない。
「とりあえず俺が先に行く。レベッカは後から着いてきてくれ」
「いや、先にウチがいく。何かあっても今はウチの方が強いし」
「それでも頑丈なのは俺だ。俺なら最悪何か喰らっても一発位なら死なない自信がある」
「誇れるようにはなりたくない自信ね……っていうか喰らう事考えるなウチが先行く!」
「あ、おい!」
禍々しい雰囲気を纏ったレベッカが先に動きだした。
「……改めて見るとやっぱ早いなオイ」
今自分の味方をしてくれている精霊がどれだけ強いのかを再認識させられつつ、俺はレベッカを追い掛ける形で遅れて動きだし、獣道を外れた足場の悪い道を警戒しつつ進んでいく。
あれだけ強い光だったのだから、多分それ程遠くない筈だ。
そう思っていたら、目の前でレベッカが何かを見付けた様に立ち止っていた。
……立ち止り、立つ尽くしていた。
そしてそれは追いついた俺も変わらない。
「……ッ」
立ち尽くした俺は思わずその光景を見て俺は息を呑んだ。
目の前に広がっていた光景は一瞬思考を掻き消すだけの光景で。
きっと今目の前に広がっている筈の無い光景で。
そして、広がっていてはいけない光景で。
俺達の視界の先には人間が倒れていた。
右手の甲にドール化した精霊と契約を結んでいる事を示す黒い刻印を刻んでいる隻腕の少年が。
真っ白な白髪が赤く染まる程に、全身血塗れで、刻印がなければ生きているのかどうなのかも分からない様な状態の俺の恩人が。
「……シオン?」
シオン・クロウリーが、全身血塗れで目の前に倒れていた。
「シオン!」
俺は思わず無我夢中で駆け寄った。
そして明らかに意識を失っているシオンに対し、回復術を発動させる。
目の前のシオンの容体は文字通り、生きているのか死んでいるのかが刻印が刻まれていなければ分からない程の重体だ。
……俺の回復術で行けるか?
……そうだ。
「おいレベッカ! お前回復術は使えるか!」
俺よりも高出力を発揮できる可能性があるレベッカにそう問う為に、俺は背後にいるレベッカの方を向き声を掛ける。
……そう、その声を掛ける為に背後を振り向かなければならなかった。
「え……ぁ……なんで……」
レベッカは混乱した様にその場で立ち尽くしたままだった。
いや、それどころか一歩後ずさってさえいた。
無理もないのかもしれない。
レベッカにとってもシオンは恩人で。きっとレベッカにとって俺以上に信頼を置く様な相手の筈で。
そしてその相手がかつて自分がそうした様に、酷い怪我で死にかけている。
そんな、きっと生々しい光景をフラッシュバックさせる様な。
そうでなくても色々な感情がごちゃ混ぜになる様な。
目の前に広がっているのはそういう光景だ。
……だけどそんな感情を無理矢理揺さぶってでも動かせないといけない。
シオンの為にも。レベッカ自身の為にも。そのままにしておくわけにはいかない。
「おいレベッカ聞いてんのか!」
「……ッ」
ビクつくレベッカに俺は再び問いかける。
「お前回復術使えるか!?」
「あ、つ、使えない……」
混乱しながら。動揺しながらもレベッカはそう答えた。
……つまり助けが呼べない今、シオンをどうにかできるのは俺の回復術だけだ。
「レベッカは周囲の警戒を頼む! 何が起きてんのか全然分かんねえが、近くにヤバイ奴が潜んでるかもしれねえ!」
「わ、分かった!」
レベッカは尚も取り乱し気味でそう答え、そして俺に向けて言う。
「エイジ! その人の事お願い!」
そう言ったレベッカは禍々しい雰囲気を纏い続けたまま、辺りを警戒し始める。
そして俺は……目の前のシオンをどうにかする事に神経を集中させる事にした。
「……何があったんだよ、シオン」
意味が分からなかった。
シオンは俺と違って誰かに狙われる様な事になる様な奴ではなくて。今はあの金髪の精霊の感情を取り戻す為に旅をしてる筈で。
きっと本来ならあの精霊を楽しませる為に楽しんでいる筈で。
それなのにお前はどうしてこんな事になってる。
なんでこんな……ッ
「……ッ」
そして回復術を続けていくにつれ、感じた事の無い違和感を感じ取った。
シオンが負っているのは外傷だけじゃない。
……まるで体の内側からぶっ壊れている様な、そんな感覚が回復術を伝って感じられた。
本当に一体何をどうしたら負うのか分からない様な、そんな怪我。
こうなっている状況も相まって、本当に意味が分からない。
……だけどやがて一つだけ分かる事があった。
「ど、どう!? なんとかなりそう!?」
「あ、ああ……危険な状態に変わりはねえけど、この調子だとどうにかなりそうだ」
多分俺の回復術でどうにかできる限界ギリギリの段階だったのだと思う。それだけ危険な状態だったが……今のシオンはうまく回復傾向に向かっている。
この調子なら多分助けられる。
俺とエルの恩人を助ける事ができる。
……シオンが目を覚ましたら話を聞こう。
積もる話だってある。
『次に会った時、良い報告が聞ける様に期待してる』
『エイジ君もね。無事にまた顔を合わせられる事を願ってるよ』
あの時そんな言葉を交わした俺達は、きっとお互いにこんな形の再開なんて望んではいなかっただろうけど。
突然何の前触れもなく発せられた光に俺達は思わず身構えて振り返る。
ただ視界にその光の発生源は移らない。
俺達がひとまず辿りついたこの場所は、バイクで軽く走れる程度の獣道を通った先にあり、直線的な視界はお世辞にも良いとは言えない。だからその少なくとも自然現象で起きた物とは思えない光の正体を知るには近づいてみるしかない。
「……どうする? 何か調べとく?」
「……その方がいいだろ。こっちの状況が状況だ。俺達の敵になる様な奴が相手かもしれねえわけだし」
精霊か、人間か。おそらくそのどちらかがその光の発生源だ。
もしそれが人間なのだとすれば、迅速に対策を打たなければならないだろう。
一般人でも、指名手配犯が此処に来ている事がばれ、相手が憲兵とかだとすれば最悪だ。
まあいずれにせよ、何かが居る事は確定しているのだから、何もしない訳にはいかない。
「とりあえず俺が先に行く。レベッカは後から着いてきてくれ」
「いや、先にウチがいく。何かあっても今はウチの方が強いし」
「それでも頑丈なのは俺だ。俺なら最悪何か喰らっても一発位なら死なない自信がある」
「誇れるようにはなりたくない自信ね……っていうか喰らう事考えるなウチが先行く!」
「あ、おい!」
禍々しい雰囲気を纏ったレベッカが先に動きだした。
「……改めて見るとやっぱ早いなオイ」
今自分の味方をしてくれている精霊がどれだけ強いのかを再認識させられつつ、俺はレベッカを追い掛ける形で遅れて動きだし、獣道を外れた足場の悪い道を警戒しつつ進んでいく。
あれだけ強い光だったのだから、多分それ程遠くない筈だ。
そう思っていたら、目の前でレベッカが何かを見付けた様に立ち止っていた。
……立ち止り、立つ尽くしていた。
そしてそれは追いついた俺も変わらない。
「……ッ」
立ち尽くした俺は思わずその光景を見て俺は息を呑んだ。
目の前に広がっていた光景は一瞬思考を掻き消すだけの光景で。
きっと今目の前に広がっている筈の無い光景で。
そして、広がっていてはいけない光景で。
俺達の視界の先には人間が倒れていた。
右手の甲にドール化した精霊と契約を結んでいる事を示す黒い刻印を刻んでいる隻腕の少年が。
真っ白な白髪が赤く染まる程に、全身血塗れで、刻印がなければ生きているのかどうなのかも分からない様な状態の俺の恩人が。
「……シオン?」
シオン・クロウリーが、全身血塗れで目の前に倒れていた。
「シオン!」
俺は思わず無我夢中で駆け寄った。
そして明らかに意識を失っているシオンに対し、回復術を発動させる。
目の前のシオンの容体は文字通り、生きているのか死んでいるのかが刻印が刻まれていなければ分からない程の重体だ。
……俺の回復術で行けるか?
……そうだ。
「おいレベッカ! お前回復術は使えるか!」
俺よりも高出力を発揮できる可能性があるレベッカにそう問う為に、俺は背後にいるレベッカの方を向き声を掛ける。
……そう、その声を掛ける為に背後を振り向かなければならなかった。
「え……ぁ……なんで……」
レベッカは混乱した様にその場で立ち尽くしたままだった。
いや、それどころか一歩後ずさってさえいた。
無理もないのかもしれない。
レベッカにとってもシオンは恩人で。きっとレベッカにとって俺以上に信頼を置く様な相手の筈で。
そしてその相手がかつて自分がそうした様に、酷い怪我で死にかけている。
そんな、きっと生々しい光景をフラッシュバックさせる様な。
そうでなくても色々な感情がごちゃ混ぜになる様な。
目の前に広がっているのはそういう光景だ。
……だけどそんな感情を無理矢理揺さぶってでも動かせないといけない。
シオンの為にも。レベッカ自身の為にも。そのままにしておくわけにはいかない。
「おいレベッカ聞いてんのか!」
「……ッ」
ビクつくレベッカに俺は再び問いかける。
「お前回復術使えるか!?」
「あ、つ、使えない……」
混乱しながら。動揺しながらもレベッカはそう答えた。
……つまり助けが呼べない今、シオンをどうにかできるのは俺の回復術だけだ。
「レベッカは周囲の警戒を頼む! 何が起きてんのか全然分かんねえが、近くにヤバイ奴が潜んでるかもしれねえ!」
「わ、分かった!」
レベッカは尚も取り乱し気味でそう答え、そして俺に向けて言う。
「エイジ! その人の事お願い!」
そう言ったレベッカは禍々しい雰囲気を纏い続けたまま、辺りを警戒し始める。
そして俺は……目の前のシオンをどうにかする事に神経を集中させる事にした。
「……何があったんだよ、シオン」
意味が分からなかった。
シオンは俺と違って誰かに狙われる様な事になる様な奴ではなくて。今はあの金髪の精霊の感情を取り戻す為に旅をしてる筈で。
きっと本来ならあの精霊を楽しませる為に楽しんでいる筈で。
それなのにお前はどうしてこんな事になってる。
なんでこんな……ッ
「……ッ」
そして回復術を続けていくにつれ、感じた事の無い違和感を感じ取った。
シオンが負っているのは外傷だけじゃない。
……まるで体の内側からぶっ壊れている様な、そんな感覚が回復術を伝って感じられた。
本当に一体何をどうしたら負うのか分からない様な、そんな怪我。
こうなっている状況も相まって、本当に意味が分からない。
……だけどやがて一つだけ分かる事があった。
「ど、どう!? なんとかなりそう!?」
「あ、ああ……危険な状態に変わりはねえけど、この調子だとどうにかなりそうだ」
多分俺の回復術でどうにかできる限界ギリギリの段階だったのだと思う。それだけ危険な状態だったが……今のシオンはうまく回復傾向に向かっている。
この調子なら多分助けられる。
俺とエルの恩人を助ける事ができる。
……シオンが目を覚ましたら話を聞こう。
積もる話だってある。
『次に会った時、良い報告が聞ける様に期待してる』
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