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七章 白と黒の追跡者
39 敗北した者 上
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「……ルミア……マルティネス?」
「精霊学において神童と呼ばれている女の子だ。僕が学会からいなくなった今、彼女が実質的に精霊学という分野において頂点を極めていると言ってもいい」
神童……普通に聞くと良い印象を感じさせる言葉ではあるが、事精霊学という言葉が付くだけで、その冠を被るルミアという少女がとてもろくでもない人間に思えてくる。
……それでも実際は精霊に対する価値観が歪んでいるだけのまともな人間なんだろうけど。
……でも、だとすれば。
「そいつに奪われたって……どういう事だよ。一体何がどうなったらそうなる」
そんなのはおかしい筈なんだ。
「ソイツ、神童って呼びれる位には社会的に地位のある人間なんだろ? そして……言いたくねえけど、この世界で精霊は人間が所有する物扱いの筈だ。だったら……俺みたいな奴からならともかく、お前から奪うような事があれば窃盗だとか強盗だとか、そういう類いのアレになるだろ。なのになんでそんな自分の地位を脅かすような事……っていうかそんな事した奴がなんでまだ普通に研究者でいられてるんだ」
そういう行動をする事事態が考えにくい事で、……それに実際シオンが被害を被っているからそれが事実だとして、どうして今も憲兵に捕まっていない。
この世界の人間の人間性を考えれば……是が非でも捕まえるだろう。
それが誰であっても。
そしておかしいのはそれだけではない。
シオンがあの精霊を奪われたのだとして、そもそも大前提からしておかしい点があるんだ。
「それに、お前の連れていた精霊って……」
ドール化した精霊。
言ってしまえば珍しくもない、どこにでも売っている精霊だ。あえて色々なリスクを被ってまで奪うような価値はこの世界の人間にとっては皆無に等しいんじゃないかと思う。
そんな風におかしな点が山程あって。
そんな中でシオン達に……シオン達に一体何があったんだ。
そして俺の言葉にシオンは答える。
耳を疑うような言葉で。
「戻ったんだ……あの子に、感情が」
「……え?」
思わずそんな声が出た。
だってそうだ……驚かない訳がない。
そして今のシオンの事を殆ど知らないであろうレベッカも、その黒い刻印などからあの子というのがドール化された精霊だと察したらしく、驚愕の表情を浮かべている。
そうやって二人して驚く位には、シオンの発言は耳を疑う物だった。
正直普通は聞いても中々本当の事だとは思えないかもしれない。
だけど分かっている。それは本当の事だ。
シオン・クロウリーはそれだけの為に全てを捨ててあの精霊と旅をしていた。
それに全てを賭けていた。
そんなシオンが……よりにもよってそんな事で嘘を付く筈がない。
「予兆はあったんだ。覚えてるかい? アルダリアスの地下での戦いの直後にキミは僕に聞いたよね、どうやって戻ってきたのかと」
「……あ、ああ」
言われて思い返す。
あの時、あの地下で既にシオンはいつその場で倒れてもおかしくない状態だったらしい。そんな状態でどうやって合流地点まで戻ってこれたのかと。その事をシオンに聞いたのは覚えている。
そして結局その答えは結局分からず終いだった。
理由は分からないが、露骨にはぐらかされたから。
「あの時、実は途中で力尽きた僕の前にあの子が現れたんだ。待機してろって命じていた筈なのにね」
「……マジかよ」
実際にドール化した精霊を使役する様な真似をした事は無いけれど、ある程度この世界に身を置いていればそれがどれだけ異質な事かは良く分かる。
だってそれはつまり……その子の意思でそこに現れたのだから。
そもそも自我がなければ成立しない。
「そこからは紆余曲折あったけれど、あの子があの場に現れなければ僕はキミと合流する事は無かっただろうね」
「……ちなみになんであの時はぐらかしたんだ?」
「言えばキミがあの先どう動くか分からなかった。それだけ言えば察してもらえるかな?」
「……ああ、察する」
「助かるよ」
それだけで十分察する事ができる。
あの時の俺が、ドール化した精霊の自我を取り戻す術があるという事を知れば、一体どう動いたか分からない。
分からない位には嫌な想像は色々と浮かんでくる。
そして俺の反応を聞いてから、シオンは言葉を続ける。
「それでそれから、あの子は事ある事に表情を変えるようになった。勝手に動く様にもなった。まだ何も知らない誰かがあの子を人間としてみれば、廃人に片足を踏み入れている様な、そんな希薄な感情表現でしかなかったけれど……確かに、あの子には感情が戻っていたんだ……そこに目を付けられた」
「……そういう事か」
シオンの言わんとしている事を察してそう呟くと、シオンがそれに反応する。
「分かったかい?」
「ああ」
俺はシオンの言葉に頷いてから答える。
「基本的に自我が戻る筈の無いドール化した精霊に自我が戻った。そりゃ多分、その分野の研究者にとっちゃ研究価値の塊。宝石みたいに見えんだろうな」
「……そういう事だよ。だから僕はルミアにあの子を奪われた」
確かに、これで態々シオンの連れていたあの子が狙われた理由は分かった。
でも……そこから先は?
「……でも、なんでお前はあの子を奪われたんだ」
「……」
「いや、違うな。どうやってお前から奪えたんだ、そのルミアって奴は」
「……嵌められたんだよ」
「……嵌められた?」
「……ルミアに見事犯罪者に仕立てられたんだ。もっともそうなるに至ったのは僕の煽り耐性の無さも原因ではあるんだけどね」
「精霊学において神童と呼ばれている女の子だ。僕が学会からいなくなった今、彼女が実質的に精霊学という分野において頂点を極めていると言ってもいい」
神童……普通に聞くと良い印象を感じさせる言葉ではあるが、事精霊学という言葉が付くだけで、その冠を被るルミアという少女がとてもろくでもない人間に思えてくる。
……それでも実際は精霊に対する価値観が歪んでいるだけのまともな人間なんだろうけど。
……でも、だとすれば。
「そいつに奪われたって……どういう事だよ。一体何がどうなったらそうなる」
そんなのはおかしい筈なんだ。
「ソイツ、神童って呼びれる位には社会的に地位のある人間なんだろ? そして……言いたくねえけど、この世界で精霊は人間が所有する物扱いの筈だ。だったら……俺みたいな奴からならともかく、お前から奪うような事があれば窃盗だとか強盗だとか、そういう類いのアレになるだろ。なのになんでそんな自分の地位を脅かすような事……っていうかそんな事した奴がなんでまだ普通に研究者でいられてるんだ」
そういう行動をする事事態が考えにくい事で、……それに実際シオンが被害を被っているからそれが事実だとして、どうして今も憲兵に捕まっていない。
この世界の人間の人間性を考えれば……是が非でも捕まえるだろう。
それが誰であっても。
そしておかしいのはそれだけではない。
シオンがあの精霊を奪われたのだとして、そもそも大前提からしておかしい点があるんだ。
「それに、お前の連れていた精霊って……」
ドール化した精霊。
言ってしまえば珍しくもない、どこにでも売っている精霊だ。あえて色々なリスクを被ってまで奪うような価値はこの世界の人間にとっては皆無に等しいんじゃないかと思う。
そんな風におかしな点が山程あって。
そんな中でシオン達に……シオン達に一体何があったんだ。
そして俺の言葉にシオンは答える。
耳を疑うような言葉で。
「戻ったんだ……あの子に、感情が」
「……え?」
思わずそんな声が出た。
だってそうだ……驚かない訳がない。
そして今のシオンの事を殆ど知らないであろうレベッカも、その黒い刻印などからあの子というのがドール化された精霊だと察したらしく、驚愕の表情を浮かべている。
そうやって二人して驚く位には、シオンの発言は耳を疑う物だった。
正直普通は聞いても中々本当の事だとは思えないかもしれない。
だけど分かっている。それは本当の事だ。
シオン・クロウリーはそれだけの為に全てを捨ててあの精霊と旅をしていた。
それに全てを賭けていた。
そんなシオンが……よりにもよってそんな事で嘘を付く筈がない。
「予兆はあったんだ。覚えてるかい? アルダリアスの地下での戦いの直後にキミは僕に聞いたよね、どうやって戻ってきたのかと」
「……あ、ああ」
言われて思い返す。
あの時、あの地下で既にシオンはいつその場で倒れてもおかしくない状態だったらしい。そんな状態でどうやって合流地点まで戻ってこれたのかと。その事をシオンに聞いたのは覚えている。
そして結局その答えは結局分からず終いだった。
理由は分からないが、露骨にはぐらかされたから。
「あの時、実は途中で力尽きた僕の前にあの子が現れたんだ。待機してろって命じていた筈なのにね」
「……マジかよ」
実際にドール化した精霊を使役する様な真似をした事は無いけれど、ある程度この世界に身を置いていればそれがどれだけ異質な事かは良く分かる。
だってそれはつまり……その子の意思でそこに現れたのだから。
そもそも自我がなければ成立しない。
「そこからは紆余曲折あったけれど、あの子があの場に現れなければ僕はキミと合流する事は無かっただろうね」
「……ちなみになんであの時はぐらかしたんだ?」
「言えばキミがあの先どう動くか分からなかった。それだけ言えば察してもらえるかな?」
「……ああ、察する」
「助かるよ」
それだけで十分察する事ができる。
あの時の俺が、ドール化した精霊の自我を取り戻す術があるという事を知れば、一体どう動いたか分からない。
分からない位には嫌な想像は色々と浮かんでくる。
そして俺の反応を聞いてから、シオンは言葉を続ける。
「それでそれから、あの子は事ある事に表情を変えるようになった。勝手に動く様にもなった。まだ何も知らない誰かがあの子を人間としてみれば、廃人に片足を踏み入れている様な、そんな希薄な感情表現でしかなかったけれど……確かに、あの子には感情が戻っていたんだ……そこに目を付けられた」
「……そういう事か」
シオンの言わんとしている事を察してそう呟くと、シオンがそれに反応する。
「分かったかい?」
「ああ」
俺はシオンの言葉に頷いてから答える。
「基本的に自我が戻る筈の無いドール化した精霊に自我が戻った。そりゃ多分、その分野の研究者にとっちゃ研究価値の塊。宝石みたいに見えんだろうな」
「……そういう事だよ。だから僕はルミアにあの子を奪われた」
確かに、これで態々シオンの連れていたあの子が狙われた理由は分かった。
でも……そこから先は?
「……でも、なんでお前はあの子を奪われたんだ」
「……」
「いや、違うな。どうやってお前から奪えたんだ、そのルミアって奴は」
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