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七章 白と黒の追跡者
ex そして引きずり落とされる
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第二ラウンドとは言ったが、実際ここから先自分にできることなど殆ど何も残っていない。
シオンはグランからの攻撃に備え構えを取りながらも、そう考える。
もうまともに精霊術は使えない。精霊術ではない力も同様。今立てているのが不思議な程に体も重い。
そして発動させたテリトリーフィールドを維持する為に今も命を削り続けている。気を抜けば気を失う。そういう状況。
そんな中で自分に何ができるのだろうか?
(……とにかく意識を保つ。まずはそこからだ)
それさえできれば、テリトリーフィールドは維持される。
つまりは……レベッカが全力を振るえる。
「くそ、シオンてめえ!」
この状況をシオンが引き起こした事だと理解したグランが、シオンへと攻撃の矛先を向けようとする。
だけどそれは止められる。
レベッカに止められる。
「やら……せるか!」
「……くそッ!」
グランはレベッカの攻撃を三節棍で防いだ。
恐らくは全神経を注いで。
だけど全神経を注がれれば防がれる。
もう満身創痍で立っているのもやっとの筈のレベッカの攻撃を、まだ長期的な戦闘も可能なグランが辛うじてだ。
(……不味いな)
……つまりは、何か手を打たなければこのままジリ貧だ。
(……だけど手を打つと言っても一体何をどうすればいい)
だけど。何度も自問自答して答えを導きだした通り、もうできる事など殆ど残っていない。
辛うじてできていた事すらも、徐々にできなくなっていく。
「ぐふ……ッ」
目の前でレベッカとグランが戦闘を繰り広げる中で、シオンは再び大量の血液を吐きだし膝を付いた。
(……もう本当に、ボクにできるのはこれだけなのか?)
ただ意識を保つ。
そしてテリトリーフィールドを維持し続ける。
明らかに勝機が薄い戦いに臨んでいるレベッカに残りの全てを託して、ただやれるのはそれだけだ。
(……ふざけるな。それでいい訳がないだろう)
そう心中で口にし、自身を鼓舞する。
レベッカの戦況は明らかに不利。エイジの安否は不明。この戦いに介入できるのは現時点で自分だけ。
だとしたら、なんとしてでも動かなければならない。
だけど……それでも、これが今の現実だ。
鼓舞するだけで結局体は動かない。
これがどうしようもない現実なのだ。
それこそ、本当の意味で限界を超える様な事をしなければ。
(いや……それは、駄目だ)
これ以上の事をやろうと思えば、本当の意味で限界を超えなければならない。
そういう風に認識した瞬間、ほんの少しだけ冷静になれた。
超えては行けないラインを目の前にして、体と心がブレーキを踏んだ。
ああそうだ。なにしろそこを超えてしまえば終いなのだから。
そもそも限界とは、実現可能な最高値である。
限界を超えるという事は、その最高値を上回るという事。実現不可能な域に足を踏み入れるという事。
そして様々な根拠がある状態で設定された最高値は超えてはならないものだ。
超えたら最後、それは敗北だ。自爆だ。自滅だ。
そこまでして得られる何かと、今自分の無力を受け入れて維持すべき物を確実に維持する事。そのどちらが大切なのか。
それは少し冷静になれば理解できる。
勝利の為に、自分の無力を受け入れろ。
無理に動いて肉体と精神をすり減らして、自分の役割を放棄するのは間違いだ。
……限界を超えるのは、もうそれしか手段が無くなったら時でいい。
今はまだ……勝つために託せる。
(……頼む、レベッカ)
全身の激痛に耐えながら。
そこにはもうない筈の左腕の激痛に耐えながら。
シオンはレベッカに戦況を託した。
……そしてその矢先に一つ違和感を感じた。
目の前で繰り広げられるレベッカとグランの戦い。
その中で、あろうことかグランが徐々にレベッカの動きに対応し始めていた。
これまでレベッカの攻撃を辛うじて防いでいた筈が、徐々にその動きと表情に余裕が見られてきたのだ。
そしてそれだけではない。
(……なんだ。何が起きているんだ?)
変化があったのはグランだけではない。というよりもそもそもグランには大きな変化はなかったのかもしれない。
変化があったのは寧ろレベッカの方だ。
……攻撃が酷く単調なのだ。
グランと対峙した段階から速度は落ちていない。だけど攻撃の精度が露骨に落ちている。
単調でワンパターン。動きに大きな隙もあり何度か攻撃を受ければ誰でもある程度適応出来る様になる様な、そんな攻撃。
……グランに対応されて当然な攻撃。
(……何がしたいんだ、レベッカは)
出力はあれから落ちていない。そんな中で急速に戦い方の質だけが大幅に低下している。
こんな事があるだろうか。
あるとすれば……それを狙ってやった場合に限られる様に思える。
だけどそれをするメリットなど思いつかない。単なる無駄な行動にしか見えない。不利益しか齎していない。
そう思った直後だった。
突然レベッカの動きが変わったのは。
「……ッ!?」
次の瞬間、グランは驚愕の表情を浮かべる。
だけど取れた反応はそこまで。表情を変える。ただそれだけ。
予想外に突然リズムやモーションが切り替わったレベッカの高速の攻撃に対応できない。
そして次の瞬間、蹴りあげられる。
右手首。
三節棍を手にした右手首。
故に衝撃で三節棍が手から離れ中を舞った。
(これを……狙っていたのか?)
……それが一体、何を意味するのか。
その答えはいとも簡単に出てくる。
(行ける……今なら、行けるぞ)
グランに絶対的な力を与えていた霊装はその手を離れた。
つまりグランは……引きずり落とされたのだ。
今まで自分が圧倒的力を振りかざしていた相手と同じ域まで。
否……それ以下の低い次元まで。
シオンはグランからの攻撃に備え構えを取りながらも、そう考える。
もうまともに精霊術は使えない。精霊術ではない力も同様。今立てているのが不思議な程に体も重い。
そして発動させたテリトリーフィールドを維持する為に今も命を削り続けている。気を抜けば気を失う。そういう状況。
そんな中で自分に何ができるのだろうか?
(……とにかく意識を保つ。まずはそこからだ)
それさえできれば、テリトリーフィールドは維持される。
つまりは……レベッカが全力を振るえる。
「くそ、シオンてめえ!」
この状況をシオンが引き起こした事だと理解したグランが、シオンへと攻撃の矛先を向けようとする。
だけどそれは止められる。
レベッカに止められる。
「やら……せるか!」
「……くそッ!」
グランはレベッカの攻撃を三節棍で防いだ。
恐らくは全神経を注いで。
だけど全神経を注がれれば防がれる。
もう満身創痍で立っているのもやっとの筈のレベッカの攻撃を、まだ長期的な戦闘も可能なグランが辛うじてだ。
(……不味いな)
……つまりは、何か手を打たなければこのままジリ貧だ。
(……だけど手を打つと言っても一体何をどうすればいい)
だけど。何度も自問自答して答えを導きだした通り、もうできる事など殆ど残っていない。
辛うじてできていた事すらも、徐々にできなくなっていく。
「ぐふ……ッ」
目の前でレベッカとグランが戦闘を繰り広げる中で、シオンは再び大量の血液を吐きだし膝を付いた。
(……もう本当に、ボクにできるのはこれだけなのか?)
ただ意識を保つ。
そしてテリトリーフィールドを維持し続ける。
明らかに勝機が薄い戦いに臨んでいるレベッカに残りの全てを託して、ただやれるのはそれだけだ。
(……ふざけるな。それでいい訳がないだろう)
そう心中で口にし、自身を鼓舞する。
レベッカの戦況は明らかに不利。エイジの安否は不明。この戦いに介入できるのは現時点で自分だけ。
だとしたら、なんとしてでも動かなければならない。
だけど……それでも、これが今の現実だ。
鼓舞するだけで結局体は動かない。
これがどうしようもない現実なのだ。
それこそ、本当の意味で限界を超える様な事をしなければ。
(いや……それは、駄目だ)
これ以上の事をやろうと思えば、本当の意味で限界を超えなければならない。
そういう風に認識した瞬間、ほんの少しだけ冷静になれた。
超えては行けないラインを目の前にして、体と心がブレーキを踏んだ。
ああそうだ。なにしろそこを超えてしまえば終いなのだから。
そもそも限界とは、実現可能な最高値である。
限界を超えるという事は、その最高値を上回るという事。実現不可能な域に足を踏み入れるという事。
そして様々な根拠がある状態で設定された最高値は超えてはならないものだ。
超えたら最後、それは敗北だ。自爆だ。自滅だ。
そこまでして得られる何かと、今自分の無力を受け入れて維持すべき物を確実に維持する事。そのどちらが大切なのか。
それは少し冷静になれば理解できる。
勝利の為に、自分の無力を受け入れろ。
無理に動いて肉体と精神をすり減らして、自分の役割を放棄するのは間違いだ。
……限界を超えるのは、もうそれしか手段が無くなったら時でいい。
今はまだ……勝つために託せる。
(……頼む、レベッカ)
全身の激痛に耐えながら。
そこにはもうない筈の左腕の激痛に耐えながら。
シオンはレベッカに戦況を託した。
……そしてその矢先に一つ違和感を感じた。
目の前で繰り広げられるレベッカとグランの戦い。
その中で、あろうことかグランが徐々にレベッカの動きに対応し始めていた。
これまでレベッカの攻撃を辛うじて防いでいた筈が、徐々にその動きと表情に余裕が見られてきたのだ。
そしてそれだけではない。
(……なんだ。何が起きているんだ?)
変化があったのはグランだけではない。というよりもそもそもグランには大きな変化はなかったのかもしれない。
変化があったのは寧ろレベッカの方だ。
……攻撃が酷く単調なのだ。
グランと対峙した段階から速度は落ちていない。だけど攻撃の精度が露骨に落ちている。
単調でワンパターン。動きに大きな隙もあり何度か攻撃を受ければ誰でもある程度適応出来る様になる様な、そんな攻撃。
……グランに対応されて当然な攻撃。
(……何がしたいんだ、レベッカは)
出力はあれから落ちていない。そんな中で急速に戦い方の質だけが大幅に低下している。
こんな事があるだろうか。
あるとすれば……それを狙ってやった場合に限られる様に思える。
だけどそれをするメリットなど思いつかない。単なる無駄な行動にしか見えない。不利益しか齎していない。
そう思った直後だった。
突然レベッカの動きが変わったのは。
「……ッ!?」
次の瞬間、グランは驚愕の表情を浮かべる。
だけど取れた反応はそこまで。表情を変える。ただそれだけ。
予想外に突然リズムやモーションが切り替わったレベッカの高速の攻撃に対応できない。
そして次の瞬間、蹴りあげられる。
右手首。
三節棍を手にした右手首。
故に衝撃で三節棍が手から離れ中を舞った。
(これを……狙っていたのか?)
……それが一体、何を意味するのか。
その答えはいとも簡単に出てくる。
(行ける……今なら、行けるぞ)
グランに絶対的な力を与えていた霊装はその手を離れた。
つまりグランは……引きずり落とされたのだ。
今まで自分が圧倒的力を振りかざしていた相手と同じ域まで。
否……それ以下の低い次元まで。
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