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七章 白と黒の追跡者
74 虚仮威しの兵装
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研究所内に突入した直後、とにかく前へ進もうとした俺達をシオンが止めた。
「どうしたシオン。急がねえとアイツら戻ってくるぞ」
「分かってる。だけどやるべき事がひとつある」
そう言ってシオンは床に手を付く。
その行動を見て連想したのが、アルダリアスで敵のアジトの中の設計を探ろうとした時の事。
「そうか、色々と此処について調べる事があるんだな」
「いや、それは最初に乗り込んだ時にやってる。最低限度の内部設計は把握してるさ」
「じゃあ一体何を――」
「僕らの要に最大限に動いてもらう為に、魔術を張り巡らせる」
そう言ってシオンが吐血すると同時に、シオンを中心に魔方陣の様なものが展開される。
「お、おいシオン!」
言いながらシオンに対し回復術を掛ける。
それに対しシオンは一言ありがとうと俺に言った後続ける。
「やる事はさっきグラン達と戦った時と同じだ。アレを使えばレベッカが最大限動けるようになるし、後は何故か意図的にスイッチを切られているであろう、アンチテリトリーフィールドを無効化できる」
「た、確かにそりゃやらないと行けねえ事だな」
確かにレベッカが俺達の要で、レベッカが全力を振るえるという事は作戦の中で最も大切と言っても過言ではない。
霊装はルミアという研究者が持つ物以外は残っていなくて警備員もいないけれど、それでもその肝心のルミアと万が一正面からぶつかった場合、最低限レベッカの全力は必要になってくるだろうし、警備員がいないだけで末端の研究者など、その気になれば戦える連中はいるだろう。
だから本当に、レベッカという戦力は最大限に力を振るえた方がいい。
だけど、そんなシオンの言葉に対しでも、と反論したのはレベッカだった。
「それは助かるけど、流石にもうさっきみたいな時間は掛けられないわよ?」
確かにそうだ。さっきのは俺達が向こうの一人を潰してシオンと合流し、グランが現れる直前になってようやく発動した程下準備に時間が掛かる。
もう敵陣に突入して、後ろからいつ霊装を持った連中が戻ってくるかも分からない今、あれだけの時間を掛けている余裕は無い。
だがシオンはその術を使い続けながら言う。
「大丈夫だ。あれだけ時間が掛かる物を今から此処で準備しようと思う程僕は馬鹿になったつもりはない。ああいうのは条件が揃って初めてできる。今はそんな状況じゃない」
だけど、とシオンは言う。
「だけど大丈夫だ。もうあれ程の時間は掛からない。僕の魔術の致命的な構造的欠陥はもう埋められたんだ。この術もまた次のステージに進んださ」
そう言った次の瞬間、魔方陣が一瞬勢い良く通路中に広がってから消滅する。
「……完了だ。これでこの建物内はレベッカのテリトリーになった。どうだい? 多分精霊術の出力が上がっていると思うんだけど」
「……ほんとだ」」
「さっきあれだけの時間を掛けてたのに……凄いな」
「それだけ今までの僕の魔術が構造上に致命的な欠陥を抱えていたという事さ。それが解消された」
そう言ってシオンは立ち上がる。
「さあ、やる事はやった。行こう、二人とも」
「そうね。急ぎましょ」
「ああ」
そう言うやり取りを交わした後、レベッカが先導する形で走り出した。
シオンは精霊術、俺は刻印から伝わってくる感覚で各々が助けるべき相手がいる場所をある程度把握できる訳だが、こうして意見が割れず同じルートを走れているという事は、エルもシオンの契約精霊も同じ所にいるのかもしれない。
とりあえずそうだとすれば好都合だ。少しでも戦闘を避けるという事は即ち、少しでもこの場所に留まる時間を減らすという事でもある。一つの目的地で全ての目的を達成する事ができるのならそれに越した事は無い。
そう考えながら階段を使って下層階へと下り、開けた場所へと出たその時だった。
「……ッ」
その光景に思わず俺達は三人共足を止めた。
そして瞬時に臨戦態勢を取りながら、目の前の光景についてシオンに言う。
「なぁシオン」
「なんだい?」
「グランの奴、霊装は八つしかないって言ってたよな?」
「……ああ」
「じゃあなんなんだよアイツら……」
俺達がその空間へと足を踏み入れるとほぼ同時に、その場に駆け付けた白衣の人間が10人。
恐らくはこの研究所に所属する研究員だろう。
そんな彼らはこの戦いの場にいながらドール化した精霊を連れていない。
代わりにその手には各々武器が握られている。
歪なデザインをした……まるでルミアという研究者が精霊を加工して作る霊装の様な物を。
もうこの研究所の主以外は持っていない筈のそれを彼らは手にしているのだ。
それがつまり何を意味するのか。
「……グランの奴、適当な事言いやがったな」
「……どうやらそうみたいだね」
流石に血の気が引いた。
「いたぞ! シオンクロウリーと報告にあったテロリストだ!」
だけどそんな事を言われて敵意まで向けられれば何もしない訳にはいかなくて。
……戦いは極力避ける。だけどもうこうなってしまったらどうにかするしかなくて。
「れ、レベッカ!」
「分かってる!」
俺の叫びに反応するようにレベッカから禍々しい雰囲気が溢れ出てきて、次の瞬間まるで自身に掛かる重力が変わったかの如く、正面の10人の研究者の耐性が低くなる。
……俺達が想像していたよりもずっと。
「……え、これって」
「これなら……エイジ君!」
「ああ! 突破するぞ!」
シオンが正面に半透明の縁を作りだし、俺はそこに手を伸ばす。
そしてそれとほぼ同時にレベッカも、黒い球体を作りだし正面に向けて射出し、突然の重力の変動に混乱する研究者達に対し先制攻撃を行う。
そして俺もまた、シオンの作りだした半透明な円に向けて突風を撃ち放つ。
すると次の瞬間、突風の代わりに半透明の円からは数発の光の弾丸が作りだされ、レベッカを避ける様な軌道で飛んでいく。
……数は圧倒的不利。そんな状況で向こうが霊装持ちなら話にならない。
だけどそれは……目の前の研究者達の持つ武器が本当に霊装であったならの話だ。
目の前の男達は、こちらが思った以上に重力変動が通用する戦闘能力しか。
その程度の出力しか彼らにはない。
つまり単純な出力の話で言えば……アレはグラン達の物より低い。
手を伸ばせば届く範囲に彼らは立っていた。
「どうしたシオン。急がねえとアイツら戻ってくるぞ」
「分かってる。だけどやるべき事がひとつある」
そう言ってシオンは床に手を付く。
その行動を見て連想したのが、アルダリアスで敵のアジトの中の設計を探ろうとした時の事。
「そうか、色々と此処について調べる事があるんだな」
「いや、それは最初に乗り込んだ時にやってる。最低限度の内部設計は把握してるさ」
「じゃあ一体何を――」
「僕らの要に最大限に動いてもらう為に、魔術を張り巡らせる」
そう言ってシオンが吐血すると同時に、シオンを中心に魔方陣の様なものが展開される。
「お、おいシオン!」
言いながらシオンに対し回復術を掛ける。
それに対しシオンは一言ありがとうと俺に言った後続ける。
「やる事はさっきグラン達と戦った時と同じだ。アレを使えばレベッカが最大限動けるようになるし、後は何故か意図的にスイッチを切られているであろう、アンチテリトリーフィールドを無効化できる」
「た、確かにそりゃやらないと行けねえ事だな」
確かにレベッカが俺達の要で、レベッカが全力を振るえるという事は作戦の中で最も大切と言っても過言ではない。
霊装はルミアという研究者が持つ物以外は残っていなくて警備員もいないけれど、それでもその肝心のルミアと万が一正面からぶつかった場合、最低限レベッカの全力は必要になってくるだろうし、警備員がいないだけで末端の研究者など、その気になれば戦える連中はいるだろう。
だから本当に、レベッカという戦力は最大限に力を振るえた方がいい。
だけど、そんなシオンの言葉に対しでも、と反論したのはレベッカだった。
「それは助かるけど、流石にもうさっきみたいな時間は掛けられないわよ?」
確かにそうだ。さっきのは俺達が向こうの一人を潰してシオンと合流し、グランが現れる直前になってようやく発動した程下準備に時間が掛かる。
もう敵陣に突入して、後ろからいつ霊装を持った連中が戻ってくるかも分からない今、あれだけの時間を掛けている余裕は無い。
だがシオンはその術を使い続けながら言う。
「大丈夫だ。あれだけ時間が掛かる物を今から此処で準備しようと思う程僕は馬鹿になったつもりはない。ああいうのは条件が揃って初めてできる。今はそんな状況じゃない」
だけど、とシオンは言う。
「だけど大丈夫だ。もうあれ程の時間は掛からない。僕の魔術の致命的な構造的欠陥はもう埋められたんだ。この術もまた次のステージに進んださ」
そう言った次の瞬間、魔方陣が一瞬勢い良く通路中に広がってから消滅する。
「……完了だ。これでこの建物内はレベッカのテリトリーになった。どうだい? 多分精霊術の出力が上がっていると思うんだけど」
「……ほんとだ」」
「さっきあれだけの時間を掛けてたのに……凄いな」
「それだけ今までの僕の魔術が構造上に致命的な欠陥を抱えていたという事さ。それが解消された」
そう言ってシオンは立ち上がる。
「さあ、やる事はやった。行こう、二人とも」
「そうね。急ぎましょ」
「ああ」
そう言うやり取りを交わした後、レベッカが先導する形で走り出した。
シオンは精霊術、俺は刻印から伝わってくる感覚で各々が助けるべき相手がいる場所をある程度把握できる訳だが、こうして意見が割れず同じルートを走れているという事は、エルもシオンの契約精霊も同じ所にいるのかもしれない。
とりあえずそうだとすれば好都合だ。少しでも戦闘を避けるという事は即ち、少しでもこの場所に留まる時間を減らすという事でもある。一つの目的地で全ての目的を達成する事ができるのならそれに越した事は無い。
そう考えながら階段を使って下層階へと下り、開けた場所へと出たその時だった。
「……ッ」
その光景に思わず俺達は三人共足を止めた。
そして瞬時に臨戦態勢を取りながら、目の前の光景についてシオンに言う。
「なぁシオン」
「なんだい?」
「グランの奴、霊装は八つしかないって言ってたよな?」
「……ああ」
「じゃあなんなんだよアイツら……」
俺達がその空間へと足を踏み入れるとほぼ同時に、その場に駆け付けた白衣の人間が10人。
恐らくはこの研究所に所属する研究員だろう。
そんな彼らはこの戦いの場にいながらドール化した精霊を連れていない。
代わりにその手には各々武器が握られている。
歪なデザインをした……まるでルミアという研究者が精霊を加工して作る霊装の様な物を。
もうこの研究所の主以外は持っていない筈のそれを彼らは手にしているのだ。
それがつまり何を意味するのか。
「……グランの奴、適当な事言いやがったな」
「……どうやらそうみたいだね」
流石に血の気が引いた。
「いたぞ! シオンクロウリーと報告にあったテロリストだ!」
だけどそんな事を言われて敵意まで向けられれば何もしない訳にはいかなくて。
……戦いは極力避ける。だけどもうこうなってしまったらどうにかするしかなくて。
「れ、レベッカ!」
「分かってる!」
俺の叫びに反応するようにレベッカから禍々しい雰囲気が溢れ出てきて、次の瞬間まるで自身に掛かる重力が変わったかの如く、正面の10人の研究者の耐性が低くなる。
……俺達が想像していたよりもずっと。
「……え、これって」
「これなら……エイジ君!」
「ああ! 突破するぞ!」
シオンが正面に半透明の縁を作りだし、俺はそこに手を伸ばす。
そしてそれとほぼ同時にレベッカも、黒い球体を作りだし正面に向けて射出し、突然の重力の変動に混乱する研究者達に対し先制攻撃を行う。
そして俺もまた、シオンの作りだした半透明な円に向けて突風を撃ち放つ。
すると次の瞬間、突風の代わりに半透明の円からは数発の光の弾丸が作りだされ、レベッカを避ける様な軌道で飛んでいく。
……数は圧倒的不利。そんな状況で向こうが霊装持ちなら話にならない。
だけどそれは……目の前の研究者達の持つ武器が本当に霊装であったならの話だ。
目の前の男達は、こちらが思った以上に重力変動が通用する戦闘能力しか。
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