人の身にして精霊王

山外大河

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七章 白と黒の追跡者

ex 完全なる覚醒

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 肉体強化を発動させ腕を振り、腕を掴んでいた男を引き離して壁に叩き付ける。
 そして、風を使って自身に付けられた枷を破壊する。

 これで、完全に自由になった。

「こ、壊れていたのか、枷が!?」

「し、知らねえよ! つーかなんだよあの禍々しい雰囲気は!」

 男達が突然の事態に混乱してそんな声を上げる。
 当然だ。それはありえない事なのだろう。それでも平然といられたのなら、この世界は自分が思っている以上に酷い世界だ。

(……よし、エイジさんと合流しよう)

 枷という自身を縛り付ける物は無くなった。
 後はエイジと合流する。
 危険な状況に陥っているエイジの元に、目的であろう自分自身が接近し、一刻も早くこんな所を脱出しよう。

 だけどその前に、やらなければいけない事があって。

 目の前の障害を潰そう。
 そして……助けよう。
 シオン・クロウリーの契約精霊を助けよう。

 借りを返すという意味もある。
 シオン・クロウリーに、自分とエイジは本当に助けられた。あの時直接まともな礼は言えなかったけど、次にあったら絶対に頭を下げなければならない位には、この世界の人間で唯一まともな人間だ。
 そして……そうでなくても。

 目の前で苦しんでいる精霊がいるのなら……せめて手を伸ばして届く範囲なら助けてあげたい。
 ……苦しいのは嫌という程分かるから。
 ……かつてのエイジのように、誰でも助けようとするのは否定しても、せめて目の前の誰かを助けられるような存在でいたいから。

 ……だから。とにかく。全員潰す。

「か、確実に押さえ込むぞ! お前もソイツ下ろして加勢しろ!」

「あ、ああ!」

「だが壊すなよ! いいか、ほんと首飛ぶからな!」

 そして目の前の二人は。そして壁に叩きつけたがまだ意識のある男は立ち上がり、臨戦態勢を取る。

(大丈夫……三人ならどうとでもなる)

 一瞬そう思ったが、目の前の男達は考えられる限り最悪な行動を取り始めた。

「……ッ」

 全員が各々掌サイズの箱を取り出したかと思うと、次の瞬間には歪な形状の武器が握られていたのだ。

(……多分、あの時の人間達が使っていたのと同じだ)

 精霊を加工した武器。
 ……この研究所で生産されている、吐き気がする程倫理観の狂った武器。
 各々がそれを手にして、攻撃を仕掛けてくる。
 ……だが。

(……あれ?)

 その攻撃が遅く、多分質も悪い。
 当然、素のエルよりも高い出力だ。それは間違いないが……それでも、あの森で対峙した結界を操る武器を手にしていた憲兵の男と比べれば、遥かに劣る。
 その理由は分からない。分からないが。

(……行ける)

 これなら三人いても勝てる。

 そう思った次の瞬間、各々が同時に繰り出した精霊術の攻撃を。手にした武器化した精霊の剣を、その全てを躱してそして。

「ぐぁ……あぁッ!?」

 まずは剣を振るってきた男の腕に、風を纏わせた拳を叩き込んでへし折った。
 そしてそれと同時に風の槍を作り出し、別の男へ向けて高速で射出。そして拳を振るった流れで、腕をへし折った男の側頭部に向けて蹴りを放ち首をへし折った。
 倒れた男は動けない。
 視線を向けた風の槍で貫いた男も白衣を赤く染めてその場に倒れ伏せた。
 一瞬……ここまで一瞬だ。

(……あと一人)

 負ける気がしない。
 あの森の中での戦いでは、この状態に至った段階で既に重症と言ってもいいような大怪我を負っていた。タイムリミットもあって精神的にも追い詰められていた。

 だけど今のエルに怪我は無い。
 そして色々あって憔悴はしていても。自分もエイジもろくな状況に置かれてはいなくて焦りはあるけれど。それでもあの時よりはきっと落ち着けていて。戦う事に影響は無くて。
 だとすればこれが全力だ。
 精霊としての到達点。その全力。
 完全なる覚醒。

(……あと一人!)

 そして一歩、残った最後の一人に向けて歩みを進めた。
 それに対し男は後退り、そして。

「……ッ」

 こちらに背を向けてその場から逃げ出した。

(逃がさない)

 潰せる戦力は潰す。今此処で簡単に潰せるのなら、それは此処から先に繋がる筈だ。
 そして男を追うように檻を飛び出す。
 ……だけどそれ以上にやらなければならない事も忘れない。

 視線は向ける必要はなかった。慎重になる必要もない。
 男を追うのと同時に風を操作し、切断のある風を走らせて、倒れていた金髪の精霊の首と腕に付けられた枷を正確に破壊する。
 金髪の精霊には傷一つない。
 これで後は潰すだけだ。

「もういい! 壊してでも止める!」

 狭い通路を多い尽くす程の散弾を、霊装で強化された精霊術で放ってきた最後の一人を潰すだけだ。
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