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第一巻:荒野の怠慢神殿編
第八話:【再会】偵察に来たジークフリート、変わり果てた元婚約者に絶句する。
王都から数日。豪華な装飾が施された王家の馬車が、ガタガタと音を立てて北の境界線へと辿り着いた。 馬車の中にいるのは、第一王子ジークフリートだ。彼の隣には、不機嫌を隠そうともしないリリアンが座っている。
「……信じられないわ。あんな死の荒野が『聖域』だなんて、ただのデマに決まっています」
リリアンは爪を噛みながら吐き捨てた。王宮での公務がパンクし、肌荒れが深刻化している彼女にとって、追放したユラリアが幸せに暮らしているという噂は、どんな毒よりも耐え難い。
「ああ、リリアン。きっとユラリアの奴、魔獣に襲われて狂ってしまったのだろう。村人たちが見たという『奇跡』も、何かの見間違いに違いない」
ジークフリートが自信満々に馬車から降りた、その瞬間だった。
「なっ……なんだ、これは……!?」
彼の目に飛び込んできたのは、見渡す限りに咲き乱れる銀色の神光草。そして、かつて自分も一度だけ訪れた、あの半壊した別荘の跡地に建つ――王宮よりも壮麗な「白亜の神殿(邸宅)」だった。
さらに、門の前で立ちふさがったのは、王都で「行方不明」と騒がれていた最強の公爵、アルベルト・フォン・カスティールである。
「止まれ、ジークフリート殿下。ここから先は『聖域』だ。騒音を立てる者は、何人たりとも通さん」
「アルベルト公爵!? 貴殿、何をしているんだ! なぜユラリアのような悪女の門番をしている!」
アルベルトの冷徹な瞳に、一瞬だけ鋭い殺意が混じった。
「……悪女、だと? 殿下、貴公の目は節穴か。ユラリア様はこの地の呪いを一人で引き受け、世界を浄化されているのだ。貴公のような『愚物』が、彼女の尊い休息を邪魔するなど万死に値する」
「な……ッ!?」
王族に対して、あまりにも不敬な言葉。しかし、アルベルトから放たれる圧倒的な覇気に、ジークフリートは一歩後退した。
その時。 邸宅の二階、陽光が差し込むバルコニーに、一人の少女が姿を現した。
ユラリアだ。 彼女は、雲のようにふわふわとした魔法のネグリジェを纏い、片手には最高級のミルクティー(シャドウがどこからか持ってきたもの)を持っている。
「……うるさいわね。ネロ、外に誰か来てるの?」
「お嬢様、ゴミ……失礼、ジークフリート王子とリリアン聖女です。焼き払いましょうか?」
ユラリアの肩越しに、銀色の鱗を輝かせる巨大な神龍ネロが姿を見せる。その神々しい姿に、ジークフリートは腰を抜かして地面にへたり込んだ。
「ユ、ユラリア……お前、その龍は……一体……」
ユラリアは、バルコニーの手すりに寄りかかり、眠たげな目で下界を見下ろした。 その瞳に、憎しみや怒りは一切ない。あるのはただ、道端の石ころを見るような、徹底的な「無関心」だった。
(((……あ、王子だ。相変わらず声が大きいわね。せっかく二度寝から起きて、最高のティータイムだったのに)))
「ユラリア様! 私はリリアンです! 貴女、魔法で何かインチキをしているのでしょう!? その花も、その龍も、すべて幻影に決まっていますわ!」
リリアンが顔を真っ赤にして叫ぶ。 ユラリアは、静かにティーカップを口に運び、一口飲んでから呟いた。
「……シャドウ。あのうるさい人たち、視界から消してくれる?」
「御意、我が主(マスター)」
次の瞬間。ジークフリートとリリアンの足元の影がドロリと伸び、二人を物理的に包み込んだ。 「ぎゃあああああ!!」 「な、なんだこれはっ!? 影が、影が……!!」
叫ぶ暇もなく、二人は時空を歪める影のデリバリーによって、聖域の入り口から十キロメートル以上離れた「ドロドロの沼地」へと転送された。
バルコニーの上で、ユラリアは小さく欠伸をした。
「……ああ、スッキリした。ネロ、あの人たちが戻ってこれないように、結界の強度を三倍にしておいて。あ、でも、王都の美味しいお菓子屋さんの馬車だけは通していいからね」
「承知いたしました、お嬢様。お菓子こそが世界の法ですね」
アルベルトは、そのやり取りを見て再び震えるほど感動していた。 「……素晴らしい。慈悲の心で命を助け、かつ二度と罪を犯させないために物理的に遠ざける……。なんと完璧な裁きだ……!!」
ユラリアは、アルベルトの言葉を半分も聞かずに、再び究極のベッドへと戻っていった。
(((ああ、やっぱり外に出ると疲れるわね。二度寝の後の『三度寝』が、今日の本当のメインイベントだわ……)))
沼地で泥だらけになった王子と聖女がどうなったかなど、彼女の辞書には一文字も載っていないのであった。
「……信じられないわ。あんな死の荒野が『聖域』だなんて、ただのデマに決まっています」
リリアンは爪を噛みながら吐き捨てた。王宮での公務がパンクし、肌荒れが深刻化している彼女にとって、追放したユラリアが幸せに暮らしているという噂は、どんな毒よりも耐え難い。
「ああ、リリアン。きっとユラリアの奴、魔獣に襲われて狂ってしまったのだろう。村人たちが見たという『奇跡』も、何かの見間違いに違いない」
ジークフリートが自信満々に馬車から降りた、その瞬間だった。
「なっ……なんだ、これは……!?」
彼の目に飛び込んできたのは、見渡す限りに咲き乱れる銀色の神光草。そして、かつて自分も一度だけ訪れた、あの半壊した別荘の跡地に建つ――王宮よりも壮麗な「白亜の神殿(邸宅)」だった。
さらに、門の前で立ちふさがったのは、王都で「行方不明」と騒がれていた最強の公爵、アルベルト・フォン・カスティールである。
「止まれ、ジークフリート殿下。ここから先は『聖域』だ。騒音を立てる者は、何人たりとも通さん」
「アルベルト公爵!? 貴殿、何をしているんだ! なぜユラリアのような悪女の門番をしている!」
アルベルトの冷徹な瞳に、一瞬だけ鋭い殺意が混じった。
「……悪女、だと? 殿下、貴公の目は節穴か。ユラリア様はこの地の呪いを一人で引き受け、世界を浄化されているのだ。貴公のような『愚物』が、彼女の尊い休息を邪魔するなど万死に値する」
「な……ッ!?」
王族に対して、あまりにも不敬な言葉。しかし、アルベルトから放たれる圧倒的な覇気に、ジークフリートは一歩後退した。
その時。 邸宅の二階、陽光が差し込むバルコニーに、一人の少女が姿を現した。
ユラリアだ。 彼女は、雲のようにふわふわとした魔法のネグリジェを纏い、片手には最高級のミルクティー(シャドウがどこからか持ってきたもの)を持っている。
「……うるさいわね。ネロ、外に誰か来てるの?」
「お嬢様、ゴミ……失礼、ジークフリート王子とリリアン聖女です。焼き払いましょうか?」
ユラリアの肩越しに、銀色の鱗を輝かせる巨大な神龍ネロが姿を見せる。その神々しい姿に、ジークフリートは腰を抜かして地面にへたり込んだ。
「ユ、ユラリア……お前、その龍は……一体……」
ユラリアは、バルコニーの手すりに寄りかかり、眠たげな目で下界を見下ろした。 その瞳に、憎しみや怒りは一切ない。あるのはただ、道端の石ころを見るような、徹底的な「無関心」だった。
(((……あ、王子だ。相変わらず声が大きいわね。せっかく二度寝から起きて、最高のティータイムだったのに)))
「ユラリア様! 私はリリアンです! 貴女、魔法で何かインチキをしているのでしょう!? その花も、その龍も、すべて幻影に決まっていますわ!」
リリアンが顔を真っ赤にして叫ぶ。 ユラリアは、静かにティーカップを口に運び、一口飲んでから呟いた。
「……シャドウ。あのうるさい人たち、視界から消してくれる?」
「御意、我が主(マスター)」
次の瞬間。ジークフリートとリリアンの足元の影がドロリと伸び、二人を物理的に包み込んだ。 「ぎゃあああああ!!」 「な、なんだこれはっ!? 影が、影が……!!」
叫ぶ暇もなく、二人は時空を歪める影のデリバリーによって、聖域の入り口から十キロメートル以上離れた「ドロドロの沼地」へと転送された。
バルコニーの上で、ユラリアは小さく欠伸をした。
「……ああ、スッキリした。ネロ、あの人たちが戻ってこれないように、結界の強度を三倍にしておいて。あ、でも、王都の美味しいお菓子屋さんの馬車だけは通していいからね」
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アルベルトは、そのやり取りを見て再び震えるほど感動していた。 「……素晴らしい。慈悲の心で命を助け、かつ二度と罪を犯させないために物理的に遠ざける……。なんと完璧な裁きだ……!!」
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(((ああ、やっぱり外に出ると疲れるわね。二度寝の後の『三度寝』が、今日の本当のメインイベントだわ……)))
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