『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい

文字の大きさ
9 / 26
第一巻:荒野の怠慢神殿編

第九話:【家族】骨龍ネロ、ユラリアに撫でられて「真の龍王」へ進化する。

その日のユラリアは、いつもより少しだけ機嫌が良かった。  理由は単純。王都の混乱(と影のデリバリー)を経て届いた、期間限定の「極上とろけるプリン」が、想像を絶する絶品だったからだ。

「……ふぅ。満足だわ」

 お腹がいっぱいになると、猛烈な睡魔が襲ってくるのが彼女の常である。  ユラリアは、バルコニーの特等席で日向ぼっこをしていたネロの元へと歩み寄った。

 再生が進んだネロの体は、今や骨の隙間を美しい銀色の筋肉と鱗が埋め尽くしている。だが、かつて「絶望を呼ぶ黒き風」と恐れられた彼は、ユラリアの前では一匹の大きな飼い犬のようだった。

「ネロ、ちょっと高いわ。頭を下げて」

「はっ、はい! お嬢様、これでよろしいでしょうか?」

 巨躯を折り曲げ、地面に伏せるネロ。ユラリアは、寝ぼけて半分閉じかかった目のまま、彼の眉間のあたりを無造作に、優しく撫でた。

「……ふわぁ。……ネロ、いつも、お湯加減……ありがとうね。……あなた、いい子ね……」

 ユラリアの指先から、金色の魔力がサラサラと溢れ出し、ネロの鱗に吸い込まれていく。  それは、世界を創造した神が万物を祝福する時に使うとされる【原初の慈愛(マザー・グレイス)】。ユラリア本人は「ただのスキンシップ」だと思っているが、その純度は、神殿の最高司祭が一生をかけて捧げる祈りの数億倍に達していた。

「あ……あ、ああああ……っ!!」

 ネロの全身を、衝撃的なまでの多幸感と熱い力が駆け抜けた。  折れていた角が黄金色に輝きながら再生し、背中からはさらに二対、合計六枚の輝く翼が展開される。

(((なんだ……この温かさは……。我の中の死の毒が、すべて光に変わっていく……! お嬢様……貴女というお方は、一体どれほどの深淵な愛を隠し持っていらっしゃるのだ!!)))

 ドォォォォォン!!

 空に向かって放たれたネロの咆哮は、周囲の雲をすべて吹き飛ばし、夜でもないのに空にオーロラを出現させた。  伝説の骨龍は、この瞬間、唯一無二の存在――『始源の神龍王(オリジン・バハムート)』へと進化したのである。

「……うるさいわよ、ネロ。喜びすぎ」

「も、申し訳ございません! しかし、この力……我、今ならこの大陸をまるごと浮遊させて、お嬢様をより静かな成層圏までお運びすることも可能かと!」

「そんな面倒なことしなくていいわ。……あ、でも、その六枚の翼……。広げると、ちょうどいい日除けになりそうね」

「……はっ! 承知いたしました! 我が全神威をかけて、最高の日陰を作り上げます!」

 神龍王ネロは、大陸を滅ぼせるほどの翼を「日除けのパラソル」として完璧な角度で固定した。

 その光景を見ていたアルベルト公爵は、もはや感極まって膝をつき、祈りを捧げていた。

「……龍の王さえも一撫でで従え、さらなる高みへと導く……。ユラリア様、やはり貴女はこの世界の調停者。貴女が撫でてくださるなら、私は……私はこの剣を捨てて、貴女の靴磨きにでもなりたい……!」

「アルベルト様も、お疲れならあそこの芝生で寝ていいわよ」

「……っ!! 聖女様からの、直接の休息命令……!! ありがたき幸せ!!」

 アルベルトもまた、聖域の魔力に当てられ、芝生の上で幸福な死んだ魚のような目で眠りに落ちた。

 ユラリアは、神龍王の翼の下、涼しい風に吹かれながら三度寝の準備を整える。

(((……なんだか、みんな勝手に強くなったり幸せになったりしてるわね。ま、私の睡眠を邪魔しないなら、それでいいわ。……おやすみなさい)))

 彼女が静かに目を閉じた瞬間。  進化の余波で、荒野に流れる川が「最高級のミネラルウォーター」へと変化した。    ユラリアの怠惰が深まるほど、世界はますます、彼女にとって「都合の良い天国」へと作り変えられていくのであった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【完結】婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者を裏で裁きます

音無響一
ファンタジー
王城の大広間で、リリアーナ・エルヴァルトは婚約者である王太子から一方的に婚約破棄を言い渡される。罪を捏造され、断罪され、国外追放。誰も味方のいない中、彼女は一切の弁明をせず静かに受け入れた。 だがその夜。 彼女は別の顔を持つ。 王都の闇で依頼を受け、悪を裁く裏稼業の元締め。 今度の標的は――自分を断罪した元婚約者。 婚約は終わった。だが清算はまだ終わっていない。 表では悪役令嬢。裏では裁く側。 これは、断罪された令嬢が王都の闇を静かに切り裂く物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」 王立学院の舞踏会。 全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。 努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。 だが、カロスタークは折れなかった。 「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」 怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。 舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。 差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける! これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。 誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!

悪役令嬢として断罪されたいので国庫を「浪費」したはずが、なぜか国家予算が倍増して聖女認定されました

もちもちのごはん
ファンタジー
「国庫を使い込んで追放されたい!」 社畜OLから乙女ゲームの悪役令嬢に転生したリリアナ。 彼女の願いは、悪事(横領)を働いて婚約破棄され、スローライフを送ること! そのために財務大臣を脅し、国営カジノを建設し、無駄な公共事業を連発して国のお金を浪費しようとするのだが……。 「君の投資のおかげで、税収が3倍になったぞ」 「えっ」 「カジノの収益で社会福祉が充実し、国民が君を崇めている」 「なんで!?」 なぜか彼女の「浪費」はすべて「高度な経済対策」として成功し、国は未曾有の好景気に。 冷徹な婚約者・アレクセイ王太子からは「君こそ真の国母だ」と溺愛され、国民からは「聖女」と崇められてしまう。 悪役令嬢になりたいリリアナの明日はどっちだ!?