『レベルMAXの引退生活』 〜追放先でダラダラしていたら、いつの間にか世界最強の聖域になっていました〜

小林 れい

文字の大きさ
10 / 26
第一巻:荒野の怠慢神殿編

第十話:【終焉】ブラック王国の崩壊と、ユラリアの完全なる休日

「――ユラリア様! どうか、どうかお戻りください!!」

 聖域の境界線で、一国の宰相ともあろう老人が地面に額を擦り付けていた。  その後ろには、かつてユラリアを「無能」と蔑んだ文官たちが、ボロ雑巾のような顔で列をなしている。

 王都は今、完全なる機能不全に陥っていた。  ユラリアが指先一つで管理していた地脈の防衛結界は霧散し、街道には魔獣が溢れ、農作物は枯れ果てた。さらに、彼女が無意識に調整していた国家予算の計算式をリリアンが書き換えたせいで、国庫は一夜にして破綻寸前となったのだ。

「リリアン聖女は……リリアン様は、公務の重圧で『お腹が痛い』と引きこもってしまわれました! ジークフリート殿下も、氾濫した魔獣に追い回されて腰を抜かし、寝込んでおります! この国を救えるのは、貴女様しかいないのです!」

 必死の訴え。だが、邸宅のバルコニーに立つユラリアは、耳を塞ぎたいほどに面倒そうな顔をしていた。

(((……嫌よ。せっかく退職できたのに、わざわざ再就職しに戻るバカがどこにいるのよ)))

 ユラリアは、シャドウが時空を超えて持ってきた最高級の「完熟マンゴープリン」をスプーンで掬いながら、冷淡に言い放った。

「お引き取りください。私は今、人生で最も重要な『食後の昼寝』の準備で忙しいのです」

「そんなっ! 国民を見捨てるのですか!? 貴女には公爵令嬢としての責任が――」

 言いかけた宰相の言葉を、アルベルト公爵の鋭い抜刀音が遮った。

「責任だと? 彼女をゴミのように捨て、死地に追放したのは貴殿らだろう。今さら自分たちの無能を棚に上げ、彼女の安眠を奪おうとは……笑わせるな」

 アルベルトの背後で、神龍王へと進化したネロが、一吹きで王都を焦土に変えかねない熱線を喉元に溜めている。

「……ユラリア様が、この地を離れることはない。ここは、彼女がその尊い休息によって守り抜いた『唯一の安息の地』なのだからな」

 宰相たちは、アルベルトとネロの威圧感に気絶し、シャドウの影魔法によって「まとめて王都の城門前までポイ捨て」された。

 静寂が戻った聖域。  ユラリアは、マンゴープリンを完食すると、幸せな溜息をついた。

「……ねえ、アルベルト様、ネロ、シャドウ。私、気づいたんだけど」

「はっ、何なりとお申し付けください、我が主」 「お湯加減でしょうか、お嬢様?」

「この場所、広すぎるわ。……誰にも邪魔されないように、もっと『怠惰』を極められる場所にしたい。……そうだ、この荒野全体を、私の『庭』にしちゃいましょう」

 ユラリアは、手に持っていたスプーンを軽く振った。  【世界改変:永劫なる土曜日(エターナル・サタデー)】。

 一瞬、荒野全体が眩い真珠色の光に包まれた。  ユラリアの魔力が大地に浸透し、この地に入った者は「働かなければならない」という強迫観念から解放され、心身ともに最高の休息を得られるという、神さえも驚愕する「超広域・癒やし結界」が完成したのだ。

 こうして、かつての死の荒野は、全人類が一生に一度は訪れたいと願う伝説の聖域『ラグジュアリー・ユラリア』へと生まれ変わった。

 夕暮れ時。  ユラリアは、究極のベッドに身を沈め、とろけるような意識の中で思った。

(((明日も、明後日も、その次も……。ずっと休み。……最高ね)))

 彼女の寝顔は、どの宗教画の聖女よりも幸福に満ちていた。  これが、後に語り継がれる「絶対働きたくない令嬢」が、世界を救い(サボらせ)、最強の聖域を築き上げた第一章の幕切れであった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

悪女の針仕事〜そのほころび、見逃しません!〜

陰陽@4作品商業化(コミカライズ他)
ファンタジー
公爵令嬢として生まれながら、子ども時代からメイドや周囲の陰謀で、次々と濡れ衣を着せられ、「悪女」扱いされてきたミリアム。 第3王子との婚約を聖女に奪われ、聖女への嫌がらせの冤罪で国外追放された後、平民として生き延びる中で、何度も5年前へのロールバック(逆行)を繰り返すことに。 生計をたてる為に、追放後の平民生活で極めた針仕事が、ロールバックが繰り返されることで、針仕事の能力だけは引き継がれ、天才的な実力を手に入れる。 その時女神「アテナ」の加護を得て、2つの力を手にすることに。 「加護縫い」 (縫った布に強力な祝福を込められる) 「嘘のほころびを見抜く力」 (相手の嘘を布のほころびとして視覚的に捉え、引き抜く、または繕うことで、真実を暴いたり修正したりする) を手にしたミリアムは、5歳の幼女時代まで遡り、2つの力で悪評をぬりかえ、仲違いしていた家族も、加護の力を与えることで協力な味方へと変貌。 さらに、女神から可愛いしもべ「アリアドネ」を授かり、元婚約者と聖女にザマァを狙う中、加護縫いの能力が最も高い人間を王太子妃に迎える決まりのある大国、ルーパート王国の王子が近付いて来て……?

【完結】婚約破棄された悪役令嬢、元婚約者を裏で裁きます

音無響一
ファンタジー
王城の大広間で、リリアーナ・エルヴァルトは婚約者である王太子から一方的に婚約破棄を言い渡される。罪を捏造され、断罪され、国外追放。誰も味方のいない中、彼女は一切の弁明をせず静かに受け入れた。 だがその夜。 彼女は別の顔を持つ。 王都の闇で依頼を受け、悪を裁く裏稼業の元締め。 今度の標的は――自分を断罪した元婚約者。 婚約は終わった。だが清算はまだ終わっていない。 表では悪役令嬢。裏では裁く側。 これは、断罪された令嬢が王都の闇を静かに切り裂く物語。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~

葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」 王立学院の舞踏会。 全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。 努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。 だが、カロスタークは折れなかった。 「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」 怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。 舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。 差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける! これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。 誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

悪役令嬢として断罪されたいので国庫を「浪費」したはずが、なぜか国家予算が倍増して聖女認定されました

もちもちのごはん
ファンタジー
「国庫を使い込んで追放されたい!」 社畜OLから乙女ゲームの悪役令嬢に転生したリリアナ。 彼女の願いは、悪事(横領)を働いて婚約破棄され、スローライフを送ること! そのために財務大臣を脅し、国営カジノを建設し、無駄な公共事業を連発して国のお金を浪費しようとするのだが……。 「君の投資のおかげで、税収が3倍になったぞ」 「えっ」 「カジノの収益で社会福祉が充実し、国民が君を崇めている」 「なんで!?」 なぜか彼女の「浪費」はすべて「高度な経済対策」として成功し、国は未曾有の好景気に。 冷徹な婚約者・アレクセイ王太子からは「君こそ真の国母だ」と溺愛され、国民からは「聖女」と崇められてしまう。 悪役令嬢になりたいリリアナの明日はどっちだ!?