ただ帰りたいはずだったのに、私は壊す者になった

川浪 オクタ

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第4話『見えなかったものが、見えた日』

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 ――もし、壊す前に“見える”力があったら。

 あの村を、救えたのだろうか。


 《 迷いと決意 》

 あの村を壊してしまってから、二日ほど歩き続けていた。
 風の匂いも、鳥の鳴き声も、ただ現実を突き付けてくるだけだった。

 道なんてない。けれど立ち止まると、あの子の声がまた聞こえてきそうで。

【壊した数:3】
 その表示は、まだ視界の端に張り付いたままだ。

(次は、間違えたくない……)
 もう二度と、命を奪いたくない。 壊すだけの存在にはなりたくない。
 その願いだけを胸に、晴歌は歩き続けていた。



 《 双子の森:光がこぼれるような場所 》

 森の奥に、空気が澄みきった一帯があった。

 音が吸い込まれるような静寂。
 風も、光も、葉擦れの音も、すべてがやわらかく包み込んでくる。
 ここがダンジョンだとは、とても思えなかった。
(……ここも、ダンジョン?)

 だが、どこか心地よい。そして何より――近くに"誰か"の気配がある。
 人がいるなら、また同じことを……そんな不安が胸をよぎったとき。

「珍しい子が来たな」

 振り返ると、陽光を弾くような金色の髪をした少年が立っていた。
 その横には、同じく金髪の少女。
 よく見ると、二人とも耳の先が尖っている。

「人族か。しかも、異国の空気を帯びている。面白い」

 双子のようにそっくりな二人。
 けれど、目の奥の光は違っていた。
 片方は静かに観察し、もう片方は好奇心を隠さずに見つめてくる。

(この人たちは……もしかしてエルフ?)

「あぁ…ここも一応ダンジョンになるのか。結界張ってたんだけど…しょうがないか」

「あ…すいません…」
 晴歌は反射的に頭を下げた。
 また迷惑をかけてしまった、という罪悪感が胸を締め付ける。

「謝らなくていいわよ。もしかしたら結界が薄くなってたのかもしれないしね」

 少女の声は、意外なほど優しかった。

「……34年ここにいるけど、そうそうない事だよ」

 少年も淡々と言いながら、晴歌を見つめる目に敵意はない。
(34年……?漫画とかでは、エルフって長寿の設定だったけど、本当なんだ……)

「……なんかボロボロねぇ……」

 少女がじっと晴歌を観察する。
 確かに、泥まみれの服に疲れ切った表情。
 きっと見るからに痛々しいのだろう。

 そのとき、ぐぅぅ……とお腹が鳴った。

 森の静けさの中で、やけに響く音。

「あなた……お腹、減ってるの?」
 少女が首を傾げる。
「それに、ちゃんと寝てる?」
「えっと……その……」
 言い淀みながら、顔が熱くなるのを感じた。
 そうだ。この世界に来てから、一度もまともに食べていなかった。
(こんなところで、恥ずかしい……)

「ねぇ、この子、面白そうだし、ご飯あげてもいいでしょ?」

「面白い……そうだね。確かに」

 少女がふわりと笑う。
「私はエルフのフィアナ。こっちは双子の兄、ティオ」
「……晴歌です」
 ようやく名乗ると、二人は微笑んでうなずいた。
 久しぶりに向けられる、温かい笑顔だった。


 《 森の奥の秘密基地 》

 森の奥には、まるで秘密のキャンプ場のような空間があった。

 小さなテーブルと、木で組まれた調理台、吊るされたハンモック。
 そこに流れる空気は、時間を忘れさせてくれるほど穏やかだった。

「この森が好きすぎて、気づいたら30年近くも住んじゃっててね」

 フィアナは森で採れた果物や魚を手際よく調理してくれた。
 初めての異世界の食事。
 見た目は見慣れないけれど、香りはどこか懐かしい。
(怖がってちゃダメ。せっかく作ってくれたんだから……)
「……一口、食べてみて」
 恐る恐る口をつけると、思ったよりも美味しかった。
 ほっと息をつくと、ティオがぽつりと呟いた。

「ハルカ、力を制御できてないね」

 二人は晴歌の身体からにじみ出る魔力を感じ取っていた。

「見えてないんだ、"命の粒子"」

「……命が、見えるの?」
 そんなことが可能なのだろうか。もしそれができれば……
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