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32.二人の誕生日
しおりを挟む剣地:ギルドの部屋
シリヨク王国の革命からしばらく時が流れた。あの後、戻ってきた俺を見た奴らはケンジが魔王を嫁にして連れて帰って来たと言って騒ぎ、俺をネタに笑い始めた。
それからは大きな事件もなく、俺たちは前みたいにギルドからの依頼をこなす毎日を過ごしていた。
ある日のことだった。俺は朝起きて、横にいるルハラに声をかけて起こしていた。ちなみにルハラは下着姿である。こいつ、最近寝る時はいつも下着姿。よく風邪にならないな。
「おいルハラ、朝だぞ」
「んっ……おはお……ケンジ……」
「いい加減パジャマ着て寝ろよ。最近暑くても、それじゃあ風邪ひくぞ」
「大丈夫。私生まれてから一度も風邪ひいたことないから」
「そんなことを言っていると、本当に風邪ひくぞ」
俺はルハラに服を用意し、軽く顔を洗った。その時、ティーアが背後から俺を抱きしめた。
「ふんふーん」
「どうした? 鼻歌なんて歌って」
「今日はー、私のー、誕生日ー」
「おっ、そうか。じゃあなんか買ってこないと……」
俺がティーアにこう言うと、ティーアは俺に近付き、こう言った。
「プレゼントは……ケンジのチューで」
「ケンジ! 今日は我の誕生日だ! これで我も十五歳、大人の仲間入りだ! だからプレゼントとして唇をよこせ!」
と、話の途中でヴィルソルが勢いよく扉を開けて入って来た。その言葉を聞き、ティーアはヴィルソルを睨んだ。
「何で、今日は私の誕生日……そう言えば私が生まれた時と同じタイミングで魔力の魔力が感じたから……」
「そうだ、勇者と我は同じ誕生日だった」
「それより、今日は私が先にケンジとキスをするから! あんたは明日にでもしなさい!」
「それはこちらのセリフじゃ! 今日は我とケンジとする!」
その後、ティーアとヴィルソルの言い争いが始まってしまった。声を聞いた成瀬が、目をこすりながら洗面所にやってきた。
「どうして朝から騒いでるのよー?」
「助けてくれ成瀬。ティーアとヴィルソルが、誰が先に俺とキスをするか騒ぎ出したんだよ」
「解決方法は簡単。二人まとめてやればいい」
成瀬の股の下をくぐるように、ルハラが顔を出してこう言った。
「ケンジなら二人を相手にするのも簡単だよ」
「二人同時って……」
「私とナルセと初めてやった時のこと、思い出してごらん」
「楽しかったな」
「じゃあ決まりだね。だけどその前に朝ご飯だ!」
その後、ルハラは俺を連れて下の食事場へ向かった。
「ケンジ、大変ね」
様子を見ていたヴァリエーレさんがこう言った。ほんと、今日は一体どうなることやら。
成瀬:ギルドの部屋
食事が終わり、私たちは部屋に戻ってきていた。今日は依頼を受けようと思っていたけど、ティーアとヴィルソルが誕生日なら二人の誕生パーティーをやらないとね。そんなことを思っていると、二人の喧嘩する声が聞こえた。
「後出しは卑怯だよ!」
「何が後出しだ、我はちゃんとジャンケンをしたわ!」
どうやら、誰が剣地と先にキスをするか揉めているようだ。
「二人とも騒がない。どうせケンジは先に私とナルセとヴァリエーレとキスをしたから、どっちが先にしても無意味だと思うよー」
と、ルハラがこう言った。その後、二人は真剣な目つきをして考え始めた。
「そうだな……ケンジはすでにナルセたちと結婚している」
「キスをしているのも当たり前か……」
「だけど、今はこいつより先にケンジにキスをしたい!」
「勇者より先にケンジにキスをする!」
二人の声が同時に響いた。あーあ、何か余計火が付いたような感じがする。だけど、剣地が出てきて二人を止めた。
「喧嘩は止めてくれ二人とも。勇者と魔王がここで喧嘩をしたら辺り一面火の海になるって」
剣地が二人を慰めたおかげで、この場は何とかなった。数時間後、私とヴァリエーレさんは二人のためにケーキを用意した。
「じゃ、部屋の電気を消すぞー」
と、剣地が言って部屋の電気を消した。だが、ろうそくの火は消える気配はなかった。
「どうしたの、二人とも? 火を消さないの?」
ヴァリエーレさんの問いに二人とも答えなかった。代わりに、剣地の苦しそうな声が聞こえている。
まさかと思い、私は電気を付けた。すると、二人が無理矢理剣地にキスをしようとしている光景が目に入った。
「暗いからいいかなと思い……」
「以下同文」
その後、私は二人に改めて火を消すように言った。二人がろうそくの火を消した後、食事が始まった。この日のためにちょっと高いお肉やジュースを用意していたのだ。
「うーん……このジュースおいしいねぇ……」
「勇者と同じ意見なのは気に食わんが、我もそう思う」
二人はぶどうジュースを飲みながらこう言った。だけど……何か様子がおかしい。二人の顔が赤くなっている。その時、ルハラがジュースのラベルを見てこう言った。
「これ、ジュースじゃなくてお酒だよ」
「ヤダ……私ったら間違えて買ったみたい」
と、ヴァリエーレさんがこう言った直後だった。二人はヴァリエーレさんに抱き着き、無理にキスをしようとしたのだ。まさかこの二人、酔ったらキス魔になるの?
「キースー」
「させろォォォォォォォォォォ!」
二人の怒号の後、私たちは二人に唇を奪われた。そして誓った、この二人には酒を飲ませないようにしようと。
剣地:翌朝のギルドの部屋
二人が酔ってキス魔になり、キスをされまくった。俺はベッドから立ち上がり、軽くストレッチをした。
その時、俺は自分の左の手の甲の異変に気付いていた。前はそこに婚姻の儀の時の紋章と、エルフの紋章があった。
だが今はティーアが前に見せてくれた剣と盾の紋章と、他に見慣れない紋章が浮かんでいた。
「何これ」
横にいるヴィルソルの背中を見ると、見慣れない紋章と同じ紋章のタトゥーが付けてあった。もしかしてこれ、魔王というか魔族の何かのあれか?
「ヴィルソル。ヴィルソル、聞きたいことがある」
「何じゃケンジ……体がだるいから後にしてくれ……」
「この紋章、どんなのか知っているか?」
俺はその紋章をヴィルソルに見せた。それを見たヴィルソルは、大きな声を上げた。
「それは魔王の紋章、まさか……我とキスをしたからケンジにも……いや、もしかして……」
ヴィルソルは慌てて横にいる成瀬の左の手の甲を調べた。それからヴァリエーレさんとティーアの手の甲も調べた。
「皆に付いている……魔王の証が……」
「それだけじゃないだろ。自分の手の甲も見てみろ」
「我の手の甲?」
ヴィルソルは自分の手の甲を調べた。そして、大きな声が周囲に響いた。
「何じゃこりゃァァァァァァァァァァ!」
そりゃ驚くだろう。今のヴィルソルは魔族の地以外にも、エルフと勇者の紋章が付いているのだから。
昨日のキス騒動の時、皆とキスをしたからこうなった。その後、ティーアも自分の手の甲にエルフと魔王の紋章が付いているのを見て、絶叫した。
その後、俺は再び教会へ行って二人と婚姻の儀を行った。これでティーアとヴィルソルは俺の嫁になったというわけだ。
「君すごいね。勇者と魔王と結婚するなんて」
「どうも」
「勇者と魔王を嫁にしたの、君が初めてじゃない? まぁいいや。婚姻の儀を始めます」
始まる前に、神父さんがこう言っていた。そうだろう。勇者と魔王を嫁にしたなんて、多分俺以外に存在しないだろう。
婚姻の儀を終えた後、俺はティーアとヴィルソルに手を引っ張られながら買い物をしていた。
そんな時、青い鎧を着た集団がギルドへ入ってくのを見た。それを見たティーアが、動きを止めてこう言った。
「あれ、リーナ姫の騎士団だ」
「リーナ姫? ああ、この世界の中央と言われる国の姫か。何でそんな重要人物の騎士団がこんな所に?」
「何かあったのかな。とりあえず、俺たちに関係なさそうだし帰ろうぜ」
俺は二人にこう言った。だが、俺の中で何かが起きる予感がしていた。きっと、何か大きな事件があったのだろう。
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