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幸せは、思いがけず突然やってくる。……いやほんと、予想以上の展開だよ!?

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 写真を撮ると、博昭たちはそそくさと先を歩いて行った。
 リチャードはカメラのチェックをしたいからと言って、鳥居の端による。
デジカメの画面をチェックしているようだけれど、たぶん私に気を使って、博昭たちとの距離を稼いでくれているんだろう。

『……前の彼氏なの。気を使わせてごめんなさい』

『こっちこそ。勝手に、肩に触れてごめん』

 リチャードは、カメラから顔をあげていう。

『いいわよ。それも、私を気遣ってくれたんでしょ』

 たぶんリチャードは、私と博昭の関係をおぼろげに察したのだろう。
 婚約までした相手だとは思わなかっただろうけれど、男と女で、あの雰囲気。
別れた恋人との再会なんて、よくあるといえばよくあることだ。
 そうと察したリチャードは、博昭が女づれなのに対抗して、私の恋人のふりをしてくれたのだろう。

『自分がそんなことにこだわるタイプだとは思っていなかったけど、正直、あの二人の前で一人っていうのは辛かったかもしれないわ。恋人のふり、してくれてありがとう』

 普通に街中で出会うならともかく、お正月早々ひとりで初もうでをしているところで、元彼が新しい恋人と一緒のところに遭遇するのは、想像するとみじめな気がした。
 リチャードは私の恋人ではないし、今だけとりつくろっても意味などない。
けれどかばうように肩を抱いてくれたリチャードがいたから、私はあの時、博昭に笑って見せられた気がする。

 ぽろり、と涙がこぼれた。

 そっと指で涙をふく。
けれど涙は、次々にこぼれた。

『カナエ……』

『いやだ。もうぜんぜん立ち直ったと思っていたのに』

ぽろぽろとこぼれる涙は、止まらない。

『ごめん、見ないで。こんなの、嫌なの』

 初対面の男の前で、泣くつもりはない。
あの時、あれだけ泣いたのだ。
この件で、これ以上泣くつもりはなかったのに。

 持ち主を裏切って、ぼろぼろ涙をこぼす涙腺を恨む。
リチャードは一瞬、ひどくつらそうに眉をしかめ、ぎゅっと私を胸に抱き寄せた。

「え……」

『見ないから。しばらく、こうしていて』

 ぽんぽんと頭を優しくたたいて、リチャードがいう。
さっきまで子犬みたいだったくせに、私を守るように、大切そうに抱きしめられる。

 ぽろぽろぽろっと涙がこぼれて、止まった。

『びっくりしすぎて、涙も止まっちゃったわ』

 リチャードの胸を手で押し、笑う。

『ありがとう。行きましょうか』

『……だいじょうぶ?』

『もうだいじょうぶよ』

 歩きながら、私は笑った。





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