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初詣で縁結び祈願したら、願い事が即かなったので、今年はいい年になりそうです……!

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「さむっ」

 駅から一歩踏み出して、思わず首をすくめた。

 やっぱりダウンコート着てくるべきだったかな。
せっかくの初詣だし、もしかするとここで素敵な出会いがあるかもっと思って、普通のコート着てきたのは失敗だったかも。
めちゃくちゃ寒い。

 いや、かわいいんだけどね、このコートは。
ポケットにたっぷりファーがついているのが、いかにも今年の流行って感じだし。
ただ、ポケットについているんじゃファーがあっても温かくはないんだよな。

 それに、どうせ、素敵な出会いなんてないに決まってるのに……。

「ほんと寒いですねー。それに、まだ真っ暗」

 ふわりと、陽菜が白い息を吐く。
2歳年下の同僚は、そんな仕草さえやたらかわいい。

「まだ6時だもんね。つきあわせて、ごめんね」

「やだ。なに言ってるんですか、有紗先輩。私だって、縁結び、本気ですから!」

 きゅっと拳を握りしめる陽菜に苦笑いしつつ、歩き出す。

 新しい年になって、まだ6時間。
新年の特別感をたっぷりまとった街は、いつもとは違う顔を見せている。
お土産屋さんやカフェが立ち並ぶ通りを歩くと、すれ違うのは楽しそうな若者ばかり。

 目的地である八坂神社のほうから駅があるこちら方面に歩いてくるのは、一晩この辺りでわいわい騒いでいた子たちなんだろうな。
 圧倒的に男子が多くて、テンションがあがりきってて、声が大きい。
そんな中に混じっている女子は派手なかわいい子ばっかりで、男子の中でちやほやされているのが当然みたいにふるまう。

 ……いいなぁ。

 すれ違う子たちの顔を見るたびに、ため息をつきたくなる。
みんな、若い。
せいぜいが20代前半だろう。

 自分が同じ年齢だった頃を思い出せば、その年代の子たちにも悩みや葛藤があることはわかっている。
けれどすれ違う子たちの楽しそうな笑い声を聞くと、その屈託のなさに羨ましさが募る。
 自分がもしあと5歳若ければ。
縁結び祈願だって、こんな情けないような恥ずかしいような気持ちじゃなく、ただ楽しいイベントなんだろうな。

 年末のテレビ番組の話をして、笑いながら歩く。
コミュ力の高い陽菜と話していると、人見知り気味の私でもリラックスして会話を楽しめる。
こんないい子が後輩で、私なんかを慕ってくれて、初詣まで一緒してくれるって、すっごく恵まれているなって思う。

 ……けど。
楽しいんだけど、心の中はどうしようもなく、ネガティブなことばっかり考えてしまう。

 だって、今年でもう30歳だ。
子どものころは、30歳になったらとっくに結婚して、子どもだっているって思っていたのに。

 現状は、恋人さえもいないおひとりさまだ。
とびっきりの美人というわけじゃないけど、そこそこかわいいほうだし、そこそこ男受けのいい仕事についているし、料理だって掃除だって得意だし、お買い得だと思うのに。

 それなりに付き合った人もいたのに、就職や転勤で遠距離になって疎遠になって別れるということを繰り返し、気が付けばこの2年は彼氏すらもいない。
職場も女子ばっかりだし、出会いとか、付き合うのとか、ほんとどうすればいいのよって感じになっちゃってる。

 で、5月の誕生日になったら30歳だ。
ぞっとする。

 今までは、自然につきあった彼氏に、「君と結婚したい」ってプロポーズされて結婚したいなって思ってた。
けど、もうそんなのんきに構えている余裕はない。

 現実に目覚めた私は、お正月開けたらすぐ、結婚相談所に入会するつもりだ。
「私と」結婚したいって言ってくれる人と結婚なんて、高望みはもうしない。
結婚したいなら「結婚したい」って考えている男の人と出会うのが近道だよね。わかってる。

 けど、なかなか思い切れなくて。
これ以上ぐだぐだして若さという資産を目減りさせている場合じゃないって、思い切れたのが年末。
今日の初詣できっちり良縁祈願して、早々に結婚相談所に入会してお見合い三昧するんだ。

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