crow〜鴉と裸の彼女

むらさ樹

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2時間後。



精算を済ませた彼女と部屋を出ると、ホテルの前まで出た。


これで今日もタイムリミット。

2時間ってのは、案外早いもんだよな。




「じゃ…またね、クロウ君」




「あー…あのさ」




仕事は無事に済んだんだから、別に呼び止める必要なんてないんだけど。


せっかくあんなに楽しかったんだから、良かったらこのままランチをと思って誘ってみたわけだ。


モチロン、追加料金になるんだけどさ。




「あ…ごめんなさい。
これ以上は、時間取れなくて…」



「そうなんだ。
別にいーよ。一応訊いただけだから」



「また、連絡するね」



「あぁ」




ニッコリ笑うと、彼女は背を向けて細い道を帰って行った。




そうだ。

まだちゃんと名前も訊いてなかった。



…ま、いっか。

また次に連絡があった時にでも聞けば。





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____
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また忘れられたのかなと思う、今度は3週間後。


今までと同じように、彼女からの連絡が来た。


オレはすぐに了解のメールを返して、彼女と約束をした。





いつも通りの10時ピッタリにホテル前に現れては、オレと一緒に風呂に入り、ベッドで我を忘れてエッチに没頭する。



あれ以来、店の方には来なくなったのだが、彼女はこうしてオレをホテルに呼んでの身体の付き合いをするようになったのだ。





激しいエッチの後、オレの腕枕に頭を預ける彼女に、オレはやっと名前を訊いてみた。




「あぁ、言ってなかったね。
えっと…かずみって言うの」



「かずみさんね。
ごめん、今頃になってさ」



「ううん。
て言うか…さんなんて付けないで、かずみって呼んでよ」




会うのはもう3回目になるってのに、今更名前を訊いた事には彼女は気を悪くしなかった。

だけど、なんかちょっと躊躇したようにも見えたけど、気のせいか。





「ふーん。
じゃあ、かずみ、な?」



「うん、クロウ君」








かずみからの連絡は、月に多くて2回くらいのペースだった。



5千円札をよこしては、むさぼるようにエッチしまくって、2時間後にはあっさり別れる。



1回で出張費5千円とホテル代3千円が痛いのか、かずみは絶対延長は申し出なかった。



ある時、たまにはランチくらい一緒にと思って、サービスと称して誘ってみた。


だが、かずみは時間を理由に断ってきたんだ。



何だ。
出費が痛いからとかじゃないんだな。


時間って…ランチなら1時間あれば十分なハズなんだけど、よっぽど忙しい人なんだろうか。



そういえばオレは、かずみの事は名前以外何も知らない。


仕事はモチロン、年も誕生日も家族構成も。




出張で客を抱くのに余計な情報は必要ないんだけどさ。


…何となく、気になったんだ。

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