crow〜鴉と裸の彼女

むらさ樹

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それからというもの、かずみはオレといる時間、愚痴も言うようになった。



「私、具合悪くて早く休みたかったけど洗い物残ってるからって言ったらね、明日にすればいいんじゃないって言うのよ?
洗っといてあげようかなんて言わないのねっ」



中でも、家での旦那の愚痴が一番多かった。


男と女じゃ価値観は違うだろうから、すれ違う事もあるだろう。

相談事なら共感したりなだめたりする所なんだろうが、オレの場合はそれがおかしくてたまらなかった。



「この前もね、出勤する時についでにゴミくらい出してくれたらいいのに………あ、ごめんなさい」



「え?」



「私ったら、せっかくクロウ君と過ごしてるのに家の愚痴ばっかり言っちゃって…っ」



かずみは申し訳なさそうに、オレを見た。



「いいのいいの。
かずみの溜まってるもの、全部ここで吐き出しちゃえよ」



「ん…でも…」



旦那の悪口を聞いていると、それがオレの栄養源にもなってきてるような気がしてきた。


かずみはプライベートに不満があればあるほど、オレを必要としてるんだ。

それが、今のオレにはおかしいくらい快感だった。



「ほら、もう言わねぇの?」



「んー…そう言われると、今度は言えなくなっちゃう…」



オレはフッと笑うと、かずみの身体の上に乗った。



「なら、今度はかずみの身体に溜まったもの、出させちゃおうかな?」



仰向けになるかずみの脚を開くと、オレはそこに舌を這わせた。



「ぁ…っ、ダメ…ダメェ…っ!」



出張ホストをホテルに呼ぶ女なんて、だいたいイケメンとヤりたいとかそんな理由が殆どだろう。


容姿がいいってのも商売になる時代なんだ。
それはそれで、オレは別にいいと思う。


だが、かずみの場合は違った気がした。


旦那の代わりに構ってくれるイケメンなら誰でもいいわけじゃない。

かずみは、オレだから選んでくれたんだ。




「かずみのクリちゃん、でっかくなってんじゃん?
ほら、イっちゃいな」



「クロウく……っ
やぁああぁっ///」






かずみは子持ちの人妻とは思えないくらい、オレの前で淫らな姿を晒した。



こんな全てをぶちまけてる裸のかずみを、旦那だって見た事ねぇだろ?



ははっ
ざまぁみろってんだ!!









________
_____



それから次の約束までに1ヵ月空いた、かずみとの久し振りのある日。



ホテルの部屋に入ってすぐ、かずみは荷物から何やら小さな包みを取り出してオレに手渡した。



「これ、良かったらクロウ君に」



「オレに?マジで?」



何だろうな。

客からプレゼントなんて珍しい話でもないんだけど。

でもかずみから何かもらえるなんて、思ってもみなかった。



包みを開けて、オレは中の物を手のひらに出して見た。



「…へぇ。
これホンモノの金だったりして?」



オレの手のひらに乗せたそれは、ピカピカと部屋の照明に反射して光る金のネックレスだった。




「…主婦が自由に使えるお金って決まってるから、ヤリクリするの大変だったわ。
しばらくご無沙汰しちゃってごめんなさい」




…前回から今回までに、ヤケに日があったのはそのせいだったのか。


なに?
家で節約して貯めた金で買ってくれたってわけ?

泣かせるねぇ。


て事は、旦那の食うハズだったオカズの1つがこれに化けたのか?




「く…ははっ」



「え、何がおかしいの?
…気に入らなかった?」



笑いが堪えきれず、吹き出したオレを不安げな顔でかずみが見る。



「違う違う。
嬉しくってたまんねぇの!」



「…本当?」



「あぁ。
マジサンキューな、かずみ」




何だか、旦那よりオレに尽くすかずみが、かわいくって仕方ないや。



かずみとのエッチはもちろん好きだったが、それと同じくらいかずみの話も好きだった。



その大抵が愚痴なんだけど、それが旦那の悪口であればあるほど気分が良い。


性格の不一致。

育児方針の食い違い。



最初は旦那の事を腹の内で笑っていたんだけど。

しかし、それがだんだん憎悪へと変わってきていた。



愛し合って結婚しただろうに、何でこんなにかずみを大切にしないんだ。

どうしてこんなに不満がってるのに、対処してやらないんだ。



お前は、かずみと一緒にいる価値があるのか。



オレだったら、もっとかずみを大切にする。

オレだったら、かずみに寂しい思いをさせない。

オレだったら…





…たかが出張ホストをやってるオレがそこまで思う必要ない事に、オレ自身この時はまだ気付かなかったんだ。




「…わ。
よく似合ってる」



オレはかずみのプレゼントしてくれた金のネックレスをつけた。


襟のボタンを外した黒いシャツから覗く金が、ひときわ存在感を引き立てる。



黒ばかり身につけているオレが、初めて他の色を取り込んだんだ。



妖しく黒光りするカラスに、金の冠でも与えられたような気分だな。



「すげぇ気に入った。
これ、かずみと思って大事にするよ」



「ありがとう。
よかった、気に入ってくれて」



ホッと一安心したかずみに、オレは腰を抱き唇を重ねた。



「ん…っ、クロウ…君っ//」



「これのお礼、たっぷりしてやるからな」



オレはかずみの身体にたくさんのキスを降らせた。


どこが感じる所なのか、どこでイかせる事ができるのか。

オレはかずみの身体の事なら、全部把握しているんだからな。



汗を身体に滲ませながら、オレたちはベッドの上で何度も愛し合った。



唇を合わせ、舌をからませる。

唾液と唾液が混じり合い、唇を引き離すと細い糸となって、それはやがて切れる。



「ん……はぁ…っ」



身体だけじゃない、指も絡ませてはお互いを離さないよう、しっかり握っていた。




「ん…っ
かずみん内、気持ち良すぎっ
そんなに締め付けたら、オレもう保たねぇって」



「私…っ、も…イっちゃうっ
ぁ…ぁ…っ」




しっかりとお互いを捕まえたまま、オレたちは共に絶頂を迎えようとした。


…と、その時に___



「ぁあっ、クロウくんっ
………好き ぃ…っ」


「…………っ」




初めてかずみの口から聞いた、好きの言葉。

しかもイった時にとか。



もうかずみには間違いなくオレしかいないと、そう確信した瞬間だった――――。




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