紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「ロレックスの…腕時計って…」

「あはっ
それくらい、あたしじゃなくてもみんなプレゼントとかしてるものね。
紫苑に恋なんて、ちょっとハードル高すぎだよね」


あはは…と空笑いしながら、あたしは自分に対してそう言った。

よくよく考えてみたら、元ナンバーワンの現オーナーホスト紫苑があたしだけを見てくれる筈がない。

わかってるんだけどね。
でも一度恋心を抱いてしまったら、なかなか簡単に冷ませられないんだもの。

こうなったら、あたしのひとりよがりでもいい。
恋人ゴッコでも構わない。

お金で買った愛だとしても、少しでも紫苑といられるならあたしは全力で尽くしちゃう。



「………よっし、気合い入れよ。
たくさん仕事してお金稼いで、いっぱい遊ぶぞー!」

あたしは勝手に開き直ったつもりでいたけれど。


「……………………」


だが紫苑に対する女の嫉妬は、そんな簡単に収まる筈がなかった。

紫苑を本気で想う女は、あたしだけじゃないんだから…。








「いらっしゃい、愛さん」

__それからまた休みの日。

早速“club-shion”へと赴いたあたしを一番に迎えたのは、煌だった。

またいつもの白いスーツに、かわいい猫っ毛を隠したいつものウイッグ姿。

あの日あたしは煌に5万円もあげたのに、スーツの新調とかしなかったのかな。


「たまには違うスタイルないの?」

「え、だってこれがおれのキャラって言うか…。
ほら、クロウさんだっていつも黒だし」

「黒は黒でも、同じ服じゃないわよ」


せっかくお小遣いあげたつもりなのに、煌は贅沢しないタイプなのかしら。
って、贅沢って言うかスーツは商売道具でしょ!


「まぁまぁ、ともかく座ろうよ」

あたしは煌にテーブルまで案内されると、いつものソファに腰を下ろした。


席に着くと、早速あたしは店内をキョロキョロと見渡した。


…紫苑はいない。
今日もハズレかぁ。

「今日は何にする?」

「ビール」

「よっしゃ」

「…と思ったけど、やっぱりボジョレー」

「え?」


前回、紫苑に勧められて初めて飲んだ赤ワイン。
興味のなかったものだけど、紫苑に勧められるとすんなりと受け入れてしまうの。


「煌は赤ワイン飲めない?」

「…いや、大丈夫。
愛さんがそうしたいなら、おれもそうする」


…何だか煌を振り回しちゃってるかな?
でもこれがホストの仕事なら、仕方ないんだろうな。


「後、フルーツもね」

「わかった」

注文したものとか、記録が残ってるって紫苑が言ってたなぁ。

たとえこの場にいなくても、少しでも紫苑に近付ける為なら喜んで何でもしちゃう。
それが、今のあたしの本気な気持ちだから。




注文したものが届くと、煌と一緒に乾杯する。

「おれのNo.1への一歩に」

「煌ったら、自分で言っちゃうなんてっ!」

ふふっと笑うと、煌はちょっぴり舌を出しておどけて見せた。


“club-shion”に通い始めて一ヶ月が過ぎた。

煌も、すっかり慣れちゃったみたいね。
最初会った時は、片言な敬語でたどたどしかったのに。


「だいぶホストらしくなったんじゃない?」

「んー…でもねぇ、まだまだ怒られる事多いよ」


前に紫苑とデートした時、煌にはよく指導しとくって言ってた。

きっと煌も、裏じゃあ紫苑や先輩ホストにビシバシ鍛えられてるんだろうな。


「あの、前は…その、変なとこ見せちゃったけどさ…」

「ん?」

フルーツを口に運びながらワインをすするあたしに、煌は何だか気まずそうに言ってきた。
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