紫に抱かれたくて

むらさ樹

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止まらない、想い①

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紫苑と2人で入ったのは、いつも煌との時に利用していた高級ホテル。

そして今夜はなるべく夜景がキレイに見える、一番良い部屋を選んだの。


出張ホストにおける支出は出張費だけじゃなくて、かかる食事代やホテル代などすべてがお客持ち。

だから紫苑の為にも、あたしはお金をかけても高くて良い部屋にしたのだ。




パタンとドアが閉まると、自動ロックがかかる。
いよいよ、誰の目にも触れない2人きりの時間が始まった。


「……………っ、……っ」

ドキン ドキンと、胸が高鳴ってきた。
初めて煌を買った夜の時も緊張したけれど、今の方がその倍以上にドキドキしている。

だって、ずっと夢に描いていた紫苑との夜。
それが、ようやく叶ったんだから…っ!



ガラス張りの大きな窓に、あたしと紫苑の姿が反射して映っている。

そのすぐ側には、これから身を沈めるだろうキングサイズのベッドが一台…。

あたしはこの緊張を和らげる為、わざと冷静になりながらバッグからあるものを探し取り出した。


「えっと…ね、紫苑。
出張費、50万って聞いたんだけど、よかったかしら。足らなければ、すぐに用…」

あたしが50枚の一万円札を紫苑に差し出そうとした時、その腕がグイッと引っ張られ言葉が途切れてしまった。

それが急な事だったので、持っていたお金はあたしの手からこぼれ、一万円札はバラバラと宙を舞った。


と同時にあたしの身体は紫苑の腕の中にいて、今までにない至近距離の中でそっと囁かれた。


「そういう話で時間潰しちゃ勿体ないって、前にも言ったよ」

フワリと鼻をくすぐった紫苑の匂い。
その次の瞬間には、あたしの首筋に紫苑の唇が這った…。


「…ぁ……っ」

紫苑の唇が、あたしの身体に熱を帯びさせる。
抱きしめられてたあたしの腕も、自然と紫苑の背中に回していた。


「…今夜は、どんな風にされたい?」


唇をつけたまま、紫苑が訊いてきた。

どんな 風に…。
そんな事、訊かれるなんて思わなかった。

ただ唇を合わせては身体を重ねる時間を一緒に過ごす。
そう漠然と考えていただけだったもの。


じゃあ、頼めば何でもしてくれるの?
あたしが…されたい事は…


「…紫苑の、好きなようにしてほしい。
紫苑の気持ちで、あたしを抱いて」

「わかったよ」

そう返事をすると、紫苑はあたしの唇を優しく塞いだ。


その時、クシャと床に落ちている一万円札を踏んだ音が聞こえた。


それはまるで、紫苑との始まりを示す合図のように。



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