紫に抱かれたくて

むらさ樹

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「いらっしゃいませ!
…今日も隣はおれでいいかな」

「えぇ、お願い」


気持ちのいいかけ声で迎えられた“club-shion”で、今日もあたしは指名ホストの1人である煌とソファに着く。


毎月末になると、売り上げトップの者からナンバーワン ナンバーツー 同じくスリーが入り口に大きく掲げられる。

「クロウ、まだまだナンバーワンをキープしてるのね」

「うん。
先月ちょっと危うかったんだけど、でもクロウさんの人気は強いよ」


店内を見渡すと、席を離れて次の指名客の方へ移動するクロウの姿が見えた。

「煌は売り上げどうだった?
トップ3には、近付けた?」

ホスト始めて、ようやく半年を過ぎた所。
そろそろ新人のレッテルは剥がされてもいい頃かな?

でも、たかが半年でトップ3に近付けたなんて、もちろん思ってなどいないんだけどね。

「トップ3だなんて!
おれにはまだまだだよ!」

やっぱりね。
わかってて訊いちゃうあたしも、ちょっとイジワルだったかな。でも、そんな煌の為にたまには奮発だってしてあげようかなって思ってんだよ。


「あ、でもね。
おれ、あれからまた永久指名にしてもらったお客さんがいるんだよ」

「え………」

ドキッと、した。
煌を永久指名してたのは、今まであたしだけだったのに。でも、そんな煌を指名した人が他にも現れたと言うのだ。

つまり…煌を一人占めできなくなってしまったと言う事だ。


「それは…おめでと…」

指名してくれるお客が増えれば増えるほど、売り上げも比例して上がるのだ。
煌からすれば、もちろん喜ばしい出来事でもあるんだけど…。

「…………………」

…何だろうな。

自分の指名してるホストが人気者になって、トップへと近付いていく事は嬉しい事な筈なんだけど。

もちろん、あたし1人だけで煌をナンバーワンにしてあげる事は出来ないわけで。
煌がナンバーワンになってくれたら、あたしだって嬉しい。

なのに…ちょっと複雑な気分だ。


「…どうしたの?」

煌はまだこの世界に入ったばかりだったから、紫苑のようにあたしたち女を“お客”と言う一線を引けていなかった。

だから、気持ちがこもりすぎてしまっていたのよ。

もし、煌も紫苑のようなプロのホストになってしまったら…あたしに対しても、心のない接待をするようになってしまうのかな。お金と引き換えで買うだけの、一時の恋人ゴッコを…。


「…愛さん?」

「あ……ごめん。
ボーっとしちゃってた」

心配して顔を覗き込む煌に、あたしはわざと笑みを見せてごまかす。

今は純粋無垢な煌なのに、やがてその心を失いながらナンバーワンへとなっていく姿を、あたしはまともに見れるのかしら。

そんな事になるくらいなら、ナンバーワンになんてならなくても………



「…愛さん、今日は疲れてる?
仕事、大変だもんね」

そんな事を考えてるなんて思ってもないだろう煌は、あたしの身体の心配すらしてくれた。

罪悪感に、ちょっぴりズキンと胸が痛んだ。


「…まぁ、ね。
でもそのお陰で、ここに来れるんだもん。
頑張らなきゃ」

流れに流れたお金の最終地点であるホストクラブ。

それは、人々の生活の苦労や欲望などが一緒に渦巻いている、穢いお金なんだけども。

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