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「まどか……」
呆然と立ち尽くすあたしに、琴乃がそっと声をかけた。
お父さんがそんな人だなんて思わなかった。
物心ついた時から、お父さんって臭いし不潔って思った事もあったけど、でもちゃんと家族だって思ってたのに!
その家族がバラバラになっても、あんなフラフラしてて。
絶対許せない!
「ごめん、琴乃。
変なとこ見せちゃった」
「ううん。
でも、大丈夫?」
「うん、平気」
夕方の商店街からは、惣菜屋さんからの美味しそうな匂いが漂ってくる。
揚げたてのコロッケに、照り焼きソースの乗ったハンバーグ。
ほら、あのお肉屋さんでお買い物してる親子はカレー粉なんかも一緒に買って…
「あれ?」
そのお肉屋さんで働いてる店員さん、お母さんだ!
主婦が集中する夕方の商店街は、特に惣菜屋さんは忙しくなる。
お母さんも、商品を袋に包んだりお会計をしたり、スゴく忙しそう。
あたしが家を出てからずっと会ってないわけだけど、こんな時間にまでパートのお仕事頑張ってるんだ。
「琴乃……」
「なに?」
クルリ
あたしは踵を返して、元来た道を戻った。
「あたしやっぱり、まだ家に帰らない」
「えっ」
あんなお父さんのせいで、お母さんは頑張ってんだから。
あたしも……頑張んなきゃ。
「ここまで一緒に来てくれてありがと。
あたし、泊めてもらってる友達の家に帰るから」
「まどかっ」
「大丈夫! 全然平気だから。
じゃあ、また明日学校でね!」
あたしは琴乃に手を振ると、ご主人様の家の方に向かって走った。
あんなの、お父さんじゃない!
もう、あたしにはお父さんなんていないも同然なんだからっ!
「……どうされたのですか、まどかさん!?」
ご主人様の家に戻った時、丁度入れ違いになるようにサイさんとすれ違ったのだ。
「どうって……帰ってきただけだけど?」
「少し、目が腫れて赤くなってます。
家の方で何かあったのですか?」
「ん……」
帰りながら、あたしはひとりで泣いていた。
悔しいのと、ツラいのと、……もう何が何やら。
「ねぇ、サイさん。
ご主人様のお父さんって、どんな人なの?」
「旦那様ですか?
そうですね……旦那様は仕事熱心な方です。
ですが、姉の事も本当に愛していて、それはそれは素敵な男性だと思います」
「仕事熱心……」
あたしのお父さんを、ご主人様のお父さんと比べたって仕方ないんだけど。
でもうちと同じで家を出て行ったというご主人様のお父さんの事も気になって、あたしは玄関先にも関わらずサイさんと話を続けた。
「ところが、姉が亡くなってからは旦那様は変わってしまって……。
毎日家に帰って来られる方でしたのに、それが二日に一回、三日に一回。
やがて……今ではほとんど帰らなくなってしまいました」
「家に帰らないで、どこで何をしてるの?」
「旦那様はいくつかの会社を経営しておりますから、そこを転々としては仕事をしながら泊まり込んでいるようです」
家にも帰らないで、ずっと仕事してるって事!?
「心配で迎えに行った事もあるのですが、家に帰ると姉を思い出して余計にお辛いんす。
それにわたしが……姉によく似ていますしね」
お母さんに面影が似たサイさんにサングラスをかけさせて、お母さんを思い出さないようにしているご主人様。
そんなご主人様のお父さんも、奥さんが亡くなった現実が辛くて仕方ないんだ。
「でもご主人様のお父さんは、うちと全然違うね」
「まどかさん?」
だんだんと夕方から、夜になってきた。
自動設定になってるのか、玄関先の外灯がパッとついた。
「うちのお父さんなんて、自分勝手でサイテーだもん。
こんな状況に陥っても、まだひとりでフラフラ遊んでんのよっ」
「今日、お会いになったのですか?」
「たまたま見つけたの。
あの様子じゃ、あたしの事も娘だなんてもう思ってないわよ。
まぁあたしも、お父さんだなんて思ってないけど」
もっとかっこいいお父さんがよかった。
もっとお金持ちのお父さんがよかった。
なんて思った事があったけど、でも大事なのはそんな事じゃない。
もっと……家族って言えるお父さんが良い。
「子を想わない親なんていませんよ。
まどかさんのもとにも、いつかきっと戻って来る日が来ますから」
サイさんの言葉は優しかったけど、あたしの心にはちっとも届かなかった。
お父さんなんて、どうせあたしの事なんか何とも思ってないのよ!
呆然と立ち尽くすあたしに、琴乃がそっと声をかけた。
お父さんがそんな人だなんて思わなかった。
物心ついた時から、お父さんって臭いし不潔って思った事もあったけど、でもちゃんと家族だって思ってたのに!
その家族がバラバラになっても、あんなフラフラしてて。
絶対許せない!
「ごめん、琴乃。
変なとこ見せちゃった」
「ううん。
でも、大丈夫?」
「うん、平気」
夕方の商店街からは、惣菜屋さんからの美味しそうな匂いが漂ってくる。
揚げたてのコロッケに、照り焼きソースの乗ったハンバーグ。
ほら、あのお肉屋さんでお買い物してる親子はカレー粉なんかも一緒に買って…
「あれ?」
そのお肉屋さんで働いてる店員さん、お母さんだ!
主婦が集中する夕方の商店街は、特に惣菜屋さんは忙しくなる。
お母さんも、商品を袋に包んだりお会計をしたり、スゴく忙しそう。
あたしが家を出てからずっと会ってないわけだけど、こんな時間にまでパートのお仕事頑張ってるんだ。
「琴乃……」
「なに?」
クルリ
あたしは踵を返して、元来た道を戻った。
「あたしやっぱり、まだ家に帰らない」
「えっ」
あんなお父さんのせいで、お母さんは頑張ってんだから。
あたしも……頑張んなきゃ。
「ここまで一緒に来てくれてありがと。
あたし、泊めてもらってる友達の家に帰るから」
「まどかっ」
「大丈夫! 全然平気だから。
じゃあ、また明日学校でね!」
あたしは琴乃に手を振ると、ご主人様の家の方に向かって走った。
あんなの、お父さんじゃない!
もう、あたしにはお父さんなんていないも同然なんだからっ!
「……どうされたのですか、まどかさん!?」
ご主人様の家に戻った時、丁度入れ違いになるようにサイさんとすれ違ったのだ。
「どうって……帰ってきただけだけど?」
「少し、目が腫れて赤くなってます。
家の方で何かあったのですか?」
「ん……」
帰りながら、あたしはひとりで泣いていた。
悔しいのと、ツラいのと、……もう何が何やら。
「ねぇ、サイさん。
ご主人様のお父さんって、どんな人なの?」
「旦那様ですか?
そうですね……旦那様は仕事熱心な方です。
ですが、姉の事も本当に愛していて、それはそれは素敵な男性だと思います」
「仕事熱心……」
あたしのお父さんを、ご主人様のお父さんと比べたって仕方ないんだけど。
でもうちと同じで家を出て行ったというご主人様のお父さんの事も気になって、あたしは玄関先にも関わらずサイさんと話を続けた。
「ところが、姉が亡くなってからは旦那様は変わってしまって……。
毎日家に帰って来られる方でしたのに、それが二日に一回、三日に一回。
やがて……今ではほとんど帰らなくなってしまいました」
「家に帰らないで、どこで何をしてるの?」
「旦那様はいくつかの会社を経営しておりますから、そこを転々としては仕事をしながら泊まり込んでいるようです」
家にも帰らないで、ずっと仕事してるって事!?
「心配で迎えに行った事もあるのですが、家に帰ると姉を思い出して余計にお辛いんす。
それにわたしが……姉によく似ていますしね」
お母さんに面影が似たサイさんにサングラスをかけさせて、お母さんを思い出さないようにしているご主人様。
そんなご主人様のお父さんも、奥さんが亡くなった現実が辛くて仕方ないんだ。
「でもご主人様のお父さんは、うちと全然違うね」
「まどかさん?」
だんだんと夕方から、夜になってきた。
自動設定になってるのか、玄関先の外灯がパッとついた。
「うちのお父さんなんて、自分勝手でサイテーだもん。
こんな状況に陥っても、まだひとりでフラフラ遊んでんのよっ」
「今日、お会いになったのですか?」
「たまたま見つけたの。
あの様子じゃ、あたしの事も娘だなんてもう思ってないわよ。
まぁあたしも、お父さんだなんて思ってないけど」
もっとかっこいいお父さんがよかった。
もっとお金持ちのお父さんがよかった。
なんて思った事があったけど、でも大事なのはそんな事じゃない。
もっと……家族って言えるお父さんが良い。
「子を想わない親なんていませんよ。
まどかさんのもとにも、いつかきっと戻って来る日が来ますから」
サイさんの言葉は優しかったけど、あたしの心にはちっとも届かなかった。
お父さんなんて、どうせあたしの事なんか何とも思ってないのよ!
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